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第七十九話 火蜥蜴

 全身に感じる熱さに、意識が覚醒する。


 確か、俺は……。

 疲れが抜けてない状態でマナを枯渇する程に戦って、戻って直ぐに倒れたんだ。

 身体の状態を確認する。

 疲労は無い……いや、全身に力がみなぎっている。


 どういう事だ?


 体調とか回復は、気の領分だった筈。

 なので、身体を循環している気を探ってみる。


 何だ、これは!?


 気の流れは、何も変わらない。

 しかし、循環している気の量があり得ない。

 普段の倍の量の気が流れているのだから。

 錬気は普段通りに行われていた。

 今までだと、意識しなければ出来ない質と量の気を生み出しているのを感じる。

 これだけの気を循環させていたら、回復も早い筈だ。

 一体、俺の身体に何が起こった?


『お目覚めになりましたか、マスター。端的に説明します。マスターが倒れた後、命の光が消えました。要するに、死んだのです。その直後に命の光が爆発的に輝きを増し、身体が変化しました。内部の変化のみですので、外見に変化はありません』


 身体の変化?

 また、何かしたのか。


『失礼です! 今回は何もしていません。それより、体は大丈夫ですか? マスターは、一度死んだ状態になっていたのですから』


 死んでいた?

 俺は、こうして生きている。

 そもそも、自分が言った事を忘れていないか。


 俺とお前が同時に消滅しない限り、別れる事は出来ない。


 確か……そう言った筈だ。

 つまり、俺は……死んでもお前が存在する限り、何度でも復活する。

 その時、何が起こってもおかしくはないだろう。

 まあ、身体は特に問題は無い。

 前より軽い位だ。


『良かった……』


 よくよく考えれば、お前と普通に話している時点で、頭に異常があるのは確かだが。


『……(主にはお仕置きではなく、しつけが必要です!)』


 何か聞こえた様な気がするが、気のせいか。

 そうしている内に、身体の感覚が戻ってきた。

 咆哮や悲鳴、爆発音などが聞こえてくる。

 おもむろに、目を開く。

 視界一杯に写るのは、おそらく天井の岩肌だろう。

 身体を起こし、辺りを見る。

 慌ただしく動く警備隊員や探索者が目に写る。

 どうやら、モンスターと戦っている様だ。


 俺が倒れてから、どれぐらい経った?


『二時間ほどです、マスター


 一年ぐらい寝てた気がするが。

 敵がいるなら、戦うだけだ。

 俺は立ち上がり、バリケードの方へ向かった。



「攻撃の手を緩めるな!」


「負傷者を運び出せ!」


「何でもいい。魔法を撃て!」


「数が多すぎる!」


 飛び交う怒声。

 響く悲鳴。

 激しく響く戦闘音。


 慌ただしく動く警備隊員。

 攻撃魔法を放ち続ける探索者。

 誰もが必死に戦っている。

 ここに来た時と全く変わらない。


 自覚は無いが、一度死んでまで死守したというのに。

 何やってんだ。


 装備を確認する。

 倒れる前から、大型パイルバンカーと可変盾が無いだけ。


『大型パイルバンカーと可変盾は、倒れたマスターを運ばせる為に収納しました』


 問いかける前に、腐れ甲冑が説明してきた。


 そうだろうな。

 バリケード前で倒れた俺が、自力で動ける訳が無い。


 取り敢えず二基の可変盾を両肩に、左腕にパイルバンカーを装備。

 そのままバリケードに歩いていく。


 迎撃に参加するにも、現状が分からない。

 誰か捕まえて、聞き出すか。

 俺の横を通り過ぎようとした探索者の肩を掴み、力ずくで止める。


「うわっ!? いきなり、一体何だ?」


「今の状況を教えろ」


 今すぐにもこの場から離れたそうにしている探索者を、逃がさない様にして尋ねる。


「はぁ? 何言ってんだ!? もう直ぐバリケードが突破されるんだ。逃げないとヤバいだろうが!」


 探索者の顔に浮かぶ、怯えの表情。

 それで理解した。


 こいつ……逃げようとしてたな。


「何処へ逃げるんだ? 逃げる所なんて無い。さっさと、戻って死ぬ気で戦え。まあ、“無能”以下の根性無しみたいだから無理だろうがな。安心しろ。俺が責任をもって、お前をバリケードの前に連れて行ってやるから」


 そう言ってから、怯えている探索者を引き摺り、バリケードに向かう。


 途中、嫌だとか、死にたくないとか、助けてくれと喚いている。


「五月蝿い。逃げるなら、今ここで俺が殺してやろう。死体も残らんが、いいよな?」


 パイルバンカーの長槍。

 その尖端を探索者の頭に突き付ける。

 自分で死に方を選ばせてやろう。

 探索者の表情が怯えから恐怖に変わり、大人しくなった。


「行くぞ。手間掛けさせるな」


 探索者を引き摺りながら、バリケードに到着する。


「誰か……このチキン野郎を頼む」


 辺りを見渡し、余裕がありそうな警備隊員に逃げ出そうとしたチキン野郎を押し付ける。


「分かった。お前、また逃げ出したのか……」


 呆れた声で探索者に言い、首根っこを掴んで引き摺って行った。

 溜息を吐き、それを見送る。


「不味い……バリケードに取り付かれた! 誰か排除してくれ!」


「無理だ。出来そうな奴なんていないぞ!」


 また……突破されそうになっているらしい。

 ここからでも、バリケードを破壊しようと攻撃している音が聞こえる。


「何だ!? 地面が揺れていないか?」


「いいから、攻撃を続けろ! 取り敢えず、一体でも多く減らすんだ!」


 更に、遠くから巨大なものが近付いているのか、地響きが伝わってくる。


「これはヤバそうだ。やるしかないか」


 バスタードソードを抜き、跳躍してバリケードを飛び越える。

 眼下に広がるのは、モンスターが通路を埋め尽くしている光景。


 今の状態なら、気を練る必要も無く二、三発は“爆波”が放てそうだ。

 取り敢えず一発放って、通路を埋め尽くすモンスターを片付けるか。


 バスタードソードを降り下ろしながら、ありったけの気を一気に放出。


 武神流気闘法“爆波”。

 爆発的に放出された気が、通路を埋め尽くすモンスターを吹き飛ばしていった。

 四肢のブレイクナックルにマナを込めながら、モンスターが排除された通路に着地。


「通路のモンスターを片付けろ! ブレイクナックル!」


 その体勢のまま、起動した四基のブレイクナックルに命令しながら撃ち放つ。

 撃ち放たれた四基のブレイクナックルが、命令通り“爆波”で討ち洩らしたモンスターを片付けていった。

 それを確認してから、バリケードに取り付いたモンスターの排除を始めた。

 バリケードの破壊に夢中で、俺に気付いていないモンスターの背後から攻撃するだけだが。

 目に付いた、手近な奴から排除し始める。

 斬りつけると、悲鳴を上げて光と共に消えていく。

 だが、近くにいるモンスターの反応が全く無い。

 側にいた奴が襲われたと言うのに、一心不乱にバリケードへの攻撃を続けている。

 普段なら逃げたり、反撃してくる筈。

 まるで、何かに操られている様だ。

 嫌な予感がするが、巨大な何かも近付いている。

 取り敢えず、バリケードに取り付いているモンスターの排除を急がなければ。


 対した時間も掛からずに、バリケードに取り付いたモンスターの排除という作業を終えた。


『ブレイクナックルを回収、再装備しました』


 ブレイクナックルが再装備されたという事は、俺が殺り残したモンスターも片付いたらしい。


「お前……生きているのか?」


 上から掛けられた声。

 見上げれば、元処刑執行者イレイザーでギルド職員の先輩を名乗った男が驚いた顔をしていた。


「ああ。一度死んだらしいが、今は生きている」


「何だ、それは!?」


「俺の纏っている甲冑。これは、ギルド長が言うには知性ある武具インテリジェントアームズらしいな。詳しい事は、ギルド長に聞いてくれ。こいつが存在する限り、俺は何度死のうが復活するというかさせられる。俺の意思では手放す事が出来ない。俺にとっては呪いの甲冑だ」


 俺もさっき、身をもってあの世に行けない事を知ったばかりだが。


「……そうか。強く生きろよ。お前の肩を叩けないのが残念だ」


「あんたは、それしか言わないな」


「俺ではどうにもならない事だ。そう言うしかないだろうが」


 自棄っぱちで返されるとは。

 確かに正論だが、一度ぐらいは他の事を言ってみろと言いたい。

 顔を覗かせている他の奴らも、微妙な顔をしている。


「……そろそろ、でかいお客さんが来るな。済まんが……頼む。こっちも出来るだけの援護はする」


 地響きは、すぐ近くまで近付いてきている。


「その様だな。そっちも、さっきので戦える奴は殆んどいないだろ。援護は不要だ。ゆっくり休んでいろ。俺一人で殺ってくる」


「お、おい……待てって!?」


 呼び止める声を無視して通路に向き直り、巨大な何かを殺りに向かう為に歩き出す。

 十字路の右から見え出した黒い影。

 それは、ゆっくりと地響きと共にその姿を現した。

 蜥蜴の顔の左右と額に一本づつ角が生えた、兜の様な頭。

 短いが、太く頑丈そうな前足。

 爪は鋭く、人など簡単に殺せそうだ。

 その体は赤く、見える範囲でだが、通路一杯の巨大さ。

 大型パイルバンカーの威力を確認するには、丁度いい大きさの的だ。

 バスタードソードを鞘に納め、大型パイルバンカーを右側に装備。


「そいつは、ファイアリザードだ! だが、異常に大きい。火のブレスには、気を付けろ!」


 大声で伝えられる情報。

 だが、大将が五十階までの階の主なら一撃で殺れると豪語した大型パイルバンカー。

 眼前のファイアリザード位なら、一撃で終わるだろう。

 大将の豪語を信じて、ブレスを吐かれる前に終わらせる為、ファイアリザードに突撃する。


「Guooooooooooo!」


 接近してくる俺を見付けたのか、ファイアリザードが威嚇の咆哮を上げる。


 その程度、管理者の威圧に比べたら対した事は無い。


 無視して、そのまま突撃を続ける。


「Guoo?」


 体を半ばまで現したファイアリザードの動きが、突然止まった。

 よく見れば、通路を曲がろうとして、後ろ半分が通路につかえて動けなくなっている。

 その体の大きさが、仇となった様だな。


 動けない内に、終わらせよう。


 跳躍して、ファイアリザードの頭に取り付く。

 ファイアリザードは、俺を振り落とそうと頭を激しく振り回す。

 激しい揺れの中、額の角を掴んで大型パイルバンカーの尖端を頭に突き刺し、姿勢を安定させる。


「Gyoooooooooo!?」


 悲痛な叫びと更に激しくなっていく揺れに耐えながら、大型パイルバンカーを作動。

 爆発音と共に打ち出された杭が、ファイアリザードの頭を貫通。

 衝撃で、頭の中を破壊していった。


 ファイアリザードの動きが止まり、揺れも収まる。


「殺ったか……」


 そう呟くと、ファイアリザードが光に変わって消えた


 不意に感じる浮遊感。

 取り付いていたファイアリザードが、消えたからだ。


「しまった!?」


 落下していく身体の姿勢を立て直しながら、気を使って何とか着地する。


「あ、危なかった……」


 無事、着地出来た事に安堵した。


 目の前に、人の頭くらいの大きさの赤い魔晶石が転がっているのを見つける。

 ファイアリザードが残した物だろう。

 それを拾い、この場を後にバリケードの方に戻っていった。


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