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第七十三話 “無能の中の無能”と“無能”

 周囲にモンスターが残っていないか確認する。

 一匹残らず倒した様だ。

 この場にいるのは、俺と茫然としたままの四人の探索者。

 右側の壁面に、ブレイクナックルが四基がかりで可変盾を押し付けているのが見える。

 後は、モンスターが残した魔晶石とか武具が、あちこちに転がっているだけ。

 モンスターが全滅したのを確認したので、バスタードソードを鞘に納めた。


 足下に転がっている稀少種のゴブリンが残した魔晶石を拾い、ブレイクナックルを回収に向かう。


 そのついでに、未だ茫然としている四人の探索者に声を掛ける。


「終わったぞ。魔晶石とか使えそうなものを拾っておけ」


 そう言っている間に、可変盾を壁に押し付けているブレイクナックルの下に着く。


「どうやって回収するか?」


 押さえ付けている様子を見て、そう呟く。


 その瞬間、胸の水晶体からブレイクナックルと押さえ付けられている可変盾に光が伸びていく。

 光はブレイクナックルと可変盾を纏めて包み込むと、そのまま引き寄せると水晶体に吸い込まれる様にして眼前から消え去った。


『ブレイクナックルと可変盾を回収しました』


 少しでも悩んだのが、馬鹿みたいだ。

 ブレイクナックルが装備されていくのを見て、そう思った。

 邪魔なモンスターに排除した。

 急げば、晩飯に余裕で間に合うだろう。


「待ってくれ!」


 駆け出そうとした俺の背に掛けられる声。

 振り返ると、四人の探索者が立っていた。

 男女二人づつのパーティーらしい。

 リーダーらしき俺と同じ位の歳の男が、他の三人より前に立っていた。

 他の三人は、戦利品を入れているらしい袋を担いでいる。

 左手を見ると、四人共黄色の紋様だった。

 真新しかったのがボロボロになった革鎧を着ている事から、ここ数日で探索者になった様だ。


「何だ?」


「助けて……」


「お前らを助けたつもりは無い。通路を塞いでいたモンスターを排除しただけだ。礼は要らない」


 礼を言い、頭を下げようとしたリーダーらしき男の言葉を遮った。

 そして、そのまま立ち去ろうとするが、


「だから、待ってくれ!」


 再び呼び止められる。


「何だ? もう、用は無いだろ」


「用があるから、待ってくれと言っているんだ」


 逃がさないとばかりに、俺の左肩を掴んでいる。

 襟首を掴まれていないだけましだな。

 諦めて、相手してやるか。


「それで……何の用だ?」


「お前が回収させたものは、どうするんだ?」


 後ろの三人が担いでいる袋を指しながら聞いてくる。


「お前らの好きにすればいいさ。もういいな」


 そう言って今度こそ帰ろうとしたが、左肩を離そうとしない。


「……済まないが、入口まで連れて行ってくれ」


「どうしてだ? 新米でも四人いれば無事に帰れる筈だが」


 普通のパーティーなら、入口まで何の問題も無い筈だ。


「実は……さっきの戦闘でヒールポーションが尽きてな。入口まで辿り着けそうに無いんだ」


 リーダーらしき男の後ろにいる三人は、捨てられた子犬の様な目で俺を見ている。

 俺も帰るから、まあいいか。

 こいつらを連れて帰っても、晩飯を食い損なわないだろう。


「勝手に着いてくればいいだろ」


 そう言い、入口へ向けて歩き始める。


「……あ、ああ。行くぞ」


 三人に指示したのだろう。

 背後から、複数人分の足音が聞こえてきた。


 しばらく、無言で歩き続けた。


「なあ、何で俺達を連れて帰ってくれるんだ?」


 無言の状態に耐えられなくなったのか、リーダーの男が話しかけてきた。


「俺も帰るから、そのついでだ。さっきも勝手に着いてくればいいと言った筈だ。現にそうしているくせに」


 警戒しているが、モンスターが現れる様子は無い。

 この分だと、ダンジョンを出るまでは暇だし、話に付き合ってやってもいいだろう。


「まあな。本当に……戦利品を全部貰って良いのか?」


「それもさっき言った筈だ。それに……どうしても俺が回収しないと傍迷惑になるものと、一番大きい魔晶石は貰っている。いい囮になってくれた礼だ」


「囮って……なら、ありがたく貰っておく」


 最初は戸惑った感じだったが、嬉しそうに言った。

 傍迷惑には触れないな。


「それよりだ。モンスタートラップルームでもない通路で、何故あんな多数に囲まれていた? 普通はあり得ない」


 ソロの俺でも、そんな状況になった事は無い。


「ゴブリンを何とか倒したら、通路の両側からオークとホブゴブリンが現れてな。その後、あの黒い奴が現れた」


 それは……運が悪かったとしか言い様が無い。

 一日中探して、午前中にゴブリン一匹だけだった俺とは大違いだ。


「魔法が使える奴がいたら、黒い稀少種のゴブリン以外は何とかなった筈だ。何故、魔法を使わなかった?」


 こいつらは、俺とは違い属性魔法が使える筈だ。

 それを使わない理由が全く分からないので、直接問う。


「使えたら使っている! 俺達は“無能”なんだ! 魔法が使える奴に、俺達の……」


「何だ、同類だったのか」


 リーダーの男の話を遮り、更に続ける。


「無属性の呪文書が使えるだけ、俺よりましだ。“無能の中の無能”の俺よりはな」


 これは、自分で言ってて悲しくなる。

 口を挟ませない様に、更に続けた。


「技を磨き、魔法の代わりとなる力を手に入れたから、俺は今も生きている。無属性の呪文書さえ手に入れれば、魔法が使える様になるお前達が羨ましいよ」


 俺が話した内容が余程衝撃だったのか、四人共黙り込んでしまった。

 呪文書で思い出したが、技能書とかは戦利品にあったのだろうか。


「戦利品で思い出したが、魔晶石と武具以外に何かあったか?」


 気になったので、興味本意で聞いてみる。


「ああ……何か読めない字で題名が書かれた本が四冊あった」


 へぇ……それは運が良い。

 気関連の技能書だったら、こいつらも強くなるだろうな。


「全く分からないから、見てくれないか」


 後ろの三人から本を受け取ったらしいリーダーの男が、俺の横に来てその本を渡してきた。


 受け取った本の表紙を見て、驚きのあまり足を止めてしまう。


「おい、どうしたんだ?」


 リーダーの男が声を掛けてくるが、それどころではない。

 一度だけ見た文字。

 古代文字で書かれた題名が読めたのだから。

 本の題名……それは、“気功・気闘法入門”。

 おそらく……これの著者は武神タケミカヅチだろう。

 一体……何種類の本を創ったんだ。

 下手に考えるのは止めておこう。

 精神的に持たない。

 次だ、次を見よう。


 残りの三冊も確認したが、三冊共“気功・気闘法入門”だった。

 こんな偶然、起こるものなのか。


『偶然ではない。我が介入した。この時代、唯一の我が弟子よ』


 その疑問に答えたのは、頭に直接聞こえた謎の声。


『我は武神タケミカヅチ、唯一の弟子であるそなたに頼みがある』


 神が俺に頼みだと……。


『驚くのも無理はないが、頼めるのがそなたしかおらんのでな』


 俺に力を与えてくれた、偉大な神の頼み。

 引き受けない理由は無い。

 それが……例え敵対する神を殺せというものであっても。

 俺は……必ずやり遂げる。


『……我が弟子よ、そこまで気負う事は無い。そなたに頼むのは簡単な事だ。そなたの傍にいる“無能”の四人に、手に持つ“気功・気闘法入門”を使う様に仕向けて欲しいのだ。本人達には内緒でだ』


 問題ありません、偉大な神よ。

 最初から、あいつらに使わせるつもりでしたから。

 あいつら自身の為にも。


『では、頼む。それと……アテナとアルテミスとミラの事だが……』


 駄女神と駄女邪神……?

 何故か、言いにくそうにしている。

 碌でもない事でないのを祈ろう。


『……そなたに押し付ける事を各神族の長達が決めてしまったのだ。理由は、そなたが彼女らを“くっころさん”にしてしまったからだ。我は、そなたに“行き遅れのヒステリー女神”を押し付けるのを止めようとしたのだが、力及ばず……済まぬ』


 やはり……碌でもない事だったか。

 聞きたく無かった。

 だが、唯一の救いは偉大な武神が俺の味方だった事だ。

 あのふざけた称号の効果は、人だけではなかったのか。


『彼女らにとっても想定外だったらしい。全く……いい薬だが。それはともかく。我が弟子よ、頼んだぞ』


 それを最後に、武神タケミカヅチの啓示は終わった。

 最後に碌でもない事を聞いたが、聞かなかった事にする。

 あれは、幻聴だ。


 あまりの事に思考停止した俺の視界が揺れた。


「おい……どうした? おい……」


 俺が動かない事を心配したのだろう。

 リーダーの男が必死な顔で声を掛けながら、俺の左肩を揺すっている。


「……済まないな。ちょっと……神の啓示を受けていただけだ」


 あんなふざけた事を聞かされたら、思考停止しても仕方無いだろう。


「神の啓示!?」


 リーダーの男以外の三人からも、驚いた様子が伝わってくる。


「ああ……取り敢えず、これは返しておく」


 周りに集まっていたリーダーの男を含めた四人に、“気功・気闘法入門”を一冊づつ渡していく。


「これは“気功・気闘法入門”という、気を使う為の基本が覚えられる技能書だ。お前らは、運が良いな。属性魔法を使える奴なら死ぬだろうが、“無能”のお前らなら大丈夫だ。気を扱える様になれば、さっきのモンスター共と十分やり合える」


「本当か?」


 疑り深いな。


「本当に……さっきのモンスターとやり合えるのか?」


 何だ、そっちか。

 タケミカヅチ様の神命を果たす為にも、答えておこう。


「ああ、やり合える。さっき、俺がやって見せただろう。気をある程度使える様になれば、あれ位は出来る。ただ……使える様になるまでに、時間が掛かるかもしれないがな」


「これを使えば……強くなれるのか……」


「修行を続ければ、確実に強くなる。俺がそうだった様にな」


 ただ使っただけで強くなれるなら、誰も苦労しない。

 力など、使いこなせなければ得た意味は無い。


「それは帰ってから使って、じっくり練習すればいい。そろそろ行くぞ」


 “気功・気闘法入門”を強く握りしめながら見つめる四人を促し、先に進む。

 その後は、ずっと無言で入口まで進んで行った。


 これで、タケミカヅチ様の神命は果たせただろう。

 強くなれるかは、本人次第。

 そこまで面倒を見る気は無い。

 俺自身が、まだまだなのだから。


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