07. 新しい使命はキューピッド
――やってしまったぁああ!!
盛大に吐血を披露したものの、聖女の即時回復が発動したおかげで、身体へのダメージはなかった。
身体が暖かくなる感覚と一緒に、キリリと痛んだ身体の異常も消えて、全身で新鮮な水を飲んだかのようなスッキリとした感覚だけが残る。
「だ、大丈夫か?? どうしたのだ」
王太子殿下が、驚きと戸惑いの表情を浮かべながら、ぶどうを落としてしまった手を震わせていた。
「コーデリア様……何か神に言われたのですか!?」
ミアちゃんは顔面蒼白になり、すぐに浄化魔法で周りを清めながら、私に縋り付いてくる。
あれ、ミアちゃんったら、私に抱きつくのデフォになっちゃったのかな。
聖女仲間になったことが嬉しかったのか、甘えたがりな彼女の本来の姿が出てしまっているみたいだ。本当に、とってもかわいい。
「ご、ごめんなさいね、急に聖女になった衝撃で、感情が爆発してしまいましたわ!! オホ、オホホホホ…ゴフッ」
慌てて誤魔化す私の口から鮮血が飛び出たけど、それを慣れた様子でミアちゃんは浄化してくれた。
……浄化魔法、私も使いこなさなくちゃ。
彼女が「何か言われた訳ではないのですね?? よかった……」と安堵している後ろで、王太子は心配の表情を崩さない。
「聖女になっても吐血の量は変わらずか……無理をしないように、いいな??」
そう言ってから、王太子はミアちゃんに私から離れるように促した。
「色々あって疲れただろう。私たちも報告をしなければいけないし、今日はこれで失礼する」
どうやら、気を遣って退室してくれるらしい。
ミアちゃんは名残惜しそうに私の手を握りしめた後、可愛らしくカーテーシーをしてから部屋を後にした。
二人が退室してドアが閉まった瞬間、私はドサリとベッドに倒れ込む。
――やばい。本当にやばすぎる。
何がやばいって。何も二人がくっつかないってことだけではないのだ。
私が自分の命に必死で、忘れていたゲームのこの後のシナリオ。
「恋愛ゲームの皮を被った死にゲー」と、巷で囁かれていたその理由。
「コーデリアの処刑」の後、ミアと王太子の恋愛を成功させないと王太子が絶対に死ぬのだ。
もう一度言う。絶対に、王太子が、死ぬ。
しかも王太子の死は、最終盤までにミアとの仲が進まず「好感度イベント」未達成というだけで起こってしまう。
三行ほどの説明とともにあっさり語られるだけで終わる王太子の死イベントは、もはやバグかと思うレベルだった。
攻略対象とくっつかないどころか、死んでしまう恋愛ゲームって何。いや、だからこそ面白かったんだけども。
ちなみにだが、王太子を失ってしまうと、ミアちゃんは最後「私は、この国をずっと愛していきますわ」なんて勇者みたいなセリフを吐き、孤高の聖女エンディングを迎えてしまう。
――え?? 人間相手の恋愛ゲームやってたよね?? 国を愛し始めたんだけど。 なんて、発売後しばらくしてからコメント欄で騒がれてたっけ。
まあ、それは置いておいてだ。
まずすぎる。絶対に王太子殿下を死なせちゃダメでしょう。
この一週間、わたしの面倒を率先して見てくれた恩もある。
王太子なのだから、そんな時間を取るのも大変だっただろうに……。
なんというか、ミアちゃんと交互に私の口に食事を運ぼうとする姿も相まって、彼のことはお母さんと呼びたくなるほどになっていた。
それでも、死なないようにと言っても、具体的にどうすればいいのか、わからないのだ。
ランダムなのか、様々な死因が語られていたし。それも全部三行程度の説明しかなくて、いつ、どうして、どこで……の、肝心な情報がさっぱりわからないんだもの。
ゲームならやり直しができるけど、これは今現実なわけで。当たり前だけど、王太子の命も一つだけ。
だけど、明確に避けるべき原因は思い浮かばない。
この状況。私の良くない頭では、思いつく方法が一つしかなかった。
ミアちゃんと王太子の間に、私が恋愛フラグを立てるしかない!!
幸い、私は聖女になったおかげで動けるようになったわけだし、これから行動範囲もぐっと広げられるだろう。
よし、決めた!!
私はベッドの上で力強く拳を握りしめた。
目指せ、キューピッド!!二人の恋愛フラグを立て直そう!!
そしてあの二人がお互いに惹かれ合う最高のハッピーエンドを、一番近くの特等席から見守りたい。
「頑張るぞー!!」
私は、また血を吐きながらも大きな声で気合を入れた。
待ってろ、全部ハッピーエンドにして見せるからな!!
決意を固め、キラキラとした顔で再度吐血した私は、とりあえず自分も浄化魔法が使えるのかと試してみるのでした。
よろしければ★評価、ブクマや感想で応援いただければとても嬉しいです!
お読みいただきありがとうございました♪
良い一日をっ٩( 'ω' )و




