05.吐血令嬢、聖女になる
コーデリアの身体に転生してから、一週間。
相変わらずベッドから起き上がれない私は、毎日顔を出してくれるミアちゃんと王太子のおかげで、穏やかな日々を送っていた。
……まあ肉体は穏やかじゃないけど。相変わらずゴフゴフ吐血してるし。
「そうか、君のいたニホンには魔法はないのか」
「はい!! ゴフッ」
王太子の質問に、血を吐きながらも元気に応える私。
返事ひとつで血が出るってどうなのよ、と自分でも思う。けど、一週間前よりは“ちょっとだけ”マシになった気はするのだ。本当にちょっとだけど。
少しは神達の調整が進んでいるような。進んでいないような。
本来なら喋らず安静にすべきなのだろうが、それを止めたのはミアちゃんだった。
「お掃除も、造血魔法も私がやりますから!! お話ししたい時は遠慮しないでくださいませ」
そう言って胸の前で両手をぐっと握って見せるミアちゃん。
この一週間、甘えっぱなしの私だが、聖魔法を使い続けても彼女は息ひとつ乱さない。
さすが全能力値SSヒロイン……強すぎる。
それでもいつまでも甘えるわけにはいかないと思う。ずっとミアちゃんを拘束するのは良くないもの。
彼女は国の平穏を保つ聖女なのだ。私みたいなのの相手をさせ続けるのは罪悪感がすごい。
神々の「調整」とやらが、もっと進んでくれればいいのに。
いっそのこと公爵家の財力で造血専門の魔導士でも雇おうか……なんて考えていた時に、その声はスッと入り込んできた。
『お聞きなさいな、哀れな転生者』
空気が一瞬、静まった気がした。
え?? 哀れな??
突然の声にビクッと体を起こすと、ミアちゃんと王太子が同時にこちらを見る。
……どうやら二人には聞こえていないらしい。
私だけ?? これホラーじゃないよね??
誰の声だろう……?? ちょっと聞いたことがある気はするんだけど……。
私が固まっていると、またもや謎の声が聞こえてきた。
『聞こえて?? そこの、血塗れのあなた』
あ。……もしかして。
「こ、この高飛車な声は……まさか、コーデリアさん!?」
甘く、不遜で、優雅な声。そしてこの言い回し。
間違いない。この身体の本当の持ち主、コーデリア・ヴァーミリオンだ。
『ええそうよ。わたくし、色々あって神になりましたの』
「え……な、なんっゴフッ!!」
予想外の自己紹介で盛大に吐血してしまう。
王太子が素早くタオルを差し出し、ミアちゃんは汚れを浄化してくれた。
日常風景みたいに手慣れてきてるのが逆に怖い。
「大丈夫か……??」
心配しつつも、訝しむようにこちらを見ている王太子からタオルを受け取る間も、コーデリアさんの声は相変わらず優雅に響いている。
『あらあら、驚くのは結構だけど、話が進まないのは面倒なの。詳しいお話しはまたいつか』
た、たしかに。
というか、説明されても驚いて頷いて「そうですか」と言うしか無いのだろうし、それなら今は疑問は飲み込むのが正解なのだろう。
『いい子ね』
笑いながら言うコーデリアの声は更に続いた。
『あなた、聖女の加護はどういったものかは知っていて??』
「え、ええと」
想像していなかった質問に、必死にゲームの内容を思い出す。
「病気と、怪我と、あとは呪いの即時回復……」
『まあ、呪いもでしたのね』
「あ」
調子に乗って言ってしまった。まずい、呪いの回復は普通は知らないんだった。
というか、あの断罪シーンで「コーデリアがミアを呪った」ことで初めて発覚するんだったっけ。
やってしまった……。と思っていたけど、それを聞いたコーデリアは『その方が都合がいいですわね』と笑っている。
そして、軽い調子でとんでもないことを言い放つ。
『わたくし、貴女を聖女にすることにしたの』
せいじょ。
セイジョ??
……聖女!?
「あの、それってミアちゃんの……!!」
そこまで言って、また口から血が出てしまう。
『そんなのどうでもいいわ。わたくしは下級とは言え神になった。気に入った者に祝福を授けて、何が悪いのかしら』
どうやら、私の言葉を最後まで聞く気はないらしい。
コーデリアの声が聞こえた後、私の身体は淡く発光し始めた。
「こ、これって」
「聖女誕生の光……!?」
驚いているミアちゃんと王太子。
――こうして、私はミアちゃんと王太子が見守る中、“新たな聖女”になってしまったのでした。
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お読みいただきありがとうございました♪
素敵な1日になりますように!!




