04.【幕間】元悪役令嬢の神様
◇神の世界◇
わたくしは、コーデリア・ヴァーミリオン。
完璧で高潔で絢爛なわたくしの目の前には、このわたくしでさえ叶わない存在が口を開いていた。
「──ということなの」
説明を終えて、たおやかに笑う神。
名をアマテ……とか、なんとか言っていたかしら。よく覚えていないわ。
わたくしのいた世界とは、また別の世界の神と言っていたのは覚えているのだけれど……
まあ、今はそんなことどうでもいいですわ。
それよりも大事な話があるんですもの。
「わたくし、死にましたのね」
自分でも驚くほどに、あっさりと受け入れてしまいましたわ。
それでも、神を前にすれば仕方のないこと。
聞けば、死ぬべきタイミングよりも前に神によって魂を抜かれてしまったそう。
取るべき手順を飛ばして輪廻に流されていたところを、目の前の神によって掬い取られたようですの。
ああ、腹立たしい。
ただでさえ「聖女」なんて栄誉を、どこぞの下級貴族の娘に与えたことさえ許しがたいと言うのに。
その上、今のわたくしの身体には、帳尻を合わせるために別世界のニンゲンの魂がはいっていると。
腹立たしさも、ここまで来ると冷静になりますのね。
それでも、ひとまず言われたことを一度飲み込むことにいたしましたの。
どのような時も美しく。これが我が公爵家の家訓ですもの。
「それはそれは。では、わたくしは神の気まぐれで死んだのかしら」
この言葉に、目の前の神は口元にだけ笑顔を貼り付けて返してきましたわ。
「気まぐれ、の方がまだ可愛らしいわね」
そうして、相手はため息をつくそぶりを見せながら続けた。
「適当に世界の管理をしているせいよ。私の可愛い子が幸せな死後に向かう準備をしていたのに……あの、無能の双神ときたら」
浄化の儀も無視して魂を輪廻に流すなんてと、冷たい声で続く言葉。
どうやら、想像以上にお怒りのようですわね。
「それで、わたくしの魂を引っこ抜いたお馬鹿さん達に、あなたが何かしてくださるのかしら」
わたくし自らその者どもに何かできなくても、目の前の神ならば。
そんな願いを込めた問いに、神は微笑みながら首を振った。
「いいえ、私は何も。そうしたいのは山々だけれど、そうしたら、ねぇ??」
消してしまいそうだもの。
その威圧感に、背筋が凍えた。
このわたくしが、叶わない存在。これが神。
それでも微笑んで受け流そうと努めていると、神は密やかに告げた。
「でもね、このままで終わらせたくないの」
私に従うと言えるかしら
そう言って、アマテラスよと再度名乗った神はわたくしに手を差し伸べた。
「あなた、協力してくださる??」
その手をとりましたの。
こうして、わたくし。元コーデリア・ヴァーミリオンはいわゆる「下級神」と相成りました。
「悪くないですわ。…ええ、悪くないですわぁ」
◇
わたくしに告げられた「決まりごと」は三つ。
ニンゲンを傷つけないこと。
セカイを傷つけないこと。
そして、これから会う双神を「まとも」に導くこと。
アマテラスの出した灯りに導かれるまま、境界も曖昧な空間を進んだ先。
しばらくしてたどり着いた先にいたのは、二柱の神でしたわ。
「あー、マジで数値安定しねぇじゃん……」
「先輩、もう無理っすよぉ……吐血とまらねぇもん……」
そんな粗野な言葉を放ちながら、ダラダラと作業をしていた彼らの背後に、そっと立った。
これが、わたくしの命を削り取った者ども。
「あーあ、先輩が適当なことするから」
「いや、お前だって進捗確認の点呼サボってたろ。同罪だ同罪」
「それにしても……まさか肉体放棄選ばないなんてなぁ……」
うんざりしたような彼らの視線の先。
空間に映し出されるようなソレに目を向けると、わたくしの「元々の身体」の今の様子でしたわ。
アマテラスから聞いていた通り、身体に入れられた哀れな転生者は、口から血を吹き出しながらも生きることに決めた様子。
笑いながら、口から出ている赤い色。
「……」
思わず、ピキリとこめかみに青筋が浮かんでしまう。
ああ。やはり腹立たしい。
「あなた方」
「「へ??」」
わたくしは、こちらに気が付かずにいた彼らに声をかけ、ニコリと微笑んだ。
「ごきげんよう」
「ひ、ひいいいいっ!? こ、コーデリア!?」
「なんでここに!?」
まあ、なんて品のない。
これが神とは、聞いて呆れますわね。
アマテラスの足でも舐めたらどうですの。
「今日からあなた方と同じ『下級神』になりましたの。以後、お見知りおきを」
慌てる彼らの目の前で、美しい挨拶を披露して差し上げた。
この者どもの前で腰を折るのは最初で最後。たんと目に焼き付けなさいな。
「先ほど、アマテラス様より。あなた方のお目付け役の任をいただきましたわ」
わたくしの言葉に、彼らは震え上がった。
「あ、あまてらすって……」
「天照大神……」
顔を青くして、名を繰り返す彼ら。
それはそうよね。
彼らはわたくしと同じ「下級神」なのだもの。
格の違いは、神となったばかりのわたくしでさえ理解しているのだから。
怯えている彼らに、アマテラスからの伝言を話して差し上げる。
「『私自ら出向いてしまうと、うっかり消してしまいそう。それに、この方が貴方達にはいい薬でしょう』とおっしゃっておりましたわ。わたくしも、それに賛同いたしましたの」
フフフと笑って差し上げると、彼らは頬を引き攣らせた。
これが、見たかった。
「それで、いつ手を動かすのかしら」
「「へ」」
揃って間抜けな声をあげる彼らに、追い打ちをかける。
「今は別の粗野な魂が入っているとはいえ、あのような無様な姿を晒し続けているのは……少々、腹が立ちますのよ」
そう。
元とは言えども、わたくしの身体。それが、あんな汚らしく血を撒き散らすなんて、許しがたいの。
「ねえ?? まさか、疲れた、なーんておっしゃいませんわよね??」
「「ひっ……!!」」
「動きが遅くてよ。休すめるなんて思わないことね」
この言葉に響き渡る悲鳴。
ふふ、いい気味ですわ。
こうして、彼らを馬車馬のように働かせる日々が始まった。
改めまして、わたくしはコーデリア。
元人間の、美しい神様ですわ。
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