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悪役令嬢に転生したけど、魂と身体の相性が最悪ですぐ吐血します【連載版】  作者: 三來


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03.長生き宣言


 

 失血で意識を失った私が目を覚ますと、ベッドの上だった。



 室内にはベッドが一つと、来客にも対応できそうな椅子とテーブル。


 コーデリアの家にでも連れてこられたのかと思ったものの、服装がそのままのミアと王太子が室内にいるあたり時間はあまり経っていないみたいだ。



 と言うことは、ホールの付近の病院か何かだろうか。



 私の目覚めに気がついたミアがこちらに駆け寄ってくる。

 その目は可哀想なほどに赤い。


「コーデリア様……」



 ミアが、ポロリと涙をこぼしながら口を開いた。


「わたくしは、名ばかりの聖女でしたのね」



 ん??



「病にも気が付かず、言葉の裏の苦しみにも気が付かない……。わたくしに辛く当たられていたのは、あまりに愚かだったから……」



 いや、まって。いい子がすぎる。もう少し他人を疑おう?? と、思ったところで思い出した。


 違うわ、王太子ルートのミアちゃんはこうなっても仕方がない善性の持ち主だったわ。



 流石にこの状況に耐えられなくて、自分の身体のことを忘れて口を開いた。


「ちがっ……」


 途端に噴き上がる血。


「コーデリア様!! 無理をなさらないで!!」



 そう言って慌てて造血魔法をかけてくれるミアちゃん。


 ポロリと溢れていただけの涙が、ポロポロに変化した。

 ああああ。心が痛い。



 私が内心で悶えていると、様子を眺めていた王太子が一歩前に出た。


 

 頼む。ミアちゃんを慰めてあげて。

 それはそれとして、コーデリアがやってきたことは咎められるべきだとか、そんな風に言って!!


 私の願いも虚しく、王太子は悔しそうに拳を握りしめながら、沈痛な顔で話し出した。



「なぜだコーデリア。相談してくれさえすれば、共に戦えたものを……!!」


 そう言って一瞬押し黙った後、再度声を絞りだす。


「言ってさえくれれば、婚約破棄をしようとは思わなかっただろうにっ」



 そうだった……王太子もお人よしだった……。



 思わず死んだ目になってしまう。

 勘弁して。良心が悲鳴をあげちゃう。


 この状況で私にできることはひとつだけ。



 何も進まない会話、解けない誤解。その全てを解決するには全てを話すしかないのだ。



 止まらない吐血はもう無視しよう。



 全てに嫌気がさした私は覚悟を決めた。



 どうせ苦しいんだもの。

 それなら、このバグまみれの状況を全部ぶちまけてやる。



「き、いて……くだ……さい……!! げぼぉっ」



 血が吹き出るが構わない。


 ベッドのシーツが汚れようが、二人の服が汚れようが知ったことか。後でいっぱい謝ろう。



「私は……転生者……なんです……!! 手違いで……魂が適合、してなく、て」



 私の説明に、二人はキョトンとしていた。あまりにも要領を得ない説明だったと我ながら思う。



 血が足りなくておかしなことを言い出したと誤解した二人を他所に、私は必死で説明を続けた。



 この世界とは別の世界の住人であること。そこで聞いた神様共の会話。そして気がつけばコーデリアの身体に入っていたこと。


 エラーの内容が吐血であったこと。


 王太子とミアちゃんの質問の助けもあり、私はことのあらましを、なんとか伝えることに成功した。


 

 休憩を挟んだものの、体力の消耗が激しくてげっそりしてしまう。



 血が飛び散ったベッド周りがびちゃびちゃとしていたが、会話が終わったところでミアちゃんが浄化魔法をかけて綺麗にしはじめた。



 浄化魔法、すごい。



 私が驚きで目を見開いていると、王太子が私の説明を確認するように尋ねてくる。



「君の言いたいことは理解した。が、神がそのようなミスを犯すなど ……ありえるのか??」



 まあ。そうなるだろう。信じられないのも無理はないし、私だって当事者じゃなければ信じられないと思う。


 いくら人のいい王太子といえど、神様のこととなればすぐには飲み込めないようだ。



 だけど、その王太子の疑問に答えたのは、一番神に近しいはずのミアちゃんだった。



「いえ……殿下。辻褄は合います」


「ミア??」



 王太子も、まさかミアちゃんが肯定するとは思わなかったらしい。


 ミアは、表情を固くしながらも王太子の目をまっすぐに見て告げた。



「聖女の治癒魔法が、完全に弾かれました。聖魔法よりももっと上位の……そう、神からの祝福以上の力が原因なのであれば納得がいきます」



 すごい。聖女が神様のミスの話しを信じてくれるなんて、普通はできないんじゃないかな。



 ……あの適当な神に神託を受けた聖女が、こんなに出来た人間だなんて、一周回って面白くなってきた。



「わたくし、礼拝堂へ行ってまいります」


「神託を受けに行くのか」



 王太子の問いに、ミアちゃんは力強く頷いた。



「真実を確認しませんといけませんから」


 

 彼女はそう言い残し、足早に部屋を出ていったのだった。




 ◇



 しばらく後。


 戻ってきたミアちゃんは、遠い目をして、ひどく疲れた顔をしていた。



「……神託が降りました」


「なんと……??」



「神は、こう申しておりました」



 ミアちゃんは咳払いを一つして、神の言葉を代弁しだした。



『ごめん、こっちもエラー通知多くててんてこ舞いでさ。統括にはめちゃくちゃ怒られたし、先輩も必死で定着率あげるデバッグしてるんだけど、どうにも進捗が……』



 王太子がポカンと口を開ける。


 ミアちゃんは死んだ目のまま私に問いかけた。



「私もさっぱり意味がわかりませんでしたが、ニホン?? にいた魂の持ち主ならば通じるだろうと」


 お分かりになりますか?? と聞いてくるミアちゃんに、私はゆっくりと頷く。


 それを見たミアちゃんは、安堵の表情を浮かべながら続きを話してくれた。



「現状、コーデリア様には二つの道があるそうです」



 ミアちゃんが指を一本立てる。



「一つ。このまま肉体を放棄し、輪廻の道に戻って、正規の手順で生まれ変わりを待つ」



 そして、二本目の指を立てた。



「もう一つは……その身体に留まり、吐血と生涯付き合いながら、調整を受け続ける」



 ミアちゃんは「信じられませんわ」と呆れ顔で付け加えた。



「二番目に関しては、神様、泣きそうな声でしたわ。『これ選ばれたら俺たちずっと帰れない』って」



 その言葉を聞いた瞬間。

 私の脳裏に、あの時の会話が再び蘇った。



『えーい、ままよ!! とりあえずつっこんどけ!!』



 ……あの適当な神共。



 今、私が死ねば、彼らは「残念だったね」「でもこれで肩の荷がおりますねー」で終わらせて今まで通りに過ごすのだと思う。



 でも、私が生き続ければ??


 私が生きている間、彼らはずっと調整作業に明け暮れる訳である。




 じゃあ、ねえ??



 私は口元からツーッと血を流しながら、綺麗な笑顔を浮かべた。



 囁くように、二人に告げる。



「ミアさん、殿下。お伝えください」



 そして、私は宣言した。



「──二番目でお願いします、と」




 二人が息を呑む。



 人のいい彼等のことだから、どんな困難なイバラの道も受け入れる、一種の自己犠牲に見えているかもしれない。



 だけど、それは違う。


 

 これは復讐だ。



 絶対に簡単に死んでやるもんか。



 健康に気を使って、長生きして、おばあちゃんになるまで……いいや、寿命の限界まで生きてやる。


 私のくしゃみ一つ、あくび一つ、寝返り一つで吹き出る血。それが、あいつらへの嫌がらせになるのなら。



「ふふ……ごふっ!!」



 私は笑いながら元気に血を吐いた。



 神様達の悲鳴が聞こえてくるような気がしたが、しったこっちゃ無いのである。






 その頃。

 神様たちの世界で、本物の悪役令嬢がゾッとするほど美しい笑みを浮かべていたことを、私は知らなかったのだった。



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お読みいただきありがとうございました♪

楽しんでいただけでますようにっ!!

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