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悪役令嬢に転生したけど、魂と身体の相性が最悪ですぐ吐血します【連載版】  作者: 三來


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02.吐血令嬢、爆誕



 激流に飲まれるような、落下しているような、はたまた吸い込まれているような。



 そんな感覚の後、すぽんっと私は何かに「入った」のを自覚した。



 …さっきの会話通りなら「どこか」の「処刑街道まっしぐら」な人物の中に入れられたことになる。



 嫌だなぁ。目を開きたく無いよ。


 現実逃避している私の耳に、聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。



「コーデリア!! 貴様のミアに対する度重なる嫌がらせ、もはや看過できん!!」



 驚きで目を開けてしまった。


 きらびやかなシャンデリアの下、張り上げられた声の主。


 涼やかな瞳、やや細身だが鍛えていることがわかる身体。何度も何度もスチルで見てきたから間違いない。


 私たちを囲うようにして、こちらを眺める貴族にも、この場も。



 全部全部、見覚えがある。




 ……これ。死ぬ前に私がやりこんでた『ラバーズ・コンチェルト』じゃん。



 て言うことは、あれ??

 私が放り込まれた身体って、もしかして。


 と、恐る恐る自分の服を視線だけで確認すると、なんともまあ。煌びやかで豪勢で華美なドレスだ。


 真紅のこのドレス、間違いなくこのゲームの最凶悪役令嬢、コーデリアのものだった。



 まじかあ……



 ってことはこれ、ゲームの断罪シーンじゃん。



 処刑ルート真っ只中と、あの神様共が言っていたのも納得だ。


 ゲームヒロインの「聖女」ミアは、王太子の背中で震えているから、この世界は「王太子ルート」なのだと思う。



 そうなると、ゲームのシナリオではコーデリアが婚約破棄に逆上。原因を「聖女ミアが王太子をたぶらかした」と言いがかりをつけて呪おうとして失敗。聖女を呪う大罪を犯したことにより、処刑される……ということになっている。



 まあ、ゲームをしていればわかるのだけど。本当に言いがかりなのだ。


 王太子ルートに来るには、好感度を上げすぎず、善性を保ったままでなくちゃ行けない。

 少しでも色目使うような選択肢選ぶと、王太子はむしろ心の距離を空けてくるのだ。


 鬼畜ゲーめ!! と思いながら何度やり直したことか。


 だから、ゲーム通りなら、王太子ルートに入っている目の前のミアは100%善。色目ゼロのスーパーいい子ちゃんなはずである。



 それ故に、私が処刑ルートになるかどうか以前に、彼女を呪う理由は一切、これっぽちもない。



 そうなれば私の取る行動は一つ。



 ひとまずは粛々と断罪を受け入れてしまおう。

 一番マシな修道院ルートに軌道修正すれば生き残れはする!!



 まず生きる道を選ばなくては!!



 私はそう考えて、行動に移すことにした。

 ゲームで見たようにカーテシーを真似ながら、謝罪を口にしようとした、その時。



「つつしんで、お詫び……っ」



 ズグンと全身に走る、強烈な拒絶反応。


 肉体の内側から全力で壁を蹴飛ばしたような衝撃。



 何これ、痛い。痛すぎる!!



 サイズ違いの靴に無理やり押し込んだような圧迫感と、性能の足りないマシンで最新のゲームを起動したような処理落ち感。


 そんな衝撃を身体に感じた後、それは私の口から噴き出た。



「……っ、ぶぇっほぉっ!!?」



 真っ赤な血だ。



 視界に入った鮮血に、私はあの神様共の会話を思い出した。



『コードが全然違いますって。無理やり入れたらエラーが起きちまう』



 絶対、これじゃん!!

 っていうか、エラーの内容が致命的すぎない?? 無理じゃんこんなの!!


 

 そんな私の吹き出した血は、それはそれは美しい弧を描いて王太子の磨き上げられた革靴を赤く染めた。



「なっ……!?」


 王太子の顔が引きつり、会場が静まり返る。


 

 あーーーその靴、王太子エンドでも履いてためっちゃかっこいいやつうううう!!


 まずいまずい。レアスチルを汚してしまった。謝らなくちゃ!!


 半分パニックになりながら、私はハンカチを取り出そうとする。


 だけど、その「動こうとする意志」がさらなるエラーを引き起こしたらしい。



「も、申し訳、な……ごふっ、げぼぉっ!!」



 吐血、二射目。


 今度はヒロイン、ミアの純白のドレスの裾にスプラッシュした。



 や、やっちゃった。



「きゃああああっ!?」

「コ、コーデリア!? お前……」



 王太子が言葉を続けようとするが、私の様子を見て言葉を詰まらせた。



 まあ、無理もない。



 今の私は、狡猾で高飛車で無血な絶世の美女「悪役令嬢」コーデリアとはまるで違う。


 リットル単位で血液を垂れ流す可哀想な鮮血のポンプだ。こんな姿、想像もできないだろう。



「どうした!! 毒か!?」



 そう言って、青ざめた顔をする王太子。

 きっとコーデリアが口に付けていたのだろうグラスに視線を走らせる王太子に、私は更に慌てた。



 ちがう!! 毒じゃない!!



 誰かが冤罪でもかけられては可哀想だと、精一杯首を振った。口も開こうとしたが、弁明しようと口を開けば血が出る。



 でも、ダバダバと出る血を他所に必死に首を振った私をみて、意図は伝わったらしい。




「毒では無い……では、そんな、まさか……」



 よかった、伝わったと思ったのも束の間。なにやら想像したらしい王太子の表情が、動揺へと変わっていった。



「まさかコーデリア、貴様……病をおして、この場に」



 ちがーーーーーう!!



 

 必死で否定しようと口を開いたが、またもやごぼぁっ!! と血が吹き出た。



「なんてことだ……。ミアへの嫌がらせも、病による苦痛の裏返しだったとでも言うのか……??」



 違う違う。

 それはコーデリアが神に選ばれた「聖女」の存在を許せなかっただけ!!


 私は尚も必死で首を振ろうとした。けれど、先に意識の限界が来てしまう。



 血が、血が足りない。



 視界が暗くなり、立つのも難しくなった私を、急いで王太子が支えてくれた。



「コーデリア、お前……」



 焦燥が滲む王太子の声と、周囲の貴族たちのざわめきが、まだ機能してる耳に入ってきた。



 私のスプラッシュのせいで空気が一転してしまったらしい。


 もはや断罪どころでは無さそうだ。



「しっかりしろ! ! 魔導師団!! 造血魔法を急げ!!」


「はっ!!」



 王太子の叫びに呼応し、控えていた宮廷魔導師たちが現れたらしい。



 彼らの魔法によって、足りなかった血液が強制的に生成され、送り込まれていくのを感じる。



 血が足りず寒さを感じていた身体が、少しずつ楽になっていった。



 視界も少しずつ明るくなってくる。



 相変わらずゴボリと血は出ているが、出る量と入る量が拮抗しているおかげで、かろうじて意識だけがつなぎとめられた。



 ……本気で死ぬかと思った。



「コーデリア……一体、どのような病なのだ」



 王太子が苦しそうに私を見下ろすのを、私はボーッと眺める。


 否定したい。そうじゃないんだと言いたい!!

 でも、身体が怠くて言うことを聞かない。


 私のその姿を見てか、ヒロインのミアが青ざめた顔で王太子の横に立った。



「殿下、わたくしが。聖女の力であれば、病なら癒やせるはずでございます」



 そう言ったミアの顔は、真剣そのものだ。


 犯罪スレスレの嫌がらせをしてきていた相手にこうして慈悲をかけるとは。やはりヒロインは素晴らしくいい子らしい。



 ミアがゲームで見たことがある聖女の祈りを捧げると、その手が白く輝きだした。


 

「コーデリア様、お身体に触れますわね」



 そう前置きして、癒しの魔法が宿った手で私の背中に触れようとした。


 が。


「きゃあっ!?」


 ミアの手が、見えない壁に弾かれたように跳ね返されてしまった。



 治癒魔法が、私の身体に拒絶されたのだ。



「ま、まさか……聖女の力が効かない!?」

「聖魔法を弾くだと!?」



 会場がどよめく。



 効いたらいいなぁとは思っていたが無理だったらしい。

 仕方がない。原因は、病気でも毒でもないのだから。


 要するに、身体と魂のファイル形式の不一致によるバグなのだろうとは思う。



 なんて、それを知るはずもない王太子とミアは、更に慌て出してしまった。


「なんなのだ、まさか呪いか!?」

「いえ、たとえ呪いだとしても聖魔法でしたら浄化できるはずです」


 王太子の問いに答える泣きそうなミアの声。

 

 泣かないで欲しい。せめて、なぜこうなっているのかを説明しなければ!!



 そう思った私は最後の気力で口を開いた。



 のが、悪かった。


 造血魔法で補充されたばかりの血液が、私の話さねばという意思をトリガーに爆発してしまった。



「……ぶぇっっっっほぉぉぉおおおおおお!!!」



 盛大な、この日一番のフィナーレ。



 私を支えている王太子の顔面を真っ赤に染め上げたあと、私は限界を迎え、意識を手放したのでした。






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お読みいただきありがとうございました♪

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