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悪役令嬢に転生したけど、魂と身体の相性が最悪ですぐ吐血します【連載版】  作者: 三來


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11.吐血令嬢と廃課金

 

 魂の推し活布教により、婚約破棄を了承した公爵。


 あの後、驚いたダリオンとミアちゃんには

「新たな美しさの形をお伝えした結果です」

 なんて、ふわっとした説明で済ませた……その翌日。


 まさか、こんなことになるなんて思ってもいなかったのだ。


「これは……」



 昼を過ぎた頃。

 私の部屋を、ヴァーミリオン公爵が訪れていた。



 あまりにも早い来訪に、「やはり婚約破棄は無しだ」「やっぱり気が変わった」なんて言われるのではないかと、内心かなり身構えてしまう。



 そんな私の前に、公爵は見るからに高級そうな箱を差し出した。



 ……なんだろう、これ。



「君への贈り物だ」


「えっ、あの……これは一体……」



 どう見ても安物ではない。


 箱の時点で、私の人生で一度も縁のなかった価格帯の気配がする。



 受け取るのを躊躇う私を見て、公爵は穏やかに微笑んだ。



「君には必要なものだろう。開けてみなさい」



 必要なもの……??



 血を拭くための上等なハンカチとか、吐血用の特注クロスとかだろうか。



 そんな予想をしながら、恐る恐る箱を開けてみる。



「……これって」



 中に収められていたのは、淡い光を放つ透明な結晶だった。


 小さな結晶なのに、異様なまでの存在感を放っているそれは……



「……ま、魔水晶!?」



 予想しなかった激レアアイテムに、思わず声が裏返った。



 魔水晶。


 魔法を封じ込め、身につけることで常時その恩恵を受けられる希少アイテム。



 つまり。



「これ、簡単に手に入っちゃダメなやつですよね!?」



 思わず声を張り上げた瞬間、ゴポォッと血まで出してしまった。



 だって、この魔水晶——ゲーム内では、最高ランクでミッションをこなし続けた果てに、ようやく手に入るご褒美アイテムなのだ。



 どんなにゲーム内通貨を貯めてもショップでは買えなかった。

 アイテム説明欄には「希少性が極めて高く、市場には出回らない」と書かれていたはず。



 それを、こんなにあっさり。



 呆然とする私を前に、公爵は何でもないことのように言った。



「浄化魔法を毎回発動するのは負担だろう。その水晶に魔法を込めて身につければ、外出も容易になる」



 ……さらっと言われたけれど。


 全然さらっと受け取れる内容じゃない。



 いや、正直に言えば、めちゃくちゃ嬉しい贈り物だ。


 公爵の想定した使い方ではないけれど、これを使えば王太子の死亡フラグを回避しやすくなるのだ。


 あの理不尽極まりない、バグとしか思えない死亡イベントに、正面から殴り勝てる!!


 そうなれば、恋愛フラグの立て直しだって多少は楽になるはずだ。



「ありがとうございます」



 色々な感情を傍に置いて素直に頭を下げると、公爵は満足そうに頷いた。



「君の役に立つのならば、これぐらい何でもない」



 絶対何でもないって言い切れるようなアイテムじゃないんだけど。



 ……推し活って、外から見るとこういう感じなのか。



 やりすぎじゃないかと思ったけれど、過去の自分を思い返すと熱量に差はなかった気がして、そっと目を逸らした。



 うん。

 推しに給料を全額注ぎ込んだ記憶は、今は思い出さないでおこう。



 ふと視線を逸らした先にいたミアちゃんと目が合うと、彼女は自分のことのように喜んでくれているみたいだった。




「これで、コーデリア様も安心して外に出られますわね……」



 瞳を潤ませて微笑むその姿に、胸がきゅっと締めつけられる。



 ……違うんだ、ミアちゃん。


 これには、もっと大事な役割があるんだ。



 そっと目を瞑って、今やるべきことを改めて考えた。



 私はこの魔水晶をダリオンに使って欲しい。



 でも、これは公爵が私を思って用意してくれたもの。それを何も言わずに他人に渡すのは……ダメだと思うのだ。



 公爵には一言断るべきだろう。そうだ、ちゃんと説明しよう!!



「……あの、公爵様」



 私が口を開い——


 た、時には。




 もう、遅かった。



「はい!! 込め終わりました!!」



 ミアちゃんのとびっきり元気な声が響いた。



 見ると、彼女は曇りなき瞳で浄化魔法の込められた魔水晶を差し出している。



「あ」


「感謝しよう。魔法の練度が高ければ高いほど、魔水晶の効力も長く保たれるだろう」



 公爵も満足そうに頷いているし、ミアちゃんはやり遂げた顔だし。




 ……完全に後の祭りであった。



 魔水晶に込められる魔法は一つだけ。

 上書きはできなかったはずだ。



 うん。でも。



「ありがとう」



 少し残念な気持ちを振り払い、笑顔で受け取った。



 だめだ、だめだ。

 これは私のために用意された贈り物なのだから。

 がっかりしたらバチがあたる。



 それに、これのおかげで出来ることが増えた。



 

 だって、魔水晶はこれ一つじゃないはずだから。ゲームでは最高ランク報酬として手に入るわけだし!!



 私が全部最高評価でクリアすればいいだけじゃないか!!



 そうだ。

 自分の手で、もう一度取りに行けばいい!!




 私は魔水晶をぎゅっと握りしめた。



 よし。決めた。



 ゲーム通り、全部のミッションを最高ランクでクリアしてみせる。



「よし、頑張るぞ!!」


 自分の力で!!


 そう、静かに決意した私の前で、公爵が口を開いた。




「では次は、王太子殿下の分も用意しようか」



「……え??」



 …いま、なんて??



「君の推しなのだろう?? 守るための魔水晶は必要だ」



「え、ちょ、待ってください公爵様」



「同じものを、もう一つ……いや、二つあってもいいか。君の分も用意させよう。好きに使うといい」



 ミアちゃんにも渡す気らしい公爵。



 言われたミアちゃんは首を傾げながらも「コーデリア様がお望みなら喜んで!!」と嬉しそうだ。



「いやいやいや!!」



「何を遠慮することがある。推しの推しは推し。ならば、惜しみなく守ってやらねばなるまい」



 ……だめだ。


 この人。札束で殴ってくるタイプになっちゃってる!!



「私が……私がミッション頑張ろうと思ったのに……!!」



 思わず天を仰いだ私の口から今日一番の吐血が飛び出し、魔水晶が見事に浄化を決めた。



 どうやら私の人生は、 努力する前に課金で解決されるルートに突入したようである。


よろしければリアクション、★評価、ブクマ、感想などで応援いただければとても嬉しいです!!全てが励みになります♪


お読みいただきありがとうございました♪

よい1日をお過ごし下さい(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
何という懐の広さでしょうか。この公爵閣下が、この物語の中で私の最推しになってしまいました。
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