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悪役令嬢に転生したけど、魂と身体の相性が最悪ですぐ吐血します【連載版】  作者: 三來


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01.へっく死



 私の死因は、特大のくしゃみだった……と思う。


 今日は久しぶりの休日だった。

 連日の仕事で疲れ切っていた私に、外出する気力は全く無い。


 だって、それはそれは疲れていたんだもの。


 かと言って、ただ寝て過ごすのは勿体無い気がして、ベッドの上でゴロゴロと転がりながらもやり込んでいた乙女ゲームを進めることにしたのです。



「あー!! やっと王太子ルートニ周目来れたー!!」


 私がプレイしているこの恋愛ゲーム。


 制作者のこだわりなのか、メインの王太子ルートの難易度が鬼のように高い。


 まず、攻略対象が何人かいるうち、王太子のみに婚約者がいるのだ。


 婚約者がいるわけだから、王太子がヒロインに恋愛感情を持つまでの道のりがそれはそれは長い。

 行動選択肢を全て「善」判定になるものを選んで、しかも能力を全てSSまで上げて、始めてスタートラインに立てるのだ。


 王太子の婚約者である令嬢の嫌がらせを受けつつ、それらを全てこなすのはかなり骨が折れるのである。


 王太子ルートだけは「恋愛ゲームの皮を被った死にゲー」なんてネットで弄られていたのも納得がいくぐらいだった。



 そんな大変な道のりを乗り越え、王太子が婚約者の「悪行」から、王妃になる資格なしと判断して婚約破棄をした後で、やっっっっとヒロインと恋愛感情を育むフェーズに入るのだから……クリアした時の達成感はとてつもない。


 そんな快感を私はもう一度味わいたいのだ。


 気がつけばもう夕方。


 セーブを駆使しながら何度かやり直し、やっと辿り着いた悪役令嬢への断罪シーンに思わずガッツポーズをしてしまった。


 勢いよく起き上がったせいで埃がたったのか、鼻がむずむずと痒くなる。



 そう。この時、確かくしゃみをしてしまったのだった。

 


「へっくしゅ!!」


 ──ドンッ!!!


 自分の頭の中で爆発でも起きたのかと思うほどの衝撃。

 目の前が一瞬でホワイトアウトしたと思ったら、次は真っ黒。


 え、っと思う間もなかった。


 脳の血管が切れたのか、そのへんはわからない。でも、とりあえず「死んだっぽい」という確信だけはあった。



 だって、なんか変な場所にいるんだもの。



 いや、“場所”とすら言っていいのか怪しい。



 上下左右もない。地面も天井もない。


 視界は水彩をにじませたみたいにぼんやりしているのに、意識だけがやたらシャキッとしている。


 天国にしては寂しいし、地獄にしては静かだった。なんだろう。無のバーゲンセールだ。



 身体はないのに、思考だけは元気。



 そんな最中でふわふわと漂っていると、上なのか下なのか、右斜め後ろ三メートルくらいなのか、よく分からない方向から声が聞こえてきた。



「あー、やっべ。進捗みてなかった。間違えて魂だけ先に輪廻に流しちゃったわ。中身空っぽじゃん」


「うわ、マジですか先輩。それ普通に大事故ですよ」



 ……なんか、軽く言ってるけど内容が重すぎない??


 魂だけ先に流したって何。どういうこと??

 神様?? 神様なの?? 神様なのにこんな軽いノリなの??


 私のそんな心の声をよそに、会話は進んでいく。



「いくら処刑ルートだからって……時間止めるのにも限界ありますよ?? このままだと、この世界、主要キャラ欠員で崩壊しますけど」


「どうすっかなー。あー、じゃあ……別の魂いれとくか。ちょうど良さげなのあるし」



 ちょうど良さげって何だろ。

 っていうか、別の魂って入れていいもんなのかな。



「え?? いやそれ、さっきくしゃみで死んだ別世界の魂ですよ?? コード違いすぎてバグりますって」


 

 ほら、ダメじゃん。別の魂入れちゃエラー起きるってよ。


 っていうか、ちょっと待って。

 くしゃみで死んだ魂って……もしかして、私!?


 つまり私、ここで 処刑ルート真っ只中の誰かのカラダに放り込まれるってこと??



「そんなこと言ったって、コイツの魂消したら世界ごと終了だぞ?? 背に腹は代えられねーって」


「いやいやいやいや!!」


 私の心の声も後輩ポジションのような神様と完全に被った。


 頑張って後輩神様!! とめて、私の魂を先輩神様から守って!!



 必死の私の心の叫びも虚しく、後輩神様は別のことに気がついてしまったらしい。


「あ、時間停止終わりそう」


「やべえじゃん!! えーい、ままよ!! とりあえずつっこんどけ!!」


「あーらら、俺しーらね」




 ……その瞬間。


 ズボォォォッ!! と、今まで感じたことのない激流に私は呑まれた。


 排水口に全力で吸われるような勢いで、何かに引きずり込まれていく。


 

 どこへ、なんで私が



 心の中で悲鳴を上げながら、圧倒的スピードで落ちていった。




 ──こうして私は、二度目の死に向かって勢いよく吸い込まれていったのでした。



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お読みいただきありがとうございました♪

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