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第三章 part4:学校

 茜と一緒に住むようになってから数日が経った。


茜は今では当たり前のようにここにいる。


いつしか誠もそれが当たり前になっていた。


二人目の妹。


そんな感じがする。


茜を見るたびに幼いころの湊を思い出す。


本当によく似ていた。家事や炊事はできなくても、元気の良さとあの嬉しそうな笑顔。


そこは十分に似ていた。


そして、自分に対する接し方も。


 誠は未だに寝ていた。


時刻はもうすぐ正午を回ろうとしていた。


しかし、起きる気配は少しもない。


 すると、ドアが勢いよく開かれ、茜が布団に勢いよくダイブしてきた。


「誠お兄ちゃ~ん。湊お姉ちゃんが起きてって。もうお昼だよ~」


 誠は茜の体重がもろに腹に来たので、一瞬で目が覚めてしまった。


「た、頼むからもう少し優しく起こしてくれ」


「だったら誠お兄ちゃんが早く起きればいいじゃない。ほら、湊お姉ちゃん部活行っちゃうよ。お見送りしなきゃ」


 そう言って茜は楽しそうに笑みを浮かべながら出て行った。


 誠は頭を掻きながら起き上がると、ベッドから降りて部屋を出た。


誠の首にはネックレスが光っていた。




「いってらっしゃい。湊お姉ちゃん」


「いってらっしゃ~い……」


 茜は元気よく、誠は眠たそうな声で湊を見送った。


「うん。いってきます」


 湊は笑みを浮かべながら手を振ると部活に行ってしまった。


「さてと、俺はもう一眠りするかな」


 誠は欠伸をしながら方向転換する。


すると部屋に戻ろうとする誠の服を茜が掴んだ。


「ちょっと待ってよ。その間私は何をしたらいいの?」


「う~ん、子供は子供らしく外で遊んできなさい」


「え~、こんな可愛く小さな女の子を一人で行かせるの?」


「なんだよ。俺も来いって言うのか?」


 その質問に茜ははっきりとうなずいた。


「だって、いつも誠お兄ちゃん私にかまってくれないじゃない。たまには一緒に遊ぼうよ」


 誠はため息を吐くとしぶしぶ了解した。


こういうところは子供だ。いくらしっかりしていようと甘えたい年頃なのかもしれない。


茜は嬉しそうに鼻歌をさえずりながら喜んでいた。




 二人は昼食を終え、さっそく外に出た。


今は誠の通学路を通っている。


桜並木の道沿いを歩き、目の前には学校が見えていた。


「あっ、桜楼学園……」


 茜が突然呟いた。


「ん? 茜ちゃん、桜楼学園を知ってるの?」


「え、えと、いや知らない。まったく知らない」


 茜は強く否定した。


しかし、顔は学園の方を向いており、その場から動こうとしなかった。


「……中に入ってみるか?」


 誠の問いかけに茜は強くうなずいた。


 二人は中に入ると、校庭で部活をしている姿が目に入った。


見た感じ陸上部だ。


ということはあいつがいるはず。


「あっ、お兄さん!」


 陸上部専用の青い練習着を来た瞳が、こっちに向かって手を振りながら近づいてきた。


やっぱりいた。


「あ、この子が茜ちゃんね。湊から聞いてるよ。こんにちは」


 瞳は茜に気づくと、その場にしゃがみ込んだ。


「かわいいね。お兄さんはとうとう罪を犯したんですね」


「だからなんでそうなるんだよ」


「あ、あの、どちらさまですか?」


 茜は首をかしげながら瞳に問い掛けた。


「あ、ごめんね。私は麻生瞳。この誠お兄さんと湊の友達だよ」


 瞳は茜の手を握ると笑みを浮かべながら軽く握手をした。


「それで、お前は練習に戻らなくていいのか?」


「あっ、そうだった。じゃ、またね」


 瞳は校内一番の足で練習に戻った。


本当に速く、茜は心底びっくりしていた。


 二人は校舎の中に入り、茜が行きたいところを回っていった。


「わあ~」


 茜ははしゃぐようにして見ていた。まるで懐かしんでいるようだった。


「おい、茜ちゃん。そんなに走り回ったら……」


「あっ!」


 注意したときだった。


茜はバランスを崩して勢いよく廊下に転んでしまった。


「ああ~、まったく。おい、大丈夫か?」


 誠はそっと茜を立たせた。


茜は痛みに耐えながら涙をこぼしていた。こんなところも子供だった。


「大丈夫か? 痛くないから心配するな」


 誠は優しく声をかけた。


「う、うん……」


 茜は素直にうなずいた。


誠は小さく笑みを浮かべると軽く頭を撫でた。


「さて、あいつのところにでも行くか」


 二人は音楽室に向かった。


もちろん湊に会いに行くためだ。


湊はフルートの練習をしており、誠たちに気づくと練習を抜け出してきた。


「兄さん、茜ちゃん、来てたの」


「ああ、茜ちゃんが来たいからって」


「湊お姉ちゃん、フルート上手だね。とってもうまい」


 茜は無邪気に拍手を贈った。


「ありがとう、茜ちゃん」


「湊はな、中学のころ県大会で最優秀賞を受賞したんだぜ」


 誠は自分のことのように自慢した。


そのときの写真が誠の携帯の中に眠っている。


「ほんとに? すごい!」


「たまたま運がよかっただけだよ。そのせいでみんな期待してるけど」


 湊は少し苦笑いを浮かべた。


 二人はこれ以上邪魔をしては悪いので、湊に別れを告げて音楽室から出て行った。


「さて、もう学校はいいだろ。他のところに行こうぜ」


 誠は茜に問い掛けた。


しかし、茜は最後に行きたいところがあるといい誠の前をあるいてある場所にむかった。


茜は二年生の階に着くと、ある教室の中に入った。


二年C組のクラス。


誠はA組のクラスなのでそんなに関わりのないクラスである。


茜は教室に入ると一つの席に座った。


ちょうど真ん中に位置する座席。


そこに茜はちょこんと座った。そしてゆっくりと辺りを見渡す。


目の前の黒板、天井、後ろの棚、窓、廊下、あらゆるところを見渡す。


誠はその様子をじっと見ていた。


 茜はそっと目を閉じると、ゆっくりと息を吐き、心を落ち着かせた。


そして目を開くと、席から立ち誠のもとに戻った。


「もういいのか?」


「うん。ありがとう」


「でも、何してたんだ?」


「うん。ちょっとね。高校ってどんなものかなって思って」


 茜は一目教室を見ると階段のある方へと足を進めた。


誠も一目教室の中を覗いた。


そしてあの席を見る。


 なぜ茜はあの席に座ったのだろう。


それに、茜は何年かすれば高校生になる。


焦らなくても時が何とかしてくれるはず。


なのに、茜はもう高校生活を味わうことができないような素振りだった。


 誠はじっと教室を見渡した。


何もないごく平凡な教室。


しかし、何か違和感があった。


この教室だけ、他とは違う何かがあった。


「誠お兄ちゃ~ん」


 茜が階段の手前で誠を呼んだ。


誠は軽く返事をすると茜の元にむかった。


誠の記憶の中には、茜が座った席の場所が鮮明に刻まれていた。

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