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赤毛の涙

 海に出てからパールサの街までさらに一昼夜。

 遠くに見えている城を目指して

 マリアは歩き続けた。


「マリア、もうすぐ人が住む世界だ。俺は一緒にはいられない」

「はい」

「姿を消すが驚かないでくれ。近くにいる。襲われたりすることは無い」

「わかりました」


 予告していた通り、やがて往来に人通りが出始めると赤毛は姿を消したが、暖かい視線を常に感じることができたため、不安は無かった。


 街に近づき通りがかった兵士に供も付けずに歩いているボロボロの若い女性であることを怪しまれ誰何されたマリアは、自分の身分を告げた。

 すぐに伝令が走り、一報を聞いた藩王ギルモアは配下も伴わずに愛馬で飛び出してきたのだ。


「マリアなのか!」

「お父様!」


 兵士とともにパールサの入口にある詰め所で待っていたマリアの元へギルモアが飛び込んできた。


「ああ、マリア。よく無事で」


 そう言ってマリアを抱きしめる。


「怪我はないか?」

「はい」

「供は、供は誰もいなかったのか?」

「その話は後で。今は私一人です。マリア、ただいま無事帰りました」

「わかった」


 そういったマリアから身を離す。


「詳しくは城へ着いてからだ。まずは身を清め、身体を休めよ」

「はい……匂いますか?」

「う、うむ。そんなことはないぞ」

「ふふ、そうですよね。もう2ヶ月以上、着替えていませんから」


 赤毛に淡い恋心を抱きつつも、皇帝の後宮に入るために教育を受けていたマリアは身体を許すどころか、赤毛の前で肌を晒すことさえしなかったのだ。

 ゴブリンに襲われたことで荷物も全て失ったため、一度も着替えることもできなかった。

 勿論、着替えるという文化をしらない赤毛が、そのことに気を遣うことなどない。

 むしろ、匂うマリアを好んでいたかにも見えた。


「やっぱり匂うというのが当たり前ですよね。ふふふ……」


 どこか楽しげなマリアにギルモアは訝りながらも、騎乗しマリアを抱き上げた。


「さぁ、(うち)に帰るぞ」

「お父様、無理をなさらず」

「もう駄目かと思っていた娘が無事に帰ってきたのだ。こんな嬉しいことはない。匂いなど気になるものか」

「もう、お父様!」

「それに……天国のライラもきっと喜んでいる」

「ええ、ええ……」


 母の名を聞き、マリアはギルモアにしがみつくと、声を殺して泣いた。

 きっと声を上げて泣いてしまうと赤毛が心配するから。

 父が悲しませたと勘違いした場合、赤毛の怒りがどうなるか、不安だったから。

 マリアは無事を喜ぶ父の胸で声を殺し、アガットの後宮に入ったことで立ち会えなかった母の最期を思い泣いた。



「マリア……」


 だが、赤毛はマリアの心情を理解していた。

 心というのは喜びでも悲しみでも涙が出ることを、すでに理解していたのだ。

 なぜなら、


「よかった。ほんとうに良かった」


 父にしがみついて泣いているマリアの姿に、赤毛は心の底から喜び、安堵の涙を流していたからだ。


「マリア、幸せに。マリア、俺はずっとそばにいるから安心して」


 そう言って、赤毛は静かにその気配を消した。

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