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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第13章(全7話)

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英雄伝「艦長の覚悟」

094英雄伝「艦長の覚悟」



 飛空艦と潜水艦の歴史的な戦いから数日後。

 パラーニャ王国の首都ファリオで、大規模な式典が開かれていた。貴族や聖職者、それに学者や軍将校や豪商など名士が大勢集まっている。



 国王フェルデ六世が壇上で、威厳たっぷりにポッペンたちに告げる。

「海の魔物と恐れられた『水中戦艦』追跡の功績に対して、パラーニャ王室は『征空騎士』を正式な王室称号と認定し、そなたたち五名に授けるものとする」



 ポッペンたち五名のソラトビペンギンは、どこを見ているのかわからない目で、じっとどこかを見ている。

 さすがの王様もこれには少しやりづらさを感じたのか、小さく咳払いした。

「そなたたち五名は今後、パラーニャの法によって自由民として保護される」

 ソラトビペンギンたちは無言だ。



「あー……ついでに褒美を取らせる。三万クレル与えよう。皆で自由に分かち合い、好きなことに使うがよい」

 やはり無言のまま、じっとしているソラトビペンギン。

「あの……」

 フェルデ六世が困ってしまい、俺の方を見てきた。



「これで良いか?」

 俺もどうしていいかわからないので、ポッペンたちに言う。

「陛下に感謝を」

 その瞬間、五名の征空騎士は一斉にぺこりと頭を下げた。水族館のショーか。



 それから国王は俺を壇上に呼ぶ。

「海賊騎士よ、こちらに」

 なんだなんだ。俺が壇上に上がると、集まっていた貴族や軍人たちから一斉に拍手が沸き起こった。

 フェルデ六世はなぜかとても誇らしげな顔をして、俺を皆に紹介する。



「改めて紹介せねばなるまい! この者こそが我がパラーニャの誇り高き英雄、『海賊騎士』である!」

 オオオオオォと凄い歓声があがり、俺は内心でかなりびっくりした。かろうじて平静を保ち、歓声など聞こえていないような顔で立つ。



「先ほどの征空騎士たちも、この海賊騎士の戦友だ。海賊騎士は仲間と共に命がけで『水中戦艦』に立ち向かい、恐るべき脅威を打ち倒したのだ! 皆、我らの英雄に今一度大きな拍手を!」

 轟音のような拍手が鳴り響く。耳が悪くなりそうだ。



 でも俺は悪い気分じゃなかった。王がポッペンたちのことを「手下」ではなく、「戦友」であり「仲間」であると明言してくれたからだ。

 国王が公式行事で発言した内容だ。発言録に記録され、パラーニャの公文書に残る。ソラトビペンギンの英雄たちは、パラーニャ王室が認めた存在となった。



 そんなことを考えていると、フェルデ六世は俺に言う。

「さて、海賊騎士よ。そなたには今度こそ爵位を与えたい。領地と恩給もつく。受け取ってはくれぬか?」

 断れば失礼になるのは重々承知だが、それは飲めない話だ。必死に考えて、なるべく角の立たない断り方にする。



「敬愛する王よ、俺に爵位は重すぎる。一介の放浪者がパラーニャの伝統ある爵位を頂くなど、秩序を乱す元となろう。それにな」

 俺はフッと笑ってみせる。

「フェルデ六世よ、あなたとは主従ではなく友でいたいのだ。わかってくれ」



 次の瞬間、フェルデ六世はぐっと表情を引き締める。怒らせてしまったか?

 だが彼はすぐに微笑み、最高に得意げな表情で聴衆を振り返った。

「皆の者、我が友の言葉を聞いたか! これこそが高潔の騎士、男の中の男だ!」

 あんたもう俺が何を言っても誉める気だろ。というか、俺が断るのを計算に入れた上での演出だな。



 なんとなく国王の腹積もりがわかったので、俺はアドリブでなるべく盛り上げていこうと気を引き締める。

 フェルデ六世は続けてこう言った。

「我が王室とパラーニャの全ての臣民は、彼に大きな恩がある。だが我々には彼に恩を返すすべがないのだ。この大英雄を失望させぬよう、皆も各々の職務に忠実であって欲しい!」



 完璧に王室のプロパガンダに利用してるじゃないですか。この王様、いつも意外とちゃっかりしてる。

 だが俺はそんな王様が嫌いではなかったので、おとなしく利用されておくことにした。若干の居心地悪さはあったが、粗末にされるよりはちやほやされる方が楽しい。

 俺は放浪の荒くれ者らしく、無言で軽く手を挙げて歓声に応える。



 するとフェルデ六世はいそいそと俺に声をかけてきた。

「海賊騎士よ、そなたにはせめて宮廷の贅を尽くした酒宴を堪能してもらいたい」

 ごめんなさい王様、俺お腹が弱いんです。この世界の病原体に免疫がないので、簡単に食中毒になる。

 何度か痛い目を見ている俺は軽く会釈して、国王直々のお誘いを断ることにした。



「……王よ許せ。出航の時間だ」

 背を向けて歩き出すと、ポッペンたちもぺたぺたついてくる。

 背後からは国王のやけに嬉しそうな声。

「海賊騎士よ。そなたのように欲のない男に、我々はどう報いればいいのだ……」



 言葉だけ見ると途方に暮れてるような感じだが、声が弾んでいる。絶対楽しんでるだろ、あんた。

 俺は肩越しに振り返り、こう言い残す。

「では、ベルゲノフ艦長の慰霊碑を頼む。彼はパラーニャにとって脅威ではあったが、決して悪人ではなかった。軍人として誠実に生きた男を弔ってやりたい」

 よし、言うべきことは言ったので退場しよう。ボロが出る前にな。



 こうして異世界から来た潜水艦の事件は、無事に解決した。

 しかしこの一件のせいで、俺には『エンヴィランの魔王』という異名がつくことになる。海中を自在に航行し、船舶を一撃で撃沈する恐ろしい「海の魔物」を倒したので、魔物以上の存在……魔王ということになったらしい。

 変な異名をつけて持てはやすのはどうかと思うが、本名を名乗れない以上は好きにさせるしかなさそうだ。「くびれ大好きマン」の苦悩は深い。



 あとついでに、『墓碑銘の死神』とか『墓場の騎士』とかいう新たなあだ名もついてしまった。

 あっちこっちで敵を殺すたびに墓や慰霊碑を作っているので、「強敵をぶっ殺した後に墓を建てるのが好きな無法者」だと思われてるんじゃないだろうか。



 なお、ベルゲノフ艦長の慰霊碑はエンヴィラン島に建てられた。「魔物」の慰霊碑をどこに建てるかで、さすがの王様も悩んだらしい。最終的に俺の本拠地であるエンヴィラン島が選ばれたようだ。

 ベルゲノフ艦長はこの島で、勇猛で誇り高い戦士として語り継がれることになるだろう。

 彼の慰霊碑は今日も潮風に吹かれながら、海を見つめている。



   *   *   *



 重圧によって圧縮された暗黒と、冷たい静寂に包まれた海の底。陽光も波の音も届かない海底の泥に、バフニスク連邦軍の潜水艦が沈んでいた。

 人工知能サーシャは仮想空間に佇んだまま、予備電力で音声データを再生し続けている。



『父さん、母さん、それにアンドレイとクララ。みんな元気かな? 俺は神経接続手術を受けることにしたよ。どうせ生命維持装置に繋がれたまま動けないのなら、潜水艦を自分の体にした方がマシだろ?』



 音声はときどきノイズが入るが、サーシャはその度にノイズを丁寧に除去していく。



『残念だけど、潜水艦は居場所を知られちゃいけない。もう会えなくなるし、連絡も取れなくなる。次に会えるのは退役して十五年経ってからだ。もっとも、会ったところでオフラインじゃただの箱だけどね』



 戦闘記録の保存と回収のため、艦のコンピュータ周辺区画は耐水・耐圧・耐腐食の防護が厳重になされている。艦長の生体脳が納められた区画よりもだ。

 だがサーシャは規定に反して戦闘記録用の予備電力を消費し、音声データの再生を続ける。



『でもこれで高額な治療費……いや、生命維持費用はいらなくなる。国が持ってくれるからね。給料も出る。信じられるかい、明日から海軍少佐だよ? もちろん恩給も出る。全部そっちに送ってもらうように手配しといた。みんなの驚く顔が楽しみだ。トラクターを買い直すといいよ。あとアンドレイとクララの学費も払えるな』



 ベルゲノフ艦長の声はそこで少しトーンダウンする。

『ただもうひとつだけ、言っておかないといけない。手術のときに、俺の本名や家族の記憶は消えてしまう可能性が高いらしい。たぶん機密保持のためなんだろうけど、詳しい説明はなかった。だからこれが本当に最後の連絡になる』



 声を詰まらせながら、ベルゲノフ艦長は別れを告げる。

『俺は今日まで、ヴィクトル・ボトヴィニクとして生きた。そして明日からは違う名前で、どこかの海にいる。海を見たら波の下に俺がいると思ってくれ。俺は名誉ある艦長になって、祖国の海とみんなを守るんだ。……さようなら、元気で』



 予備のバッテリーはもう残りわずかだったが、サーシャはメッセージをまた冒頭から再生し始めた。


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