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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第13章(全7話)

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艦長の覚悟・6

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『艦長、上空から高出力光学兵器による砲撃です。着弾点は本艦のミサイル発射位置と一致』

 サーシャの報告に私は呆れる。

『まさか同じ場所にいつまでもいると思っているのか?』



 ようやく戦う覚悟を決めたようだが、やはり相手は素人だ。戦いのことが何もわかっていない。

『日本の飛空艦には高性能な人工知能が搭載されているはずだが、よくこんなバカな砲撃を許可したな』

『故障しているのかも知れません。それに人工知能は絶対ではありませんから。そもそも今回の米軍との軍事衝突も人工知能の誤作動が原因です』



 サーシャの言葉には説得力がある。

『確かにな。だが好都合だ。敵艦の正確な位置がわかったぞ』

 日本の戦略型飛空艦は隠密性に優れており、ニンジャの異名で警戒されている。今もあらゆる方法で正確な位置を偽装して、こちらのミサイル照準を悩ませていた。



『重力波を増幅させて「分身の術」を使ったところで、光学兵器で砲撃すれば位置はバレバレだ。位置を逆算しろ』

 海面に着弾した砲撃のせいで、猛烈な水煙が立ち上っている。雲が上空を覆えば、ミサイルの命中精度がわずかながらに低下するな。



『次の着弾を確認したら飽和攻撃を開始する。深度上昇』

『深度上昇します』

 本艦は先ほどのミサイル攻撃地点から、すでに十キロ以上離れている。水蒸気爆発の衝撃も音波でしか伝わってこない。



 本当はもっと離れてもいいのだが、隠密性を保ったままの航行ではあまり速度を出せない。ぐずぐずしていると逃げられてしまう。

 それに敵艦が十五キロも上空にいるので、その分の射程を考慮する必要があった。あまり離れると防空対艦ミサイルの射程から外れてしまうし、迎撃の余裕を与えてしまう。



『お前の上昇速度は見せてもらった。ミサイル発射後にどこに逃げようとしても、この近距離では振り切ることは不可能だ』

 本艦が搭載する防空対艦ミサイルの射程はおよそ百五十キロ。逃げきれるものではない。

 私は慎重に周囲を警戒する。



『こちらの位置は気づかれていないだろうな。偵察機を警戒しろ』

『周辺には野生動物しかいません。人工物らしき物体は皆無です』

『よろしい』

 海面に投下したソノブイや対潜哨戒機を使わなければ、敵はこちらを追跡できない。完全に見失っているようだ。



 次の瞬間、サーシャが報告する。

『光学兵器による砲撃を確認。弾道計算の結果、敵艦は静止していると思われます!』

『防空対艦ミサイル全弾発射用意!』

 本艦は最大速度で海面スレスレに接近する。姿を見せずに攻撃できるのが潜水艦の強みだ。



『目標設定完了。全弾発射します』

『この勝負、もらった!』

 しかし次の瞬間、艦全体を揺さぶる強烈な衝撃が走った。艦内に不気味な轟音が轟き、警告表示が一気に五十個以上点滅して視界を埋め尽くす。

『何事だ!?』

『光学兵器が至近距離の海面に着弾しました! 熱と衝撃波で第三から第七までのミサイルハッチを損傷! ハッチが閉じません! さらに耐圧外殻に亀裂! 外殻浸水中です!』



 艦が浸水で傾いている。

 ハッと気づくと、水温計が百度近くに上昇していた。海が煮えたぎっている。

『ベント弁開放! バラストタンクの空気を全て吐き出せ! 熱膨張で弁が壊れるぞ!』

『やってます!』



 もともと潜水艦の外殻にはバラストタンクがあり、海水を取り入れて上昇下降に用いている。ここが浸水してもまだ何とかなる。

 後で無人作業艇を出し、損傷箇所を応急修理すればいい。



 だが次の瞬間、艦内に再び衝撃が走った。

『気蓄器が故障しました! 熱膨張で空気弁が破損! 圧縮空気が漏れています!』

『予備弁を閉じろ! 浮上できなくなるぞ!』

『予備弁作動しません! 複数の電気系統に異常! 内殻への浸水が発生していると思われます! 気蓄器さらに損傷!』



 そして致命的な報告が続く。

『艦長。落ち着いて聞いて下さい。浸水により主機沈黙。また圧縮空気は全て失われました。浸水は継続中です』

『なんということだ……』

 私は呆然とする。この艦はもう二度と浮上できない。ミサイルはまだ健在だが、発射できる深度まで浮上できなければ意味がない。

 私が沈黙すると、艦内には何かが軋む音と水の音だけが聞こえてくる。

 覚悟を決めて、私は人工知能のサーシャに問いただした。



『この艦が再び戦えるようになる可能性は、まだ存在しているか?』

 人工知能の答えは簡潔だ。

『ありません。……艦長、お疲れさまでした』

 仮想空間に表示されているサーシャが、静かに敬礼した。



 私は覚悟を決めたが、最後の命令を下すことにする。

『サーシャ。通信ブイを射出できるか?』



   *   *   *



『やったな、艦長!』

 ソラトビペンギン航空隊のポップンが、無事に着艦して大声で笑った。出迎えた他の征空騎士たちも笑い声をあげている。

『なんだかよくわからんが、ペンギンを侮るからだ!』

『あんな鉄臭いデカブツを見失う訳がないのにな!』



 戦闘指揮所にいる俺は、モニタ越しに笑顔を向ける。

「俺や七海の世界では、ペンギンは空を飛べないし、言葉も持っていない。まさかペンギンが潜水艦を追尾していたなんて、あっちの艦長もわからなかっただろう」

『ハッハッハ!』



 ペンギンはかなり深く潜れる。魚を追って百メートルや二百メートルの潜水はザラで、中には五百メートル以上も潜るヤツもいるらしい。

 ポッペンたちも同様だ。その深度だと人間の目では真っ暗なはずだが、ソラトビペンギンの場合は不都合はないらしい。



 一方、潜水艦は海底深くに潜んでいるイメージがあるが、実際は数百メートルが限界だという。ミサイルハッチを持つ潜水艦は特に水圧に弱く、クリムスキー級は無理な設計が祟って三百メートルしか潜れないそうだ。



 敵潜水艦は母港に戻って修理を受けられない状態だから、あまり無茶な潜水はできない。

 そして当然、ポッペンたちに見つけられてしまった。ペンギンは鳥類で最も水中に適応した種なので、彼らにしてみれば潜水艦など鈍重な鉄のクジラだ。



 俺は七海に向き直り、状況を確認する。

「敵艦はどうなった?」

『モスキート偵察機の報告によると、海面に潜水艦の部品が漂流している他、機械油も浮いているようです』

 この世界ではシューティングスターもあっちの潜水艦も、補給や修理を受けられない。小さな損傷でも後々響いてくる。



「引き続き警戒してくれ。海水温が元に戻ったら、ポッペンたちに潜水調査をしてもらう」

 俺がそう言ったとき、七海が報告した。

『艦長、海面にバフニスク連邦製の通信ブイが浮かんでいます。敵艦長からの入電です』

「すぐ繋いでくれ。日本語に翻訳するのを忘れるな」

『あ、日本語のメッセージなので安心してください』



 スピーカーから流れてきたのは、低く渋い中年男性の声だった。

『こちらクリムスキー級十八番艦「ベルゲノフ」。私は艦長のミハイル・ベルゲノフ少佐だ。といっても、クルーは私一人だがな』

 すると七海がそっと教えてくれる。



『あっちもシューティングスターと同じで無人でも戦えますが、条約で決められているので艦長が一人だけ乗ってるんです。もちろん、潜水艦のプロフェッショナルですよ』

 なるほどな。とりあえず返事しておこう。



「こちらは海賊船シューティングスター。昔は違う名前だったが、今は海賊騎士の船だ」

『貴艦は戦略護衛隊の九七式重殲滅艦だろう? 米軍のシューティングスター級でもある』

 バレてる。

「その通りだ。とにかくシューティングスターだ」

 追求しないで。



「それよりもベルゲノフ艦長、あなたを救助したい。状況を教えてくれ」

 するとしばらく沈黙した後、彼はこう返した。

『本艦は航行不能に陥り、現在毎秒〇・三メートルの速度で沈降している。自力浮上の手段は失われた。それに伴い私は戦死の認定を受けて、軍務を解除されている。だからこうして通信できているのだ』



「まだ諦めるな」

 しかしベルゲノフ艦長はフッと笑い、静かに答える。

『残念ながら私は脳だけのサイボーグで、生命維持装置は本艦に固定されている。取り外しは軍港でしかできない』

 脳だけ? あの、SFとかでよくある「負傷兵の脳だけ積んだ戦闘機やロボット」みたいなヤツなのか?



 俺が顔を上げると、七海が悲しそうな顔をして小さくうなずく。

『無理に神経接続を解除しようとすると、自動的に造反阻止プロトコルが実行されます。過去に日本に亡命したバフニスク連邦軍兵士は、操縦席から取り外した瞬間に全脳死しました。脳格納容器に仕込まれた毒物によるものと推定されています』

 どうやら助けようがないらしい。



 ベルゲノフは自嘲気味につぶやく。

『ミサイルハッチを持つ本艦の耐圧深度は三百メートルだ。耐圧上の弱点であるミサイルハッチが開いている為、実際にはもっと早く圧壊する可能性もある』

 ここの海底はそれよりも深く、彼の潜水艦が耐えられる見込みは薄い。



『私は戦士として死んでいくが、私を倒した者のことを知りたい。君は日本の軍人か?』

「……違う。俺は救助された民間人だ」

『そうか……。では戦闘行動は人工知能の指示に従ったのだな』

 そういうことにしておきたいが、これから死にゆく男に嘘をつくのはためらわれた。



「それも違う。この世界に生息するソラトビペンギンと呼ばれる知的なペンギンに協力を求め、貴艦を追尾し続けていたのは俺だ」

『ソラトビ……ペンギン?』

「そうだ。ソラトビペンギンはかなりの深度まで潜水可能で、天敵であるシャチの起こす水流に対しては極めて敏感に反応する。そして潜水艦はシャチよりも大きな水流を生む。彼らからは丸見えだ」



 しばらくの沈黙の後、ベルゲノフ艦長は溜息をついた。

『科学の最先端同士の戦いを制したのは、あの水族館の人気者だったのか。本国に戻れるものなら、ただちに対ペンギン装備の開発を要請するのだがな』

 脳だけになって死の間際だというのに、冗談を言う余裕まであるのには恐れ入った。これが本職の戦士か。



 ベルゲノフ艦長は落ち着いた口調で言う。

『ありがとう、艦長。たった一度の人生で、貴重な戦いを経験させてもらった。敗北はしたが悔いはない。あなたは間違いなく、鋼の魂を持つ真の戦士だ。サムライと戦えたことを幸運に思う』

 誉められてる気がしないぞ。

 少しの沈黙が続き、俺は気まずさから逆に質問する。



「ベルゲノフ艦長。本当に後悔はないか?」

『ない。生身だった頃の私は進行性の難病に冒されていて、ベッドで死を待つだけの運命だった。それがこうして名誉ある海軍少佐になり、新鋭艦を預けられた。そして広大な海を何年も航海し、祖国を守って戦ったのだ。悔いなどない』



 だが脳だけになって逃げることもできず、異世界の海に一人で沈んでいく最期だ。俺なら耐えられない。

 そこがたぶん、本物の戦士と俺の違いなんだろう。

 だから俺は彼を讃える。

「国籍に関係なく、あなたのような誇り高い男を失うことを残念に思う。あなたは凄いヤツだ」



 スピーカーからの音声はかなりノイズが混じっていたが、それでもベルゲノフはこう答えた。

『感謝する……あなたに会えて……った……シュー……スターの……祈る……さらばだ……』

 次第にノイズが増えて音声は途切れ途切れになり、最後はノイズだけになった。もう何も聞こえない。



 やがて七海が告げる。

『海中から大規模な圧壊音を確認しました。戦闘モード終了、警戒モードに移行します』

 七海が敬礼すると俺は無言で船長帽を脱ぎ、それを胸に当てた。


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