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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第9章(全8話)

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死の狩人・4

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 天宮狩真が差し出したベルト状の機械を、俺は不安な気持ちで見つめる。

 これ装備したら吸血鬼化しない?

 ちょっとお断りしたい気分なので、なんかうまい言い訳を考えないと。

「俺に使えるのか?」



 しかし狩真は変身を解除して、ぐぐぐっと俺に近づいてきた。

「それを確かめておきたい。今のニドネという女性の話を聞いた以上、それは私の義務だ」

 どういうこと?



 質問しようとしたら、狩真のヤツは俺の顎に手を伸ばしてきた。

「動かないでくれ」

「俺に触るな」

 スッと半歩退き、彼の腕から逃れる。眼帯型ゴーグルの白兵戦支援機能は実に役に立つ。



 だが狩真は不満そうだ。

「君の抗体を一種類、調べさせて欲しいだけだ。バシュラン化ウィルスに対する抗体を持っているタイプなら、感染してもバシュラン化しない。私の世界では十万人に一人以下だが、襲牙もそうだった」

「襲牙?」

 あれ、シュガーさんの本名……じゃなくて本当のキャラネームだな。



 すると狩真は懐かしそうに目を細める。

「『機関』の陰謀を阻止しようと奔走している男だ。彼とは長らく敵対していたが、今では私の良き理解者、そして親友だよ。あっちはそうは思っていないだろうがな」

 俺の知っているシュガーさんとは別人だろうな。違う世界だし。



 狩真は綿棒を取り出し、寂しげに微笑んだ。

「このバシュカイザーは襲牙のために私が作ったものだが、彼には不完全なプロトタイプしか渡すことができなかった。きっと苦労していることだろう」

「この完成版を渡す前に、この世界に飛ばされたのか」

「ああ。『機関』の罠にはめられてな。元の世界に戻れない以上、今はこれを誰かに役立ててもらうしかない」



 そんなことを言われながらバシュカイザーをチラチラ見られると、俺も断りづらい。

「十万人に一人なら、調べるだけ無駄のような気がするが……まあいいだろう」

「すまないな。すぐ済む」

 だからそのねちっこい視線やめろ。



 俺は綿棒で頬の内側を擦り、それを狩真に渡す。

 彼はいそいそと試薬を一滴注ぎ、じっと綿棒の先を見つめた。綿棒がじんわりと青く染まる。

「……予想通りだ。君はバシュラン化ウィルスに対して完全な免疫がある」

「どういうことだ?」



「君はバシュランに吸血されても平気だし、汚染された土壌からも感染することがない。逆に言えば、バシュランになれない旧人類だな。かつての襲牙のように、バシュランたちの食料庫にされかねない」

「余計なお世話だ」

 十万人に一人の割合でしか存在しないレアタイプか。

 人生の脇役街道をひっそり歩んできた俺としては、どうも信じられない。ちょっと疑問を呈しておこう。



「俺の世界では、本物の吸血鬼は一人も確認されていない。もしかすると俺の世界の人類は、みんなバシュラン化に対する免疫があるのかも知れないな」

「その可能性は私も考えていたところだ。さすがだな、艦長」

 単に自信がないだけです。どう考えても、俺は十万人に一人なんて器じゃない。



 しかしそう考えると、俺がこの世界に来たことにも多少の意味はありそうだ。

 誰かに呼ばれたのか、それとも偶然迷い込んだのかはわからないが、できることはいろいろあるだろう。

「とりあえず、俺がこのバシュライザー改……」

「バシュカイザーと呼んでくれないか。気に入っているんだ」

 やだよ恥ずかしい。



「とにかく、こいつを使用できるんだな?」

「保証しよう。バシュラン化ウィルスに対する抗体の値がこれだけ高ければ、バシュカイザーの培養変異ウィルス注入にも耐えられる」

 お前の説明、聞けば聞くほど不安になってくるのを何とかしろ。



 俺はベルト型の装備を受け取ると、重い気持ちで腰に巻いた。

「それで、なんと言えば変身できるんだ?」

「『暴装ぼうそう』だ」

 なんでそんなパスワードにしたの。

 俺を羞恥心で殺す気か。



 俺はますます重い気分になりながらも、これを使うことにした。

「生身で軍事基地に乗り込むよりは、お前の珍発明に命を預ける方が幾分マシだろう」

「そう言ってもらえると嬉しい」

 もしかして皮肉が通じないタイプなのかな……。



   *   *   *



 基地の敷地に接近した俺たちに、七海から通信が入る。

『バフニスク連邦軍のカスピーネンⅡ多脚高射砲が三輌、そちらに向かっています』

「来たか」

 俺は変身用インナーの襟を整えると、腰のベルトに目をやった。

 なんだかよくわからないけど、頼むぞ。



 隣にいるのは狩真とポッペン。二人とも余裕の表情だ。

「君を見ていると襲牙と共に戦った日々を思い出すぞ、艦長」

「よくわからんが、そうだろう? 艦長に任せておけば何も問題はない」

 君たち、むやみに俺の前のハードルを高くしないでくれたまえ。



 狩真が先に変なポーズで変身を開始する。

「ではいこう……。『神蝕』」

 狩真が赤いスーツで覆われていく。

 俺もやるか。



 俺はベルトに手を添え、心の中で「俺はかっこよくて強いヒーロー……俺はかっこよくて強いヒーロー……」と、何度もつぶやく。

 それから半分ぐらいやけくそ気味に、そしてなるべくかっこよく言った。

「『暴装』」



 次の瞬間、軽い駆動音と共にインナーが変化していく。全身が黒いスーツに覆われ、顔にはバイザーが展開されていく。でもこれ、どこから出てきたんだ?

 疑問に思う暇もなく、あっという間に変身が完了する。

 バイザーには妙にカクカクの文字表示。



< 暴装完了 >

< コンディション:グリーン >



 どうやら戦えそうだ。

 眼帯はスーツの内側にあるので、七海からの通信も届いている。

『わ、わ、艦長カッコイイですよ! すごく!』

「今の俺は、どんな姿だ?」

『船長帽とコートをまとった黒い戦士ですね。ヘルメットが髑髏っぽくて、海賊っぽさが凄いです!』

 かっこいいじゃん。



 問題は俺がかっこよく戦えるかどうか、というところなのだが。

 ふと隣を見ると、赤いスーツの狩真が親指を立てていた。

「襲牙の為に作ったスーツだが、君にもぴったりのようだ。頼むぞ、相棒」

 もう相棒にされてる。



 でもこいつ、他に日本人と出会ってなかったみたいだしな。寂しかったんだろう。

 俺は優しい気持ちになり、親指を立てて応じた。

「任せておけ」

 自分でも安請け合いしすぎだと思う。



「さて、では基地内の戦力を掃討するとしよう。狩真」

「この姿のときは、『ブラッドギア』と呼んでくれないか」

「断る」

 元の世界ならともかく、いちいち名前変える必要ないだろ。



 だが狩真がスーツ越しにもわかるぐらいに落胆しているので、俺は溜息をついた。

「で、俺の方は何て呼ぶつもりだったんだ?」

「ああ、君のスーツは『ダークギア』だ」

 勘弁してくれ。



 俺はもう一度溜息をつくと、演劇部出身のプライドを総動員する。

「……行くぞ、ブラッドギア」

 とたんに狩真の声が弾んだ。

「そうだな、ダークギア!」

 なんなのお前。



 次の瞬間、俺たちは一斉にジャンプして散った。

 ほぼ同時に、俺たちのいた場所が爆炎に包まれる。

『カスピーネンⅡ多脚高射砲の対人榴弾です! 破片当たってませんか!?』

 七海の声が聞こえてくるが、スーツにはダメージ表示がない。



 直前に着弾警告の表示が出ていたのもあるが、今の俺は単純に動体視力がおかしなことになっている。

 飛んでくる破片が全部見えるし、余裕で避けられる。俺の脳は今、どんな状態になってるんだ。



 不安になりつつも、俺は七海に短く応答する。

「問題ない」

『カスピーネンⅡ多脚高射砲は短砲身の戦車砲を搭載しています。対人榴弾と対戦車用のAPFSDS弾を使い分けますので、気をつけてください!』

「A……なんだって?」

『進化した徹甲弾だと思えばだいたい合ってます』

 高射砲じゃないのかよ。ちょっと性能がいいと、すぐに違うもの撃たせるんだから。



 幸い、俺たちはまだ森の中だ。戦車砲でバカスカ撃たれても、直撃はしない。破片だけ気をつけていればいい。

 六本脚の気持ち悪い戦車みたいなヤツは、脚にローラーがついているようだ。意外に軽やかな動きで、基地の敷地ギリギリまで寄せてきた。



「今だ、ダークギア!」

「わかった」

 嬉しそうな狩真の声に後押しされながら、俺は脚部の筋力強化装置を使って一気に飛び出した。



 俺には戦車と高射砲の区別はよくわからないが、とにかくこの手のデカブツは接近戦に弱い。第二次大戦頃の戦車には歩兵の護衛をつけたぐらいだ。

 こんなハイテク戦闘車だと接近戦でも簡単には倒せないだろうが、それでも離れた間合いで戦うよりはマシだ。



 俺と狩真は、横一列に三輌並んでいる多脚高射砲の間に飛び込む。

 即座に砲塔が旋回した。俺たちをロックオンすると同時に、機関砲が火を噴く。

 だが当たらない。弾が遅すぎる。



 さすがに弾を見てから避けるのは無理だが、今の俺は機関砲の砲口がこちらを向くより先に動ける。

 動き続ける俺を捉えることは不可能だ。

 そして無駄に放った弾はというと、中央の多脚高射砲に集中していた。



「馬鹿め」

 フッと笑う俺の視界に、狩真の赤い影が入る。あっちも無事そうだな。

 七海の説明によれば高射砲は戦車ではないそうなので、機関砲の至近弾を当てれば撃破できる。装甲、特に側面や後部の装甲は最低限らしい。



 俺と狩真が多脚高射砲の間を駆け抜けた直後、中央の車両が炎を噴き上げて停止した。左右から僚車に撃ちまくられたら、さすがにこうなる。

「ダークギア、残りも片づけるか」

「そうだな、ブラッドギア」

 俺たちは拳を握り、親指を立てて笑った。


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― 新着の感想 ―
なんか楽しそうでよかったね! そしてシュガーさん、こっちの中世海賊世界じゃなくて主人公がいた世界に飛ばされてそうだね、その後ナナミ世界線に飛ばされてそう。
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