前へ目次 6/6 Ⅵ ある日、誰かがその絵を“春”で塗りつぶしていた。 空になったスプレーの缶とスプレーノズルが地面に散らばっていて、草むらの中に足を踏み入れると、爪先にコンと当る。 陽の光が線香の煙のように霞がかり、その向こうでようやく会えた二人を祝福する。 瞳の中の、翳る世界の片隅の。淀みの底辺の暗がりの奥の端っこのそのほんの一欠片の哀しみの、光を。 描く事が出来ただろうか。 視てもらう事が出来ただろうか。 与える事が、出来ただろうか。 ――また、くるよ。