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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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王家の呪い 4

「最後の時、魔王は自らの四肢を切り落としたそうだ。それが何故だかは分からないし、次の瞬間には切り捨てられた四肢はどこにもなかった。残ったのは胴体と頭。そして魔王は勇者である皇子に呪いを叩きつけた。「未来永劫、ファギータ国の王族に魔力の芽は発現しない」とな。最後の魔力を振りしぼった呪い。そして魔王は胴体と頭を焼かれて消滅した。何千という火矢を打ち込まれ、最大限の雷で焼かれて魔王は消滅した。その時の勇者である皇子は魔王の最後の呪いを軽く受け止めていた。死にかけの魔族の最後の悪あがきだと。だが実際、それから数百年、王族に生まれた御子はことごとく魔力を発現しなかった。それが恐ろしい王家の呪いの始まりだと言われている」

 フェルナンデスはそう言って息をついた。

「魔王って凄いわね。呪いって数百年たっても変わらないの? 消費期限とかないの? かけた魔王はもういないのでしょ?」

 ソフィアの問いに、ローガンが答えた。

「種類にもよりますが、かけた本人でないと解呪出来ない呪いは確かにあります。さらにかけた術師が死んだ後でも継続する呪術もある。ただ、この場合は逃げ去った魔王の四肢がキーでしょうね」

「魔王の四肢?」

 ソフィアは面白そうな顔でローガンを見た。

「ええ、散らばった魔王の四肢がまだ生きているとして、わずかでも魔王の魔力が残っているならば、呪いは継続するでしょう」

「細々と生きていた四肢も数百年の間に復活してるかもだし、新しい主を見つけてるかもね。未来永劫、王家の呪いは終わらないよ」

 とエリオットも言った。

「まあ、いいじゃないですか。王家の魔力など当てにしなくともこの国の魔術師は優秀だと先程フェルナンデス様がおっしゃったことですし。現状は何も変わらない」

 とワルドがも言ったが、次に口を開いたのはヘンデル伯爵だった。

 ヘンデル伯爵は細々と小さな声で、

「し、しかし、ソフィアの魔法で解呪が出来れば……我が家は王家に……」

 と言った。

「そ、そうだぞ! 魔王の呪いを解呪出来れば!」

「解呪できたらどうだとおっしゃるのかしら? 叔父様は大公閣下として十分な地位を持ってるんでしょ? そして手も足もないお父様が王家に恩を売ってどうしたいの? 引きこもりのマルク兄様が王家相手に優位に立てるとでも?」

 マルクは自分の名前が出てきて、ビクっとなった。

「兄様にそんな社交性があるなら、何年も引きこもってないつうの。それに王宮になんか興味ない……王宮?」

 ソフィアは途中で言葉を切ってからローガンを見た。

「ねえ、ナイト・デ・オルボンに何か頼まれてなかった?」

「思い出していただけて幸いです」

 ローガンはにこっと笑顔をソフィアに向けた。

「ナイト・デ・オルボン侯爵は機会があれば王宮にある宝物庫をご覧になりたいとのことで、もし縁がございましたらお口添えを、という依頼でございました」

「王家の宝物庫? 無理だ! 王宮の宝物庫は歴代王族が世界中から集めさせた素晴らしい宝石や宝剣、宝冠などが飾られているのだぞ? 一体どれほどの価値があると思う? 値などつけられぬほどの品ばかりだ! 例え上級貴族であっても立入は禁止だ」

 と答えたのはフェルナンデスだった

 フェルナンデスの勢いにシーンとなる中でソフィアが首を傾げた。

「叔父様、先程の王族以外立入禁止の禁書庫に残った文献って話もそうだけど、どうして王族でもない叔父様がそれをご存じなの? 王家の呪いは戴冠の時に次の王へ伝えられるっておっしゃいませんでした? という事はあの傲慢な皇太子もなぜ自分に魔力がないのか今はまだ知らないのでしょう? それに宝物庫だって、上級貴族でもダメなら叔父様はどうして宝剣や宝冠が飾られてるってご存じなの?」

 マルクがもっともだ、と言う風にうんうんとうなずいた。

「それは……まあ、その……」

「フェルナンデス様の事ですから、何か王家の弱みでも握ろうと禁書庫の番人を買収でもしてるんのではないですか? 宝物庫の警護もフェルナンデス様の息のかかった騎士団では?」

 と言ったのはワルドで、図星だったのかフェルナンデスはゴホン!と咳払いをしただけだった。

「なら宝物庫の見学なんて簡単じゃない? 叔父様が何とかしてくれますでしょう?」

「だからそれは無理だ。私一人くらいならどうにか入れるが、侯爵を迎え入れ見学させるなど」

「でも叔父様、ケイト姉様がオルボン侯爵家へ嫁ぎますのよ? 侯爵家相手に少しはいい顔をしておかないと。何とかなりませんの?」

 フェルナンデスはすぐには答えず、不思議そうな顔でソフィアを見た。

 相手はまだ八歳の幼女であるのに、この落ち着きと迫力。

 少しの笑みも湛えていない銀色の瞳は突き刺すように冷たい。

「そうだな……例えばお前が王家の呪いを解ければ報奨として願いが叶うかもしれんな」

「はぁ? 何百年に及ぶ呪いを解いてやって、それで宝物庫見学かよ。ケチくさい!」

「な! 王家を侮辱するつもりか!」

 フェルナンデスはソフィアを指し、わなわなと震えた。

「もう勘弁ならぬぞ! お前のその態度!」

「あ? やんのか、ジジイ? 兄弟仲良く芋虫にしてやるよ」

 ソフィアがそう言って立ち上がろうとしたが、その時にはエリオットの身体がしゅっとテーブルを飛び越え、フェルナンデスの喉元へナイフを突き刺していた。

 魔王の右足の身体は八歳の少年だが、素晴らしく敏捷な動きだった。

「フェルナンデス叔父様、この先も大公閣下でいたいなら黙っていた方がいい」

 そう言って、首元に突きつけたナイフをまるで柔らかいステーキ肉を切るようにすうっと動かした。

「筋張っていて、まずそうだな」

 フェルナンデスの首は真横に切り裂かれ、げぽっという音と鮮血が流れ落ちた。

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