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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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王家の呪い

 大広間は片付けられ、テーブルにご馳走が運ばれてくる頃、昔のように家族が揃って席についた。死んだナタリーの席にはフェルナンデスが居心地悪そうに座っている。

 メイド達が湯気の立つスープを出したが、スプーンを持つ皆の手が震えて皿に当たり、カチカチと耳障りな食卓となっていた。

 マルクもケイトも俯きがちで誰とも目を合わせないし、ヘンデル伯爵はフランが世話をしてスープを口に運んでいるが食欲はなさそうだった。マーガレット夫人は真っ青でスープ皿を覗き込んでいるだけだった。

 ソフィアは空腹だったのか、あっという間にスープを平らげ、その彼女の前にワルドは一番によく焼いた香ばしい肉の皿を出した。

 その行為にフェルナンデスは眉を寄せた。

 ヘンデル伯爵よりも、兄のマルクよりも、客であり格上の大公閣下である自分よりも先に皿を出すとは!

 もちろん誰もソフィアに注意などしないし、するつもりもなかった。

 マルクもケイトもただこれ以上関わりにならず、ソフィアの目の届かない所にいたかった。

 

「ソフィアよ」

 とフェルナンデスが口火を切った。

「何ですか? フェルナンデス叔父様」

 ソフィアが肉を切りながらフェルナンデスへ視線を向けた。

「マーガレット夫人にかけたのは時の魔法だ。彼女は心を病んで閉ざしていた。お前は彼女の失われた時間を戻した。だから彼女は意識を戻したのだ」

 質問でもなく、フェルナンデスはそう言い切った。

「さらに怪我で失っていた両腕も完治させた。それも時の魔法と治癒の魔法の同時二重がけなど、信じられん」

「そうでしたかしら」

「その前には氷の魔法も使ったな? 三つの属性持ちなど、存在しないはず!」

「そーですねぇ」

 ソフィアは面倒くさそうに返事をするだけ。

 ヘンデル夫妻とマルク、ケイトも沈黙を守っている。

「ローガン、エリオット。お前達は知っていたのか。ソフィアの能力を」

 フェルナンデスは二人に目を向けた。

「ええ、存知てましたよ」

「なぜ、それを早く報告せんのだ! この年で我が国で初の三属性持ちの魔術師なのだぞ?」

 フェルナンデスはどんっとテーブルを叩いた。

「嫌だわ、叔父様、この先もそれは内緒にしていただかないと。国の為に働くなんてまっぴらだわ」

「なるほど……」

 フェルナンデスは腕を組んで考えた。

「お前、一体いくつの魔法属性を持っているのだ? 治癒、回復の聖魔法、そして攻撃の氷魔法、さらに時を遡る魔法まで……」

 フェルナンデスとしてもこれだけの魔術師をみすみす国に渡すのは惜しかった。

 国には内緒にして自らの手足にすればいい。

 手柄が増える事は間違いない。

 問題はソフィアが光魔法を持っているかどうかだ。

 闇魔法に対抗出来るのは光だけ。

 ソフィアがフェルナンデスの闇魔法に対抗する力を持っているかどうかで、対処の方法も変わる。

 しかし闇魔法も光魔法も希有な存在で、数千万に一人覚醒するかどうかだ。

 身内の中で二人、対抗する魔法を有するとはとても思えなかった。

「さあ、どうでしょう」

 とソフィアはつまらなそうに答えた。

「先程、夫人を治した治癒の術は素晴らしかったぞ。あれほどの力を持つ聖魔術師は宮廷の魔術師団にもおらぬ。それで……聖魔法の中でもどれだけ上位の魔法を使えるんだ?」

「はぁ?」

 とソフィアが言いかけたが、ローガンが人差し指をさっと上げて発言を止めた。

「フェルナンデス叔父様、ソフィアは治癒魔法が得意なのですよ。治癒魔法に特化してると言ってもいい。お母様を完全に元通りに治したのは最上級魔法、ゴッデス・ブレス。千切れた腕や足も、瀕死の状態でも完全回復しますよ」

「治癒魔法に特化? では、それ以外の上級聖魔法は使えないのか?」

 大きく分類すれば治癒の魔法も聖魔法の中に属する。

 そして治癒魔法の中でも簡単な回復や毒消しなどが使える魔術師は市井にも結構な割合で存在する。

 魔法の割り振りは神の気まぐれで、どの属性が発現するかは誰にも分からない。

 ソフィアのように魔術系の家に生まれながら発現しない者もいる。

「ええ」

 とローガンがうなずき、エリオットがクスッと笑った。

 どうか光の魔法がソフィアに備わってないように、と願うフェルナンデスは滑稽だった。空いた皿を下げながら家人の世話をしているワルドも意地の悪い目つきでフェルナンデスを見下ろした。

 フェルナンデスが何かを企むにしても、しばらくはソフィアの遊び相手なる。

 そうすれば彼女はヘンデル伯爵家に見切りをつけて他所へ行こうなどと思わないだろう。

 これは魔王の三肢達の共通した願いだった。


「そうか」

 フェルナンデスはほっとしたような顔になったが次の瞬間、目つきが変わった。

「それにしても素晴らしい。三つの属性を持つなどと! もしかしてこの国初、いや、世界初なのではないか?!」

「そうかもしれませんね。叔父上、この事が国に知れたらきっと王宮の魔術師団へ連れて行かれます。ソフィアはまだ八歳です。どうかこの事はご内密にお願いします」

 とローガンが言った。

 フェルナンデスはソフィアの先程のヘンデル伯爵や夫人への扱いを見ても、とても幼い子供のする事ではないと思ったが、国への忠誠よりも自分の権力を強める為にも彼女の存在は取り込んでおき内密にした方がいいと判断していた。

「そうだな。国王に知れれば、皇太子妃から、ゆうゆくは王妃へと望まれるかもしれん」

「うげぇ」

 とソフィアが眉をひそめた。

「でも叔父上、王家には魔力を継ぐ子は生まれないでしょう? それなら大聖女に置いておき、魔力を継ぐ子をたくさん成したほうがいいのでは? もちろん、どんな理由でもソフィアを王家にはやりませんがね……例え、戦争になったとしてもね」

 とローガンが言った。

「そうだ。魔力を持つ者を妃に、もしくは王配に取ったとしても、妾を入れたとしても、王家には魔力を持つ子は生まれない。だが、それは血筋云々の話ではない。長い年月、王家にかけられた呪いなのだ」

 とフェルナンデスが言った。

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