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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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家族集合

 ヘンデル伯爵の目は大きく見開かれ、ボロボロと涙がこぼれた。

 ソフィアはマーガレット夫人を見て、

「でも、お父様だけこんなに悲しみにくれるのはお気の毒だわ。罪はマーガレット夫人の方が大きいのに。ですから彼女を少し治して差し上げようかしら」

 と言った。

「マ、マーガレット……」

「ええと、何だったかしら。魔法名、この間、ワルドに教えてもらったのに……とても難しい魔法だったから上手く出来るかしら……久遠の時に刻みし闇に縛り付けられたる哀れなる御魂を解放せよ……歩みを止めたマーガレット・ヘンデルの時を再び刻み賜う事を我が願おう、カイロス・ティア!」

 ソフィアの詠唱が終わると真っ黒な魔法陣がマーガレット夫人の頭上に現れた。

「カ、カイロス・ティアだと! ばかな……一体いくつの魔法属性を持っているんだ!」

 威厳も何もない素っ頓狂な声で叫んだのはフェルナンデスだった。

 黒い魔法陣はマーガレット夫人の頭上で不気味な瘴気を放っていたが、やがて少ずつ移動し始めた。夫人の頭から顔、首、胴体、片方は切断されて肘までしかなく、もう片方は肩口に肘から先がくっついている短く奇妙な腕、そして腰、足、魔法陣はゆっくりとマーガレット夫人の身体を降りて行く。

 そして足先まで来てから魔法陣はパッとはじけて消えた。


「おやおや、ソフィア様、我々の留守に大変楽しそうな事をなさってるではありませんか」

 という声がして、その場にローガンとエリオット、ワルドが揃って現れた。

「ローガン!」

 と叫んだのはフェルナンデスで、同時にヘンデル伯爵が、

「マーガレット!」

 と妻の名を呼んだ。

「あ、あなた……」

 マーガレット夫人の不格好な両腕は元通りに生えそろえ、囓られた指も元のように戻っていた。さらに失っていた目の生気が蘇り恐怖の表情を浮かべており、マーガレット夫人の壊れた精神は時を遡り完全に元に戻っていた。


 誰も彼もが驚き、混乱している中でエリオットがパキッと指を鳴らす。

 バン!っと広間の扉が開き、聞き耳を立てていた格好のマルクとケイト、そしてフランが広間へ倒れ込んできた。

「お、母様!」

 元の姿に戻ったケイトがよろよろとマーガレット夫人に駆け寄る。

 つまずきながらもマルクとフランもヘンデル伯爵と夫人の元へ寄り添った。

 マーガレット夫人は不安そうな顔で視線を彷徨わせたが、ソフィアを見つけると真っ青になってがたがたと震えだした。

「いや、いやあ、あなた、あなた」

 とか細い声で隣にいる夫の方へ手を出した。

 しかし夫には彼女を支える腕もなく、一歩を踏み出す足もなかった。

 ただボロボロと涙をこぼすだけで、夫人を見返した。

「キャアアアアアアアアアア!」

 夫人はダルマのようなヘンデル伯爵を見て、絶叫をあげた。

「お母様! しっかりして!」

 ケイトが手をさしのべ、夫人の肩を抱いた。

「ケ、ケイト? どうして……?」

 マルクがソフィアを見て、

「お母様を治してくれたの……か?」

 と言った。

「ええ、だってお父様だけ惨めな思いをなさるの可哀想でしょう? お母様はどこか遠くへ行かれて、虫を食わせても泥を飲ませても笑ってるんですもの。お父様だけ正気を保ってお可哀想だわ。夫婦ですもの。平等よ」

 そう言って不敵に笑うソフィアへ、

「ソフィア様、お疲れでしょう。こちらへ」

 と椅子を差し出したのはワルドだった。

「全く、私がいないと主へ椅子を差し出す知恵も浮かばないのか!」

 しかしソフィアを主と仰ぐ魔族は逃げ去ってしまっていて、残っているのは無力な人間の使用人だけだった。

「しょうがないわ。フェルナンデス叔父様が怖い闇魔法なんか使おうとするから、みんな逃げちゃたみたいよ。ありがとう、ワルド、騎士団に魔法学院で捕まってしまって、縄に繋がれて荷車に乗せられて来たから、疲れちゃってたとこよ。お腹もすいたし」

「縄に?」

 とローガンが言い、騎士団員達を殺気を放ちながら見回した。

 その瘴気に当てられ、ふらっと倒れる者もいる。

「配下の者をすぐに呼び戻し、食事の用意をさせましょう」

「そうしてもらえる? 久しぶりに家族が揃ったんですもの。豪華なディナーといきましょうよ。フェルナンデス叔父様、お帰りにならないならご一緒にどうぞ?」


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