嘲笑
フェルナンデスはぐっとつまったまま考えた。
彼にとって兄のヘンデル伯爵がどうなろうとどうでもよかった。
兄の為、ヘンデル伯爵家の為というのは弱い者をいたぶる口実にすぎなかった。
ここでヘンデル伯爵が死んでもフェルナンデスには痛くも痒くもない。
むしろ芋虫のような奇形になった兄、キーキーと唸り声をあげるしか出来ない夫人をこのまま生かして置く方がヘンデル伯爵家にとっては不名誉でしかない。
跡取りのマルクもいて、ケイトは近々オルボン侯爵家に嫁ぐとの噂も耳にしていた。
こんな両親では国王陛下への謁見も無理であるし、侯爵家への顔合わせにも連れて行けない。嫡男のマルクがいるのだから確かにこの夫婦は無用で、生かしておく意味もなかった。
しかしソフィアの聖魔法はフェルナンデスの闇魔法に唯一対抗する力だ。
ソフィアの魔力がどれほどか、先程から測っているが隠蔽しているのかはっきりしない。
もし多大な魔力を有していればこちらの損になる、とフェルナンデスは考えた。
それに相手は聖魔法で一瞬で切断された四肢を元通りに復元させたのだ。
この先、小娘を配下に出来れば、闇、聖両方の力を手に出来るではないか。
例えばソフィアの魔法が氷属性のみだったら、フェルナンデスはソフィアを徹底的に躾けただろう。
彼女のような美しい幼女を好む貴族に知り合いもいる。
どれほど金貨を積んでもソフィアのような上玉はなかなか手に入らない。
過去最高の値段、一国が買えるほどの値段でソフィアは売れるはずだ。
何度もその場に立ち会ったがその男は美しい幼女や男児が大好きで、汚れのない白い肌を楽しむ。
特に幼子達が泣きながら許しを乞う震えた細い声が大好物。白い肌に鞭をあて真っ赤に腫れた肌を茨で縛りながら、何日も風呂へ入っていない自分の汚いのつま先を綺麗になるまで幼子に舐めさせる。更に目に一杯涙を溜めた幼子達に自分の汚い一物を咥えるように命令する。幼子が彼を慰める事に成功すればパンを一個やろう、と。
それだけの為に幼子達は競って彼の前に身を投げ出し、小さな舌で彼に奉仕するのだ。
何時間もそれらを堪能してからは、男は幼子達の綺麗な黒髪もブロンドも引き千切り、澄んだ瞳もスプーンで抉り、反抗しないように手首足首から先を切断する。幼子達の白い肌は鞭を受けすぎて真っ赤な肉塊となり、そして最後に男はまだ微かに動く屍の小さな小さな蕾みに自分の物をぶっ挿し、満足するのだった。
その後、幼子が死んでしまっても男には何の感情もなかった。
また出入りの奴隷商人に言いつけて見目の良い幼子を仕入れるだけだった。
奴隷ならば二束三文でいくらでも用意が出来た。
ソフィアのような美しい貴族の幼女ならば大金が手に入るはずだ。
そう思って惜しい気持ちで一杯になるが、聖魔法持ちのソフィアと正面から争うのも危険だった。
(しかし、聖魔法の中でも光魔法だけが私の闇魔法に対抗するが、聖魔法使いが必ず光魔法を有しているとは限らない、ここでこいつを調子づかせる事はない。こいつをうまいこと使えばいい。使い物にならない場合はあの方に売ればいいのだからな)
「お、おお、お前が兄上を癒やし治せるのなら何もお前の命を奪うつもりはない」
騎士団達の前でこれ以上の醜態を晒すのも恥だった。
腸は煮えくりかえっているがフェルナンデスはにこやかに笑ってみせた。
「早く治してやってくれ!」
再び四肢を切り取られたヘンデル伯爵はうめき声を上げ、涙を流しながらソフィアを見ている。
「治して欲しいの? お父様?」
とソフィアが聞くとヘンデル伯爵はうんうんと顔を縦に振った。
「治してどうするの? 今、お父様はフランやメイド達の手で食事をさせてもらって、たまにマルク兄様のお情けでお酒もお召し上がりになってるでしょう? 下の世話だって若い可愛いメイドにやらせて、マーガレット夫人だって綺麗な顔の若い執事に食事の介助をさせて風呂の世話までさせてる。しわくちゃの身体を若い男の子に洗わせて。でも、それは以前と同じ生活だわ。朝から晩まで偉そうにソファにふんぞり返って、見目のいい若い子達を嬲って傅かせて、それなら治さなくてもいいじゃありませんか。生活は同じなんですから」
とソフィアが笑いながら言った。




