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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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燻製肉

「フレデリック叔父様?」

 とナイトはソフィアの言葉を聞き逃さなかった。

「何でもありませんわ、ナイト様」

 とケイトが言ったが、

「フレデリック叔父様はお父様の一番下の弟でとてもお洒落で愉快な方。まだ独身なのですけど幼い女の子が大好きなのです。幼いケイト姉様を花嫁にすると誓っていたようなのですが、大人になられたケイト姉様には興味が無くなったようです。ケイト姉様もオルボン様に乗り換えたケツの軽さですからどっちもどっちですけどね」

 とソフィアが笑いながら言った。

「ソフィア、酷いわ……そんな言い方」

「ほう、会ってみたいな。そのフレデリックという男に」

 ナイトは興味を示したが側で控えていたワルドが、

「フレデリック様は先程から皆様の皿の上でございます」

 と言って微笑んだ。

「え?」

「ほう、なるほど、美味い燻製肉だと思った」

 ナイト・デ・オルボンはナイフで燻製肉を切り裂き、フォークでそれを口に運んだ。

「懐かしい味だと思ったんだ。久しく人間を食しておらんからな」

「ケイト様の新しい門出に相応しいお食事をとの事でしたので、とっておきの肉を提供させていただきました。フレデリック様は美食家な方でした。金に飽かして古今東西の美味い食事を召し上がり、高級な酒を飲む。そして出来上がったのがこちらの肉でございます。それをコックが腕によりをかけて料理いたしました一品。調味料にも贅を尽くし、黒胡椒をふんだんに使っております。フレデリック様がお亡くなりになってから、貴重な人肉を腐らせずに保存しておきたかったものですから」

 ワルドの説明を聞きながらソフィアはケイトを見た。

 真っ青な顔で口を押さえている。

「貴重な人肉に黒胡椒! ずいぶんと歓待してもらったようだ。なるほどここまでされては私も君らの主人ソフィア様に忠誠を誓うに何の問題もない」

 とナイト・デ・オルボンが上機嫌で答えた。

「どうしました? ケイト姉様」

 とローガンが言った。

 マルクはナイフとフォークを持ったまま固まり、フランはシリルの事を思い出してグエっと喉がなって床に蹲った。

「ワルド……今、言ったのは真実? この肉は……」

 と問うマルクにワルドは、

「申し訳ございません、マルク様。フレデリック様の肉は私とエリオット様であらかた食べてしまいまして、残りが少なくなっておりました。ですので残念ながら今宵の特別メニューはナイト・デ・オルボン様とケイト様だけなのです。マルク様には上質のアングルブルのステーキでございます」

 と丁寧に頭を下げた。

「そ、そうなんだ、ぼ、僕、アングルブルのステーキ好きなんだ」

 とマルクが言った。

「げぼぉ」

 と苦しげな声がして、ケイトの口から吐瀉物が溢れた。

 手で口を押さえているが、おげえおげえと吐き出てくる物が止まらない。

 先程食べたフレデリックの細切れ肉がワインに染まって流れて出てくる。

 目の前の皿もグラスも白いナプキンもナイト・デ・オルボンの為の上等なドレスもが吐瀉物で汚れさらに異臭を発した。

 ナイト・デ・オルボンは眉をしかめた。

「やれやれ、興ざめだな」

 ローガンが続けて、

「ケイト姉様はフレデリック叔父様の肉棒を食すのが好きだったらしいから、皆の前で食べてもらって叔父様もきっと喜んでいるよ」

 と言った。

 ソフィアはすました顔でグラスの水を飲んでいたが、

「気分悪」

 とだけ言った。

「フ、フラン、ケイトを部屋に連れて行って綺麗にしてやって……」

 とマルクが言いながら上目遣いでソフィアを見た。

「いいだろう? これじゃあ、あんまりだ」

 と言った。

「さすが伯爵家の次期当主の兄様だ。寛大な振る舞いに頭が下がる」

 とローガンが言い、ワルドもそれに同意のように頭を下げた。

 フランは恐ろしそうな顔でソフィアを見て、ソフィアが軽くうなずいたのでケイトを抱えて食堂を出て行った。



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