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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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セブンス・ドラクール

「夕食にはケイトお嬢様がオルボン様をご招待いたしておりますので、皆様もどうぞ夕食には遅れないようにお願いいたします」

 とワルドが続けると、

「僕、急ぎの用事を思い出したよ。まあ、夕食には間に合うように頑張るよ」

 とエリオットが言って立ち上がった。

「エリオット様、お出かけですか?」

「ああ、マルク兄様のお友達に旧友を紹介しなくちゃ。旧友の住み処は遠いからね。急いで行ってくる。それにソフィア様をみすみす人間なんかの花嫁にするわけにはいかないからね。ローガン兄様が出張ったら人間が気の毒だし」

 とソフィアを見て微笑み、その場からシュッと姿を消した。

 ワルドも一礼してその場から消え、部屋にはローガンとソフィアの二人になった。

 床でじわっと黒くなっていたマイアも、いつも側に控えているメアリも今日はいない。

「何なの、あれ」

 と言ってからソフィアは大きく伸びをした。

「ねえ、ローガン」

「何でしょう?」

「ケイトとオルボンもあなたたち魔族に取って代わったわけ?」

 ローガン少しだけ笑って、

「オルボンは死にました。ケイト姉様が絞り出した最後の一撃で、上半身が吹き飛びましたから。さすがに即死でした。だがオルボン侯爵は使い道があるので、今は賢い魔族が成り代わっております。見たら驚きますよ、きっと」

「へえ」

「ケイト姉様は重傷でしたが死んでおりません。眷属に食わせようかとも思ったのですが、やめました」

「何故?」

「あなたがやりたいだろうと思いまして。私はあなたの命に背き、ナタリーを殺してしまいましたしね。これ以上、あなたのご機嫌を損ねるわけにはいかないですから」

「じゃあ、ケイトの中身は以前のままなわけ?」

「ええ、ですが少しは意識が変わったようです。あなたを虐めるのもほどほどでしょうね」

 ローガンはクスクスと笑い、ソフィアは肩をすくめた。

「そうなの。それは楽しみだわ」

「それと、ケイト姉様の婚約発表が近いので、ヘンデル伯爵夫妻が領地からお戻りになるそうですよ」

「お父様が?」

「はい」

「ふーん」

 とつまらなそうにソフィアが言ったのでローガンが、

「何か? ソフィアを酷い待遇で扱っていた悪人ですよ? 素晴らしい復讐が始まるのでしょう?」

 と言った。

「そうね、どうしてやろうかしら、あの老いぼれども」 

 と言いながらソフィアは過去のソフィアに思いを馳せた。

 ヘンデル伯爵その人はソフィアに何の感情もなかったのが事実だった。

 娘とは思っておらず、ただ何かに使える駒の様な存在。

 母親似て産まれた時から綺麗な赤ん坊で、ケイトやナタリーよりもよほどに美しいという価値はあった。だから生き長らえさせただけだった。

 もしソフィアに今ほどの魔力があればもっと大事にされただろうが、魔力がゼロであると言う決定が出た瞬間に興味は失せ、夫人へ最低限の生活をさせるように命じた。

 伯爵夫人は美しいミランダとソフィアを憎んでいたので、食うや食わず、虐めも黙認でむしろケイトとナタリーにはもっともっと虐めて、自ら命を絶つように仕向けるようにも言い聞かせていた。

 ソフィア自身がどう思っていたかは今や知る術もないが、今のソフィアの脳裏にはくっきりと浮かぶ、汚物を見るような嫌悪を露わにした夫人の目。

 さらに夫人には語彙力があった。どんな隙も見逃さずソフィアを虐げる言葉をひねり出すのが上手かった。

「早くお義父様……あのクソジジイとクソババアに会いたいもんだわ」

 とソフィアが笑った。

 


 夕食の時間にソフィアはローガンを伴い階下のダイニングルームへ降りて行った。

 マルクはすでに大きなテーブルの前で座り食前酒を飲んでいた。

「マルク兄様、珍しいですわね。今日はご一緒に?」

 とソフィアが言うと、

「ああ、だってケイトが婚約者を招待したんだろう? 挨拶の一つもしとかないとな」 

 とマルクが答えた。

「さすが、兄様だ。伯爵家の嫡男としてのお覚悟の現れだね」

 ローガンの言葉をマルクは褒め言葉と受け取り、姿勢を正し胸を反らした。

 ソフィアとローガンが着席したところで、ケイトがオルボン侯爵を伴って入って来た。

「わ」

 とソフィアが言って目を見張った。

 同時に席にソフィアを見つけてケイトの顔がこわばる。

 ナイト・デ・オルボンの凄まじい変わりようにソフィアはジロジロと彼を見て、ローガンは笑った。

 身長は高くスマートに痩せ、白い肌に漆黒の髪の毛。

 整った顔立ちは非常に美しかった。

「痩せただけであんなに風貌が変わる?」

 とソフィアが呟いた。

「醜いよりは美しいほうがいい。対外的には痩せたからとしてますが、あれは人間の好みに作り上げた顔と身体。あんな目に遭っておきながらケイト姉様は一目で気に入り、他の令嬢に取られないように大々的に婚約者面をしていますよ」

 とローガンが笑った。

「中身はあんた達のお仲間?」

「ええ、彼は完全なるヴァンパイア」

「ヴァ?!」

「ええ、我々とは少しばかり系統が違いますが魔族には違いない」

「へえ、いろいろいるのね」

「ええ、中身はセブンス・ドラクール、完全なるヴァンパイアの七代目です」

「そ、そうなんだ、血とか吸いにこないでしょうね」

 ソフィアの言葉にローガンは、

「確かに血液が主食ではありますが、それ以外の物を口にしないわけではないですよ。肉も喰らうし酒も飲みますしね」

 と言った。


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