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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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羽ペンが突き刺さる

 ソフィアは魔法学院初等部へ通っている。

 この世界の魔法使いは魔力の潜在量で価値が決定される。

 経験も必要だが、初等部へ通っていても軽く高等部並の、さらに教授並みの魔力を保持している者もいて、スキップで上へ上へと上がっていくので今、ソフィアと机を並べるのは似たり寄ったりの魔力を持つ子供ばかりだった。

 中でもソフィアは魔力がゼロに等しく、初等部でも最下位の地位にいた。

 そして母親がメイドというだけで元々のスタートが違い、さらに伯爵家でもお荷物ともなれば嫌われいじめられるのは必至。

 貴族以外の庶民の子供が通う例もあるが、素晴らしい魔力を保持している、というのが前提だった。


「おっす!」

 と教室へ入った途端に背中を叩かれ、体勢を崩したせいで落とした鞄を拾いながらソフィアはその相手を睨んだ。

 クラス内ではまだ穏やかな方でソフィアのいじめに参加しない男子で名をオスカーと言う。

 伯爵家よりも更に位の高い侯爵家の三男だとソフィアは記憶している。

 だが参加しないだけで、見て見ぬ振りは同罪だとソフィアは考えていた。

「朝から辛気くさいな、お前。もう少し元気に登院出来な……」

 ソフィアの鞄がオスカーの顔面を殴打し、今度はオスカーが尻餅をついた。

「おはよ」

 と言ってソフィアは自分の席へと歩いた。

 腰を抜かしたオスカーは酷く驚き、しばらく立ち上がれなかったが、クラスメイトが教室へ入って来たので慌てて立ち上がった。

「お前、どうしたんだ?」

 ソフィアの机の側に立って声をかけると、ソフィアは面倒くさそうにオスカーを見て、

「何?」

 と言った。

「いや、何って、なんか今日、違わないか」

 ソフィアはふんと無視をして、ローガンに貰った小冊子を広げた。

 熱心にそれを読む姿にオスカーは首を傾げて離れた。

 次々に級友が教室へ入ってくるが、ソフィアに声をかける者はいない。

 以前の記憶があるソフィアはどんなに自分がいじめられていたか知っていたし、級友の事も把握していた。

 そしてそれは「今日はマージ先生が急用で一限目は自習です」と教頭が言って教室から去った瞬間に始まった。


 「わぁ」と息を一限目の教科書を出していた生徒達はあちこちでしゃべり始めた。

 もちろん真面目な生徒もいて、時間を無駄にしたくない生徒は教科書を読んだり、書き付けをしたりしているが大半の生徒は無駄口を叩き始めた。

 そしてそれに飽きるとソフィアへのいじめが始まる。 


ソフィアは熱心にローガンからもらった小冊子を読んだ。

 魔法という言葉自体が面白い。

 元のソフィアである美弥の世界には魔法、異世界は物語の中にしかなかった。

「でも別にパンがでるわけじゃないんだよね。水、火、氷は出るのか……凄い」

 一人でぶつぶつと言っているソフィアの机をばんっと叩く手があったので、ソフィアは顔を上げた。

「ソフィア!」

 机を叩いたのは初等部でも可愛いと評判のローラ・ブライト男爵令嬢だった。

 ナタリーの金魚のフン的存在であることをソフィアは知っていた。

 上からソフィアを見下ろしていかにも、いじめてやるわ! という雰囲気を出しているので、ソフィアは早速今読んだ魔法を試してみる事にした。

 親切丁寧に魔力の練り方、それを詠唱に込める方法までローガンが書いてあるのでそれを素直に実証してみた。

 ソフィアがぶつぶつと魔力を練っている間ローラは、

「あなた、いつまでこの学院に来ますの? 魔力もないし、メイドの子と同じ学院なんて外聞が悪いですわ。早く辞めていただきたいわ。あなたの顔、もう見たくないわ」

 と言った。

「見たくないならこうやって構いに来ないで、見なければいいじゃん。ったくめんどうくさいったら」

「何ですって?! 口答えなんか生意気ね!」

 ローラの手が上がり、ソフィアの髪の毛を掴んだ。

 その瞬間にソフィアの手の平で練られた目に見えないエネルギーの固まりがぼんっと爆発した。それの余波でソフィアの机の上に出してあった羽ペンが真っ二つに折れ、ローラの右目に突き刺さっていた。

「ギャアアアアアアアアアア!」

 ローラは悲鳴を上げて、顔を押さえた。

「あっれ、命中? ウケル。ちょっと爆発させてみただけなのに」

 ソフィアはケッケッケと笑い、その爆発音でクラス中がシンとなり二人に注目した。

「痛い! 痛い! 誰か! 助けて!」

 ローラは顔を押さえている。

「あっれ、治癒魔法とかなかったっけ?」


 クラスの中はシンとして、ソフィアとローラを遠巻きに見ている。

 ローラがソフィアをいじめるのはいつもの事だが、ソフィアがやり返すのは初めてなので、若干あっけにとられている。

「お前ら、しばらく眠ってろ!」

 ソフィアの唱えた呪文でクラス中が眠りに落ちた。

 ソフィアは立ち上がると、

「魔法なんて無駄だって思ってたけど、まあ、ちょっとは役に立つじゃん。でも実際やるのは自分の手に限るけど」

 と言ってローラの身体を突き飛ばした。

 視界の悪いローラはよろめいて後ろに倒れた。

「痛い……助けて……」

「魔法使えるんだろ? やり返してみなよ。魔王とか倒す為に魔法学院とかがある世界じゃなかったけ? こんな事でへこたれてたら魔王にやられちゃうよ?」

「あんた……こんな事して!」

「はあ? 何? もしかしてこの後の人生があんたにまだあると思ってんの? ここで息の根を止められるとか考えないの?」

 途端にローラの目が怯えた。

「嘘……」

 ソフィアはローラの髪の毛を掴んで、その突き刺さったペンをもっと奥の方までぐいぐいと押し込んだ。

「ぎゃあああああああああああああ」  


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