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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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血を舐める

「ローガンが夕べからいないのだけど」

 朝食の席でナタリーが言った。

 伯爵と夫人はあまり興味なさそうで、「また夜遊びに出て戻らないの?」「困った奴だ」と会話しただけだった。

「エリオットが怪我してるのに遊びに行ったりしないでしょう」

 とナタリーは言った時に、

「おはようございます」

 とローガンがやってきた。

「いるじゃない。ローガン、夜遊びはほどほどにしなさいよ」

 と夫人が言い、ローガンは「申し訳ありません」と言った。

「ローガン、どこに行ってたのよ」

 とナタリーが言った。

 

 シナを作る動作とあの表情からナタリーはローガンに惚れてるんだ、へえ、とソフィアは少し笑った。

「ちょっと図書室で本を読んでたらそのまま寝てしまった」

 とローガンだった者が言った。

「え、ローガンが図書室で本って信じられない!」

 とナタリーが言ったがローガンは相手にせず朝食を食べ始めた。

 

 朝食後は魔法学院に伯爵家の馬車で向かうがソフィアだけは毎日テクテクと歩く。

 そして魔法学院に通う平民はあまりおらず、テクテクと歩くソフィアを馬車で横を通りながら皆が笑う、という朝の一幕がいつもの事だった。


「おはようございます」

 と声をかけてきた者がいるので、ソフィアが振り返るとローガンが笑みをたたえて後にいた。

「何、あんた……へえ、食わなかったんだ?」

「ええ、少し血をいただきましたが、身体をもらうほうが生きやすいのではと思い」

「確かに、猫よりは食いっぱぐれがないんじゃない」

「お許しがいただけてよかったです」

「別にあたしの許しはいらないだろ? 好きにしなよ。あんた、妖魔かなんかの類? あたしなんてたかが人間の子供。頭から食われても抵抗なんか出来やしない」

 ローガンはふふっと笑って、

「まさか、以前のあなたならともかく、発現したあなたのその魔力、とうてい私ごときがかなう相手ではございません。命がけであなたを喰らうよりも、あなたのその魔力のおこぼれをいただくほうが楽ですから」

 と言った。

「魔力? あー、確かにそういうの感じはあるけど、使い方も分からないよ。あたし、外見はソフィアだけど中身違うんだよ? あんたにおやつあげてた頃のメソメソちゃんとは違うから」

「ええ、存じてます。もしよろしかったら、私が魔力の使い方をご教授しましょうか? 魔法の類いも。このローガンという青年、生前はかなりの魔法の遣い手でございましたし、知識はそのまま私の流れ込んで来ております」

「へえ、そうなの? 確かにこいつクズだけど、成績は良かったとか聞いてる。魔法って便利? あたしはこの手で息の根を止めるのが好きなんだけど?」

 ローガンはクスクスと笑った。

「素晴らしい。ですが魔法も便利ですよ。いろいろと。とても力ではかなわない強い相手ならどうします? でも魔法が使えれば相手を押さえるだけでも有利になる」

「ふーん、そう、じゃ、教えてもらおうか」

「喜んで。とりあえずこれを」

 とローガンは小冊子をソフィアに渡した。

「あなたに必要と思われる魔法を書き出しておきました。体内で魔力を練って詠唱すればエネルギーが放出されます。すぐには難しいかもしれませんが」

「だから図書室で朝までいたの?」

 受け取ったソフィアはそれをペラペラめくってから、

「ありがと」

 と言った。

「あんた、何者? 妖魔とかそういうの?」

「そんなところです」

「そ、じゃあね」

 ソフィアは鞄を持ち直して歩き出した。

 馬車で優雅に通う貴族の子供とは違い、せっせと歩いて行かなければならない。

「ご一緒しますよ」

 とローガンが後からついてこようとしたので、

「やめてよ。あんたは今まで通りにソフィアをいじめる側でいたらいいわ。一緒に登院なんかしたらあの女に怪しまれちゃうじゃない」

 伯爵家から学院へ行く為の馬車が門前で待機している。

 その窓からナタリーがこちらを見ていた。

「でもあの女、ローガンに惚れてるじゃない? ソフィアにやたらに厳しいのも嫉妬だとしたら、面白いかもね」

 ソフィアはふふっと笑った。

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