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殺人鬼転生 鏖の令嬢  作者: 猫又


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天敵

 ローガンとエリオット、それに二人の従者はすぐに戻ってきた。

 もうもうと黒煙が舞い、魔蠧達の残骸が重なる中でソフィアはフェルナンデスを見ていた。

 フェルナンデスは爆発の瞬間、自らを魔蠧に守らせ、全くの無傷で元のまま椅子に座っていた。フェルナンデスの周囲には何万という茶羽魔蠧の死骸が山を作っている。

「火炎の爆発? それだけか?」

 とフェルナンデスが言った。

「テメエ……借金取りの次に嫌いなゴキブリ出しやがったな!」

 ソフィアはフェルナンデスの方へ一歩踏みしめたが、それが茶羽魔蠧の死骸の山と気づいて、顔をしかめた。完全なる死骸ならまだしも、ほんの少し息があり仰向けでピクピクと蠢いている。内臓がはみ出しトゲトゲのある六本の足を縮め息絶えかけた個体もいるが、それに噛みついて喰らい自らの回復を図ろうとする輩もいる。

 それらは容赦なくソフィアの視界に侵入してくる。


「どうやら魔蠧は苦手なようだな?」 

 フェルナンデスがクックと笑った。

 フェルナンデスの闇魔法がまだ続いているらしく、ブーンと元気に飛んでくる個体もいるし、部屋の四隅からモゾモゾカサカサと再び茶羽魔蠧は勢力を盛り返そうと数を増す。

「確かにゴキブリは苦手だけどね」

「ああ?」

「叔父様、今度はこっちの番さ。あたしの闇魔法をご覧あれ、だ」

 ソフィアはそう言うと呪文を唱えた。

 それに呼応するように現れる闇魔力。

 フェルナンデスの呼び出した闇は濃い茶色がかった瘴気だったが、それを上塗りするようなソフィアの闇は漆黒に近い紫だった。

 結界内の四方からソフィアの闇魔が徐々に現れる。

 その気配を察したのか茶羽魔蠧達の動きが止まり、長い触覚をふりふりと動かし何事かと異変を探っている。自分達の脅威に気づいた者から一匹一匹とコソコソと逃げ場を探すように部屋の隅の逃げ込む場所を探し始めていた。

「おっさんよぉ、あんたの自慢のゴキ達、ご苦労さんだったな。でもなアタシだって闇の眷属はいるんだ。出てこい、お前ら! 飯の時間だ、食い尽くせ!」

 ソフィアが叫んで、手を振り上げた瞬間。

 天井から一斉に飛び降りて来た、否、長い細い糸を吐きながら降下してきたのは、大人の人間の手の平ほどの大きさもある長い八本の足を持つ大きな魔蜘蛛だった。

 なかでも一匹、巨大な魔蜘蛛は腹に白い繭を抱えている。

 それが上空でぱかっと二つに割れた瞬間、何万という子蜘蛛たちが広がりながら一斉に茶羽魔蠧達に襲いかかった。

 魔蜘蛛らは茶羽魔蠧に容赦なく襲いかかる。

 素早い動きをする魔蠧だが、魔蜘蛛の長い足と俊敏な動きにはとうてい敵わなかった。

 特に生まれたばかりの子蜘蛛、その数万匹は腹ぺこで自分よりも大きな茶羽魔蠧に数匹で襲いかかる。消化液を注入し獲物を溶かしチュウチュウと中身を吸い出し、あっという間に空っぽにしてしまう。そしてすぐに次の獲物に飛びかかる。

 魔蠧達はキーキーと鳴きながら慌てふためくが、魔蜘蛛達の長い足と大きな身体、または子蜘蛛達の連携からは逃れられなかった。

 次々と捕食され、溶かされて喰われる。

 しかも中身を溶かして喰いあさり、その残骸は捨て置くので満腹になるまでにはどれだけの茶羽魔蠧が必要か。

 キーキーと鳴きまだ生きているのに少しずつ命を囓られるのはどのような恐怖か。

 喰うか喰われるか、フェルナンデスが闇魔法で出現させたのは恐怖もない意志も持たない魔蠧達だが、哀れに泣き叫んでいるようにも見えた。

 

「わぁ、壮絶だねぇ」

 エリオットが言い、ローガンはふふっと笑った。

「なんともソフィア様らしい。たかが魔蠧でも徹底的にひねり潰すんだな」

「茶羽魔蠧よりあの魔蜘蛛の方が気色悪くない?」

「誰にでも得手不得手はあるさ」

「たしかにー、ワルドなんてさー」

「何ですか」

 空間が僅かに歪み、そこからワルドが顔を出した。

「お疲れさん、騎士団の方はどうなった?」

「ご馳走様でした」

「あっそ」

 涼しい顔で周囲を見渡したワルドは壮絶な風景にぷっと笑った。

「これはまた素晴らしいですね!」


 蜘蛛たちは逃げ惑う茶羽魔蠧達を追い回している。

 ちょこまかと逃げてはいるが一対一ならともかく、そこら中に恐ろしい蜘蛛が立ちふさがるのだ。動いた瞬間に別の蜘蛛に捕まって囓られる。その蜘蛛も食事の途中でも別の魔蠧が側を走り抜ければ、そちらを追う習性だ。

 あちらこちらで痺れて動けず、中途半端に喰われかけた魔蠧がぴくぴくと蠢いている。


 当のソフィアは部屋の真ん中で突っ立っていた。 

 彼女を守るように魔蜘蛛たちが円になってソフィアを囲んでいた。

「君達、ソフィア様は我々が守るから食事に行きたまえ」

 ローガンが近づいてそう言うと、八匹の魔蜘蛛は感謝するように前の方の足を二本上げて合掌してからぱっと魔蠧達の方へ走り去って行った。

「ソフィア様、闇の眷属は素晴らしいですが、あなたをお守りする者はいくらでもおりますよ」

 とエリオットも言った。

「ははは!」

 とソフィアが笑って、

「エリオットとマイア、メアリはあたしに近寄んな! おめーらゴキブリ食ってただろ!? ふざけんなよ! 近寄るな! あっち行け!」

「え! そんなぁ」

 と地面からひょいと顔を出したマイアとメアリが悲鳴を上げた。 

「ちょっと待って下さいよ! ワルドだって騎士団を喰ったんですよ! ワルドはいいんですか!」

 とエリオットも言ったが、

「はあ? 蠧喰うとか論外だろうが! 近寄んな!!」

 とソフィアはエリオットを睨みつけた。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! 今話の感想は うぎゃあぁぁぁぁーーーっっ!!!!! の一言に尽きます! 蜘蛛は超苦手なんですよ〜。゜(゜´Д`゜)゜。 他所様のお話の中の蜘蛛では、可愛い子もいましたが…
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