紅茶ポットの秘密
マーガレット夫人がケイトとフランに連れられて出て行くとワルドはふっと笑って、ソフィアのカップへ新たに湯気のたつ紅茶を注いだ。
ソフィアは新たに注がれた紅茶のカップを見て、
「さっきは甘みのないストレートティだったのに、今度は甘いミルクティ。ずっと同じポットから注がれてるのに、中身は変化して温度も冷めないってどういう仕組み?」
と言った。
「それは秘密でございます。私はソフィア様の為にいつでも美味い紅茶と菓子をご用意しております。ですからこの先、ソフィア様がどこへ行かれるにしても、私だけは同行をお許しいただきたい。そうでなければ他の者ではあなたのお好きな紅茶も焼き菓子も、手に入れるのに苦労するでしょうから」
ワルドがぱちっと指を鳴らすと、皿の上に新しい焼き菓子が現れた。
マルクがそれを見て羨ましそうな顔をしたが、自分にもくれとは言えなかった。
ローガンは不愉快そうに足を組み替え、エリオットは肩をすくめてみせた。
「あっそう。覚えておくわ」
そう言ってソフィアは新しい焼き菓子に手を伸ばした。
前世で18年生きたよりもここへ来てから食べた焼き菓子の方が多い。
甘い紅茶や果物、ふんわりした焼き菓子にサクサクのパイやクッキー。
「ふふ、ふふ、素晴らしい世界ね」
甘いミルクティを飲んで、焼き菓子を食べるとソフィアはほっと一息ついてフェルナンデスを見た。
喉の傷からの出血は止まり、銀色の輪っかで止められたフェルナンデスの喉はソフィアが言うように綺麗な首飾りになっていた。
「で? 何の話だったかしら?」
「王家の呪いを解くかどうかって話だよ」
とエリオットが答えながらやはり焼き菓子に手を伸ばした。
「ああ、そうだっけ。面倒くさいわねぇ。えーと? でもナイト・デ・オルボンに頼まれてるから、王家の宝物庫とやらを見に行く話よね? その為に王家の呪いを解きに行くんだったっけ? そしたらあのえらそうな皇太子が魔法を使えるようになるわけ? それも癪だから、やりたくないわ」
とソフィアが言ってぷいっと横を向いた。
まだ苦痛に顔を歪めているフェルナンデスがソフィアを睨んだ。
ソフィアはまた紅茶を一口飲んで、
「大体、私に何の得がありますのよ?」
と言った。
「お、お前が誰かを殺める事を望むなら、好きなだけ奴隷を買って……」
息も絶え絶えのフェルナンデスがそう言った瞬間、ソフィアがちらっと彼を見た。
「奴隷ですって? この私に奴隷をお与え下さると言うの?」
「そうだ! いくらでも気の済むまで奴隷を殺せば良いぞ! 他種族の奴隷。エルフや獣人、それに魔族もいるぞ!」
「魔族?」
「そ、そうだ、魔封じを施した魔族の奴隷市がある。有翼種の美しい魔獣もいる。全て我が騎士団が捕縛してきた奴らで、奴隷商が高値で買い上げた! 魔族なんぞいくら殺したって構わん! 手足をもごうが二つに引き裂こうが、それを魔獣に食わせようが構わんぞ! いくらでも調達出来るからな!」
フェルナンデスは貧血で真白い顔をしていたが自慢そうに言い放った。
ワルドの動きは速かったが、その前にソフィアが笑顔をたたえながら返答した。
「それは楽しみだわ。叔父様、そういう事なら王家の呪いとやらを解きに行きましょうか」




