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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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婚約者たちとの会議

「離宮の件なんですけどね」

 執務室で、メキャムリム・ブラズニア姫がいった。

「うちにも費用を負担させてくれと、うちの愚兄がいっていました。

 それと、離宮の警護に関してもうちに任せてくれと」

「ありがたいことですね」

 ハザマはあっさりと頷いた。

「そういっていただけると、うちの負担もそれだけ軽くなる」

 メキャムリム姫がこの時点で「うち」と呼ぶのは、ブラズニア公爵家のことになる。

 婚約が決まったといってもメキャムリム姫はまだブラズニア公爵家の人間であり、メキャムリム姫はその一員としてブラズニア公爵家の代弁者としての役割も担っていた。

 また、ハザマにしてみても、離宮の建設費や維持費について、そのすべてを洞窟衆で負担をするよりも、ブラズニア公爵家にも分担して貰った方がいいと素で思っていた。

 ハザマはそもそも面子とか体面に拘るよぅなメンタリティを持っていない。

「いっそのこと、離宮も二つ、作ってしまったらどうでしょうか?」

 今度はマヌダルク・ニョルトト姫が、そんなことをいい出した。

「幸い、離宮に転用できる大型建築物はいくつか建築中のはずですし。

 それに、そちらの建築費と警備などもうちに任せて貰えると、なにかと都合がいいと思うのですが」

 このマヌダルク姫が「うち」という場合、「ニョルトト公爵家」のことを示す。

「丸ごとそちらの出先機関にするわけですか」

 ハザマはマヌダルク姫の真意を確認してみる。

「しかしそうなると、おれは完全に別居することになりますね」

「いずにせよ男爵は、こちらの領主公館に詰めることが多くなるでしょうし」

 マヌダルク姫は首を傾げてそういった。

「それ以外にも、これからは外出して領地を空ける機会が多くなるのではないでしょうか」

 どうも貴族とか身分のある人間同士の結婚というのは、ハザマが考えるような「所帯を持つ」という感覚からは遠く、もっとドライなものであるらしい。

 ハザマから見て婚約者ということになるこのふたりは、ここ最近は示し合わせてハザマといっしょになる時間を作るようにしていた。

 三人ともそれぞれに多忙な身であるため、数日に一度こうして顔を合わせることが出来ればいい方、という頻度はあったが。

「通い婚かあ」

 ハザマは誰にともなくそう呟いた。

「おいやですか?」

 すかさず、マヌダルク姫がハザマに訊ねた。

「嫌というよりも」

 ハザマは即答をする。

「おれ自身よりも、周りが煩くなるだろうな、と」

 どの離宮に通うのか、その頻度で仲のよさを勘ぐられるというのもあまり愉快ではない。

 ただ、そうした感情面を除くと、ルシアニアに離宮を二つ用意することには、それなりにメリットがあった。

 ニョルトト公爵家とブラズニア公爵家、それぞれの離宮にこの公爵家の要人が頻繁に出入りをするようになるはずであり、そのことはハザマ領と両家との結びつきが強いことを外部に印象づけることにもなる。

 また、嫁いでくるこのお姫様たちにしても、身近な人間をそのまま身辺に置いておけるわけで、なにかと心強いはずでもあった。

 そうした要因も考えた上で、

「デメリットはあまりないか」

 と、ハザマは判断をする。

 どのみち、実際の婚礼をあげるのはまだ先にことになる。

 そのことについては、ニョルトト公爵家もブラズニア公爵家も賛同してくれていた。

 今この時点では、この三つの勢力が対等に近い関係で同盟を組んだにも等しいということを、外部に示すだけで十分な効果がある。

 その点で、関係者の意見は一致している。

 外から見たら、ハザマ領を中心とした革新勢力に見えるんだろうな。

 と、ハザマは想像をする。

 ニョルトト公爵家とブラズニア公爵家は、平地諸国からハザマ領を守るための盾のように思えるはずであった。

 容易に攻め込むことが出来ない条件を整えた上で、ハザマ領は森東地域への干渉をはじめとして、様々な施策を悠々と進めていく。

 周辺地域への影響は大きいはずであったが、そのハザマ領ないしは洞窟衆への実力行使は、かなりしにくくなる。

 これから、ハザマ領が帝国配下に組み込まれることが正式に発表されれば、ますます攻めにくい条件が整うはずであった。

 いいことなんだか、悪いことなんだか。

 と、ハザマは思う。

 外部からの強制的な干渉が排除された場合、それだけ自分たちの判断についても慎重になる必要が出てくるわけで。

 現在はハザマは、洞窟衆内部における自分の影響力を抑制し、様々な判断を内部の構成員たちに責任を分割して任せる方向に進もうと企図している。

 その動きがこのままうまく進展していくと、洞窟衆の内部で相互に様々な決定について先行きを予測し、チェックしあうような体制が必要になってくるだろう。

 ここまで洞窟衆の影響力が大きくなった以上、必要な措置ではあるのだが、うまくいっているのならばともかく、なにかの拍子でとんでもない判断ミスを犯した場合が怖いな、と、ハザマはそうも思う。

 外部に対して大きな影響力を持つ独立組織として、洞窟衆が果たしてうまくやっていける物なのか。

 それが問われるのは、これからということになる。

 一歩足を踏み外したら、大変なことになるな。

 ハザマは、他人事のようにそんな風に思った。


「それから、王国の動きなんですが」

 メキャムリム姫が話題を変えた。

「御前会議は、やはりというかかなり紛糾したそうです」

 メキャムリム姫の実兄、アズラウストからの情報だろうな、と、ハザマは思う。

「位が高い貴族ほど、恐れる形になりますね」

 マヌダルク姫がそういった。

「王室から与えられていた数々の特権を召し上げにされて、その上で今後はほとんど自力のみで領地経営をやっていかなければならないとなったら」

「かえって、領地に恵まれていない小貴族の方々の方が、最近の変化に柔軟に対応出来ているように思えます」

 メキャムリム姫はそういって、マヌダルク姫に頷いて見せた。

「名産品を缶詰にして売りに出して、相応の利を得ているような貴族は、大抵は領地に恵まれていないような方ですね」

 税収だけでは心許ない貴族ほど、そうした新規事業の開拓には熱心になる傾向はあるんだろうな。

 と、ハザマも想像をする。

 失う物が少ないということもあるのだろうが、元の収入が少ないからこそ、新手の収入源を作ることに活路を見いだす。

 その逆に、黙っていても安定した税収が見込める貴族ほど、そうした新進の気風からは遠くなるだろうなと、ハザマにしても容易に想像が出来た。

 無論、これは極めて大雑把な傾向でしかなく、同じ貴族でも個々人の資質や性格は異なるだろうから、一律にこうだと決めつけることは出来ないわけだが。

 いずれにせよ、王国をはじめとする周辺諸国は、すでに事実上、激動の時代に突入しているといっていい。

 洞窟衆とハザマ領は、その変化を発生させる大元といってもよかった。

 その反動もまだまだ出てくるものとハザマは予想しているのだが、とりあえず王国内についていえば、有力者に相当する貴族たちはしばらくの間、内部の体制変化に対応することで多忙になるはずであった。

 当面、そちらが落ち着くまで、こちらへの余計な手出しをしている余裕はないだろう。

 その猶予の期間を有効に使って、洞窟衆の内部をある程度堅固な形に改正していかなければな、とか、ハザマは考えている。

 そちらの方も、内部の人間の意識を改革していく必要があり、一朝一夕に成果をあげていけるような問題でもないわけだが。

 即効性のある方法が存在しない、ということを前提にした上で、ともかくもやっていくしかない。

 と、ハザマはある程度覚悟を決めてもいる。

 同時に、洞窟衆が内部から分裂する場合も想定し、その上で、

「それもまたよし」

 と割り切るような複雑さが、ハザマの中にはあるわけだが。

「内部の改革も結構ですが」

 マヌダルク姫が話題を映した。

「なんだかんだいって、ハザマ領の内部は安定していると思います。

 時節としてみても、そろそろ森東方面を落ち着かせておかないと、長い目で見て困ったことになると思うのですが」

「でもあそこは」

 ハザマは反論をする。

「今すぐにどうこう出来るような場所でもないでしょう。

 内情が複雑にすぎて、すぐになんらかの決着をつけることは無理なのではないですか?」

 少なくとも、ハザマのところにまであがってきた資料を見た範囲では、そうとしか思えなかった。

 仮に森東地域の誰か、権力者の一人を後押ししてその一帯を治めさせたとしても、すぐに反乱が起こって以前以上の混乱に逆戻りをする。

 そんな、複雑な土地柄なのだ。

「あそこは確かに複雑な場所なのですけど」

 マヌダルク姫はいった。

「だからこそ、返って強力な指導者を必要としているともいえます。

 いっそのこと男爵自身が駆けつけて、まとめて治めてしまってはどうですか?」

「それは、本格的に武力介入をするってことですか?」

 ハザマは険しい顔つきになった。

「そういうのは趣味ではないですし。

 それに、武力で押さえつけてようやくおとなしくなるような場所なら、なおさら侵攻するだけの価値がないと思います」

 現在のところ、洞窟衆は現地で雇った人間と冒険者ギルド経由で集めた人間を使って、森東地域へ干渉を行っている。

 その際も、武力による介入は最小限に留め、水路や交通の利便性をあげるなど、費用がかかる割には地道な努力をすることによって地元の生産性を向上させ、段階的に紛争を治めようと試みていた。

 一見して迂遠な方法ではあるが、地元住民がある程度豊かになりさえすれば、紛争の理由もあらかたはなくなる。

 そう考えた上で、このような方法を採用していた。



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