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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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理解不能の理由

 王国からの脱退を表明しているニョルトト、ブラズニアの二公爵家を除外して、現在の王国は七家の公爵家を擁している。

 公爵家の中でも王室と近い関係にあるという、グラゴラウス公爵家とグラウデウス公爵家。

 スデスラス王国侵攻の先兵となり、しかしその役目を全うせずに終わったワデルスラス公爵家。

 臨海州という古名の領地を経営するグフナラマス公爵家。

 同じく、森林州という古名の領地を持つアルマヌニア公爵家。

 最近になってスデスラス王国から領地ごとこの王国に寝返った功績により取り立てられたアルテラ公爵家。

 王国公爵家は半ば独立した統治を行っており、公式には同格の家柄とされているのだが、王室との距離からいえばグラゴラウス公爵家とグラウデウス公爵家が他の公爵家より近しいため、世間的には高貴な家柄であると見なされている。

 現在、血塗れの姿でハザマたちの前に立ちはだかっているのは、そのうちグラウデウス公爵家の当主その人だった。


「こんなことをする必要もないだろうに」

 思わず、ハザマの口からそんな声が漏れてしまう。

 王国公爵家の当主といえば、この王国の中では国王に次ぐ地位になる。

 序列でいえばそうなるのだが、自分の領地に引き込んでさえいれば、並ぶ者がない頂上の存在なわけで。

 大多数の人々から見れば仰ぎ見る位置に居る人間が、さらに野心を持たねばならない理由、必然性というものがハザマにはどうも理解できなかった。

 ましてや、このような陰謀を企て実行し、それどころか自分自身でこうして出向いてくるなどという多大なリスクをわざわざ背負い込まなくても、そのままなにもせずにいれば安泰な地位の上で平穏な人生を送れるはずの身分なのである。

「必要?

 必要だと?」

 グラウデウス公爵は、目を剥いてハザマに反駁をした。

「よりにもよって、貴様がどの口でそんなことをほざくのか!

 貴様が現れてからこの方、すべてが、そう、この王国のすべてが変わってしまったのだぞ!」

「以前、国境紛争の直後にあった中洲での召喚獣騒動。

 裏であれを準備させていたのも、グラウデウス公爵様ですよね?」

 ハザマは、顔色も変えずに指摘をする。

「あれなんかは、タイミングから考えて、おれの存在がこの王国で知られるようになる以前から準備を進めていなければ実行不可能なはずですが」

 確信を持ってそう断言できるのは、証拠となる証文をハザマが押さえているからだった。

 ヴァンクレス兄にあたる盗賊、ヴァルクールがなにを考えたものか、唐突に洞窟衆にその証文を預けていったのである。

 そこにははっきりと、グラウデウス公爵と召喚術士たちの間に交わされた盟約の子細が明記されていた。

 契約魔法などを調査した上でそれが巧妙な偽造書などではなく、紛れもなくグラウデウス公爵が主導をして召喚士たちにあの一件を起こさせたものと、洞窟衆の内部ではそう結論されていた。

 今にして思えば、あの時の召喚獣も透明で不定形、周囲の環境に応じて体内の構造を変化させる、そんな柔軟性を持った生物であった。

 あの巨人を構成した一部である不定形生物と、どことなく共通した性質を持っていたわけで、使い勝手のいい召喚獣を捜索する研究自体は、あれから途切れることなく続行していたのだろう。

 ハザマがこれまで聞いている範囲では、召喚魔法は当たり外れが激しく、首尾よく都合のいい召喚獣を引き当てるまでかなりの時間と犠牲が必要になる、ということだった。

 つまりあの中洲の一件は、ハザマがこの世界に出現する前から準備されていなければ実行不可能なわけで。

 ハザマの出現によりこんなことをしでかした、というグラウデウス公爵のいい分には、ハザマとしては到底頷けないのであった。

 そのグラウデウス公爵のいい分は、あまりにも責任転嫁が過ぎるというものだ。

「あの中洲の件では、早い段階であの召喚獣を始末できた。

 結果としてそんなに大きな被害にならなかっただけで、対処の仕方を間違えればどれほどの災禍となったのかわからない」

 ハザマは冷静な声で指摘をする。

「潜在的にはかなり大きな脅威となり得た代物であったし、その時あの召喚獣の近くに居た将兵や貴族たちにも大きな被害が出た可能性も、十分にあった。

 あのまま放置しておけば周辺地域に対して長期的な影響を与えただろうし、それを度外視したとしても、人的な被害が馬鹿にならない。

 あの件に関していえば被害が大きくならないうちに始末をつけられたのはたまたま、幸運であって、そうはならない可能性も決して少なくはなかった。

 大貴族であるあなた様がわざわざそんな、この王国を大きく損なうような計画を進め実行をして、一体なんの、どんな益があったというのですか?」

 グラウデウス公爵を非難するような口調ではなく、淡々と事実を事実として述べた上で疑問を呈する。

 そんな、静かな口調だった。

 ハザマにしてみてもこの王国内部の軋轢や不協和音ついて、そこまで深い興味があるわけではない。

 単純に疑問に思っていたから、本人に問いただしているだけだった。

「人の数が、な」

 グラウデウス公爵は、顔色も変えずにそういった。

「人の数?」

 ハザマは、軽く顔を顰める。

「なんの人数のことをいっているのですか?」

「王国、貴族、領民。

 その、すべてが、だ」

 グラウデウス公爵は、そういって両手を大きく広げた。

「あまりにも、多い。

 雑多で複雑。

 これでは、統治をするのにも苦労をする一方だ。

 大きないくさでも頻繁に起こればまだしも適当に間引きをされるのだが、部族連合との講和が成ってしまうとその線も望み薄になる」

「ええと」

 聞いていて、ハザマは頭が痛くなってきた。

「つまり、領民や貴族の人数が多すぎても、その上で統治をするのが難しくなる。

 だから、あえてあんな騒ぎを起こして人間の数を無差別に減らそうとした。

 そう、おっしゃるわけですか?」

「その通りだ」

 グラウデウス公爵は胸を張っていい切った。

「領民とはすなわち統治者のために存在する財産。

 その処分をどのように考え実行しようとも、非難をされる筋合いはない」

「あの中洲の付近には、領民だけではなく貴族たちも大勢居たのですが?」

 ハザマは、一応確認してみる。

「そうした貴族の方々、その安否について、あなた様の中ではどのように折り合いをつけていらっしゃるのですか?」

「あの程度のことで命を落とすのであれば、所詮それまでの人間でしかなかったということだな」

 グラウデウス公爵は、悪びれることもなく即答する。

「あのような災禍で誰が助かり命を落とすものか、事前に予測をする方法はない。

 だとすれば、すべての結果を天命として甘受して貰うより他ないな」

「真面目に耳を貸しては駄目ですよ、ハザマ男爵」

 アズラウストが、ハザマの隣で低く呟く。

「あれはもはや、大貴族でも領主でも人間でもありません。

 自身の思うところのみを絶対と信じる、一種の狂人です」

「あ、いや。

 別に真面目に理解をするつもりもありませんがね」

 アズラウストに対して、ハザマは軽い口調で応じた。

「あれは、おれたちの言葉でいえばサイコパス。

 通常の人間の道理が通用しない者です。

 そのことを、倒す前に確認しておきたかっただけで」

「いうに事欠いて、貴様がこのわしを、か!」

 グラウデウス公爵はそういった後、しばらく哄笑を放った。

「奢るなハザマ男爵!

 先ほどからそのトカゲでこの身を戒めようと試みておるようだが、ほれ!

 このわしは、なんともなっておらぬぞ!」

「それもまた、一応試してみただけのことで」

 別に焦りもせずに、ハザマはいった。

「つまり、グラウデウス公爵。

 あなた様は、すでに通常の意味でのヒトではないということですね?」

 バジルの能力が通用しない理由というのは、それ以外に考えられなかった。

 位階とやらがバジルよりも高い存在であるか、それともこの世界の理の外にある存在には、バジルの能力は通用しない。

 この場合、おそらくは後者だろうな、と、ハザマは思う。

 それにしても思いきったことをしたものだ。

 よりにもよって、自分自身の体にまで手を加えてしまうとは。

 やはりグラウデウス公爵の思考や価値観は、ハザマにはまるで理解ができなかった。

「だとしたら、どうするというのかね!」

 グラウデウス公爵が、叫ぶ。

「ハザマ男爵!」

「別にバジルの能力が通用しなくても」

 ハザマは、落ち着いた態度のまま、応じる。

「やりようは、いくらでもありますよ」

 次の瞬間、いくつかのことがほぼ同時に起こった。

 ハザマたちとグラウデウス公爵との間の空間に、三匹のサーベルタイガーとそのうちの一匹の背に乗ったトエスとが出現し、そのまま、グラウデウス公爵の方に突進していった。

 しかしその前途を、唐突に出現した三十人ほどの重装歩兵たちが遮る。

「魔法兵ならば、こちらにもまだまだたくさんおりますよ」

 アズラウストが呟くのと同時に、こちら側にもさらに数十名の重装歩兵たちが出現をして、そのまますぐにグラウデウス公爵を守っていた兵士たちと揉み合いに突入した。

 屋内であるため、威力の高い攻撃魔法をその場で連発するということはなかったが、双方魔法兵であり、つまりは魔法で身体能力を底上げされた兵士同士が、高速で移動し武器を振るいながら戦っている。

 すでに結界が壊されている以上、ハザマがトエスや水妖使いたちを通信で呼んだように、アズラウストやグラウデウス公爵も味方を通信で呼ぶことが出来たのだった。


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