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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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襲撃の前夜

 野営地某所にて。

「戦場に赴くつもりでやって来て、実際にやっていることといえばイモの皮剥きね……」

「大事な仕事じゃないですか、メシ作りも。

 今日もまた何百人だか何千人だかがこっちに到着するそうですし。

 そんだけの人数分のメシを準備しておくってことも、十分に重要だと思いますけど」

「長旅でくたびれて到着したとき、十分な量の温かい食事が用意されているかいないかは大きな違いですよ。

 今後のやる気が大いに違ってきます」

「……わかっちゃいるがな。

 しかも、その皮剥きも、こんな訳の分からないぴゅ、ぴゅ……」

「ピューラーっすね。

 ナイフ使うよりも手早く皮を剥けますね、これ。

 ガガガッて表面を削るだけですし」

「あと、トングとかな。

 洞窟衆ってのは、ときおり妙な調理道具を使っているよな。

 ……あっ」

「どうした?」

「このイモ、結構古いな。

 芽が出ているのが入っているから、見つけたら全部こっちによこせ」

「メシの重要さはわかるんだが、日なが一日皮剥きばっかりってのもな……」

「でも、どうせ誰かがやらなけりゃならない仕事ですし。

 それに、こいつで食事がタダになるって考えると、そんなに悪い待遇でもないような……」


 野営地司令部にて。

「野営地の設営はこれまでのところ、順調に進んでいます。

 みなさん文句をいいつつつも、よく働いてくれていますよ」

「結局のところ、自分たちの居心地をよくするための仕事だからな。

 今出ている斥候隊の数は?」

「五十を越えたところですかね。

 今日到着する人たちを編成すれば、すぐに倍増するかと思いますが」

「今回は配置するべき地域がかなり広くなるからな。

 それでも薄いくらいだが……」

「まだ本隊が到着していませんからね。

 人数自体はこれから増える見込みですし、現在野営地の設営を行っている人員も、もう少し落ち着けば輸送隊の方に回せるかと思います」

「あまりここにばかり人を集めておいても意味がないからな。

 混合軍の本隊がこちらに到着する前後から本格的に作戦を始動させる。

 それまでに必要な準備を完了させておくように」

「はい。

 それから、今日中に通信網がエネラクナ国のオンスナタにまで届くそうです。

 この野営地には、明日あたりに届くそうです」

「そうなればなったで、聞きたくもない文句も聞かなければならなくなるわけだが……」

「それについては諦めてください。

 なんといっても金主様には逆らえないでしょう」

「……その手の文句は、なるべくブラズニアの文官様の方に回すように手回しをしておいてくれ」

「了解しました」


 エネラクナ国のオンスナタ近郊にて。

 巨大な風車が回転をしている。

 その様子を見あげている者たちが居た。

「これが、自動的に水を汲みあげているのですか?」

「ええ、そうです」

 洞窟衆の者が頷く。

 野営地に部材を供給するのにあたって、こちらで制作可能な部材については周辺地域の職人に発注して製造させている。

 図面や必要な強度など、製造に必要な情報はもちろん伝えているわけだが、具体的にどんな物体を構成する部材なのかは、やはり職人たちも把握しておいた方がいい。

 そのため、こちらでも適当な地所を借りて風車塔を実際に組みあげてみたわけだが、この実物はなにしろ物理的に大きい。

 当然の事ながら人目には立つわけであり、噂を聞きつけてこうして実地に見学に来る者も多かった。

「……ここ数日、ずいぶんと周辺の職人たちが忙しくしているかと思えば、こんなものを作らせていたのですか」

 風車塔を見あげている見学者、初老の男が誰にともなく呟く。

「ところでこれは、わたしらのところでも注文すれば作って貰えるものですか?」

「もちろん。

 洞窟衆はお客さんを選びません」

「こちらの者だけで作ることができれば、それが一番いいのですが……」

「ポンプ部とか風車の可動部分は、こちらの人たちだとちょっとキツいかも知れませんね。

 意外に精度が必要とされる機構になっていますから……。

 仮に複製できたとしても、うちの方で作ったものよりもよほど高価になる可能性の方が大きいと聞いています」

「それは、専門家の意見かね?」

「ええ。

 うちで抱えているドワーフの親方さんが、そういっていました。

 輸送にかかる費用を加えても、ちょっとキツいかなあ、って。

 部品同士の組み合わせがきちっとしていないと、うまく動かないものが多いので……」

「……そんなものかね」

 初老の男は、軽く頷いた。

「疑うわけではないのだが……そのポンプ部というやつを、うちの鍛冶職に見せて貰えないだろうか?」

「いいですよ」

 洞窟衆の者は軽い口調で頷く。

「こちらでも同じような者が製造できるのでしたら、それはそれで助かりますし。

 重い物をわざわざ遠くまで運んでくる手間が省けます」

「君たちは実に不思議な存在だな。

 利に聡いかと思えば野放図な面もある」

「そうですか?」

 洞窟衆の者は、首を傾げる。

「確かにこの手の製造方法を秘匿できれば、短期的には利益を独占できるのかも知れませんが……。

 でも、実物を分解してしまえばどういう構造をしているのか一目瞭然なわけですし、第一うちの首領が秘密は極力作るなって方針の人ですからね。

 それに、こちらの職人さんたちでもこれと同じ物を複製できるとしたら、それはそれで商売のやりようはあるものでして……」


「……こちら、エネラクナ国のオンスナタの偵察隊です。

 本日、ダイヌスという方が風車塔の見学に来ました。

 ええ。

 こちらでは羽振りがいい豪族のお屋形様だそうで。

 で、そのダイヌスさんが、風車塔の購入を考えているそうです。

 一応、見積もりを渡しておきましたが、ひょっとすると実際にご注文があるかも知れません。

 ええ、ええ。

 当然、輸送のために相応の日数を要するということは伝えてあります。

 はい。

 では、そのように……」

「……いつから偵察隊は、洞窟衆の出先機関になったのだ」

 洞窟衆が通信でやりとりしている様を横目で見ながら、王国影組の男は誰にともなく呟く。

「でも、彼らが公然と商売をしてくれているから、怪しまれずにあちこち嗅ぎ回れている面もありますしね」

 ブラズニア魔法兵のひとりが、そういって肩をすくめた。

「本来の職務の邪魔になるのならともかく、その逆にこうして役に立っているわけでして、目くじらをたてる筋合いでもないでしょう。

 第一、彼らと行動をともにすると毎日の食事が充実します」

「その点については否定はしないが……」

 影組の男はあきれ口調で呟く。

「……密偵として他国に潜入している身で、一番の利点が食生活の充実というのは激しくなにかが間違っている!」

「三ヶ国の内部、あるいはガンガジル内に派遣されたのならばまた事情も違ってきますがね。

 ここエネラクナでは、そもそも内偵を必要とする事柄も少ないわけですから、せいぜい現地に溶け込んで怪しまれないように動くしかありませんぜ」

 魔法兵は平然とそういって天秤棒の両端に満載された荷物を影組の男に押しつけた。

「……ということで、またパンが焼きあがったんで外売りをお願いします」

 パン、といってもドーナツや蒸しパンなど、趣向を凝らしたものが多い。

 単純な食物というよりは甘味を強く意識して作った、いわゆる菓子パンの類である。

 こうした趣向のパンはあまり売りに出されていなかったこともあって、作る端から売れている状態であった。

 店売りだけだとパンが焼きあがる時間帯に店舗内が混雑してしょうかがないので、その混雑を幾分でも緩和するために何日か前から外売りも行っている。

 また、そうした場でのお客との雑談からも意外に重要な情報を掴んだりするので、密偵の偽装としてもそれなりに機能している行為でもあった。

「……行ってくる」

 影組の男はそういったきりむっつりと押し黙って天秤棒を担いだ。


 ブリュムル国、レデレットの町はガンガジル王国とそれにオンスナタ国との国境からほど近い場所に位置する町である。

 その町にも、偵察隊は潜入していた。

 いや、今では潜入というよりも堂々と店を開けて商売をしていた。

「風車塔がご入り用ですか?

 これから発注ということになりますと、必要な部品を取り寄せるのに最低一ヶ月以上はかかるとことになりますが、それでもよろしいでしょうか?」

「それくらいなら問題はない」

 偵察隊が開いている店を訪れてきた男は鷹揚に頷く。

「開拓事業なんてのは年単位の時間で考えるもんだ。

 その風車塔というやつが自動で水を撒いてくれるっていうんなら、その程度待てなくてどうする」

「はい。

 では、こちらが必要な予算になりますが……」

 洞窟衆の者が見積書を提示する。

「……大部分の部材はこの近辺で揃えることができるのですが、一部、今の時点では此方でしか製造できない部品がありまして、それについてだけは輸送費も込みでこの値になっております」

「楽に支払える金額ではないが……。

 風車塔の効能を考えると、高すぎるともいえないか」

「一括でのお支払いが無理でしたら、分割払いも可能ですが」

「その分、金利を上乗せするんだろう?

 いや、一括で支払おう。

 支払いは……」

「施工がすべて終わり、風車塔が実際に稼働したときでよろしいです。

 施工にかかる前に、設置する場所を検分しておきたいのですが……」

「ここから東にいったところにある、サインデルという村の者だ。

 村に来てハイアン家を訪ねて貰えばすぐにわかる。

 風車塔を設置する場所についても、そちらの関係者が訪ねてくればすぐに案内するように手配をしておこう」

「サインデル村のハイアン様ですね?

 それは、うちの者が下見にいく際に契約書を用意いたします。

 サインデル村までは馬でどれくらいかかりますか?」

「馬車だと、途中で野営して二日といったろころかな。

 重い荷物を曳かせていなければ、朝早く発って日が暮れてから到着することもできる」

「わかりました。

 では、そのサインデル村にむけて下見の者を派遣するよう、手配をしておきます」

「それと、これは興味本位で聞くんだが……あんたら、ハザマ領から来ているって噂は本当か?」

「さて、それは……」

 洞窟衆の者は意味ありげな笑みを浮かべた。

「……確かに当店ではハザマ領で製造した部品も商いしておりますし、うちにはハザマ領に滞在したことがある者も大勢居ますが。

 ハザマ領から来た、とはどのような意味でおっしゃっているのでしょうか?」

「いや、なに。

 ガンガジル王国内に集結しつつある混合軍を指揮しているのがハザマ領の者だと小耳に挟んでな。

 この店からそちらに繋ぎを取れるようだったら……」

「……お客様。

 どうかこの場ではそれ以上、おっしゃらないように。

 なにぶん、こういう情勢下ですので、ガンガジル王国の方にこの店が目をつけられますと、いろいろと困ったことになりますので……」

「おお、そうか。

 そうだろうな」

 その男はまた、鷹揚に頷いた。

「もしこの店に、その混合軍とかに繋ぎを取れる者が出入りしているとしたら、決してこのブリュムルの中にもガンガジル軍の台頭を快く思っていない者が大勢居るということを伝えておいて欲しい。

 やつら、侵略軍のくせに略奪などをせず、むしろわれらブリュムルの民を放置しているようなのでかえって公然と反抗しにくいわけだが……なにかきっかけがあれば、不満は爆発しよう。

 このブリュムルは開拓民の国だ。

 ガンガジルにも山岳民にもおもねる理由などないのでな」

「そうですね。

 もしもそういう方が出入りするようであれば、そのように申し伝えておきます」


「なんで兵隊さんっていうのは、こんなに食べるんですかぁ!」

 ブラズニア家が設営した天幕の中で、メキャムリム・ブラズニア姫は例によって恐慌を来していた。

「これじゃあ、いくら食糧があってもぜんぜん足りませんよぉー!」

「それでも今回は周辺諸国が自発的に兵糧を供出してくれるので、前の国境紛争のおりよりはずっと楽なはずですが」

 文官の一人が冷静に指摘をした。

「それに、混合軍本体の先行組が明日にも当地に到着します。

 そうしたら、例の略奪作戦も実行に移すとファンタル殿がおっしゃっていたので、少なくとも今回は兵を飢えさせる心配はしなくて済むかと……」

「それはいいんですけどね!」

 メキャムリム姫は書類をめくって内容に目を通しながら、もの凄い勢いであるリストを書きあげていく。

「その兵糧の供出だって、各国の貢献度として考査の対象になるんです。

 しっかりと記録を残しておかないと、あとで困ったことになりますし……。

 ああ、もう!

 なんだってこんなに、食糧の供出元が多岐に渡っているんですかねえ!」


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