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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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遁走の首領

「さて、降りてもらおうか!」 

 一方、廃村から少し距離を置いた緑の街道では、ファンタル率いる別働隊が三台の馬車を取り囲んでいる。

 そのうち一台は、屋根もない平台車の荷馬車で、あとの二台は屋根つきの客を車引いた箱馬車だった。

 粗末な荷馬車が、一頭だてで、箱馬車は二頭だてと四頭だて。四頭だての馬車が他の二台と比べて、不釣り合いに豪華だった。

「わかった、わかったっ!

 おい、お前らっ! 聞こえただろうっ!

 あの声のいう通りにしろっ!」

「しかし、お頭……」

「いいからいう通りにしとけ、って!

 馬車を降りて、地面に伏せろっ!」

 盗賊たちがそんなやりとりをしている間にも、三台の馬車を取り囲むようして、続々と黒い影が集まってくる。

 暗いせいで小さな人影……に、見えたが、よく目を凝らすと異族であることが判明した。

「……犬頭人……だと?」

 先頭の荷馬車の御者が、小さな人影の正体を察し、軽く眉根を寄せた。

「こいつら、なんで……統率が取れているんだ?」


「余計な詮索は、なしにしてもらおう」

 先ほどから一方的に命令をしてくる女の声が、また聞こえた。

「たった今、うぬらの一員である大男が……ヴァンクレスと名乗った男が、倒されたそうだ。

 うぬらも、その後を追いたいか?」


「……なに?」

「嘘だろ……」

「ヴァンクレスの兄貴が……」

 盗賊たちが、ざわめきはじめる。

「聞こえただろう!

 やつらのいう通りにしろ!」

 荷馬車の御者が、そのざわめきを打ち消すかのように大声を張りあげた。

「見りゃあわかるが、多勢に無勢だ!

 ここで抵抗してもいい目は出ないぜっ!」

 すでに、馬車を取り囲んでいる犬頭人の数は五十を軽く超えている。

 しかも、その全員が武装し、半分以上が弓矢を構えてこちらに狙いをつけている状態だ。

 仮に、ヴァンクレスが倒された、というのがはったりであったとしても……この場では、どう足掻いても、勝ち目がない。

 ぶつくさいいながら馬車を降り、地面に這いつくばる盗賊たちをみて、荷馬車の御者は素早く頭を回転させる。


 こいつらは……いったい、何者だ?

 明らかに、誰かに率いられている犬頭人の集団。それに、目が近い犬頭人が、集団で弓矢を構えているのも、かなり異常だ。

 森の奥から聞こえてくる女の声といい……この集団は、あまりに異様で常識外れだった。

 ……できれば、少し粘って観察しておきたいところだが……。


 地に伏せた盗賊たちに続いて、最後尾の四頭だてからも御者と盛装の女たちが降りてくる。

「あの……わたしらも……」

 御者の男が、誰にともなくそう訊ねてきた。

 この男は、女たちと一緒に盗賊に捕らえられたケチな悪党で……ようするに、商売女を運ぶ途中に、女諸共、待ちかまえていた盗賊の虜となったのだ。

 こんな邪魔が入らなければ、とてもいいアガリになった筈なのだが……。

「おとなしくいうことを聞いておいた方がいいぞぉ」

 荷馬車の御者は、ここぞとばかりに声を張り上げる。

「お客さんたちにゃあ、こっちの事情なんざ関係ないからなぁ」

 商売女とその元締めは、不満を露わにしながらも、盗賊たちに続いて地面に伏せた。

「……これで、満足かい?

 姿を見せぬお客人よぉ……」

 荷馬車の御者が、叫ぶ。


「お前もだ。

 馬車から降りて、地面に伏せよっ!」

 女の声が、殷々と響いた。


「……へいへい。

 降りろといわれれば、降りますがね……」

 荷馬車の御者は、ことさらにゆっくりとした挙動で馬車を降りたった。

「……でも、そうすると……」

 両手を上に上げて棒立ちになったまま、その御者の体が地面に沈んでいく。


「……なに?

 貴様、魔法使いかっ!」

 女の声に、初めて焦りの色が滲んだ。

「放て!

 そいつを逃がすなっ!」

 その男の姿はそのままずぶずぶと地面に沈んでいき、周囲の犬頭人たちが矢を放つ頃には、頭の先まですっかり地面の下に入って見えなくなっている。


「……ファンタルが、一人、逃がしたそうだ」

 上半身裸になったハザマの手当をしながら、エルシムが、誰にともなく伝える。

「どうやら、賊の中に魔法を使える者が紛れ込んでいたらしい。

 おそらく、そいつが一味の頭領であろうともいっている」

「……完封勝利ってわけにもいかなかったかあ」

 ハザマは、天を仰ぐ。

「でもまあ、こっちの被害はほぼなしだったわけだし、結果としてみれば上々なんじゃないかな?

 ……ってっ!」

「無茶をしすぎるからだ、タワケが。

 ……肩胛骨にも……深い亀裂が入っているようだな。

 軟膏でも塗っておくか」

「あのぉ……エルシムさん。

 この薬、とても臭いんですけどぉ……。

 もっとこう、ぱぁーっと一瞬で治るような回復魔法とか……」

「回復魔法は、あるにはあるが、緊急の場合以外はあまり意味がない。というか、あれは一種の劇薬だからな。

 使わずに済ませられるのならば、使わないに越したことはない。

 第一……今回、お前様は一人で無茶をしすぎだ!

 肩胛骨だけではなくて、肋骨も手首もまとめて痛めおって!

 外傷がないからあまり重傷に見えぬが、全治一月以上の歴とした重傷だぞ!」

「はは……。

 おれもタイマン張って、なんてのはぜんぜん趣味じゃないんですけどね……。

 ファンタルさんが別働隊で動いている今、あれに対抗できるのはおれだけかなあ、って……。

 いやあ、騎兵なんてものが出てくるとは思わなかった……」

「確かにあれは、意外だったな。

 こんな辺境の盗賊に、これほどまともな装備の兵士が紛れ込んでいるのは珍しい」

 ハザマの言葉に、エルシムもうなずく。

「盗賊なんてものは、たいがいが食い詰め者の寄せ集めだ。

 まともな装備や軍馬があるのなら、傭兵にでもなった方がよほど厚遇される。

 あるいは、装備や馬を売り払えば、数年は遊んで暮らせる」

「じゃあ、あのおっさん……盗賊としてはかなりレアななんだ?」

「レ、レア……。

 ま、まあ、希少な存在であることは確かであろう。

 なにがしかの事情があるのかもしれんが……」

「……その辺は、起きてからじっくりと聞く機会があるでしょう」


 この時、この廃村に居合わせた者たちは、おおむね三種類に分類される。

 まず、ハザマたちの仲間である、洞窟衆に属する者。

 次に、盗賊の仲間。

 最後に、盗賊に捕らえられていた人々。

 このうち、後者二種は、ハザマとヴァンクレスとの決闘を間近に見ることとなった。

 盗賊たちは捕縛される途中、捕虜たちは解放される途中で決闘が開始してしまったおかげで、逃げることもできずに放置されたからである。

 もっとも……周囲の家屋を解体しながらハザマに迫るヴァンクレスと、そのヴァンクレスと対峙して一歩も退かなかったハザマの姿を間近に見てしまったおかげで、結果として逃げる気も毒気もすっかり抜けてしまったわけだが。

 あの時の二人の様子は……色々な意味で非現実的であり……いうなれば、格の違いを様々と見せつけられたような気分になっていた。


 たとえば、捕虜の一人は、震える声で介抱に来た女の一人にこう尋ねた。

「あの人が……ぼくたちを助けに来てくれたんですか!」

 あるいは、盗賊の一人はこうぼやいた。

「……そんなぁ……。

 あの赤鬼、ヴァンクレスの兄貴がぁ……」

 希望と絶望、抱いた感慨は対照的なものではあったが……強烈な印象を刻印されたことに、違いはなかった。


「……盗賊たちは、問答無用でふん縛って村に送れ。

 タマルが奴隷契約の準備をして待っている。

 盗賊に捕らえられていた人たちは……十分な食事を与えて休ませろ。

 もうすぐ馬車が来るそうだから、夜が明けてから、分乗させて村まで移動させる。

 エルシムさん。

 ファンタルさんにもそうするよう、伝えてくれ」

「盗賊の移送は、犬頭人に任せていいんだな?」

「それでいい。

 武装解除した後縛って、仲間内で口裏合わせをする余裕を与えずに、村まで運び込んで。

 村に着いたら、隔離して一人一人奴隷契約。

 その後、尋問」

「了解した。

 そのように伝える」

 心話が使えるエルシムは、この距離ならばファンタルと意志の疎通をはかることができた。

「後は……この村、井戸は生きているっていってたな?」

「ああ。

 盗賊どもも、そこに目をつけて拠点にしたのだろう」

「今すぐは無理だろうけど……将来、人手が余ってくるようなことがあったら、こういう廃村を再開拓していくのもいいかなあ……」

「盗賊退治よりは、平和な案だな。

 とはいえ、今はその人手が圧倒的に足りぬわけだが……」

「思ったよりも、捕虜が多かったからなあ……。

 あてが外れた、というか……」

「そのかわり、財物の方は、思ったよりも貯め込んでいたようだぞ?」

「それも、全部まとめて、村に送ってくれ。

 査定も鑑定も、タマルの仕事だ」

「それはいいのだが……後は、こいつの始末だな?

 どうするね? この粗大ゴミ」

 エルシムが、地面の上で気を失っているヴァンクレスの巨体を指さす。

「……どうしましょ?」

「生け捕りにしたのは、他ならぬお前様だ。

 好きにするがよい」

「ああ……。

 捕らえた後のことまでは、考えていなかったなあ……」

「相変わらず行き当たりばったりだなあ、お前様は。

 今のびているこやつも、たまたまどうにかなったからいいようなものの……本来であれば、お前様の方が倒されていても不思議ではないのだぞ」

「ああ、そりゃそーだ。

 おれも、まさかバジルの能力が効かない相手がいるとは思わなかったしなあ……」

 ハザマがしゃがんでヴァンクレスに手を伸ばそうとすると、ヴァンクレスが乗っていた馬が近寄ってきて首を伸ばし、ハザマとヴァンクレスとの間に割り込んでくる。

「……どうどう。

 別に、お前さんの主人をどうこうする気はないって……。

 あっ」

「どうした?」

「バジルが、この馬を喰いたがっている」

「……位階が上の者であるかな。

 この馬、喰わせるのか?」

「やめときましょう。

 主人よりも、よっぽど手強そうだ」


 ハザマたちがそんなやり取りをしているしている間にも、女たちは盗賊の捕虜になった人たちの世話をしていた。

 逃亡を防ぐために最小限の食料しか与えられていなかったため、みんな、ひどく衰弱している。

 その様子が少し以前までの自分たちを彷彿とさせたので、捕虜に対する女たちの扱いは自然と心のこもったものとなった。捕虜の方も、自然とそれを感じ取って、安心して身を預けるようになる。

 薄い粥を何杯も振る舞われるうちに、捕虜たちは自分たちの身の上を語りはじめる。

 没落した下級貴族の一家がいた。

 大黒柱が戦死して一家の収入が途絶え、家屋敷を売り払って親戚に身を寄せる旅の途中で賊に襲われたという。

 炭や毛皮を売るため、街道沿いに近隣の村まで移動する途中で賊に捕まった開拓村の民もいた。

 雇った護衛を殺され、積み荷や金品ごと捕らえられた行商人もいた。

 元の身分に高低があろうとも、一度盗賊の手に落ちれば、売られるのを待つ奴隷候補でしかない。


 これはこれで……頭が痛ぇーな……と、ハザマは思う。

 ハザマの意識の中には、まだしも人権という概念が残っている。かろうじて、といった態ではあったが。

 こちらの慣例では、盗賊の財産はすべて盗賊を退治した者に引き継がれるそうで、その伝でいえば、こうした捕虜もすべて私有してしまっても、どこからも文句は来ないわけであるが……。

 なまじ、金を出して買った奴隷ではないから、かえってなけなしの良心が痛む……ような、気がする。

 まあ……個々の事情をしっかり聞いた上で、後で個別にどうするかゆっくり考えることにしよう。


 その手のハザマの苦悩は、別働隊としてファンタルが連れ帰ってきた捕虜を見たときに頂点に達した。

 まだ盗賊に捕らえられたばかりだというその捕虜は……春をひさぐ商売女とその老獪な元締め、だったのだ。

 どちらも、これまでハザマが接したことがない人種である。

 御者の男が、誰にともなくそう訊ねてきた。

 この男は、女たちと一緒に盗賊に捕らえられたケチな悪党で……ようするに、商売女を運ぶ途中に、女諸共、待ちかまえていた盗賊の虜となったのだ。

 こんな邪魔が入らなければ、とてもいいアガリになった筈なのだが……。

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