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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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混沌の日々

「なにも、この支店をそのまま小さくしたような店をいくつも作る必要もなくてさ」

 釈迦に説法なんだろうな、とか思いながら、ハザマは説明を続けた。

「これだけ広い都市なんだし、場所によって売れ筋の商品も違ってくるわけだし。

 小さ目の店舗を多数配置して売り上げを集計し、その場所でよく出る商品を優先的に仕入れていくようにする。

 どうせ、店に置ききれない商品は取り寄せ扱いになるんだろう?」


 この世界の店はハザマの世界での商店とは違って、店員が客と対面して要望を聞く、それに該当する商品を店の奥から持ってきて……といった段取りを取ることがほとんどだった。

 流通事情とか売り場面積などの事情を勘案しても、「ウィンドウショッピング」という行為はまずできない。

 コンビニや百貨店に相当する、多種多様な商品を揃えた業態もほとんどなかった。

 服屋、道具屋、家具屋……など、扱う商品を限定した専門店がほとんどであり、それ上、完全受注生産か、それともどこからか流れてきた古物を扱う店かに二分される。

 ハザマ商会のように節操なく様々な品を扱っている店の方が、どちらかというと珍しい。

 ハザマ商会ではハザマの進言もあって、商品を直接手に取って見ることができる場所を設置して、店内を明るくしたり、人が入りやすい環境を整えているわけだが……。


「……うちは通信が使えるわけだしさ」

 この場合、参考にするのはコンビニだろうな、と、ハザマは思う。

「倉庫内の管理さえしっかりしておけば、在庫があるものなら半日から一日もあれば商品を届けられる。

 わざわざすべての商品を店のひとつひとつに置いておく理由もない」

「ひとつひとつの店には、普段からよく出るような商品しか置かない、いうわけですか」

 いつの間にか、ペドロムは紙とペンを取りだしてメモを取りだしている。

「小さな店舗をいっぱい設えて、一店舗ごとの売り上げに過剰な期待をせず、窓口を偏在させる形ですな。

 それに人の配置も……」

「店員は、客の対応と売場の管理だけを考えさせる。

 売りあげの金管理や店舗ごと商品構成などは別に専任の者を育てて、何店舗かまとめて面倒を見て貰う」

 ハザマは説明を続ける。

「特に商品構成とかは、売りあげデータが溜まっていけば溜まっていくほど、だいたいの傾向とかがはっきりしていくはずだ。

 在庫の管理や流通も、それだけを専門に行う者を育てる。

 分業を徹底すれば、それだけおぼえなければならない事も減るわけでさ。

 なんでもできるの一人前の商人を一から育てあげるよりは、必要となる時間も短くて済む。

 ま、ある程度、資本と商品、それに動かせる人数が確保できないとできない方法だが……」

 個人商店ではまず不可能な商法も、今のハザマ商会なら可能となる。

「……確かに、そんな真似ができそうなところは限られておりますでしょうな」

 ハザマの構想を聞いて、ペドロムはしきりに頷いている。

「そこまで徹底すれば、教育期間の短縮ということだけではなく、人件費も大幅に削減できますわ」

 なんでもできる総合職と、特定の仕事しかできない単純職。

 同じ人数を抱えるのであれば、後者の人件費の方が安くなる道理だった。

 特にこの世界は、ハザマが居た世界よりも知識や経験は重視されて、経済的な見返りも、あって当然とされている。


「……あとは、現状にあわせてうまく機能するよう、組織化していく必要があるわけですが……」

 ペドロムは、先ほどからなにやら紙に書きつけて、思案顔をしていた。

「……こうみえてもぼく、そういうのは得意なんでわすわ。

 むしろ、頭の中でごちゃごちゃっとしておったんが、ハザマさんのおはなしを聞いてだんだんスッキリしてきた気分ですわ。

 ちょいと忙しくなりそうなんで、ここいらで失礼させて貰います。

 なんかあったら、通信で呼んでください」

 そんなことをいうと、ペドロムは自分でなにやら書き込んだ紙の束を抱えて立ちあがった。

「おう」

 そんなペドロムに、ハザマが声をかける。

「あとでちょっと、厨房を使わせて貰いたいんだが……」

「厨房の者に、直接声をかけてやってください」

 ペドロムは、ハザマの方に視線をやりもせず、足早に会議室をあとにする。

「ハザマさんがやることを止めようとする者は、この商会にはおりません!」


「……あっちはあっちで、もう放っておいてもよさそうだな」

 ペドロムが去っていった入り口をみて、ハザマはそんなことを呟いた。

「こっちはこっちで……ああっと……。

 そうだ。

 仕官希望者の対応をどうするのか、って問題が残っていたな……」

「それと、公館の人事についても」

 ハルマクが指摘をする。

「場所や建物を用意しても、中で働く者がいなくてはまともに機能しません」

「そりゃ……そうだよなあ」

 ハザマは頷く。

「ハヌンあたりを中心として何名かこっちに寄越して、あとは現地採用でまた人材を作るか」

 ハヌンは、これまで開拓村関連の案件で貴族官僚との煩雑なやり取りを完遂させている、という実績があった。

 それに、本人としても、いずれどこかで毛並みがいい男を捕まえて所帯を持つとかいう願望を持っているようだから、この王都で働くことを嫌がることもないだろう。

 なにより、今では通信で新領地と連絡が取れるわけだから、細かいことはなんでも相談するようにいい含めておけばそんなに困ることもないはずだった。

「通常の業務であれば、それで済むのかも知れませんが」

 なおも、ハルマクはハザマに食いさがった。

「王国や他の領地との交渉に際しては、それなりの人物が出て行かないことには……」

「……格好がつかないこともある、か」

 ハルマクがいいたいことを察して、ハザマは軽く鼻に皺を寄せた。

 当然のことであるが、洞窟衆……いや、新領地の人材は、極端に層が薄い。

 女子どもが集まった集団だとみなされても、不思議ではない。

 実際的にはそれでうまく仕事が回っているのだが、対外的な信用となるとまたはなしは別なのだった。

 外交の場では、それなりの威厳が必要となる場合も多い。

「いずれ、ハヌンなりで別の誰かなりが代行しても問題がないようにはなると思うんだが……」

 そうなるには、時間が必要になるだろうな、とハザマでさえ思う。

 ハヌンだけではなく、洞窟衆の古参連中は年齢に似合わない濃い経験を積んできているから、そこいらの大人よりはよほど頼りになるくらいなのだが……外見だけで、即座にそうとは判断できない。

 それに、新領地は新領地で、まだまだハザマ自身が判断しなければならないことも多いのだった。

「しばらくは、おれが新領地と王都を忙しく往復した方がいいのかな?」

「情勢が落ち着くまでは、その方が無難でしょう」

 ハルマクは、そういって頷いた。

「……ますます、自前の転移魔法使いが欲しくなるな」

 いざとなれば、ゼスチャラのやつでも拘束するか。

 とか、ハザマは考えている。

 あれは実にわかりやすい男だから、餌で釣ることも十分に可能だった。

 ただ、そうなると現在ゼスチャラが行っている魔法関連の教育が滞ることになるわけだが……そちらの影響が、どれくらいでてくるかだな。

 帰ってから検討してみる必要があるな、と、ハザマは思った。


 その他、雑多な案件について、ハザマたちはときに通信を介して新領地に居る者も交えて検討を行った。

 タマル、ハルマク、リンザが紙に書き出した懸念事項をひとつひとつ潰していく形だったが、これが思ったよりも時間を食う。

 というより、ひとつの案件を仔細に検討すると、検討を要する案件がいくつも発生していく。

 ハザマの独断でなんとかなるものも多かったが、関連部署の意見を調整する必要がある案件も決して少なくはない。

 ひとつ問題を潰せばいくつかの問題が新たに発生する、といった具合であり、抜本的な解決を図ろうとすると時間がいくらあっても足りないくらいだった。

 まったく新しい行政機構を一から立ちあげているわけだから、それも当然なのか。

 とか、ハザマは思う。

 それに加えて、以前から洞窟衆が手がけていた事業に関しても進捗状況の報告やハザマの判断を仰ぐ案件が伝えられてくる。

 検討すべき事はいくらでもあるな、と、ハザマは思った。


 途中、休憩や食事を挟みながら、そうした仕事は夜中まで続けられた。

 洞窟衆にとっては部外者であるオルダルトは、早々にその場を辞していたが。


「……今日は、ここまでにしておくか……」

 照明魔法により煌々と照らされた会議室の中で、ハザマは呟く。

 机の上にはいつの間にか紙が塔を作っており、タマル、ハルマク、リンザの顔にも疲労が色濃く滲み出ていた。

 肉体的なもの、というよりは、やはり精神的なものだろう。

 ハザマ自身も、同じように疲れた顔つきをしているはずだった。

「これ以上に根を詰めても、かえって効率が悪くなる。

 明日は……」

「王国側との会談は、予定されておりませんな」

 ハルマクが、答える。

「召喚獣の騒ぎから引き続きこの王都へ来ておりますし、それに、苦労をするのはまだまだこれからです。

 明日くらいは、休暇にあててもいいのではないですか?」

「明後日は、国葬と授勲勲式とやらがあるんだったけか……」

 ハザマは、呟く。

 そのあとは、なにかと野暮用が増えそうな予感がする。

 いや、確実に、増えるだろうな。

 正式にハザマに面会を求めて来る連中が……。

「……明日は、正式に貴族になってから、おれに面会を求める連中の受け入れ体制を整えて……それ以外は、オフにしよう」

 ハザマは、そう宣言した。

 この機会を逃すと、しばらくはまともに骨休めができそうにない。


 ハザマがあてがわれた寝室に入ると、すぐにノックをして、昨夜も来た少年が桶に入った水と布を持参してきた。

「ああ、昨日の……」

 ベッドに腰掛けながら、ハザマはぼんやりと呟く。

「……きみ、名前なんていうの?」

「レ……レットォルといいます」

 噛みながらも、その少年は名乗った。

「レットォル、ね」

 クリフと同じくらいの年頃かな、と、ハザマは思う。

「きみは、普段はどんな仕事をしているの?」

「しょ……書類を運んだり、人を呼んできたり……」

 メッセンジャーというわけか。

 王都のハザマ商会は、ドン・デラでもそうであったように、この支店の建物を中心として、周辺のいくつかの建物に倉庫や工房などの機能を分散している。

 わざわざ通信術式を使うような距離でもないし、人が直接歩いて伝えた方が、かえってわかりやすいのかも知れなかった。

 特にこのレットォルのような年若い少年にとっては、見習いとして様々な現場に慣れて貰う意味でも、メッセンジャーという業種はうってつけなのかも知れない。

 しばらくその仕事をしていれば、将来自分がどんな仕事に就きたいのか、選択できるようになるわけだし……。

 実際には、メッセンジャー以外にも、今、ハザマの世話をしているように、商会内の様々な雑用もこなしてもいるのだろうが。


「……そっかぁ」

 と、ハザマは、レットォルに対して芸のない応じ方をした。

 チップでもやれば喜ぶのかも知れないが、生憎とハザマはこちらの通貨を持ち歩く習慣がなかった。

「今日はもう遅いし、もうさがって休んで」

 結局、昨夜と同じようなことをいう。

 レットォルは、「はい」と短く返事をして廊下に出て、扉を閉じた。

 自分の体を水で拭きながら、ハザマは、

「今頃クリフたちはなにやっているんだろうな」

 とか、考えている。

 こんなに遅い時間でなかったら、通信で呼び出して雑談をしてもいいのだが。

「……そういえば、あいつら……本当なら、もうドン・デラに帰してもいいんだよな」

 とか、思った。

 カレニライナとクリフの二人は、クリフに従軍経験を積ませるという名目で洞窟衆に身を寄せている。

 その戦争も、もうとっくに終わっているわけで……。

「もう少し落ち着いたら、一度しっかり確認しておくか」

 別にあの二人を早く帰したいわけでもないのだが、いつまでもこのままなし崩しに……というわけにもいくまい。

 なにしろあの二人は、別に天涯孤独というわけでもなく、しっかりとした貴族の後見人も居るわけだし、そちらの方の意向もしっかり確認しておく必要があった。

 後見人と当人たちの意志によってこのまま洞窟衆に身を寄せ続けるのならそれでいいのだが、それならそれで、洞窟衆の方でもそれなりの待遇を考えなければならない。

 なんだかんだいって、あの二人はかなり重要な役割も任せてしまっているしな。

 ……毎日の単調な判子捺し、とか。

 

 そんなことを考えつつ、ハザマは体を清めてからベッドの上に体を投げ出した。

 いろいろな事業や案件を同時進行で行い、さらには召喚獣退治などの突発的なイベントまで律儀にこなしているものだから、ハザマもこのところ気が休まる暇がない。

 こんな混沌とした日々も、もうしばらくは続くんだろうな……などとぼんやり思っているうちに、ハザマの意識は暗転する。



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