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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ヘッドハントの職人たち

「……こいつは、大した代物だ」

 積みあげられた大小の蜘蛛の殻を見あげ、ズブジダ族のクノキアは呟いた。

「本当にこいつを、好きに使っていいのか?」

 ズブジダ族のクノキアは防具職人だった。革や布なども使うが、虫類などの殻の加工を得意とする。もっとも、その殻にしても、これほど大きなものを扱える機会には、滅多に恵まれないのであるが。

「どうぞ」

 洞窟衆の担当者だとかいう小娘は、素っ気なく答える。

「その代わり、できあがった製品の販売に関しては、われわれ洞窟衆に一任してください。

 儲けのうち、六割がクノキアさんの収入となります」

「販売とか煩わしいことをそっちでやってくれるんなら、なによりだ」

 ズブジダ族のクノキアは積みあげられた殻から視線をはずすことなく答えた。

「あと、他にも足りない材料とかがあるんだが……」

「いってくだされば、こちらで探して取り寄せます。

 その際、少々時間がかかるかも知れませんが……」

「ますます、結構」

 ズブジダ族のクノキアは、そわそわと落ち着かない様子でいった。

「それじゃあおれは、これから道具を取って、手伝いの者もこっちに呼んでくる」

 その場で駆け出しそうな勢いで踵を返すクノキアに、洞窟衆の担当者が声をかける。

「あの……その前に、こちらの契約書を確認の上、署名をお願いしたいんですけど……」


「……ということで、こちらの採寸をお願いします」

「ちょいと、失礼します」

 リンザが連れてきたズブジタ族のクノキアが紹介され、クノキアはそのあとすぐにハザマを立たせて巻き尺を体に当てた。

「お、おう」

 戸惑いながらもハザマはクノキアに従い、おとなしく体の各部の寸法を採られるままにしていた。

 ハザマにしてみれば、ごく短い時間であれ、署名地獄から逃れられる貴重な機会である。

「でも、おれよりもイリーナたちの分の方を先にした方が……」

「そちらはそちらで、急いで作りますとも」

 クノキアは採寸した数値をちびた木炭で紙に書き込みながら、短く答えた。

「ただそちらは、なにぶん大量に作ることになりますからな。

 下職も総動員しての突貫になります。

 何種類か用意して、その中から自分の体にあった大きさのものを選んでいただく形になるかと」

「蜘蛛の殻の保存状態がよかったので、予想したよりも手間はかからないようです。

 森の中を行軍することが前提になりますから、体の要所を蜘蛛の殻で保護した、動きやすさを重視した服になりますが……」

 プロテクターつきの服になるのかな、と、ハザマは想像した。

「兜は?」

 ハザマは聞き返す。

 なにより、頭部は一番保護しなければならない部位である。

「無論、そちらも抜かりなく」

 クノキアは答える。

「そちらはこちらの領分ですから、総大将はどっしりと構えておいてくだせえ」

 洞窟衆の首領ということになっているハザマだけは、オーダーメイド。その他の者の分は既製品で、というわけであった。

 ハザマ自身はその手の装備に関しては特に拘りがなかったのだが、首領としては、その他大勢とは区別したものを身につけるべきであるらしい。


 クノキアによる採寸が終わると、今度は、

「待望の鍛冶と契約できそうだ」

 ということで、ハザマは天幕の外に連れ出された。

 その鍛冶屋は、五十人以上の集団であるらしく、契約を結ぶ前にハザマとの面会を望んでいるという。

 外にでると、身長百二十センチほどのモフモフした集団がたむろしていた。

「……あれが、その鍛冶なのか?」

 その姿を認めたハザマは、そう呟いた。

「異族ってやつか?」

「異族?」

 リンザは首を傾げる。

「彼らは、ドワーフなんですが。

 王国には滅多に来ませんが、山岳では普通に居るらしいですよ」

 あれがドワーフか、と、ハザマは感心する。

 いわれてみれば、短躯である割には手足がやけに太い。

 そして、顔中が髭で覆われて、誰が誰だか区別がつかない。

 その髭からハザマは、むさくるしさよりもぬいぐるみめいた愛嬌を感じた。

「やあ、どうも。

 洞窟衆のハザマという者です」

 とりあえず、ハザマは、当たり障りのない挨拶からはじめた。

「あんたがルシアナを討伐したとかいうハザマか?」

 リーダー格らしいドワーフが、胴間声を張りあげた。

「かなり風変わりな、面白いものを作らせたいといっていると聞いたが?」

「ああ、それそれ」

 ハザマはすぐに身を乗り出す。

「こちらには、ネジ、あるいは、ボルトとかナットはありますか?」

「……ネジ?」

「ボルト?」

「ナットとは?」

 途端に、ドワーフたちがざわつく。

 そのざわめきを目の当たりにして、ハザマは、

「果たしてこういう概念も、心話の魔法がうまく伝えてくれるのかなー」

 と、不安になってきた。

「どうやら、誰も聞いたことがないようだ」

 しばらくして、リーダー格のドワーフがハザマにむき直って答える。

「それは果たして、本当に鍛冶仕事に関係のあるものなのか?」

「少なくとも、金属製品ではあります」

 ハザマはそういって頷いた。

「そうですか。

 こちらでは使われていないとすると……やはり、一から作り出さなけりゃあならないのか……」

「それで、いったい、なんなのだ?」

 リーダー格のドワーフが、ハザマの顔をのぞき込む。

「その、ネジとかボルトとかいうのは?」

「これから説明させていただきます」

 ハザマはクリフに合図をし、紙とペンを用意させる。

 そこに、大勢に見せるためにかなり大きな略図を描きながら、ネジとかボルト、ナットの構造を説明していく。

「……つまり、棒状の物体に螺旋状の溝を切って、組み合わせるということだな?」

 一通りの説明を聞いたあと、リーダー格のドワーフはそういって唸った。

「そうです」

 その言葉に、ハザマは頷く。

「単体で使うものをネジ、溝の凹凸をうまく噛み合わせるものをボルトとナットといいます。

 前者は、溝がある分、釘よりも強固に固定することになります。

 後者は、複数の素材を固定するときに使いますね」

「構造と原理は理解した」

 そのドワーフは頷いた。

「しかし、実際にそれを作るとなると……」

「できませんか?」

 ハザマは眉をひそめた。

「できないとは、いっていない」

 リーダー格のドワーフは、ゆっくりと首を振った。

「われらドワーフをなんだと思っておる。

 鍛冶にかけては、大陸でも最高の仕事をする種族であるぞ。

 ただ……専用の、溝を切る工具などを工夫するところからはじめることになる。

 実物の完成までには、多少の時間を貰わねばならんな」

「それで結構です」

 ハザマは頷いた。

「みなさんもすでに耳にしていると思いますが、近く、この付近で居留地の造営が開始されます。

 下働きの者はこの現地で調達されるでしょうが、各国から名のある技師が集められ、競うようにして先進的な建築様式を披露することになるでしょう。

 それに間に合うように、そのネジとかボルト、ナットを供給できれば、みなさまドワーフの名も一段と高まるでしょう」

「ここは、おぬしに乗せられておくことにしようか」

 リーダー格のドワーフは、ここではじめて髭の中にある口元を笑みの形に歪めた。

「その他に、なにか入り用なものはあるか?」

「刀剣類や、鍋、釜などの調理用品。

 土木や建築の現場で使うような道具類。

 まあ、普通に使うものはなんでも作っていただければ、片っ端からうちで買いあげて、外に売らせにいきます。

 が……」

 ハザマはそこで少し言葉を区切り、

「……もうひとつ、みなさんにどうしても作っていただきたいものがあります」

「どういうものだ。

 それは?」

「……細長い、糸状に延ばした金属。

 おれの国では、針金、と呼んでいましたが。

 素手で曲げたり折ったりできるほどの柔らかさを持った、金属です。おれが知っている針金はほとんど鉄でできていましたが、必要な要件さえ満たせば別の素材を使っても構いません。

 これがあると、各種道具類が故障したときの応急処理がその場で行えるようになります。

 それ以外に、有棘鉄線とか……とにかく、いくらでも応用ができる代物で、当然、有力な売り物になります」

「素手で、折ったり曲げたりすることができる……鉄、だと?」

 リーダー格のドワーフは、一瞬険しい顔つきになったかと思うと、次の瞬間には破顔した。

「……とんでもないことを考えるな、おぬし!」

 そういって、ハザマの背中をズバンと叩く。

 思いの外、強い力だった。

「面白い! それも、製造法を研究してみよう。

 やはり、少し時間を貰わなければならないだろうが……。

 あー、洞窟衆の。

 おぬし、なんという名だったか……」

「……ハザマといいます」

「わしは、ドワーフ族のムススムという!」

 そういってムススムは、ハザマの背中をバンバンと平手で叩いた。

「おぬしとなら、しばらくは退屈せずにすみそうだ!

 よろしく頼むぞ!」

 ……痛てぇな、とか内心で思いながら、ハザマは、口に出してはこういった。

「まあ、よろしく頼みます。

 詳しい契約条件とかは、うちの者と詰めてください」

「そうだ、おぬし。

 剣を欲しくはないか?」

 立ち去りかけたハザマを引き留めるように、ムススムは声をかけてきた。

「このムムスム、誼を通じた証として、みずからおぬしために剣を鍛えてやってもいい!」

「剣……ですか?」

 立ち止まり、ハザマは少し思案した。

 そんなものは別に欲しくもないし、そんな時間があったらもっと生産的な方向に使用して貰いたいのが本音ではあったが……せっかくの好意を無碍にするもの気が引ける。

 そこで、ハザマ、こんな提案をしてみた。

「おれは剣術とかはからきしなんで、剣はいりません。

 その代わりといってはなんですが、おれ専用の武器として……」

 ハザマはまた紙とペンを取りだして、形状とか大きさ、使用法などを身振り手振りでムススムに説明した。

「……そんな簡単なものでいいのか?」

「形状が単純なんで、作るのはたやすいのかも知れませんが……どうか、くれぐれも頑丈にお願いします」

「しかし、これを鉄で作るとなると……それなりの重量になるぞ」

「おれが使う限りにおいて、取り回しは問題になりません。

 それもよりも、壊れにくいことを最優先にして、どうかお願いします」

「棍棒の一種ではあるのだろうが……それに取っ手をつけるのか?

 この取っ手に、かなりの負荷がかかるとみていいのだな」

「ええ。

 今のおれは、かなりの力持ちなんで」

「わかった。

 これくらいなら、おやすいご用だ。

 真っ先に作って、数日中に完成できるだろう」

「よろしくお願いします」


 ハザマがムススムに制作を依頼したのは、「鋼鉄製のトンファー」だった。

 剣や槍などの武器は、所詮、消耗品なのである。特に拘りを持たないハザマにしてみれば、数打ちの量産品を使えばいいだけ、という意識がある。

 それよりも、以前、拳の骨を骨折してから欲していた、

「全力でぶん殴ることができる」

 道具の方が欲しかった。

 以前、「拳全体を覆うような篭手」とかの線も考えてみたのだが、手指の自由度と強度を両立させるのは、この世界の技術水準では困難なように思えた。

 だから、もっとシンプルな構造で、しかし、実用では問題なく性能を発揮できるもの……を、いろいろ考えていくうちに、

「なんだ。

 トンファーで十分じゃないか」

 と、思うようになった。

 ハザマは自分の世界でトンファーに触れる機会はなかったのだが、確かあれは、どこかの国の警察で警棒の代用品として正式採用もされてもいたはずだ。

 それなりに、実用的な武器なのだろう。

 使い方については、実物ができあがってから工夫すればいいだけのことだった。


『おぬし、なかなか面白そうな代物をドワーフに作らせているそうではないか?』

 数時間後、ファンタルが通信でハザマにそんなことをいってきた。

『トンファーとかいったか?

 あれは、近接戦用の武器としては極めて有効だ。

 なにより、自分の四肢を使う感覚で操れるのがいい。

 場数を踏んでいない素人でも、それなりに扱える武器だな』

 そう前置きして、ファンタルは、洞窟衆の武装として、

「木製のトンファーを量産させはじめた」

 と事後通達してきた。

『幸い、今は人手も余っているし、複雑な造作でもない。

 手が空いている者を総出で作らせて、近く出立する予定のイリーナたち、それに山岳方面に旅立つ隊商に持たせる』

 すでに量産をはじめたということは、予算なども問題なく確保できたのだろう。

 ハザマとしても、トンファーの正式採用に反対すべき理由はなかった。


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