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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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賢いトウテツの対処法

 牛の体に鋭い牙や爪を持った猛獣に襲いかかられた事がある人が、果たしてこの世にどれくらいいるだろうか?

 とか疑問に思いながら、ハザマはなんとか両手で受け止めた角を力任せに、ねじる。

 青銅の獣の首が、異音を発しながらあらぬ方向に傾げ、そのまま動かなくなった。

 首だけではなく、体全体が、だ。そのまま獣は前肢を折り、地面に這う。

「まずは、一匹」

 ハザマが、呟く。

 ハザマはまだ、冷静でいられた。

 いくら多数で取り囲まれようとも、やつらの速さに対応できないわけではない。

 むしろ、たとえばルシアナ討伐の際に対峙したサーベルタイガー形態のルゥ・フェイの動きには少し劣るくらいの速度だ。

 加えてハザマは、当時から格段に各種身体能力が向上している身、油断さえしなければなんとかやり過ごせる……はず、である。


 そんなことを思いながら、またハザマは、正面から踊りかかってきたトウテツの角を両手で掴み、そのまま自分から地面に寝っ転がった。相手が突進してくる勢いを利用して、下から両足で相手の腹部を大きく真上に蹴りあげる。

 いわゆる、柔道の「巴投げ」に近い技となった。

 そのトウテツの巨体は軽々と宙に浮き、ハザマの手を支点とした半円を描き、ハザマの背後に落ちていった。

 そこに居合わせ、ハザマの背中に襲いかかろうとしていたトウテツの背中に落下して、下になったトウテツの前肢が、無様な形にひしゃげた。

 落下したトウテツも衝撃を受けて無事では済まず、四肢を上に向けた状態でばたばたと動かすだけで、まともな体制に復帰する様子もなかった。

 そこに、周囲のトウテツたちが行動を制限された二匹のトウテツに群がり、躊躇無く仲間の体に食いつき、引きちぎり、咀嚼しはじめる。

 どうやら、この青銅のキメラは、共食いを辞さないほどには貪欲であるらしかった。

 それは、ハザマにとっては、都合のいい事実であった。

「……あっ!」

 すぐに起きあがったハザマは、あることに気づいて小さく叫ぶ。

「バジル!」

 肩にくくりつけた袋に入れていたバジルを、さっきの巴投げもどきで潰しはしなかったか?

 ハザマが心配をしていると、すぐに小さな影が肩に乗る。

 バジルだ。

 どうやら、咄嗟に自分であの袋から退避したらしかった。


「……よっ!」

 などということをしながらも、ハザマは背後から突進してきたトウテツの気配を察知して、真上に跳躍、そのトウテツの背に乗る。

 そしてすぐに、そのトウテツの角を掴み、力と体重をかけて上に持ち上げだした。

 ギシギシとトウテツの首が軋み、すぐに負荷に絶えきれなくなり、乾いた音を立てて頸がまっぷたつに折れる。

 青い体液を頸から迸らせながらも突進を止めないトウテツの背から飛び降り、ハザマは引きちぎった頭部を手ぢかにいたトウテツに投げつけた。


「こういう肉体派演技はガラじゃあないんだがなあ」

 ぼやきつつ、ハザマは次のトウテツに狙いを定め、駆け出す。

 スライディングの要領でそのトウテツの足下にもぐり込み、前肢と後肢を肩と両腕で支えて、そのまま持ちあげた。

 今度は、ハザマの背骨が音をたてて軋む。

 牛と同じサイズの青銅の固まりを両手で持ち上げることができるかどうか? ……以前のハザマなら、そんなことを疑問にすら思いはしなかっただろう。普通の牛でさえ、人間の腕力では持ちあげられるものではない。

 しかし、今のハザマには、それも可能だった。


「……このぅっ!」

 とはいえ、いつまで万歳の体制でトウテツを持ちあげ続けてもハザマの身動きがとれなくなるだけなので、そいつはすぐに手近のトウテツが集まっている場所に放り出す。

 逃げ遅れたトウテツが何匹が下敷きになって半壊した。

 当然、それらもすぐに、同じな仲間であるトウテツの餌食となる。

 背後からそっと近寄り、前肢でハザマをはたこうとしたトウテツがいたが、それも事前に察知して前肢を掴み、引っ張り、体勢を崩したところに、角に踵落としを食らわせる。

 この角は頭蓋骨に直結しているせいか、大きな衝撃を食らわせること一時的にトウテツの動きが鈍くなることにハザマは気づいていた。とはいえ、通常のヒトの力なら、どんな弱点をついてもトウテツを脳震盪にすることは不可能であったろうが。


「やれやれ」

 ハザマは、ぼやく。

「まだまだ残っていやがるなあ」

 これまでさんざん暴れたせいか、トウテツたちもハザマを警戒し、遠巻きにするようになっていた。


「……ハザマさぁーん!」

 すると、遠くからハザマもよく知っている声が聞こえてきた。


「おう、リンザか!」

 ハザマは、声がした方に顔をむけ、軽く手を振る。

「危ないからこっちには近寄るなよ!」

「頼まれたって近寄りたくはありません!」

 大きな荷物を抱えているリンザは、そんな風に答える。

「それより、この荷物はどうしますか?」

「こっちに投げてくれ。

 そんで、荷物を渡したら、お前は元の持ち場に帰った方がいい」

「いわれなくても、あまり長くいたくはありませんけどね」

 そういって、リンザは抱えていた荷物を勢いよくハザマの方に放り投げる。

 リンザにしてみても、青銅の体をしたトウテツは、普通の獣よりも怖いらしかった。

「それでは、その荷物は確かに届けましたからぁー!」

 ハザマが荷を受け取ったのを確認もせずに、リンザは背をむけてその場から離れていった。


「……よっ! と」

 リンザが放り投げた荷物を受け取ったハザマは、その場で梱包に使われた綱を指先で引きちぎり、中身を取り出した。

 そのうちの二本を両手に残し、あとは地面に落ちるままにしておく。

 長さ二メートルほどの、投擲用の槍だった。

「こいつなら、まあ、弓よりは命中するだろう」

 ハザマも一応、半日ほど弓の稽古もしてみたことがあるのだが、そのときの成績は芳しいものではなかった。

 その点、槍ならば、「投げる」という動作は普通の球技と一緒でなんとかなりそうな気がする。

いや、正式には槍投げ用のフォームとかがあるのかも知れないが、この場ではそのことを考えないことにした。

 要は、「投げて、命中すればいい」のだ。


「ほらよっ!」

 すぐに、ハザマは右手で持っていた槍を、近場のトウテツに投げつける。

 あまり距離が開いていないこと、それに、標的が大きいこともあって、簡単に命中した。

 しかし、ハザマの腕力で力任せに叩きつけられた槍は、トウテツの体表にあたって砕けてしまう。

 穂先がトウテツを傷つけた様子もなかった。

「……やっぱり、素のままではどうにもならんか?」

『……ハ、ハザマさんよう』

 そんなことをしていたところ、心話通信で情けない声が届く。

「来たか、ゼスチャラ」

 ハザマは、実際にそう口にした。

「今、どこにいるんだ?」

 通信をくれたのは、以前、ルシアナ討伐の際に同道した魔法使いのゼスチャラだった。

『あんたの近く、だが……青銅の牛みたいなのがいっぱいいて、これ以上近寄りたくねえ』

「だったら、それでいい」

 ハザマが、またそう口に出す。

「その場で、この槍に付与魔法ってやつをかけることは可能か?」

『あ……ああ。

 それくらいなら、おやすいご用だ。

 おれに直接戦えっていわないんだったら、なんだってやってやるさ』

「お前が参戦してきても、足手まといになるだけだろう」

 ハザマは、苦笑いを浮かべる。

「だったその付与魔法、やってくれ。

 今すぐだ。

 そうだな……熱が、いい。

 槍の穂先の周囲に、高熱を発するような魔法はないか?」

『あ、あるよ。

 青銅くらいならすぐに溶かすような高熱を、穂先にまとわりつかせてやる。

 その、手にしている槍だけでいいのか?』

「地面に転がっているのにも、片っ端から頼む」

 穂先に付与魔法をかけるのならば、木製の柄はあまり熱くはならないだろう。

 長時間放置するのようなら発火するのかも知れないが、ハザマはこの槍すべてを、すぐに使い尽くすつもりでいた。

「……あと、槍が爆発するような魔法は知らないか?」

『あいにくと、そんな物騒な魔法は知らないなあ』

 こちらについては、ハザマも「念のために訊いてみただけ」だったが。

「……そんじゃあ、まあ……」

 ハザマは、左手に持っていた槍を右手に持ち直し、野球の投球のようなフォームで力一杯、トウテツに槍を投じた。

 命中し、トウテツの体に、今度は槍の柄が三分の一ほどのめり込む。

 苦悶の声なのか、槍が命中したトウテツが、その喉からなんともいえない、金属が軋むような声を出した。

 すぐに、周囲のトウテツが、槍を体に刺したままのトウテツに食らいつき、生きたままの共食いにされた。


「……よし、よし」

 その結果を最後まで見届けず、ハザマは素早く地面から別の槍を掴みあげ、体のむきを変えてから別のトウテツに投げつける。

 突き刺さり、不調になったトウテツに群がる別のトウテツたち。

 トウテツの貪欲さに、ハザマが救われている形であった。

「……はいはい。

 どんんどん、仲間内で同士討ちをしてくださいよ……っと」

 その後も次々と、ハザマは槍を投じてトウテツたちの共食いを誘発した。

 共食いの最中に興奮し、健康体でありながら派手に喧嘩をしはじめるトウテツもではじめて、当然これも傷ついた時点で仲間の餌となった。

 そんな感じで、ハザマがすべての槍を使い果たすころには、トウテツの数は三分の一ほどに減ってしまっていた。


「……それでもまだまだ、多いんだけどなあ」

 トウテツは、ざっと見渡したところ、まだまだ三十匹近く残っている。

『なんか力を貸すか?』

 ゼスチャラが、通信でそう語りかけてきた。

「そう思うんなら、なんでもいいからやってくれよ」

 ハザマは、ぶっきらぼうに答える。

「いちいち、断りをいれないでいいから」

『な、なあ。

 いつだったかの、飲み放題の約束……』

「忘れてねーって。。

 それくらい、お安いご用だ」

『それじゃあ今度は、それに女をつけてくれ』

「……女ぁ?」

 ハザマは、軽く顔をしかめた。

「女なんかでいいのか?」

『なんか、ってことはねーだろ!』

 ゼスチャラは、なぜか怒ったような口調になった。

『意外と切実な欲求だろ?』

「ああ、はいはい」

 ハザマは、軽くいなす。

「そんくらい、あとでどうとでもしてやらあ。

 こいつらの数を減らしてくれるんならなっ! とっ」

 突進してきたトウテツの角を蹴りあげ、動きが鈍くなったところで両手で角を掴み、勢いよく振り回す。

 ハザマの動きに誘導され、そのトウテツは身をよじり、横転した。

 ハザマは素早くそのトウテツの首にとりつき、背中から両腕を回して締めあげる。

 しばらくジタバタしていたものの、ハザマの腕が首を半分ほど潰すと、そのトウテツも静かになった。

『……あんた。

 おれの助けなんか、いらねーんじゃねーのか?』

 呆れたような通信が、ゼスチャラから入ってくる。

「馬鹿いえ」

 ハザマは、即答した。

「まだまだこんなに残っているんだ。

 これ全部自分だけで始末したら、疲れるじゃねーか」

 ハザマがそんな風にいったとき、

『あぶねえ!』

 ゼスチャラが、大声で警告してくる。

『矢が! 矢が!

 大量に、いきなり現れて……』

「こっちからも見えているよ」

 ハザマは素早く周囲を見渡し……遮蔽物になりそうなものはない、と、見定めると、足下に転がっていたトウテツの死体をやおら両腕に抱えて頭上に持ちあげた。


 その直後、矢の雨が降ってきた。


 トウテツの硬い体表に、矢が弾かれる音が絶え間なく響く。

「こいつも敵の攻撃かっ!」

 ハザマは、思わず声をあげた。

『そこの上の方に、直前に空間振動があったな』

 ゼスチャラが、解説してくれた。

『敵だとすれば、大規模な転移魔法が使えるやつが居ることになる。

 ……もう一度、来るぞ!

 今度は、ええと、あんたから見て右手からだ!』

「……ほうらよっ!」

 ハザマは頭上に掲げていたトウテツの死体をその右手に投げつけ、同時に、左手にむけて大きく跳躍した。

 もはや、トウテツのことなど二の次になっている。

 トウテツが何匹かいても自力でどうにかできるのだが、無数の矢のすべてを避けきる自信はなかった。

『あまり離れるなよ!

 転移の兆候をフォローできなくなる!』

「勝手なことをいうなぁ!」

 そんなことをいいながら、ハザマは次々に予想外の方向から出現してくる矢の弾幕を避け続けた。


 その攻撃は、アズラウスト公子の魔法兵団が戦闘伝令師のトグオガを始末したその瞬間まで続くことになる。


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