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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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敵と味方の作戦会議

「この二人、最初のうちはオデオツが前に出て暴れて、それでできた隙に乗じてハダットの方が突出、バリスタと投石機を破壊したそうですが……その直後に、ファンタルさんの指示で油袋をぶつけて、火矢を射たそうです。

 直後に二人とも逃げ出しましたから、しとめられたかどうかまでは確認できていません。

 なんでも、油をかぶって火矢を受けたのはハダットだけで、オデオツの方はその攻撃をする前に逃げ出していたとか」

「……その場で、よくそんな手を思いつくもんだ」

 ハザマは、感心した。

 状況を読んですぐに逃げ出した敵の判断力も、それなりにたいしたもんだとは思うが。

「油袋、って、よくそんな便利なもんがたまたまその場にあったもんだな」

「たまたまというか……投石機で投げるための特殊弾頭だったみたいです。

 小さい油袋をいっぱい、緩くまとめてから、ぽーんと放り出すと、空の上でほどけて、広範囲に散らばりながら目的地に落下していくそうで……。

 火種は、火がついた炭を無数にまとめたのを、また別に放り出すそうですが」

「……焼夷弾の発想じゃないか、それ」

 ハザマは、半ば呆れた。

 人間、そういう方向にばかり、想像力がよく働くものらしい。

「なんか、王国軍の技師が、投石機を野戦で運用できないものかと以前から研究していたらしいですね。

 飛距離も命中率も、なかなかのものらしいです。

 他にも、小石をまとめて放り出して、空中で拡散しながら落下させるものとかを使用したそうで……」

 王国軍も、なかなかエグい真似をしているらしかった。

 ま、戦争だしな。

 と、ハザマは軽く考えることにする。ここで深刻に考えはじめても、誰の利益にもならないのだ。

「それで、橋の方に現れた二人組についてですが……あちらの方には洞窟衆の関係者が少ないので、情報収集に少々手こずりました。

 幸い、この二人を目撃した兵士は多数いたので、聞き込みをして貰って特定できましたが……」

「で、どんな能力を持ったやつらなの?」

「破滅のベツメスと瞬火のマイマス。

 このうち、破滅のベツメスは音を操る能力だそうです」

「……音?」

「ええ。

 ルアのはなしでは、通信機能を担わせるつもりで大声を出す個体を作ろうとしたけど、とうてい実用的な能力者には仕上がらなかったそうで……」

 ああ、そりゃ、失敗するわ……と、ハザマも納得する。

 いくら大きな声を出したって、そんなに遠くまで聞こえるもんでもない。

「その大声が、なんだって戦闘用に?」

「役立たずとして蟄居させられたところ、自分で実用的な……いえ、実戦的な能力に転用することに成功したようです。

 なんでも、特定の、耳には聞こえない音の力で、人体を壊せるようになったとか……」

「……振動か」

 しばらく考えて、ハザマはそう結論した。

 人にとって不快な波長を見つけだしたのか、それとも特定の物体を破壊するような固有振動数を探り当てたのか。

「異能バトル物に出てくる、妖しげな疑似科学系の能力だな」

 まあ、異世界だしな、と、ハザマは深く考えないことにした。

 うるさいことをいいはじめたら、ハザマ自身の身体能力だってうまく説明できやしないのだ。

 そういうもんである、と、ということで納得しておくことにしよう。

「最後の一人は、瞬火のマイマスかと予想されます。

 この人は破滅のベツメスと組んで行動することが多くて、今回もこのドゥに一人壊されたあと、残った一人がその死体を抱えて逃げ去ったそうですが……その際の、逃げ足が早かったそうで。

 このマイマス、女性なのですが、速度に特化した能力者だそうです。

 自分にむかってくる矢を同時に何十本も叩き落とすことができるほどだそうで……」

「今度は速度特化か」

 ハザマはそう感想を述べる。

「ありがちだなあ……現実的ではないけど……」

 いってから、「今後、現実的という発想は捨てよう」と心中で自分に念を押す。

 そもそもバジルの能力からして、原理不明なのだ。

 ハザマの目から見てどんなに非現実的な現象や能力があったとしても、この世界ではそれが可能であるのだと無理にでも納得するより他ない。

 ハザマが理解することを否定をしたとしても、それらがこの世界から消えるわけではない。

 現に存在する以上、そのことから目を逸らそうとするのは、それこそ「現実逃避」というものだ。

 自分の視野を自分で狭くしても、自分自身に対してデメリットが生じるだけなのである。


「……口、鼻、目はいうに及ばず、肛門や毛穴まで、全身の穴という穴から出血している」

 千里眼のバクビェルが破滅のベツメスの遺体を確認して、そういった。

「伝令師のクツイルと同じ症状だな。

 こちらの方が、よほど重篤なわけだが」

 その頃、豪腕のオデオツ、軽佻のハダット、瞬火のマイマスらはバツキヤやバクビェルの元に集合して、ハザマたちと同じように敵戦力の解析を試みようとしていた。

「では……やはり」

 バツキヤが、先を即した。

「ああ。

 水妖使いの仕業だろう」

 バクビェルは、頷く。

「おれは、やつらの使用試験に立ち会ったことがある。

 立ち会ったというより、おれの千里眼を使ってやつらに攻撃目標である敵軍の浮き橋の様子を伝えたのだが。

 その頃のやつらは、能力の射程距離こそ驚異的なものの、水を媒介にしないとなにもできないという大きな欠点を持っていた。

 それが、いくらもしないうちに、いつの間にかこんな攻撃方法を獲得していた」

「水妖使いの能力を使用して、標的の体内にある水分をかき回す。

 生物の体内にも水分はある。

 それを思いついてしまえば、なんということもない」

 バツキヤが、バクビェルの言葉の先を引き取る。

「だけど、水妖使いたちだけでは、この攻撃方法を思いつけはしなかったでしょう。

 閉じた環境で育った彼女たちには、そうした思考の飛躍をする素養がない」

「やはり……ハザマとかいう、あの、トカゲの男の仕業か?」

 顔中に包帯を巻いた軽佻のハダットが、疑問を口にした。

 このハダットは、体表のかなり広範囲に渡って、軽度のものとはいえ火傷を負っていた。

 決して軽くはない負傷だったが、ルシアナの子らの一員として常人よりもよほど頑強にできているらしく、治療を受けたあとはいつもと変わらない様子で過ごしている。

「おそらくは」

 バツキヤが、頷く。

「状況から見て、そうとしか考えられません。

 伝令師のクツイルからもう少し証言を引き出せていたら、もっと詳しいこともわかったのでしょうが……現時点では、推測しかできません」


 クツイルは、所在がはっきりしていたルシアナの子らの一員のところへ転移してくると、

「洞窟衆のハザマによって、ルシアナが倒された」

 とのみ伝えて、意識を喪失した。

 ルシアナが倒されたことは、その後、すぐにルシアナの影響下から放たれた膨大な禽獣が部族民連合の支配を脱したことで、間接的に証明されることになったわけだが……ルシアナが倒されたときの具体的な状況、ならびに、その前後にハザマと合流した水妖使いたちとハザマとの間に、どのようなやりとりがあったのかは、不明のままである。


「やつらの間になにがあったのかはわからないが、おれとマニュルが様子をみにいったときには、水妖使いたちはやつらとかなり打ち解けていたようにみえたな」

 バクビェルが、説明する。

 水妖の使用試験の際に協力したり、その直後にマニュルとともに監視作業を行ったりと、このバクビェルと彼らの間には、なにかと縁があった。

「マニュルの獣ならば、その時点でやつらを潰せたのではないか?」

 豪腕のオデオツが、重々しく口を開く。

「水妖使いの能力が多少脅威であったとしても、不意をついた上で数で押せば……」

「……やろうとしたけど!」

 少し離れた場所で膝を抱いて座り込んでいたマニュルが、叫んだ。

 彼女は、ロック鳥が倒されて以来、落ち込んだ様子で沈み込んでいた。

「こちらから仕掛ける前に、あっさりと動きを止められた。

 そのおかげで……五百からのカッパがすっかり怯えちゃって、役立たずになるし……」

「詳細は不明ですが、任意の相手の動きを止める、というのが、あのトカゲ男の能力らしいです。

 飛竜乗り偵察隊の生き残りとかの証言からも、そのように推察できます」

「その能力の発動条件や制限は、わからないのかい?」

 瞬火のマイマスが、沈んだ声を出す。

 このマイマスは、マニュルとは違った意味で暗い表情をしていた。

「詳細は、不明です。

 なにせ、うっかり近づけばそれだけで動きを止められ、返り討ちになってしまう相手ですから。

 マニュルの偵察用の鳥も何羽か、それで帰ってきていません」

「……攻撃力はないが、いざ相手にするとなるととたんに面倒になるタイプだな」

 ハダットが軽口を叩いた。

「少なくとも、暗殺は無理そうだ」

 この男だけは、重傷を負ったあとも軽い態度を変えていない。

「防御に優れた能力だといえよう」

 バクビェルはいう。

「それに、水妖使い三人の攻撃能力が加わったのだ。

 これは、かなりの脅威ではないのか?」

「あたしとベツメスの組み合わせ以上に、危険で厄介そうだね」

 鼻を鳴らしながら、マイマスがいった。

「少なくとも、この場にいる連中だけでは手に負えそうにないな」

 ハダットは、快活にそういってのけた。

「単純な力比べの問題じゃない。

 能力には、相性ってもんがある。

 ここにいる連中の攻撃方法はだいたい近距離限定で、でも、近寄ると、あのトカゲ男のいい餌食になるばかりだ」

「それでは……」

 オデオツが、重々しい声で結論をくだす。

「……あのトカゲ男については、戦闘伝令師のトグオガが合流してから改めて協議することにしよう。

 やつの能力ならば、いくらでもやりようがある。

 おれたちは、当面、王国軍を相手にした方がよい結果を生むのではないのか?」

 もともと、オデオツら中央から派遣されてきたルシアナの子らは、ここでの紛争を早期に終結させることを目的としていた。

 トカゲ男の始末に関しては、主目的ではなく、あくまで「ついで」にすぎない。

 あの男に対する「仇討ち」に関しては、ルシアナの子らに属する者たちの間でもモチベーションにかなり差があった。

 たとえば今ここにいる連中の中で本気であの男を打倒したいと思っている者は、目の前で相棒を殺されたマイマスくらいなものだろう。今はすっかり沈み込んでいるが、もう少しして復調してくれば、ロック鳥を殺されたマニュルもやる気になるかも知れない。

 だが、他の連中はだいたいのところ、「お義理に力を一度くらいは力を貸してやろう」、程度の態度なのではないのだろうか?

「それで済めばいんですけどね」

 バツキヤが、小声で指摘する。

「森の中にいるしぶとい連中、洞窟衆というそうですが。

 それも、あのトカゲ男が率いている集団らしい。

 あの男は案外、能力とかルシアナの仇とか、そういうのとはまったく別な意味で、山岳民連合の前に立ちふさがってくるような気がします。

 少なくともわたしは、今の王国軍の中で、あの男の周辺にある勢力の動向が、一番、読めない」


「……ええっと……」

 焼け野原となった山岳民連合の野営地を散策しながら、大声でなにかを喚きたてている男がいた。

「穴が空いている方向から推測すると……ほとんど真上から降ってきているんだなあ。

 こう、小石が、上空でばらけながら落ちてくるのか。

 いくら小さくても、落下の勢いってのがあるからな。

 この下にいてまともにあたったら、まず助からない。

 あとは……同じようにして、油を撒いたのか。

 はは。

 こいつも、実に効率がいい。

 能力なしどもも、それなりに工夫するもんじゃないか。

 王国軍の中にも、いろいろ考えるやつがいるもんだなあ……」

「戦闘伝令師のトグオガ殿」

 輿に乗った貴人が、大声でそんなことをいい続けるトグオガに声をかけてくる。

「ここには、誰もいないではないか」

「確かに、死人以外は誰もいませんな」

 トグオガは、悪びれることもなく答える。

「しかし、そいつはおれの責任ではありませんです、族長。

 おれが中央から命じられたのは、族長をこの野営地まで送り届けること。

 その職務は無事にまっとうしたものと判断します」

「ほほ。

 戯れ言を」

 族長、とトグオガに呼ばれた人物は、そう応じた。

「では……トグオガ殿。

 貴殿に、新たにここの責任者を連れてくるよう、命じようと思うが……」

「失礼ながら、族長。

 おれは貴女の部族民ではありませんし、おれに命令をする権限は中央にしかありません。

 どうしてもというんなら……そうですね。

 お願いしてください」

「……お願い?」

 族長の口の端が、吊りあがる。

「今、このわらわにお願いをしろと、貴殿はそういったように聞こえたが?」

「ええ。

 確かにおれは、お願い、といいました」

 トグオガは、涼しい顔をしてそう返す。

「おれは、尊大なお偉いさんに顎で使われるのは好みませんが、同時に、美人の頼みを無碍することもありません。

 ですが……そのお願いも、今はする必要がなくなったようです」

 そういうトグオガの視線は、輿の背後に注がれている。

 そこには、黒衣の兵団がいた。

 やけに、数が多い。おそらくは、万の単位だろう。

 気になるのは……その兵団が掲げている旗印のひとつに、やけに見おぼえがあるものが混ざっていることだった。

「どうやら……貴女の息子さんが、強力な援軍を引き連れて帰還したようです」


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