魔法使いたちの考察と意見
「だからさあ。
見つけるのも戦うのもしんどい。
そんな厄介な相手と、無理して正面切って対決する必要もないだろうってこと」
魔法使いのゼスチャラがいかにも面倒臭そうな口調でいった。
「正体は不明だけど、今の時点では、強襲型の飛竜並みにヤバい相手って想定しているわけだろ?
そんな連中に、空の上で戦う必要も別にないんじゃねえのか?
なんでわざわざ、相手の得意な場所で雌雄を決しなけりゃならん」
「では、どうするのか?」
ハメラダス師が、ゼスチャラに訊ねた。
「他の対処法を思いついたのか?」
「対処法というか、やつらの拠点を見つけ次第、壊滅させていけばいいんじゃね」
ゼスチャラは、素っ気ない口調で答える。
「こちとら、空での戦いにこそ慣れていないが、まとまった人数の魔法兵が空中戦闘訓練を受けているところだ。
そっちの兵力で、空から敵の拠点を片っ端から叩いていけば、そんなに苦労せずにやつらを困らせることが出来るはずだろ?」
「なるほど」
アズラウストは神妙な表情になって頷いた。
「さほど苦労せずに相手を困らせることは、とても大事ですね」
アズラウストにしても、
「苦戦する相手と戦ってこそ、勝利の価値がある」
などという精神論的な価値観を持ち合わせてはいない。
避けられる戦いは避け、その上で、敵側に着実な打撃を与える方法の方が、より好ましかった。
「楽をする方法を着想することにかけてだけは天才的だな、お主は」
ハメラダス師はゼスチャラの顔をまじまじと凝視しながらいった。
「思考法が、魔法使いらしからぬ方向性にばかり長けている」
「省力化ってのは、大事な要素ですよ師匠」
ゼスチャラは軽く顔を顰めながら応じる。
「特に今回はいくさなわけで。
ここで苦労するってことは、それだけ味方の被害が大きくなるってことだ。
それを避けようとすることは、むしろまっとうな発想なんじゃないっすか?」
「いや。
まったくおっしゃる通りで」
アズラウストは、その言葉に深く頷く。
「そうですね。
強敵を、正面か破るだけが戦いではありませんよね」
「空中からの、大規模攻撃術式の使用」
エルフのトスタラテがよりそう詳細な構想を語りはじめる。
「現用の、砲撃術式かそれに類似する術式を地上の一点に向けて放つ。
困難はそれなりに予想されるが、それは訓練、演習によって克服可能。
少なくとも、自在に空を飛び回る飛竜のような存在を相手にするよりは、よほど難易度が低い」
「そうした拠点は、動いて逃げたりせんからの」
ハメラダス師もコメントした。
「凧があがる高度から地上の一点を狙うとなると、それに修練も必要となるかと思うが」
「トスタラテがいった通り、難しさは格段に減る」
ゼスチャラも、そういって頷く。
「たとえ飛竜であっても、寝床を片っ端から潰されていったら、少なくとも万全の状態で稼働は出来ねーだろ」
「寝床と餌場がなくなれば、どんな生物であっても困ったことになりますからね」
アズラウストはそういって肩を竦める。
「飛竜の巨体を維持するためには、相応に大量の食物も必要になるでしょうし」
「敵側が実際に何体の航空戦力とやらを保有しているのか不明ではあるが、拠点を片端から潰していくというのは手だな」
ハメラダス師は、自分の顎を撫でながらそういった。
「簡単で、効果的だ。
手の抜き方を考えさせたら、このゼスチャラの右に出る者はいない」
「なにより、こちらの被害が少なくなりそうな方法なのが、都合がいい」
アズラウストも、そう断言した。
「魔法兵は、ただでさえ育てるのに費用と時間がかかります。
その損耗を防げるのは、正直にいえばかなりありがたい」
「火力自体は、こちらも十分に保有していると思うんだよな」
ゼスチャラはいった。
「ただ、飛竜とか、身軽に空を飛び回るのようなのが相手だと、そのせっかくの火力も空振りに終わる可能性が高くなるわけで。
同じ魔法を使うのなら、より当てやすい標的に集中した方が、ずっと効率がいいだろうよ」
「拠点は、動いたり逃げたりしない」
トスタラテも、そういって頷いた。
「そういう相手を一方的に高所から叩くだけなら、こちら側が被害を受ける可能性も限りなく低く出来る」
「そして、一度破壊された拠点を再建するためには、多くの時間と費用が必要となる」
アズラウストは、そう付け加える。
「そうして再建しようとしている間にも、まともな休養場所を失った飛竜たちは弱っていく」
「問題となるのは、その拠点の位置をこちらが正確に把握しておらんことだな」
ハメラダス師が指摘をした。
「とはいえ、あの男はその手のことに関しては抜かりがないから、今頃は各所に手を回して、関連情報も含めてせっせと集めているところだろうが」
「ハザマ男爵が、その手のことに手を抜くとは考えられませんからね」
アズラウストも、そう受け合った。
「今頃は外交筋とか間者とかを駆使して、集められる限りの情報を集めている頃でしょう」
「情報という無形のもの。
その価値を、誰よりも重んじている男だから、あれは」
トスタラテがいった。
「拠点の位置その他、敵側の子細については、いずれ自然と判明するはず。
こちらとしては、そうした情報が集まる前に、演習などの必要な準備をすべて終えておくことが大事」
「地上への一点へ攻撃を集中させること」
アズラウストは頷く。
「そのことだけに専念をするつもりで調整すれば、その準備もごく短時間のうちに終わるはずです。
難しいといえば難しいですが、なにがどう難しいのか、想像が出来るたぐいの難しさですから」
「どこに居るんだかはっきりしない、空の敵と交戦することよりは遙かに簡単だわな」
ゼスチャラもいった。
「なにをどう訓練すればいいのか。
具体的な目標が提示されているのといないのとでは、苦労の仕方も随分と変わってくる」
「しかし、遙か上空から地表へ向けた集中攻撃、か」
ハメラダス師が感心したような口調になる。
「前例がないことは、間違いがないわな。
飛竜らのブレス攻撃も、基本的は地表近くに降下してから行うものだし」
「彼らも、基本的には獣ですからね」
アズラウストは、想像で語った。
「自分の体から遠く離れた場所へ攻撃する、という習性がないのでしょう。
それに、火や毒気などは、すぐに散逸してしまう性質のものですし」
「遠距離まで届かせる工夫を重ねてきた砲撃術式とは、基本的な発想からして異なっている」
トスタラテが指摘する。
「生物の性質を利用することと、長い時間をかけて改良を繰り返し、構築してきた術式。
どちらがより使い易いのかは、明らか」
「術式は、人間が知恵を集結して組みあげたものです」
アズラウストは胸を張って宣言した。
「原理その他、なぜこの術式が現在の形で残っているのか、術式の使用者ならば例外なく理解しています」
「それ故に、修正することも改良することも、容易い」
ゼスチャラも、そう付け加える。
「今回の場合、従来の術式に一定速度で移動し続ける場所から対象を追尾するよう、砲撃軌道を修正する術式を付加する形になるのか?
あの凧、グライダーって代物は、空中の一点で停止することは出来ないってことだろ?」
「そこまで器用なものではないんですよね、あれは」
アズラウストも、いった。
「前に移動し続けないと、帆に風を受けて飛ぶことも適わないようでして。
でも、その移動速度は極端に変化するわけでもありませんから、照準を修正する術式を組み込むこと自体はそんなに難しくはないでしょう」
「それ以外に、難点が残るとすれば」
ハメラダス師が指摘した。
「標的までの距離がありすぎることか」
「その点も、海洋上の船舶から砲撃術式を使用する時と比較しても、そんなに極端に条件が違うわけでもありませんから」
アズラウストは、そう返す。
「同じ水平線上の標的に対して、山なりに放物線を描いて術式を繰り出すのと、上空から下方に向けて術式を繰り出すのとでは、かなり勝手が違うはずですが。
ただ、どちらが難しいかといえば前者の方が難しいと思います。
今回の場合は、単純に慣れの問題でしょう」
「であれば、演習を繰り返すことによって解消可能」
トスタラテが、そう結論する。
「空中から地表への、砲撃術式による狙撃。
おそらく、史上初の事例になるはず」
「早速、演習課程の調整をはじめましょう」
アズラウストはそういって、頷く。
「より精密な狙撃が可能になるよう、兵たちを鍛えておきます」




