空戦の対策会議
ハザマは、基本的にはいい加減でその場しのぎ、その時々のノリで判断している場面も多々ある。
しかし、いくつかの事項については、かなり頑迷な、妥協をしない部分も持っていた。
ハザマが元居た場所について、いくばくかの内容については、かなり親しい者にも決して明かそうとはしない。
ハザマがそうまでして秘匿しようとするのならば、それには相応の理由があるのだろう。
ハザマに近く、その立場や心情について理解がある者ほど、漠然と、そんな理解の仕方をしていた。
理解、というより、ハザマがそこまで口を閉ざしているのならば、その内容をそれ以上探る方法はない。
そういった、諦観に近い認識の仕方であったのかも、知れなかったが。
ともかくも、その件について、ハザマが、
「あえて口を閉ざす」
選択をした場合、それ以上に追求をするのは無駄なのだ。
これまでの経験からいっても、そう認識しておくしかない。
「空中での戦闘、それも、高速でかなり自在に飛翔するとかいう、強襲型の飛竜との戦闘を想像すると」
エルフのトスラタトテが続けた。
「つくづく、不利な要件しかないな。
風に乗るのがせいぜいの凧乗りでは、まともに対抗することはほとんど不可能に思える」
「自由度も機動性も、それに速度もまるで違うからな」
その言葉に、ゼスチャラが頷いた。
「まともな喧嘩にもならない。
仮に、こちらがそれだけ高速で移動をする飛翔体に対して、まともに打撃を与えることが可能な武器を持っていたとしても、だ」
「そうした飛竜とグライダーとでは、丸木舟とマスト付きの帆船以上の格差がある」
ハメラダス師は、淡々と言葉を紡いだ。
「現実問題として考えると、実際の格差はそれ以上のものだろう。
この不利は、よほどこのことがないと覆すことは出来ないものと思われる」
「おまけに、グライダー乗りが使用可能な武器はほとんどないときている」
ゼスチャラは、そういってため息をついた。
「いっそのこと、空で勝負することはすっぱりと諦めて、他の部分で負け分を取り返そうとする方が現実的なんじゃないか?」
「その、他の部分での勝負については、仲間の活躍に期待するとしましょう」
アズラウストは、そう応じる。
「彼らも今頃は、われわれと同じくらいには頭を振り絞ってよりよい方法を模索しているはずですから。
今のわれわれは、目の前にある課題に集中しておいた方がいいです」
「あの凧に魔法兵を乗せる、という案なんだがなあ」
ハメラダス師は、そんなアズラウストの顔を見つめながら、そういった。
「実際のところ、どこまで有効だと思うか?
攻撃用術式の威力はそれなりのもんだが、高速で移動し続ける物体に命中させるのはかなり難しい。
貴重な魔法兵を、そんな、成功するかどうかも定かではない作戦に用いても、いいものかどうか?」
「成功するかどうかも定かではないからこそ、試してみるんですよ」
アズラウストは、そういって肩を竦める。
「われわれが空を飛べるようになって、まだ日が浅いですしね。
この方法に限らず、少しでも成功する可能性があることは、片っ端から試してみる。
今の時点では、それくらいの気概で行くべきではないでしょうか?」
「攻撃対象が絶えず高速で移動すること、対象との距離が変わること、それに、空中では方向だけではなく高低差という概念まで考慮しなければいけないこと」
エルフのトスラタトテは、淡々として口調で続ける。
「諸々を考えると、魔法兵に対し、短期間のうちに空中戦闘に熟練することを望むのは現実的ではない」
「高低差かあ」
ゼスチャラが、またため息をついた。
「空中だと、そういう要素も出て来るんだよな」
「ちなみに、高度がある方が低い位置に居る者よりも有利になるものと予想される」
トスラタトテが説明した。
「特に物理的な投射攻撃の場合は、落下速度までもが攻撃力に加わる」
「攻撃術式は純粋な物理攻撃というわけではないが、それでも下から上へ撃つよりはその逆の方が有利ではあろうな」
ハメラダス師は、説明を補足する。
「上へ撃つよりも、下へ撃つ方が、射線を想像しやすい。
われら人間の認識というのは、案外、これまでの経験に依存している部分が多い」
「命中率があがるってわけか」
ゼスチャラは、げんなりとした表情でいった。
「敵よりも小回りが利いて、絶えず上を取るようにしていた方が、攻撃をしやすい、と。
対して、現実にはおれたちのあの凧は……」
「機動力という点でいえば、まったくおはなしにさえなりませんね」
アズラウストはそういって、また肩を竦めた。
「軽量化を徹底して、ようやく風に乗って空に浮かべるような状況ですから。
強襲型の飛竜と、比較する対象にすらなりません」
「飛竜と同等の、までは望まないにせよ、グライダーの機動力を向上することは可能?」
トスラタトテは、そういって首を傾げる。
「改良の余地は?」
「絶望的です」
アズラウストは、あっさりと答える。
「ほぼないと、そう思ってください。
あのグライダーは現状でも、材料その他を吟味した上で、ようやく実用化にこぎ着けた代物です。
都合よく技術革新でも起こらない限り、性能面でいきなり向上することは考えられません」
「こちらに不利な材料しかないではないか」
流石のハメラダス師も、げんなりとした表情になった。
「さらにいえば、相手の飛竜乗りたちは空で戦うことに慣れているというのに、こちらの経験はまだまだ浅い」
「こんな不公平な状況を、どうひっくり返せってんだ」
ゼスチャラが弱音を吐いた。
「無理難題もたいがいにしろって!」
「強いていい材料を探すとすれば、こちらの士気は案外高いということ」
トスラタトテは、そう続ける。
「空偵隊員と、空中訓練を受けている新規の兵員たちは、とてもやる気になっている」
「今はな」
ゼスチャラがいった。
「仲間がやられたことに対する意趣返しをしたいという気持ち。
それに、新しく訓練を受けはじめた連中は、自分たちが空戦という目新しい戦法の先駆けとなることに興奮している。
連中、まだ今の状況を客観的に評価出来ていないんだ」
「少し時が経てば、その士気も萎むというか」
ハメラダス師は、自分の顎を撫でながらそうコメントした。
「そういうことも、まるであり得ないとはいわんが。
ただ、この事件から新規に訓練を受けはじめた連中は、案外、状況が見えているはずだからな」
「現在空戦訓練中の人員は、うちとか街道整備公団、それに治安維持軍から選りすぐられた精鋭です」
アズラウストは指摘した。
「彼らとて、素人ではありません。
現状認識は、相応に出来ているはずです」
「本当にそうだとすりゃあ、やつらは極めつけのアホだ!」
ゼスチャラは断定した。
「冷静に考えれば考えるほど、勝ち目がない相手じゃないか!」
「ゼスチャラさんは、なにか考え違いをしておいでですね」
アズラウストは、冷静な声でいった。
「これは、一対一の決闘などではありません。
そして、敵は、単体でどんなに優れた能力を持とうとも、数が限られています。
おそらくは飛竜であると予想される敵を、ほんの数体倒してしまえばもはやこの空に脅威は存在しなくなります」
「敵の数十倍、あるいはそれ以上の犠牲が味方に出ることを前提にして、か?」
ゼスチャラは、珍しく険しい顔つきになった。
「おれは貴族様の、そういう考え方が嫌いだね!」
「われわれは別に、誰にも無理強いなんてしていませんよ」
アズラウストは、静かな声で指摘をする。
「こうした不利な条件はすべて説明し、その上で志願をして来た者たちが現在訓練を受けているのです」
「志願してきたからといって、無駄に戦死者が出るのをみすみす見逃すわけにはいかんだろう」
ハメラダス師が意見を述べた。
「敵に勝てる手が思いつかないのなら、せめて、負けない手を。
つまり、少しでも生還率があがるような策を講じるべきなのではないか?」
「単純に生還率をあげるだけなら、出撃する全員に転移札を持たせるのが有効」
トスタラテが発言する。
「ただこの施策は、生還率は確実に向上するが、根本的な事態の解決にはなんら貢献しない」
「例の凧、グライダーだってただじゃない」
ゼスチャラは指摘した。
「人員の安全が多少守れるにせよ、むざむざ敵にやられるために出撃するってのも、無駄じゃないか?」
「その無駄をあえてやって、敵の動向を掴むというのも手ではあるな」
ハメラダス師はいった。
「それを何度か繰り返せば、相手の順路、その傾向くらいは把握出来るようにはなる」
「敵に、こちらがまだ有効な対応策を思いついていないと、そう思わせるわけですか?」
アズラウストはハメラダス師に確認した。
「敵を撃退する方法は思いつかなくても、その手口を探ることくらいは出来る、と」
「対抗とか撃退をする方法は、これから頭を振り絞って試行錯誤を重ねるくらいしか、思いつかん」
ハメラダス師は答えた。
「ただ、有効な策を思いつくまで、こちらがなにも手出しをしてはいけない。
そんな法もなかろう」
「薄皮を一枚ずつ剥いでいくように、相手の手口を少しずつ解きほぐしていくわけですか」
アズラウストは、そういって頷いた。
「現状では、それくらいしか手の打ちようがなさそうですね」




