問題解決の方法論
結局、ハザマが知りたいのは、この世界に存在する航空戦闘力、その詳細について、だった。
飛竜とかいう、人間が乗れる竜については以前、目撃しバジルに墜落させた経験があるのでその存在も知っている。
その時に生き残った乗員から、竜にもいくつかの種類があり、その時に堕とされた竜は比較的温厚な、運動能力や機動力に欠けた種類だということも聞いていた。
ということは、それ以外にも、機動力を持ち空中戦を得意とするような竜が存在していても、おかしくはない。
とはいえ、この世界でそうした空中戦をするような状況が発生するものなのか、ハザマにはまるで判断が出来なかったが。
それに。
と、ハザマは思う。
空を飛べ、人間の意のままに操作可能な存在が、竜以外にも居るのかも知れない。
とにかく、そちら方面に関して、ハザマはほとんどなにも知らないといってもいい。
これまで、知る必要もなかったので、調べたことがないからだった。
竜以外の可能性は別に探るとして、まずは既知の存在である竜関連について、山地方面に確認して見る。
着手するあてがあるところから手を着ける形であり、手順としては順当に思えた。
「意図としては理解出来ます」
マヌダルク姫は、ハザマに断りを入れた。
「ただ、山地といっても広いですし、洞窟衆と交渉した経験がある勢力は限られています。
探りを入れるのはいいとしても、まったく成果が得られない可能性もあります。
その辺はご了承ください」
「部族のやつらも、かなり数が多いからなあ」
ハザマは、ため息混じりに応じる。
「その辺は、仕方がないものと割り切るしかないでしょう」
そもそも、この手の情報収集とは、基本的な性質として無駄が多いものなのだ。
「手当たり次第に情報をかき集めれば、その中に、ごくまれに役に立つものが混ざっている」
程度の感覚が、ごく普通なのだ。
効率を追求しようとすると、
「自分が欲しがっているタイプの情報ばかりを集める」
ということにも、なりかねない。
もちろん、これでは正確な分析など望めないから、この手の作業は最初から効率性を無視して手当たり次第に関連がありそうな事項を収集するしかなかった。
「おれはこの世界の事情に詳しくはないのでうかがいますが」
ハザマはマヌダルク姫に訊ねた。
「うちのグライダーを襲える相手として、竜以外の可能性はありますか?」
「ええと」
マヌダルク姫は一瞬思案顔になった後、こう答えた。
「ゴロジオ王国の王様、とか?」
「確かにあいつなら可能なのかも知れませんが」
ハザマは真面目な表情で頷いた。
「そんなことをしでかす動機がありませんね。
念のため、アリバイを調べさせておきますが」
「確認することは大事ですが、おっしゃる通りあの方はそんなことはしないでしょう」
マヌダルク姫もそういった。
「うちの空偵隊が、いつの間にかあの王様から深い恨みを買っていた、ということもなさそうですし」
「空偵隊が出来たおかげで、あいつの仕事がほとんどなくなった、とは聞いていますけどね」
ハザマは説明した。
「ただ、あいつは、どうもそういうことを恨みを感じるようなタイプではないらしい」
仮に恨みに感じていたとしたら、あの男ならばもっと表だって、自分の仕業だとわかるような形で報復を行うはずだ。
と、ハザマはそう思っていた。
あの王様は粗暴で馬鹿だが、少なくとも闇討ちとか陰に籠もった方法は選択しない。
馬鹿は馬鹿でも、あれは開けっぴろげな、陽性の馬鹿だ。
「同感です」
マヌダルク姫はハザマの言葉に頷く。
「あの王様の仕業だとすれば、おそらくはもっと派手な、自分がやったと誇示するような方法を選択するでしょう。
そうでなければ、自分の手を汚す必要がないと考えるタイプの人です」
その辺の評価は、マヌダルク姫もハザマと同じのようだった。
「竜以外の可能性となりますと」
マヌダルク姫は、説明を続ける。
「高名な魔法使いが幾人か、空を飛んだことがあると聞いています。
ただこれも、自由自在に飛翔するというほどではなく、空偵隊のグライダーを狙って連続して妨害するのは、現実問題として難しいかと」
単純に空を飛べることと、その状態を維持して自由度を確保する能力とは、また別個の性質を持つ。
「魔法使いの線は薄いですか?」
ハザマは確認した。
「知らぬ間に、誰かが空中での機動力制御を可能とする術式を開発したとすれば、可能ではありますが」
マヌダルク姫は、慎重な口ぶりで答えた。
「ただ、現実問題としては、かなり難しいでしょうね。
空中での姿勢や移動を制御するだけで、その魔法使いは手一杯になるかと思います」
「そうですか」
ハザマは頷いた。
ハザマは別にその手の魔法に詳しいわけではない。
ただ、説得力はそれなりにあるような気はした。
「現実的な線で考慮すると、すでに挙げられている、なんらかの竜を使ったのか、あるいは、別の乗獣を使ったのか」
マヌダルク姫はいった。
「そんなところですか」
「別の乗獣?」
ハザマは首を傾げる。
「竜以外にも、人を乗せて空を飛べる動物が存在するのですか?」
「存在することは、存在します」
マヌダルク姫は即答する。
「ただ、とても珍しい。
飛竜は、数こそ少ないものの、飼育法や訓練法が確立され、継続的に運用されています。
その他の空を飛べる乗獣は、そこまで確実な運用方法は記録に残されていなくて、ほとんど伝承の中だけの存在だと思ってください」
人を乗せて空を飛べる動物自体は、存在する。
しかし、そのための具体的なノウハウはほとんど残されていない。
と、いうことらしかった。
そういう動物を手なずける、特別な性能を持った人間が都合よく現れれば、空偵隊を連続して襲うことも出来そうだった。
が、現実に考えると、その可能性はほとんど無視していいほどのものだ。
というのが、マヌダルク姫の判断だった。
ハザマも、
「そんなところだろうな」
と、納得する。
動物飼育、それも、人間の意図通りに使役するためには、大小様々なノウハウの蓄積が必要になる。
ある種の竜についてはその蓄積が存在するが、それ以外の空を飛ぶ獣に関しては蓄積がない。
だったら、後者の可能性は除外しても問題はない。
「竜かあ」
ハザマはぼやく。
結論として、一番可能性が大きいのは、その線だった。
「ここに来て、竜退治をやることになるとはなあ」
「退治、するんですか?」
マヌダルク姫はハザマに訊ねた。
「なにぶん空の上ですから、かなり困難な仕事になると予測されますが」
「やりたくはないけど、やるしかないでしょう」
ハザマはいった。
「つまり、犯人がすぐに判明して、その相手との交渉なり恐喝なりをして、襲撃を止めさせることが可能なら、そうする必要もなくなるわけですが」
そうした解決方法は、実際には難しいだろうな。
と、ハザマは予想している。
不可能だろうとは思わないが、相手の特定にまで時間がかかり過ぎる。
その上、首尾よく相手が判明したとしても、こちらの要求を相手側が撥ねのける可能性も大きかった。
わざわざ執拗に嫌がらせをしてくる相手なわけで、そんな者と友好的に交渉を出来ると考える予測するのは、あまりにも脳天気だ。
むしろ、決裂する可能性の方が、どうあがいても大きい。
「でも、具体的にどうやって?」
マヌダルク姫は、ハザマに訊ねる。
「空偵隊のグライダーとやらも、上空を漂うのがやっとで、かなり不自由な代物だと聞いていますが」
そんな頼りない存在で、どうやって飛竜を退治するのか。
マヌダルク姫が突きつけてきた疑問は、実にもっともなものだった。
「それは、これから考えます」
ハザマは即答する。
「みんなで考えれば、どうにかなるでしょう」
気軽な口調だったが、それなりにシリアスな状況だった。
状況で森東地域内での洞窟衆の進出が遅れると、今ではかなり大きな影響が出てしまう。
森東地域の経済が、街道開発事業が拡大することを前提にして発展しているせいだ。
これ以上、その手の事業が停滞してしまうと、洞窟衆はもちろんのこと、森東地域内の有力者たちもかなりの痛手を受けるはずだった。
ようやく経済的な発展が勢いに乗ってきたこの時期、その勢いに水を差されるのは、ハザマとしても避けたかった。
「つまり、出来るだけ早期にこの問題を解消しなければならない」
ハザマは、小さな声で呟く。
「いつものことながら、無理難題だよなあ」




