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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ホロキロの異変

 この時期のトカゲ野郎ども、こと、洞窟衆の側が無風順当な状態であったわけではない。

 組織自体の急激な成長、すなわち構成員の人数が急激に増えたことが原因となった軋轢は頻発していたし、それ以外にも大小様々な困難に直面していたわけだが、だいたいはそうした困難への対策にも大人数を投入し、一種の力業でどうにか誤魔化していた。

 失敗とその対応策について、ハザマはかなり意識的であり、なんらかのトラブルが発生すること自体は仕方がないと割り切っていたが、そのトラブルを解決することに関してはかなりの資金と人手を投入して、迅速に対処する傾向があった。

 その上で、状況や対応策についても詳細に記録させ、同じようなトラブルがあった時にはより迅速に解決可能な状態に持っていく。

 失敗例とその解決方法を分類、整理し、蓄積し、共有することによって、トラブルに強い体質になるよう、組織を改善していった。

 手間や人手、資金などを膨大に消尽し、地道であまり目立たない努力だったが、そうした努力をある程度意識的に継続していないと、洞窟衆なり冒険やギルドなりの足元はかなり危うくなる。

 組織が巨大化するということは、そういうことでもあり、ハザマのところにまであがってくる苦情の件数がそのことを物語ってもいた。

 ハザマにしてみれば、自分自身の仕事を減らすためにも、もっと下流の現場レベルで積極的にトラブルを防止する機構を構築していかないと、身が持たないのだ。

 つまり、この時期、洞窟衆の活動が順調に見えたのは、たまたまとか幸運だけが原因ではなく、洞窟衆側が意識的にトラブルの芽を摘むための努力をしてきたことも一因となっていた。

 ただ、そうした地道な努力は、外部からはなかなか見えにくいのだが。


 トラブルへの対策だけではなく、洞窟衆は、外部の人間から見るとにわかにはその効能が理解しにくい活動をすることが、たまにある。

 ハンググライダーを組織的、継続的に運用して周辺地域を偵察する事業などが、その一例だろう。

 人間が空を飛べる。

 そのことを証明したこと自体は、驚きを持って迎えられていた。

 が、

「それが実際になんの役に立つのか?」

 と問われて、明確に返答できる人間は少なかった。

 情報の重要性自体がまだまだ広く認知されていなかったからだ。

 ただ、そうした疑問も、この空偵隊の活躍によって定期的に公表されていた地形図や鳥瞰図といった成果が衆目に晒されていくに従って、自然と氷解していった。

 空を飛べば、かなり遠くの情景までが視界に入る。

 そのことが常態化した結果、どんな事物を知ることになるのか。

 想像力が乏しい人間にでも、そうした成果物を実際に目にすれば、即座に理解することが出来たからだ。

 遠くまで見通し、その情景を大勢の人間の間で共有可能になる。

 そのことがもたらす効果は、甚大だった。

 そうした空偵隊がもたらす成果物を目にすることによって、それまで徒歩の範囲でしか世間を知らなかった人々も、自分たちが立っている大地の広さを知ることになる。

 同時に、街道整備事業の規模なども、意識しないわけにはいかなくなった。

 自分たちの周辺で行われている営為の意味について、たとえば、日々地元に届く膨大な物資がどんなに遠くから運ばれて来るものなのか、大勢の人たちがかなり明確に想像するようになった。

 それは同時に、そうした事業を可能とする、洞窟衆という組織の権勢について理解を深めていくことにも繋がっていくのだが。


 空偵隊は現在でも千機以上のグライダーを所有し、その半数以上が毎日のように実働していた。

 空偵隊の基地は何カ所かに分散され、多くは沼地や湖など、広い水場に隣接した地点にいくつかの櫓を組んで、そこからグライダーを飛ばしている。

 魔法により上昇気流を作り出し離陸する、という方法も併用されていたが、そうした魔法使いの人数がまだまだ少なかったため、高所から飛ばすのが現実的な対処法だった、からになる。

 離陸のための櫓が水場に隣接した場所に作られたのは、墜落事故が発生しても、硬い陸地よりは水の上の方が人員が助かる可能性が大きかったからだ。

 グライダーにより人間が飛べるようになった、とはいっても、まだまだ具体的なノウハウの蓄積が十分ではなく、事故に対する備えを怠るわけにはいかなかったのである。

 こうした空偵隊の拠点は、洞窟衆が進出した地域の外縁部に点在していた。

 空偵隊の役割にある情報収集も、まだ進出していない地域を中心として行われるわけで、そうした拠点も外縁部に作られる必要性があったわけだ。

 グライダー乗りは、常時募集されていた。

 無論、名乗り出た人間がすべて採用されたわけではなく、その中から小柄で体重が軽い者、視力がいい者、機転が利き頭が回る者、絵心がある者、などの条件により選抜される。

 そうした条件を満たしていても、訓練の過程で「適性なし」と見なされて排除されることもある。

 つまり、グライダー乗りとして採用されるのは、それなりに狭き門であった。

 その分、危険手当も込みで相応の好待遇であったわけだが。

 また、このグライダー乗りは性別に関してなんの制限も設けていなかった。

 そのおかげで、意欲的な女性が名乗り出てくることも多く、実際に採用される比率としては、女性の方が若干多めだった。

 男性は他にも高給を得る機会や場所が多かったのに対して、女性が同じような条件で働ける場所はほとんどなかったから、自然と大勢の女性がこのグライダー乗りを志望した形だ。

 冒険者ギルドをはじめとして、洞窟衆関連の組織でも事務職なり管理職なりを常時募集し、これも別に、性別による制限があるわけではなかった。

 が、そうした職務を遂行するためには、基礎的な教養がある程度必須であり、意欲がありさえすれば誰も採用されるわけではない。

 その点、グライダー乗りは、他の専門職よりは採用されるハードルが低かった、といえる。

 専門知識などを持たなくても、本人の意欲と適性さえあれば、どうにか採用される目があったからだ。

 このグライダー乗りという新手の職種も、職業婦人という人種が一般的になる傾向に拍車をかける役割を果たしていた。


 空偵隊は、通常同じ場所を何日もかけて、情報収集を繰り返す。

 人間の記憶は案外いい加減なものであり、複数名に空から見た光景を絵にして提出させても、細かな食い違いは自然と出て来た。

 河川の形状など、大きなものの形はだいたい一致するのだが、それ以外の家屋の数や形状、木立の位置などは、割合、観測者によって違いが出てくる。

 記憶違い、というより、細かい部分に関しては、最初からそこまで詳細におぼえているわけではない。

 ということなのだろう。

 なにせグライダーは、その性質上、空中で静止することが出来ない。

 通過した地上の詳細をすぐに思い出して正確に描くことが出来る人間は、ほとんど存在しなかった。

 そのため空偵隊は、同じ場所の上空を繰り返し往来し、前に提出された絵図面との異動を確認しながら、より正確な情報を得ようと努める。

 最終的には、そうした絵図面を手にした上で該当箇所を訪問し、確認をしていく形になるわけだが、空偵隊が仕事をする地域というのは、つまりはまだ洞窟衆の影響圏に組み込まれていない、かなり遠い場所になる。

 そうした、地上経由での確認が行われるのは、実際にはかなり先のことになった。

 つまりは、天候条件がいい日は、ほぼ毎日のように空偵隊が出動し、繰り返し同じ場所の上空を行き来する。

 情報の正確さを求めようとすると、自然とそうなるのだった。

 その日、ホロキロという拠点を発った一群は、そうした日常的な空偵任務にあたっていた。

 空偵隊は通常、三機以上の編成で飛行プランが立てられる。

 複数の人間が同時に確認した方が、情報の正確性を確保しやすいためだ。

 この日、ホロキロを出たのは五機のグライダーだった。

 空偵隊自体が発足してからまだ日が浅いため、ベテランとはいいがたかったが、全員、すでに何回かの空偵任務に当たっており、それなりに手慣れた人間ばかりだった。


「おい!」

「南南西の方向!

 なんか来るぞ!」

「なんかって、この上空でか!」

「実際に来ているんだから仕方がない!」

「自分の目で確認してみろ!」

 目的地へ着く前に、その空偵部隊はにわかに騒がしくなった。

 こうしたグライダーの編隊は、飛行中は相互に距離を取るのが通常の対応だったが、全員が通信札を使用しているため、意思の疎通に困ることはない。

「あれは……」

 問題の方向に顔を向けた者が、確かにそこに点があることを認めた。

「……竜?

 飛竜か?」

「そんな可愛いもんじゃなさそうだ!」

「全機散開!

 別々の方向に、一目散に逃げろ!」

「あの勢いを見ろ!

 かなりの速度だ!」

「やつは羽ばたいている!

 それも、かなり力強くだ!」

 飛来してくる点は、見る間に大きさを増した。

 それは、それだけ高速で、こちらに向かっているということを意味する。

 この広い空で、偶然遭遇したということは考えにくい。

 こっちに来るのが、あいつの目的なのだ。

 そして、空偵目的とするグライダーには、空中の敵に対抗する手段はない。

「あれは、噂に聞く強襲用の竜だ!」

 誰かが、そう叫んだ。

「とにかく、逃げろ!」


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