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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ケイシスタル姫の感覚

 このところケイシスタル姫は森東地域の有力者たちと会談する機会が多い。

 そうした有力者たちはおおむね森東地域の開発事業を肯定的に捉えていたので、治安維持軍とも利害が衝突することはなく、そうした会談はだいたい穏当なうちに終わることがほとんどだった。

 治安維持軍の規模はこの周辺地域にとっては未曾有のものといってもよく、正面からまともに事を構えようとする気にもならないようだ。

 治安維持軍の意図、すなわち森の西側の治安を脅かすつもりがなければ、敵対することはない、ということを事前に周知させていたこともプラスに働いている。

 地元の有力者たちと治安維持軍との利害は衝突していない。

 それどころか、治安維持軍としては森林貫通街道の造営を手伝っていた延長で、周辺地域の街道整備事業についても労働力を提供する予定になっている。

 治安維持軍としても、物資搬送と人員輸送の利便性が増すことは歓迎するべきであり、なにより多すぎる労働力を遊ばせておくよりはそうした事業に利用する方がよかった。

 そうした、抱え込んだ多数の人員に対して常に仕事を与え、不満が出ないようにすることもケイシスタル姫ら、上層部の人間の重要な役割なのだ。

 物資搬送手段の効率化は軍事的な見地から見ても重要な仕事であり、治安維持軍としても軽視出来なかった。

 結果、そうした会談は最初にお互いの利害関係について確認した後は、もっぱら実務的な打ち合わせに終始することになる。

 治安維持軍の人員をいつ、どこに配置させて働かせるのか。

 そういった詳細を、具体的に詰めるだけもそれなりの手数が必要となる。

 そうした労働力を移動するにしても、途中で必要となる物資や宿泊、休憩する場所なども手配する必要が出て来るわけであり、地元の人間たちとそうした子細を打ち合わせし、合意を取りつつ計画を具体化していく作業は、それなりに手間ではあるのだ。

 結果からいえば、治安維持軍が配置される場所は街道整備事業がまだあまり進んでいない地域が中心になるわけであり、つまりは現在、森から出て来たばかりの治安維持軍の大半はかなり長い距離を移動する必要が出て来る。

 通信とすでに整備された街道があるので、途中の連絡や交通が途絶する心配はなかった。

 が、治安維持軍としても経験がないほど広大な地域に兵を配置することにはなるわけで、運用面での不安もそれなりに存在した。

 経験がない、ということは、つまりは具体的なノウハウを持っていないということであり、つまりは手探りでやっていくしかない。

 そうした不安について、現地の人間に悟られるわけにもいかない。

 まあ、やってみれば、どうにかなるじゃろ。

 ケイシスタル姫としては、その辺はかなり楽観的に捉えている。

 これまでだって、ケイシスタル姫は成功例がない仕事をこなしていたわけであり、ここで失敗をしたとしても、それはそれで構わないのではないか。

 などと割り切っている部分もあった。

 治安維持軍に関していえば、これまでがむしろ出来すぎの結果を出し続けていたわけであり、仮にこの森東地域で瓦解をするようなことがあったとしても、ケイシスタル姫としては不満に思うことはない。

 そこで終わるならば、所詮そこまでの代物でしかなかった、というだけのことじゃな。

 と、本心からそう思っていたのだ。


 ケイシスタル姫はゴドワという拠点でガンガジル王国のバイデアル王子と面会する機会を持った。

 それなりに因縁がある相手であったが、ケイシスタル姫にしてみればスデスラス王国の件で戦った相手が多過ぎて、治安維持軍が降した相手についてもいちいち深く印象に残していたわけでもない。

 ひさびさに顔を合わせたバイデアル王子は、以前ほどの覇気がなく、それどころか若干疲れているように見えた。

「最近は、洞窟衆の手先としてここの連中を教化する仕事をしている」

 挨拶もそこそこに、バイデアル王子はそんなことをケイシスタル姫に告げた。

「教化?」

 当然、ケイシスタル姫は首を捻った。

「はて、御身は信心深い方であったかの?」

「今も昔も、そっちの関心はほとんどないがな」

 バイデアル王子はいった。

「教化というのは、もののたとえだ。

 とにかくここの連中は物を知らん。

 なにからなにまで、逐一段階を踏んで教えなければ使い物にならん」

 そういうことか。

 と、ケイシスタル姫は納得した。

「いずれ、誰かがやらねばならぬ仕事じゃろう」

 その場では、そう応じておく。

「御身の家中ならば、適任であるとは思うが」

 それに、別にガンガジル王国勢だけがそんな仕事をしているわけでもないはずだしの。

 と、ケイシスタル姫は考える。

 同じような仕事は、この森東地域のそこいらで行われているはずなのだ。

 おそらくは、冒険者ギルドの手によって。

「わかっている」

 バイデアル王子は、ケイシスタル姫がその時考えていた内容をそのまま口にした。

「同じことは、冒険者ギルドのやつらもあちこちでやっている。

 おそらくは、われらよりも巧妙に、かつ効率的に、な」

「それになにか不服でも?」

 ケイシスタル姫は、さらに訊ねた。

「失礼ながら、冒険者ギルドと御身の家中とでは、人数も規模も異なる。

 同じ仕事をするのは、土台からして無理じゃろ」

「そういうことではない」

 バイデアル王子はゆっくりと首を振った。

「われらがここの連中に教えていることは、つまりは大人数を使役して事業を遂行する。

 そのために必要な子細だ。

 だがこれは、普通ならば地位のある者が特権として心得ていた子細ではなかったのか?」

「そうした子細は別に、身分がある者の特権、ということでもないと思うがの」

 そういうことか。

「ただこれまでは、大金を投じてそうした事業を遂行出来る者は、ごくごく限られていたとは思うのだが」

 そんな風に思いながら、ケイシスタル姫は応じる。

「そこだ」

 バイデアル王子は、神経質そうな表情でいった。

「現実に、そうした大きな事業を行えるのは、王侯貴族などの限られた権力者に限られていた。

 つまり、これまでは、ということだが。

 しかし今では、冒険者ギルドとかこちらの寄合所帯とかがどうにかして資金を工面して、大きな規模の事業を動かしつつある。

 こうした動きは、今後、他の土地でも普通のことになると思うか?」

「時と場合による」

 ケイシスタル姫の返答は、素っ気ないものだった。

「そうとしか、いえんの。

 ここで起こっていることは、かなり特殊な事例であると心得ている。

 しかし、ガダナクル連邦で起こっているあれこれも、一部分、類似した性質を持っているとも思うの」

 このバイデアル王子は、どうやら自分たちの地位や特権が侵されているような気分になっているようだった。

 ガダナクル連邦やこの森東地域で進行中の事態に、どこまでの普遍性があるのかは、ケイシスタル姫にもなんとも判断がつかなかった。

 だが、特殊な条件がなければ起こらなかったはずの事態であるとも、思っている。

「冒険者ギルド。

 いや、あのトカゲ野郎どもは、おれたちが考えているよりもずっと危険な存在ではないのか?」

 バイデアル王子は、ケイシスタル姫に問いかけた。

「やつらをこのまま放置しておけば、いずれ、おれたちはその地位を失うことになりかねん」

「身分に根ざした特権や地位などが、そこまで重みのあるものとは思えんのだがの」

 ケイシスタル姫は、意見を述べた。

「豊かな境遇に生まれ育った者は、それだけ様々なことをおぼえやすくなる。

 それゆえ、領民を先導する役割を担うことが自然と多くなった。

 だがそれは、別に高貴な血筋に生まれることが、そのままそうした役割を担うための資格を持つことにはならん」

「必要な能力さえ備えていれば、実際に仕事をするのは誰でもいい」

 バイデアル王子は、そういって頭を抱えた。

「いや、現実にはそうだ。

 高貴な血筋に生まれながら、実際には度し難い無能である者もいる。

 そうした者を補佐するための代官や官僚も、普通に存在する。

 それは、おれも理解している。

 だが、そうした認識がもっと広まれば……おれたち王族は立つ瀬がないのではないか?」

「さて、それは」

 ケイシスタル姫は、考えながらいった。

「わしには、なんともいえんの。

 公爵家の末席にいるものの、このわしは生来にこれといった役割を負わされていたわけではなかった。

 御身とは違い、血筋とか身分とかにそこまで拘るべき理由もない」

「そういえば貴公は、その血筋ではなく実績により、現在の地位を得ていたのだったな」

 バイデアル王子はそういって、うっすらと笑みを浮かべた。

「そのことを失念していた。

 それはそれでいい。

 いくら血筋がよくても無能が大きな顔をしているよりは、遙かに腑に落ちる。

 だが、貴公のような人間が増えていくと、いずれは身分そのものの意味が薄くなってくるはずだ。

 それはそれで、世間全体が混乱するのではないか?」

「そうなるかも知れんし、ならないかも知れん」

 ケイシスタル姫は、そう答えておく。

「このわしは、学者でもなんでもない。

 そうした考え事には、性分としてあまり向かん。

 仮定に仮定を重ねて未来を憂えても、あまり得ることはないと思うがの」

 なるようにしか、ならない。

 というのが、ケイシスタル姫の感覚といえる。



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