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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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奇妙な傾向

 治安維持軍の代表であるケイシスタル・ワデルスラス姫は、治安維持軍が森東地域内に拠点を作ると即座に転移魔法で現地へと移動した。

 そしてその場で、精力的に周辺の有力者たちに書簡を送りつける。

 治安維持軍にとって森東地域は馴染みが薄い土地であり、今後なにをするにしても現地人の理解は得ておく必要があった。

 それも、一方的にこちらの希望をいい立てて押し通すのではなく、相手の都合なども聞いた上で今後の方針を定める。

 そうした方が、なにをするにしても円滑に進めることができると、ケイシスタル姫は思っていた。

 一言でいえば、現地人有力者たちとの相互理解、意思の疎通を図ることを望んでいたわけだが、これを実現するのはなかなか難しかった。

 交渉をするべき有力者たちが、無闇に多過ぎるせいだ。

 一応、森東地域西部に関しては、洞窟衆が街道整備公団とかいう有力者の集まりを立ちあげてくれていたので、そこを窓口にすればどうにかなる。

 しかし、その街道整備公団も、参加しているのは森東地域全域からいえばごくごく一部の有力者でしかない。

 それ以外の広大な地域にはまだまだ大勢の統治者たちが手つかずのまま放置されているのだった。

 そのひとつひとつに対して虱潰しに声をかけ、交渉する手間を考えると、それだけでケイシスタル姫はげんなりとしてしまう。

 こういう細い仕事は、性に合わんのだがの。

 ケイシスタル姫は心の中でそっと呟く。

 将来的な課題は後回しにして、まずはその街道整備公団とやらと友好的な関係を築くところからはじめるしかないらしい。

 窓口があるのはよかったが、その公団もまだまだ組織として成熟しきっておらず、内部での意思統一はほとんど出来ていない、ということだった。

 所詮急造の組織であるから、仕方がない部分もあるのだが。

 しかし、この変化が早い状況下では、治安維持軍としては相手が成熟するまでのんびりと待ち続けるほどの余裕も持てない。

 少し余裕を見て、場合によっては。

 街道整備公団に参加している有力者の中から有望な者を選んで、こちらの側に引きずり込む工作なども考えんとな。

 その手の工作はケイシスタル姫の性格としても得意とするところではない。

 しかし、現地住民の意思で、という形で世論を誘導するのは、一番リスクが少なく安全な方策といえた。

 戦力や金の力に物をいわせて強引にこちらの思い通りに動かす、というのは、短期的にはともかく長期的にはうまくいかない、洗練されていないやり方であるとケイシスタル姫は認識している。

 その点、ハザマが率いる洞窟衆は、決して成果を引き出すことを焦らず、自然に思い通りの結果を出すように誘導する作業に秀でていた。

 これまで、王国や山地、スデスラス王国でも、似たようなことをしている。

 洞窟衆の連中にしてみれば手慣れたものなのだろう。

 現に治安維持軍だって、アポリッテア治世下のスデスラス王国だって、ハザマが率いる洞窟衆の存在なくしては現在の形にはなっていないはずなのだ。

 治安維持軍にいたっては、ハザマと洞窟衆の介入がなければ、そもそもこの世に存在していない可能性が大きい。

 そして考えてみると、この土地で立ちあがったばかりの街道整備公団とやらは、治安維持軍と同じく洞窟衆によって作られた組織なのである。

 人間に例えれば血縁関係にあるような存在といえた。

 兄弟なのかいとこやはとこなのかまではわからないが、同じく洞窟衆という組織が存在したからこそ今の形で出現した組織であると、そういえる。

 ケイシスタル姫が、

「あの男は、同じようなことばかり繰り返しておるの」

 と感じている。

 なぜそうなるのかというと、ハザマという個性は自分自身の意向を外部に強く打ち出すことを好まず、可能な限り現地の当事者に、今、目の前にある問題を解決させようとする傾向がある。

 だから、自然とそうなってしまうのではないか。

 スデスラス王国にせよこの森東地域にせよ、その場に存在した問題の根は深く、いかにハザマという特異な個性であってもたかが一個人ではどうにも解消のしようがなく、大人数を動員してはじめて解決する目が見えてくる。

 洞窟衆とハザマは、そんな、スケールが大きな問題の解決ばかりを求められている。

 その問題を解消するためには組織の力が必要となり、そして、ハザマはなぜかそうした場合、洞窟衆という自前の組織を全面に出して解決することは少ない。

 いや、洞窟衆は洞窟衆で大きな役割を果たしているのだが、それはあくまで裏方、つまり問題が起こっている現地住民の支援をする役割を果たすことが多かった。

 これは、ケイシスタル姫が洞窟衆と深く関わる以前、山地との紛争とかガンガジル動乱の際にも共通している傾向といえた。

 洞窟衆と、それに冒険者ギルドも、だが、そうしたハザマの支配下にある組織の役割は直接的に問題を解決する、というよりも、他の誰か、たいていはそれぞれの土地で問題に悩まされている当事者になるわけだが、ともかく、そういう当事者自身が問題を解決するための手助けや支援をする、という役割に徹しようとしている。

 少なくともケイシスタル姫には、そうに見えた。

「難儀なことよの」

 口に出して、ケイシスタル姫は呟く。

 そうしたハザマの方法論には、それなりに効能が存在する。

 端的にいえば、そうした目の前の問題を自分の手で解決した組織は、その過程で経験を得る。

 つまり、自力で問題を解決するためのノウハウを蓄積するわけで、少なくとも同種の問題が再発した時は、自力で解決が可能となる。

 そうした経験から学習をするのは、人間も組織も変わりがなかった。

 ケイシスタル姫率いる治安維持軍などは、スデスラス王国での騒乱を経由した者たちがその経験を売りにしている組織だ、ともいえる。

 地域紛争や反乱の鎮圧などに関していえば、治安維持軍は自力で解決するだけの実力も持っているわけで、わざわざこの森東地域まで出張ってきたのも、その能力を活かすためだった。

 一方、洞窟衆はといえば、少なくともそれだけの、治安維持軍に匹敵する規模の軍隊を運用してきた実績がない。

 ヴァンクレス率いる騎兵部隊など、歴戦の強者は、洞窟衆内部もそれなりに存在する。

 しかし、精鋭部隊が居るだけでは、局地戦で勝つことは出来ても、大局で勝ち続けることは出来ない。

 あるいは、冒険者ギルド経由で人数をかき集めることも可能であろうが、そうした急造の寄せ集めを長期的に運用し、一定以上の成果を出し続けるのは難しかった。

 第一、ろくに経験も積んでない素人ばかり、大人数だけ集めても、すぐには使い物にはならないはずなのだ。

 軍事方面の実戦能力とは、知力や体力以外にも胆力、すなわち修羅場の中でも正常な判断力を失わず、冷静に動くことが求められる。

 そうした胆力は誰にでも期待出来る性質のものではなく、訓練だけで養えるものでもなく、ある程度実践をくぐり抜けないと身につかないたぐいの才覚であるといえた。

 いかな冒険者ギルドでも、そうした実戦慣れした人間をすぐに数万、あるいは数十万という単位で集めて揃えることは不可能であり、だからこそ、治安維持軍に価値がある。

 単純に暴力装置としての機能のみを比較すれば、洞窟衆や冒険者ギルドよりも治安維持軍の方が優秀であり、ハザマという男は、どうも、

「それでよし」

 と、そう判断している節がある。

 というより、そうなることを見越した上で、治安維持軍の創設を支援していたようにしか見えない。

 スデスラス王国での騒乱の時、ハザマは、洞窟衆の内部、あるいは下部組織として大規模な実戦部隊を組織することよりも、洞窟衆から完全に独立した組織として、治安維持軍が出来るのを支援する方を選んだ。

 そして今回、森東地域での事例でも、同じように街道整備公団なる組織を立ちあげ、現地の人間に目の前の問題をどうにかさせるように仕向けている。

「妙な御仁よの」

 ケイシスタル姫は、呟く。

 野心の欠如。

 それは、今さらいうまでもない。

 いや、それ以上に深刻なのは、あのハザマという男は、どうも積極的に自分が当事者であることを避けようとする傾向がある、ということだ。

 あのハザマという男は、一番肝心なところで、深入りする、一歩踏み込むことを恐れている。

 前例とか類例がない、奇妙な個性としかいいようがなかった。

 その気になりさえすれば、ハザマがもっと大きな権力なり名声なりを得る機会は、これまでにいくらでもあったはずだ。

 しかしあのハザマは、そうすることを意図的に避けて、どちらかといえば割に合わない、目立たず評価もされにくい、裏方のような仕事ばかりをしようとする。

 さて、そうした傾向は、ハザマ以外の者にとって、手放しで喜べるような性質なのかどうか。



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