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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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森東地域の意識変化

 なぜ街道整備公団なるものが組織される必要があったかというと、洞窟衆側が「現地の人間の意向」、すなわち主体性を明確にすることを求めたからだった。

 洞窟衆が、というより、ハザマ個人の意向が多分に反映された結果、そうなった。

 そう、いい換えてもいい。

「どんな選択をしても構わないが、その結果起こったことに対しては、お前ら自身が責任を取れ」

 という、洞窟側の方針を明確にした形にもなる。

 街道整備公団、という多くの勢力が共同で運営をする組織が必要となったのは、多くの勢力の支配権を貫通してはじめて意味が生じる、街道というものを立ちあげるためにはどの道、関係者全員が公正な立場で協議をする場が必要であったこと。

 それに、独自の武力を常備するとなると、その武力が暴走したりどこかの勢力にだけ都合よく使われたりしないよう、相互に監視を強める必要があったからだ。

 前者の要素は必然であり、街道整備という事業を行う以上は必須の要素であるといえたが、後者に関していえば、実際に軍隊を組織しはじめた時点ではじめて浮上してきた問題でもある。

 そもそも、常備軍というものは、この森東地域にはこれまで存在していない。

 必要がなかったし、数万、あるいは数十万という単位の人間を有事に備えて永続的に養い続けるほどのリソースを、どこの勢力も持っていなかった。

 一定以上の人数を伴う常備軍とは、いってみればかなりの贅沢品なのである。

 各勢力はそれぞれに固有の武力を保持していたのだが、それは有事の際には氏族の支配者層が武装して対処する、という形になる。

 有事ではない平時には、そうした人々はなにをしているかというと、軍事以外の統治活動を行っているのだった。

 つまりは、軍事も統治活動も、貴人の特権として見なされているわけで、そこに平時でも演習などを行う、いわゆる職業軍人が出現しつつある、という状況になる。

 これは、そうした氏族を束ねる階層の人々、その特権の由来を揺るがす理由にもなりかねない。

 そう考える者も、少なくはなかった。

 あのトカゲ野郎どもが来てから、様々なことが急速に変わっていく。

 森東地域において、支配者層の人々は強い危機感を抱きはじめている。

 というより、そうした変化に対して、どうにかして対応していくのに精一杯だった。

 とりあえず、そうした、洞窟衆が進出した地域の支配者層は、街道整備公団に参加し、その中でより大きな発言権を求めることに汲々としている。

 軍隊の運用についてのみならず、街道関連の利権に食い込むためにも、公団内部での地位は重要な要素だった。

 そうして公団の内部で大きな発言権を求めるためには、相応の投資を公団に対して行う必要があり、各勢力はその資金を集めるために奔走しているところだった。

 この時点で、洞窟衆が進出した地域に居住していた人々は、唐突に激烈な競争社会に放り込まれた形になる。

 従来の、

「周辺地域の顔見知りだけで内々に済ませる」

 という問題解決方法は、完全に過去のものになっていた。

 より正確にいうのなら、そうした、

「地域社会の内部でのみ発生し解決可能な問題」

 というのが、実質的にほとんどなくなってしまっている。

 いや、そうした問題が発生しなくなった、というわけではないのだが、他の、より広い範囲での対応が必要とされる問題が多く、以前と比較すると重要性がかなりさがってしまっている。

 各氏族支配者層の仕事と視点が、自分の地元という閉じた地域からそれ以外の、より広い地域へと展開していく時期にもなっていた。

 より広く、より遠くへ。

 森東地域の、洞窟衆が進出を果たした地域内では、有力者たちの意識が大きく変わろうとしていた。


「いっそのこと、トカゲの旦那がここいら一帯を平定してくれればいいのに」

 口々にそんな意味の言葉を吐くのは、そうした支配者層以外の、下層民たちであった。

「ここいらの氏族が束になってかかっても、今のトカゲ勢には到底適わないだろうに」

 そうした下層民たちは、元から周辺地域に居住していた地元住民たちと、冒険者ギルド経由で各地から招聘された、あるいは紛争地域から逃れて移動してきた外来者とで構成されていた。

 数からいえば地元住民よりも外来者の方が圧倒的に多い。

 そうした下層民たちは、政治的な子細についてはあまり関心がない、という特徴が共通していた。

 自分たちの意見などが届いたり反映したりするわけもなく、一方的に上の意向に翻弄されることを、これまで普通のことだと認識していたからだった。

 大きないくさやその他の政治的な変化は、自然災害と同じく、自分たちには防ぐことができない天災であるかのように、感じてしまっている。

 そうした、意識が低い人々にしてみても、洞窟衆が冒険者ギルド、いわゆるトカゲの旗を掲げる連中の方が、地元の土着勢力よりもよほど威勢がよく、巨大な力を持っていることには、自然と納得してしまっている。

 今では、そうした人々のほとんどが冒険者ギルドで仕事を得ていた。

 さらにいえば、街道整備をはじめとする各種事業も、そのほとんどはなんらかの形で洞窟衆が関わっている。

 いや、実質、主導しているのは、洞窟衆だった。

 そうした事業を継続するのに必要な資金を供出し、それに進捗を管理するためのノウハウなどを握っているのは、結局、トカゲ野郎どもなわけで、その影響力はなかり甚大であるといえる。

 それに港町五つを即日支配下においた軍事力も、周辺地域には轟いていた。

 単純な兵力は、現地で調達が出来る。

 でも、集団での戦闘能力というのはそうした人数だけを集めればなんとかなる、という性質のものではなく、それ以外に知略や戦意の維持など、細かな方法論の集合で成り立っているわけであり、こうした戦歴は、そうした戦い方もトカゲ野郎どもは心得ている、ということを意味した。

 経済と軍事、この両方でかなりの潜在能力を持っているトカゲ野郎どもは、この界隈では最強の集団なのではないか。

 直接統治活動に関係しない下層民が、そう判断するのも無理からぬことといえた。

 また、その判断は、実際問題として、かなり正確でもある。

 洞窟衆の側に、この地域を支配するモチベーションがないだけであって、支配をすることが可能か不可能かといえば、可能ではあるのだ。

 実際には、首領であるハザマが、支配すること自体を忌避する、というより、支配した後のあれこれを面倒くさがって、現地人の意向を尊重してこれ以上に大きな責任を負うことを回避しようとしているわけだが。

 そうした統治のあれこれには門外漢でしかない、下層民たちの目から見ても、トカゲ野郎どもの優勢は歴然としていた。

 直接支配することのメリットとデメリットを計算する必要もない立場から見れば、

「なぜ、トカゲ野郎どもは進出した地域をすべて手に入れ、支配下におかないのか?」

 という問いは、もっともなものだともいえる。

 別に説明責任があるわけでもなかったので、洞窟衆側はそのことについて、森東地域の誰かに説明したり広報したり、ということもしていなかったが。

 というより、洞窟衆側ではそんなことをしている余裕も、ほとんどなかった。

 森東地域に関しても、次の段階に移るための準備に手を取られていたし、それ以外に、ハザマ領の完全独立関連でもイレギュラーな仕事が発生し、こちらでも人手を取られている。

 森東地域の人間がいう、トカゲ野郎どもの内部もそれなりに忙しなく、落ち着かない日々が続いており、そうした細かい広報活動までフォローするような余裕はなかった。

 ハザマ領はハザマ領でなにかと忙しない期間であり、現状、大筋でうまくいっている森東地域関連に対して、そこまで細かい気配りをする必要も感じていなかったから、だった。

 それに、現地住民の意向と自主性を最優先に、というハザマの意向は、有力者たちには伝えてある。

 将来的にはともかく、この時点で下層民たちに改めて広報をするべき理由もなかった。


 そんな感じでしばらく時間が経過し、西側からまっすぐに森を切り拓いてきた者たちが、森東地域から森を切り拓いて来た者たちと接触した。

 森林貫通街道の工事で、東西から整備して来た者たちが予定通りに合流したのだった。

 邪魔な木々を切り払い、どうにか往来は可能になったものの、整地その他の作業はまだまだ残っている。

 それだけで、街道が街道として使用可能になったわけではないが、人や荷の往来はどうにか可能な状況となった。

 なにより、王国側から工事に携わってきた者たちが大勢、森東地域へと押し寄せてくる。

 アルマヌニア公爵配下の手勢とそれに治安維持軍が主体となって進めていた工事でもあり、そうした軍事関係者たちは続々と森東地域へと押し寄せて来た。

 その人数は膨大であり、洞窟衆などとは比較にならない戦力といえる。



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