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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ロック鳥の討伐 

「……ということで、そちらでも警戒をよろしくお願いします」

 ハザマは、心話通信でエルシムにはなしかけている。

「なんでも、そのマニュルというのが飼っている獣のうち一匹が、神出鬼没というか距離とか関係なしに移動する能力があるらしくて、今度はどこに現れるのかわからない。

 一応、買ってきた武器はイリーナにいって古参の洞窟衆の女たちに持たせていますが……」

『すでに洞窟衆預かりになっている捕虜たちに通信タグを配って、なにかあったらすぐに知らせるように指示している』

 エルシムの返答は簡潔なものだった。

 洞窟衆預かりの捕虜たちはかなりの人数になり、王国軍野営地中に散らばって忙しく働いていた。

 彼らに通信タグを預けたというのであれば、かなり広範な地域をカバーする警戒網として機能することだろう。

「ありゃま。手回しがいい」

 ハザマは感心した。

『こちらにできることはそれくらいだからな。

 その代わり、雑魚は下っ端に任せてもいい。

 だけど、大きな鳥とかいうやつがでてきたら、真っ先にお前様自身が駆けつけるように。

 おそらくそれが、一番被害が少なくて済む』

 バジルの硬化能力をあてにした発言であった。

「いやまあ、もとよりそのつもりでしたけどね」

『それよりも、むこう岸がかなり騒がしいことになっているようだな。

 ムヒライヒ・アルマヌニアの手勢の攻撃が予想以上に効果をあげ、王国軍本隊もそれに応じて動いて、かなりの成果をあげている』

「ああ。

 そういや、なんか外の方が騒がしいような……」

『……呑気であるなあ、お前様は。

 とにかく、そうでなくても近頃は騒がしい。

 敵を迎撃するのはよろしいが、くれぐれもあまり派手にしないように。

 ……あまり人目につくと、また大貴族どもに無理難題をふっかけられるぞ』

「あー、はいはい。

 そうっすね。

 出る杭は打たれるっていうか……そういうところは、世界が変わってもあまり変わらないのか……」

『それでなくとも、たった十人で大魔女ルシアナを討伐したということだけでも十分に目立っているのだからな。

 可能であれば、自重してくれ』

「そうっすね。

 可能なら、そうしたいんだけど……。

 でも正直、それも相手の出方次第だよなあ」

『なにも難しいことはなかろう。

 敵が出たという報告があったら、お前様があのトカゲもどきを肩に乗せて駆けつければいい。

 あのトカゲもどきも、ルシアナを喰った勢いでだいぶ位階をあげているはずだ。

 大抵の相手は硬直化できる。

 そうしたら、とどめを刺すのは他の兵士に任せておけばいい』

「まあ……現実的には、おそらくそうなるんでしょうけど……。

 おればかりが駆けずり回る形だよなあ、それ……」

『それで万事丸く収まるのなら、いいではないか。

 ……お』

「どうしました?」

『早速、異変が……野営地の上空に、二十羽以上もの巨大な鳥が出現したそうだ。

 おそらく、前に巨大な鳥とともに現れたものと同じやつらだな』

「早速かよっ!

 ちょっといってきます!」


「……あれか」

 洞窟衆の天幕から出たハザマは、上を見上げて呟く。

「矢で狙うにしても、ここからだと遠すぎるな」

「あれ、敵?」

「落とすの?」

「あれ、落としていいの?」

 ドゥ、トロワ、キャトル三人が目ざとくハザマの姿をみつけて駆けつけてくる。

「そっか。

 お前ら、遠くの敵も攻撃できたな。

 よし、許可する!

 あそこに飛んでいる鳥たちを片っ端から叩き落とせ!」

「らじゃー!」

「はいほー!」

「了解ぃー!」

 水妖使いの三人は即座に攻撃を開始。

 上空の、小さく見える鳥たちに狙いを定め、その体内にある水分を乱暴にかき回す。

 覿面に、鳥たちは体勢を崩してゆらゆらと蛇行しはじめ、見る間に高度を落としていった。

 一羽をしとめるのに五秒も必要としない。

 何十羽いようが、この三人の敵ではなかった。

「これ、楽しいー!」

「もう終わりー?」

「もっともっとぉー」

 ……完全に、遊びか何かと勘違いしているな、こいつら……と、ハザマは内心で冷や汗をかく。


「……全滅……」

 ハーピーとの「繋がり」が強制的に切断されたことを感じたマニュルは、呆然と呟いた。

「こんなに、あっさりと……」

 上空を高速で移動しながら耳障りな鳴き声を出すハーピーたちは、これまで敵の攪乱に失敗したことがない。

 多少の個人差はあるものの、ハーピーの鳴き声を耳にした者は例外なく気分を害し、最悪、理性を失って発狂する。

 あれらは、そうした禍々しいモノ……であったはずだが。

「流石、ルシアナを倒した男……」

 詳細を知る由もないマニュルは、ハーピーをあっけなく倒したのが水妖使いたちではなく、ハザマの仕業だと短絡的に思いこんでしまった。

「……こうなれば、あたしが直接乗り込んで……」


『お前様よ』

「今度はどこで?」

 エルシムの声が脳裏に響き、ハザマは即座に訊き返した。

「誘導してください」

『どれ、お前様の視界を借りるぞ。

 ふむ。

 そこからだと、右手になるな。

 しばらく進めば、すぐに騒ぎになっているのに気づくと思うが』

「右手に走ればいいんですね?」

 ハザマは走り出す。

 速い。

 ハザマが想定した以上の俊敏さで、両足が動いている。

 これが、位階があがったということか……と、思いつつ、ハザマは全速力を出してみる。

 人通りはまばらだったため、こちらが気をつけていさえすれば誰かとぶつかる心配はなさそうだった。

『凄い速度だな』

 エルシムの声が、心話通信で聞こえてくる。

「見えるんですか?」

『今、お前様の視界を借りている。

 お前様が見ているものは、こちらにも見える』

 そういう魔法なのだろう、と、ハザマは納得することにした。

『それ、そこで土煙があがっているのが見えるだろう?

 そこにいるやつが、例の……』

「ああ、見えました。

 なるほど……デカい、駝鳥だ」

 巨大な鳥が、人といわず物といわず足蹴にして暴れ回っていた。

 高さ八メートル前後はあろうかという巨体が、人や馬、天幕など進路上にあるものを片っ端から蹴飛ばしながら、もの凄い勢いで疾走している。 

 時速は……追走するハザマの体感によれば、六十キロ以上は優に出ている。

 この巨体がこれだけの勢いで暴れ回り、密集する隊列にでもつっこんでいったら、確かにすぐにでも万単位の被害が出てしまうだろうな……と、納得がいった。

「だいたい、パトレイバーくらいのサイズか」

 ぽつりと、ハザマが呟く。

「マクロスやグレンラガンサイズだったらどうしようもないが、この程度ならなんとかできそうだな」

 ちなみに、マクロスは空母が変形、グレンラガンは最終的には銀河系以上のサイズになる巨大ロボットである。

 とはいえ……。

「このサイズのに暴れられると、流石に生身の人間では太刀打ちできないか……」

 巨大な駝鳥もどきは目につくものを片っ端から蹴散らしながら、もの凄い勢いで走り続ける。

 馬よりは、よほど速い。

「一歩が大きいとはいえ……」

 いろいろと非常識な生物だよな、と、ハザマも呆れる。

 ハザマはその駝鳥もどきのあとを追い続けた。

 かなり距離があったのにも関わらず難なく追いつき、息切れもしていない自分自身の脚力に、再びハザマは呆れた。

「……止まれ、よ」

 小さく、ハザマが呟くと……巨大な駝鳥は片足を大きくあげた姿勢のまま動きを制止させ……その場に、どうっと倒れ込んだ。


 ロック鳥! ……と、叫ぶ余裕もなかった。

 そう叫ぼうしたマニュルの体が、空中に放り出されていたからだ。

 ロック鳥の背中に乗っていたマニュルは、ロック鳥の転倒に巻き込まれて空中に放り出されたところで、チュシャ猫によって強制的に姿を消した。


 倒れた駝鳥もどきめがけて、ハザマは大きく跳躍した。

 空中で腰に帯びた剣を抜き放ち、駝鳥もどきの首に斬りつける。

 落下する勢いも加わって、ハザマの剣は駝鳥もどきの首を、頸椎ごと、半ば、切断した。

 刃の長さが足りなかったため両断するところまではいかなかったが、確実に致命傷を与えた……とみてもよいだろう。

 ハザマが一度地面に足をつけ、素早く飛び退いたところに大量の鮮血が吹き出して、降り注ぐ。

 ハザマは大きく跳躍し、今度は反対側から剣で斬りつけた。

 今度は正眼に構えてまっすぐに剣を振り下ろす。

 剣をおろし終わったところで、素早く飛び退いて体を脇にどかした。

 頸椎を切断されたあげく、左右から大きな切れ込みをいれられたため、残っていた肉や皮も自重を支えきれなくなった。

 首は、自重に押しつぶされる形で、自然と胴体と離れてしまう。

 あとには、血塗れになったロック鳥の巨大な死体とハザマだけが残された。


 昨日、何万という王国兵の命を奪ったロック鳥は、こうしてあっけなくハザマによって討ち取られた。


「やはり、あの大蜘蛛と比べると、まるで手応えがないな」

 ハザマは、ひとりごとを呟く。

『それは、お前様の位階があがっているからだ』

 苦笑いを含んだエルシムの声が聞こえてきた。

『そもそも、普通の者ならばあの鳥に追いつけるわけがない』

「それもそうか」

 ハザマは、あっさりと納得し、一度剣を大きく地面に振って血糊を飛ばしてから鞘に収める。

 そんなハザマの耳に、歓声と手足を踏みならす音が聞こえてきた。

 たまたま周囲に居合わせた人々が、ハザマが駝鳥もどきを鮮やかに始末した場面を見て、興奮した様子で騒いでいた。中には、横たわったロック鳥の死骸に剣や槍を突き立てている者までいる。

 ハザマは怪訝な様子で周囲を見渡し、それからすぐに不機嫌な顔になり、誰にともなく怒鳴りつけた。

「馬鹿野郎!

 こっちよりも前に、怪我人の手当とかやるべきことが山ほどあんだろうっ!」

 駝鳥もどき……あの巨体が、遠慮なく暴れた直後なのだ。

 その途上にいた者は、当然のことながらそれなりの被害を受けていた。

 暴れていた時間が短かったといういこともあり、昨日の被害よりはかなり少ない規模に収まっているはずだが……それでも、このまま無視できるほどの、軽い被害でもない。

 駝鳥もどきが走ってきた一キロをこえる道のりには、破壊と混乱の痕がしっかりと刻印されているのだ。


 ハザマたちがそんなことをしている間にも、担架を抱えた大勢の人間が、こちらに走ってくる。その場で手当をはじめる者もいる。すでに手の施しようもなく、完全に事切れている者の少なくはないようで、倒れた者のそばに身を屈め、そのまま首を横に振っている者も少なくはなかった。

 とにかく、医療班とでも呼ぶべき集団がすでに組織されており、その人たちが動き出しているようだった。

 ハザマは知らなかったが、ムムリムを筆頭とする洞窟衆の医療班が促成栽培的に緊急処置の方法や回復魔法の知識を伝えた結果、王国軍内の医療体制は従来にないほど充実していたりする。

 現在稼働している医療班の多くは、ついこの間まで負傷をし、患者として扱われていた側の人々であった。もともと王国軍内部にいた医師たちから指導を受けるかたわら、怪我人の世話を引き受けるようになっていた。

 

「……ロック鳥まで!」

 チュシャ猫の能力により戦場から遙かに離れた場所に出現していたマニュルは、悲鳴にも似た声をあげている。

 ロック鳥は、マニュルの手持ちの獣の中でも、群を抜いた強さを誇っていた。

 単体での戦闘力を競えば、断トツで最強だったはずだ。

 それが……こうもあっけなく……。

「バツキヤにも注意はされていたけど、ここまで覿面に効くものだとは……」

 あのトカゲ男の、奇妙な能力。

 ルシアナを倒した実力は、伊達ではなかったわけだ。

 そもそも、バツキヤの忠告を受けてもあまり警戒していなかったマニュル自身の軽率さが一番の敗因なのだが……。

 これまでのマニュルは無敗を誇り、むしろ強すぎて敗北はおろか警戒することを知らない身であった。

 いきなり「用心をしろ」といわれても、具体的なやり方が思い浮かばない。

「普段、偵察に使っていたハチドリも真っ先に潰されちゃったし……」

 これまであまり考え事をした経験がなかったマニュルは、ここに来て最上の方法を本気になって考えはじめた。

「……要は、あのトカゲ男のそばに近寄らなければいいわけだから……」

 あの男の能力がどんなに強力なものであろうとも、あの男はたった一人だ。

 対して、マニュルが攻撃可能な範囲は広大にすぎる。

 最強を誇るロック鳥が討ち取られたことは確かに痛手ではあるのだが……。

「……広範囲に分散して、いろいろな場所を同時に攻撃すれば……」

 ……獣繰りのマニュルが扱える手持ちの獣たちは、まだまだ品切れにはなっていない。

 そのすべてを使って同時に攻撃を行えば、あのトカゲ男でも簡単に防ぐことはできないだろう。


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