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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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森東地域の変容

 生産と流通、洞窟衆が持つ機能はこの時点、ほとんど森東地域への干渉を目的として稼働していたといってもいい。

 組織の規模からいっても、総力を結集しないと間に合わないほど、広大な地域なのだ。

 ハザマはこの干渉について、

「支配や占領よりも現地の自主性を重んじること」

 を基本方針として徹底させている。

 一部、五つの港町という例外はあるものの、あれはあくまでも時間的な制約から発生した緊急避難的な措置であり、その証拠に、占領した後も決して必要以上に現地の権益を損なうことはしていないと、内外には説明していた。

 その方針についてハザマは、身内にはこう説明していた。

「占領とか植民地とか持ってもな、結果的として投資した分に見合った見返りが戻ってくることは、絶望的に少ないんだ」

 損をすることが目に見えているから、地域開発にかかる諸々の費用は出来るだけ地元住民に負担して貰う。

 そのように、誘導する。

 簡単にいえば、そういうことだった。

 いわば功利的な動機によって、ハザマは一種の覇権主義を採用しないと、一貫して明言していた。

 また、周囲の人間もその方針について、誰も否定していなかった。

 ハザマの判断に信頼を置いていたから、ということではなく、洞窟衆内部の要職に就く者たちは、この前後、自分の仕事以外のことに思考を割くような余裕がほとんどなかったからである。

 ただ、この手の見識について、ハザマのいうことはそんなに大きく外れない。

 経験的に知っている者も多く、漠然とした安心感を持っていた者も少なくはなかった。


 つまり洞窟衆にとって森東地域への干渉とは、かなり大きな、それこそその成否によって組織の将来が決まりかねないほどの大事業だといえる。

 膨大なリソースをつぎ込む以上は決して失敗が出来ない。

 失敗をしたら、洞窟衆という組織自体が瓦解しかねない。

 そんな大事業なのである。

 それでも内部の人間にあまり悲壮感が見られないのは、この事業自体が戦争などとは違い、根本的に前向きで建設的な内容であったことと、そして洞窟衆内部ほとんどの人間がとても多忙なため、自分の業務以外の細かいことまで思考できるほど余裕がある人間がほとんどいなかったからだ。

 洞窟衆が森東地域でやっていることは、道を作り物資を流通させ仕事を作り地元に産業を興し、と、基本的には有益に見える内容である。

 また、この進出のおかげで職にありついた人間も、それこそ数十万という単位で存在していた。

 森東地域という不毛に近い、広大な土地に、資本と人と物資などが一気に流れ込み、進出した周辺地域を巻き込んで情報化と産業化を推進する。

 つまりは、洞窟衆の作法を教え込んでそれに従わないとどうにもならない、そんな状況に追い込む。

 基本的な方針として、洞窟衆はだいたい進出する予定地域の有力者に使者を送り、合意が取れた地域に進出している。

 つまり、合意の上でこうした挙に出ているわけだが、その結果は甚大かつ不可逆的といえた。

 そうして洞窟衆が進出した地域では、結果的に文化も産業構造も根底から変容し、「洞窟衆的な価値観に染まったなにものか」になってしまう。

 洞窟衆は軍事的、あるいは政治的にそうした地域を制圧したわけではなかったが、そうした結果だけを見るとより一層、深刻な影響をそうした地域に与えているといえた。

 なぜならば、この時代の風潮として、軍事的政治的な支配者がなんらかの理由で変わった場合でも、被支配層の生活や文化にはさほど影響しないことがほとんどであったからだ。

 洞窟衆のやり方はその逆で、名目上の支配者は旧来のままで、しかし、進出した地域のほぼ全員が、その階級によらず、なんらかの影響を受けてしまう。

 それも、従来の生活様式が根底から否定されるような変化である場合が多かった。

 さらに困ったことに、そうした洞窟衆がもたらす変化に逆らうよりも、その流れに乗った方がよほど幸福で受ける利益が多いのだった。

 洞窟衆が進出した地域では、常に人手が不足していた。

 単純肉体労働の求人は活発に行われていた。

 それ以上に賃金が高い、なんらかの知的な労働を含む仕事にさえつける機会がある。

 場合によっては、洞窟衆が主催する学舎で読み書きや算術、初歩的な魔法その他の知識を得て、さらに割のいい仕事に就く機会さえ普通に提供されるのだ。

 洞窟衆の仕事に就きたくない場合でも、それぞれの地元で工房を作る、船着場の改良や水利工事、農地開発などのノウハウも提供してくれた。

 特に食品の生産は産業として大変に有望で、少なくともこの先の数年、穀物は値上がりをする一方であると予測されている。

 洞窟衆側としても、生産率が高い農地を開発することは歓迎していたので、森東地域の人間から相談された場合は積極的にアドバイスをした。

 この頃のハザマ領には帝国からやって来た農業の専門家が数名滞在しており、帝国の先進的な農法や目新しい作物を試験する場を洞窟衆側も欲していたのだ。

 そうした教育費なり各種事業なりに必要な費用は、結局のところ希望した側の人間が負債という形で負担するわけだったが、将来的にはそうした布石を支払って有り余る利益を得る目算があったので、そのことに不満を持つ人間はほとんどいなかった。

 森東地域の人々は、王国など平地諸国の人々と比較すると平均的に貧しかった。

 洞窟衆の進出は、そうした貧しい森東地域の人々に対して、平等に豊かになる機会と希望を提供して来た。

 表面的な現象のみを見ると、そういうことになる。


 洞窟衆はさらに数々の、目新しい事物を森東地域にもたらした。

 ある日を境に、小さな三角形の群れがわが物顔に編隊を組んで空を行くようになった。

 あの小さな三角は、上空にあるため小さく見えるが、そのひとつひとつに人が乗って操作しており、ああして周辺の様子を偵察しているのだと、前後してそんな噂が広まっていく。

 洞窟衆とはどうやら人間が空を飛ぶ術さえ知っている連中らしかった。

 そうした噂を聞き、実際に凧の編隊を目撃した人々は、半信半疑ながらも自分の目で見たことを否定するわけにはいかず、

「連中ならば、人間くらい飛ばすのか」

 と、そう納得するしかなかった。

 そうして三角形が空を飛ぶようになってからさらに数日後、森東地域各地にある冒険者ギルドに、目新しい求人票が張られるようになった。

「小柄で、目がよくて、絵心がある人間求む。

 男女年齢問わず。

 高給優遇、危険手当あり」

 変わった内容で、つまりはあの三角形、グライダーとかいう代物に乗って周囲を偵察するための人員を大量に求めているらしい。

 読み書きや算術の技能は特に求められていなかったこともあったので、年端もいかない者たちがこの求人に殺到した。

 偵察要員として洞窟衆に参加するということについて、精神が柔軟な若年者ほど抵抗を感じない傾向があった。

 この求人に応じるとはつまり、洞窟衆の手先として、この先にある地域を浸食していく事業に手を貸すということを意味するのだが。


 この他に、五つの港町周辺に各種の工房が急造し、そのまますぐに本格的に稼働した。

 連弩やコンパウンドボゥなど、各種の武器関連の部材や組み立てを行う工房が一番多かったが、それ以外に文具や製紙、印刷、製本などを行う工房も普通にあり、実際には多種多様な製品がこの周辺で作られ、他の森東地域へとそのまま売られていく。

 将来的には港を経由して森東地域の外に輸出されていくことも想定されていたが、現状ではそうした工房で働く人々が十分に熟練しておらず、生産効率や歩留まりがよくない状態だった。

 こうした人々が仕事に習熟し、生産物のクオリティや量が十分に確保出来るようになったら、こうした生産品も重要な輸出品目になることが期待されている。

 この時点ではまだまだそれらが安定しておらず、半ば試験的に運用している、というレベルに留まっていた。


 そうした港町周辺以外に、ブビビラ村周辺もこの時期に、大きく変容している。

 森林貫通街道の、こちらからの工事が本格的に開始したため、その工事に携わる人間のための宿泊施設や資材置場などが出現していた。

 特に後者、資材に関していえば、工事の規模に応じてかなり膨大な物資がどこからか日常的に運ばれてくるため、かなり広く土地を占有して周辺地域住人に心理的な圧迫感を与えている。

 そうした置場に選ばれるのは、当然、なんらかの理由で農地などには向かないと判断された場所になるわけだったが、毎日のように大量の資材が運び込まれては恐ろしい勢いで森の中に吸い込まれていく様子を目の当たりにした地元住民は、ただそれだけで洞窟衆の勢いを見せつけられたような気分に陥ってしまう。

 そうした資材は、木材や砕石類、工具、それに鉄鉱石などになるわけだが、とにかくそのどれも大量に消費されていた。

 最後の鉄鉱石についていえば、このブビビラ村周辺にも何棟か鍛冶屋、というよりは鉄工所が建っており、その内部に連日吸い込まれて消費されている。

 その鉄工所の内部には魔力札により高温を発する溶鉱炉が設えられており、休む間もなくドロドロに溶かされては人力で動かすローラーにより整形され、細長いレールとかいう代物に仕上げられた。

 このレールというのは、最終的には鉄道馬車とかいうものの軌道になると、そう説明されている。

 ただ、今の時点では成形が終わったそばから外の置場に出され、十分に熱が取れてから積みあげられ、しばらく放置されているだけだった。

 連日、森の中に、膨大な数の人間が出入りをしてはやはり膨大な資材、伐採した木片や土砂などが外に運び出されて置場に放置されていく。

 そうした木片はさらに細かく分断され、しばらく放置して乾燥させた後に薪材にする予定だという。

 森の中で自生しているような木は適度に曲がっていることが多く、建材に向いているものはほとんどないということだった。



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