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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ハザマの思考

 様々な問題を現在進行形で生じつつも、ハザマ領内は比較的うまくいっていた。

 しかし、森東地域まで同じような進展になるとは限らない。

 なんといっても、森東地域は広大であり、内部に居住する人間や勢力の種類も多かった。

 そうした勢力すべてが納得できるような理想をハザマは思いつくことも出来ないでいる。

 せいぜい、

「金銭なり食料なり、物質的な充足を餌にして最低限の合意を取りつける」

 程度のことしか思いつかなかった。

 ハザマという一個人が、抽象的な理想論に対してそこまで信頼をおけなかったことも大きいのだが。

 今の時点では、洞窟衆が進出した地域は、森東地域のごく一部分に過ぎない。

 面積に換算しても、せいぜい一割に満たない、ごく狭い範囲に過ぎなかった。

 しかし、現地での影響力は日に日に増している。

 特に食糧と賃金を派手にばら撒いて膨大な人手を集め、それを駆使して各地で大規模な土木工事を進行しているという噂は、かなり遠くまで伝わっているはずであった。

「地元の勢力にしてみれば、強い圧力を感じるだろうな」

 と、ハザマは想像する。

 これまでに洞窟衆が進出した地域は、森東地域の中では外れの、交通の要衝でもなんでもない、特徴のない土地に相当する。

 そうした辺地を短期間のうちに改良しようとする、外部勢力。

 絶えず流入する膨大な物資と金銭を目の当たりにすれば、地元勢力からすれば警戒しないわけにはいかないはずだ。


「で、今のところそういう動きはないの?」

 ハザマはリンザに確認する。

「表面的には、ないようですね」

 報告書の束をざっと手でめくりながら、リンザが答える。

「細かいトラブルは多いようですが。

 特に、労使関係のものが」

「悪質な中抜き業者が同時多発的に出て来て、その対処に追われているってやつか」

 ハザマはため息混じりに応じる。

「冒険者ギルドの内部だけはなく、森東地域の地元民からも出てくるとはなあ。

 いや、領内開発の時もその手の問題はあったし、あらかじめ予想をしておくべきだった案件ではあるんだけど」

 洞窟衆が進出した地域では、労働力が慢性的に不足しがちであった。

 そこに目をつけた者が言葉巧みにヒトを集め、冒険者ギルドにまとまった人数を斡旋して、彼らの給金から上前をはねる、という事例がここ最近頻発している。

 そうした仲介業者が存在すること自体は別に問題でもない。

 かえって、冒険者ギルドの負担が減る、という側面もあり、よほど悪質なものでなければ基本的には放置している。

 ただ最近は、洞窟側が提供している賃金が森東地域の水準を遙かに上回っているせいか、かなり強引な手段で人集めをしたり、非常識な割合で仲介手数料を徴収する手合いが増えてるという。

 こうした悪質な事例に対して、冒険者ギルドは発見しだい厳しく取り締まりを行い、同時に周辺住民に向けて悪質な業者に関わらないようにと、広報を徹底させている。

 そうした努力の割には、その手の業者を根絶させるまでには至っていないそうだが。

 こうした悪質業者が出現するのは、森東地域の平均的な賃金と洞窟衆が提示している賃金の水準が、大きくかけ離れているからだった。

 実際には、洞窟衆が進出した地域では急速に物価全般が高騰する傾向にあり、洞窟衆が支払っている賃金は高すぎるというほどでもない。

 しかし、まだ洞窟衆の実態があまり知られていない地域は、そもそも現金で物品を売買するという機会自体が少ない。

 流通している通貨自体が少ないくらいだったから、洞窟衆が提示している賃金水準は、

「馬鹿みたいに高い」

 という印象を受けるようだった。

 限られた地域の内部で細々とした経済活動を行っている場所と、広範な流通網を前提として活発な経済活動を行っている場所がそのまま接触している形であったから、そのギャップも大きい。

 その格差につけ込む形で人手を集め、その上前をはねようとする業者が出てくるのも自然な成り行きといえる。

 多分。

 と、ハザマは予想する。

 奴隷を洞窟衆に売りつけるよりも、そうして言葉巧みに集めた人間をまとめて冒険者ギルドに押しつけ、上前をはねる方が商売としてはおいしいのではないか。

 前者は一度売り払ってしまえばそれっきりだが、後者は仲介した人間が働き続ける限り、継続的に金は入っていくる契約になっているからだ。

「労働者の管理までをしてくれるのならばともかく」

 リンザはそう続けた。

「冒険者ギルドに引き渡すだけで非常識な仲介手数料を求める行為を冒険者ギルドは認めていないと、繰り返し広報しています」

 集めた人間の世話をして、仕事の場でも陣頭指揮まで執ってくれる。

 そこまでする、現場監督タイプの人材管理者までは、洞窟衆側は否定していない。

 人員管理の手間がそれだけ省けるわけだし、冒険者ギルド側はむしろ歓迎していた。

 ハザマ領内の開発では、そうしたタイプの仲介業者だけが結果的に生き残っている。

 今森東地域で頻発しているのは、洞窟衆に馴染みの薄い地域の人たちの無知につけ込んだ、一種の詐欺といってもよかった。

「そうした悪質業者につけいる隙を与えるよりは」

 と、現地の冒険者ギルドでは、かなり遠方の村まで人をやって、積極的に人集めを行うようになっている。

 これはこれで、その土地の労働力を根こそぎ奪うような結果にもなりかねない。

「それをやると、これといった産業がない土地ほど、過疎化が進むぞ」

 そうした勧誘活動に関して、ハザマはそう忠告しておいた。

 地元の産業が労働者不足によって弱体化することは、洞窟衆にとっても決していい流れとはいえない。

 長い目で見ると、そういう形で人手を集めることは、いい結果を生むとは思えなかった。

 その意味では、危ない橋をあえて渡っていることになるわけだが、それ以上にいい結果を生む方法は、今のところ誰も思いついていなかった。

 洞窟衆側がこのままなにもせず、悪質業者の取り締まりだけに注力していたとしても、洞窟衆のイメージが悪化するだけであり、それよりはとあえてリスクを取る選択をしている形となる。

 懸念事項が多々あることは承知した上で、今ではそうした勧誘活動は活発に行われるようになっていた。


「この分だと、洞窟衆への反発が表面化するのは、当初予想していたものとはまったく違った形になりそうだな」

 ハザマは、誰にともなくそうこぼす。

 洞窟衆が進出した地域と、それ以外の地域。

 両者の格差が大きくなればなるほど、現地での洞窟衆に対する悪感情も大きくなる。

 そう、予測できた。

 暴発する前に、現地の人間が反洞窟衆勢力を糾合して、正面決戦を挑んでくれないかな。

 などと、最近のハザマは思っている。

 この手の格差は構造的に決定している部分があり、よほどのことをしなければ解消することは出来ない。

 さらにいえば、洞窟衆側からすれば、これまで進出した地域で進行している事業を回すので手一杯であり、進出していない地域のために割くリソースなどほとんどなかった。

 洞窟衆関係の施設に無差別テロなどを起こされたら、たまったものではない。

 それよりは、どんな形であれ、反洞窟衆という旗を掲げた勢力が出現してくれる方が、なにかと対処がしやすかった。

 ただ、現状はそこまで現地の人間は将来のことまで見通して動いている様子でもない。

「なんだか羽振りのいい、洞窟衆とかいうやつらがやって来た。

 では、その洞窟衆からどれくらいうまい汁を引き出せるものか」

 という方向性で様々な画策をしている。

 そんな段階だった。

 この洞窟衆の進出が、今後の地域社会にどのような影響を与えるのか想像し、自分たちの足場が危うくなりつつあることに自覚的な人間は、まだハザマたちの視界には入ってこなかった。


「もうちょい、圧力を強めてもいいかな」

 しばらく思考した後で、ハザマはそういう。

「それと同時に、現地のやつらにものしあがる機会を増やしてやるか」

「また悪い顔をしていますね」

 そんなハザマを見て、リンザが指摘をする。

「どうせろくでもないことを考えているんでしょうけど」

「なに、悪いことではないさ」

 ハザマはいった。

「これまでの施策の延長だし、なにより、最終的には森東地域の連中のためになることだ」

「具体的には、なにを思いついたんですか?」

 半眼でハザマの顔を見ながら、リンザは確認する。

「いやなに、森東地域にいくつか、本格的な高等学校を作ろうと思ってな」

 ハザマは軽い口調でいった。

「高等学校、ですか?」

 リンザは耳慣れない単語について、訊き返す。

「なんですか、それ?

 なんとなくは、理解できるのですが」

「日常的な場所で必要となる知識だけではなく、もっと高度な知識を教える学校だ」

 ハザマはいった。

「帝国にある大学は、どちらかというと研究機関に近いらしい。

 おれたちだけではそこまでの高度な内容の組織を作ることは出来ないが、今、洞窟衆が運用している学校よりも少し高度な内容を専門に教える場所をいくつか作りたい。

 場合によっては奨学制度も整備して、見込みのある人間には何年かタダで学習できる環境も整える」

「関係各所の意見調整が必要ですね」

 リンザが指摘をした。

「以前から、そういう制度については検討されていましたから、特に驚くことはありませんが。

 でも、なんで今、森東地域に作ろうとするんですか?」

「ひとつは、用地の問題だな。

 ハザマ領内に不足している土地が、森東地域では有り余っている」

 ハザマはそう説明した。

「そうした物理的な要因以外にも、今の森東地域で知的な人間を量産したら、数年後にどういうことになるのか。

 それをこの目で確かめたくてな」

「ええっと」

 リンザは慌てて想像力をフル回転させる。

 言葉通りに受け止めれば、決して悪い構想ではない。

 だが、ハザマの表情が引っかかった。

 ハザマがこういう顔をしている時は、おおかたろくでもないことを考えていることを、リンザは経験上知っている。

「本当のところは、なにを考えているんですか?」

 少し考えても自力で答えを出すことは出来なかったので、リンザは押し出すような口調で詰問した。

「なに、なかなか現れないのだったら、おれたちで作ればいい」

 ハザマは、素っ気ない口調でそういった。

「森東地域に知識人が増えれば、そいつらの中から必ず洞窟衆のやり口を批判的に見る人間が出てくる。

 あそこの連中の中から求心力を持つ人間が出てこないというのならば、おれたちの方が、そういうやつが育ちやすい環境を作るんだ」


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