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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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グフナラマス公爵家の使者

「全面的な協力は、残念ながら、人手が足りないのでできない。

 しかし、他の業務の過程で知り得た、なんらかの手がかりになりそうな情報に関しては、そちらに伝える」

 グフナラマス公爵家の使者へは、そういう線で納得をして貰った。

 労働力というリソースは無限にあるわけではないし、その上、洞窟衆はまだ森東地域にようやく足がかりをつくったばかりであり、現地での仕事はいくらでもある。

「洞窟衆にとって比較的優先順位が低い案件に関して、そこまで真剣に取り組むべき動機がない」

 というのが、ハザマの本音であった。

 しかし、それをそのまま伝えてグフナラマス公爵家側の心証を損なうのも今後に障りがあるので、あくまで、

「可能な範囲内で協力をする」

 という、すっきりとしない言い方になってしまうのだった。

 本来、別にある必要な業務を差し置いてまでするべき仕事ではない。

 洞窟衆側は、この案件をそう捉えていると、グフナラマス公爵家側にそう明言した形になる。

「ご協力を感謝します」

 グフナラマス公爵家の使者は、ハザマのそうした返答を予想していたのか、特に気分を害した様子も見せず、そのまま引き下がった。

「不逞の輩に対して警戒を強めることは、お互いにとって利のあること。

 どうかよろしくお願いします」

 その使者との会見は、ごく短時間であっさりと終わった。


「こちらから色よい返事を引き出す、というより、おれたちに警戒せよと伝えるために来たようなもんだな、あれは」

 その使者が姿を消してから、ハザマは小さく呟いた。

「今まではともかく、これからも森東地域の地元連中が大人しくしている保証はないからな」

 これまで、森東地域で洞窟衆が起こしてきた動きは、だいたいが地元住人の神経を逆撫でするような行為なのである。

 ハザマにしてみても、その自覚はある。

 というより、そうして挑発をして、森東地域の連中だけで結束をし、洞窟衆をはじめとする対外勢力に対抗しようとする動きが出てくることを期待している面があった。

 これまでのところ、洞窟衆が森東地域で行っている活動は、おおむねは現地住人に利益をもたらすものなので、なんらかの形で反発が表面化しているという報告は届いていない。

 ただ、そうした利害と感情面の動きは別な筈であり、おそらく、洞窟衆が進出した地域の住人たちは、内心穏やかではいられない、のでは、なかろうか。

 大量の雇用が発生し、大量の人件費が降って湧いた形であり、経済的には豊かになっている。

 その、筈だった。

 だから、おおかたの現地住人は、多少の不満は押し殺している。

 だが、実際、現地では大勢のよそ者がいきなり押しかけてきて偉そうな態度であれをしろこれをしろと命令し、その指示に従う限りは相応の見返りを得ることが出来る、という情勢が出来つつあるわけで。

 こうした情勢を、

「屈辱的だ」

 と内心で認識する者も、少なくはない筈なのだ。

 ハザマは、そう想像している。

 さらにいえば、現地で起こっているのは、資本主義社会への移行という、かなり大きな変革になる。

 それまで、森東地域は地縁や血縁など、過去からの因習に根ざした社会体制だった。

 そうした旧弊な価値観が、洞窟衆が進出したことにより、大きく揺らいでいる。

 少し前まで自明視していた価値感があっさりと覆り、場合によっては現地住民の関係性、ヒエラルキーが大きく上下する事例もあるだろう。

 洞窟衆のやり方にうまく乗れた人間が大きな権益を手に入れ、その反対になんらかの理由によって、洞窟衆と良好な関係を築くことに失敗をした勢力が相対的に影響力を削がれる。

 そんなことも、ごく普通に起こっているはずだった。

 洞窟衆が進出した地域の住人にとって、現在は変化の激しい動乱の時代であり、その動きにうまく乗れなかった、取り残された連中は、当然、洞窟衆に恨みを抱く不平分子になる。

 そうした連中が暴発をするのも、そう遠い未来のことではないのではないか?

 と、ハザマはそう予測をしている。

 その意味で、グフナラマス公爵家の使者が伝えに来た案件は、近い将来洞窟衆に降りかかってくる災難をそのまま予告するものである。

 そう、見なすことも可能であった。

 その意味で、完全に、

「他人事である」

 と、簡単に切り捨てて済ませるわけにもいかないのである。

 無論、そうした予測については、ハザマも以前から現地の人間に伝え、警戒するように呼びかけているわけだが。

 現地の関係者は、果たして、どこまで、その警告を真剣に受け止めているものか。

 大きな危惧があったが、だからといって、他に出来ることもない。

 現地での洞窟衆の立場は、「森東地域に進出した営利団体」程度のものでしかなく、統治者などではない。

 自分たちの権益を将来侵しそうな不審人物を、独自の判断で捜索して拘束するような権限もなく、仮におおっぴらにそんな真似をすれば、それこそ地元の有力者の機嫌を損ないかねなかった。

 そうした不平分子が実際に行動を起こしてからならば、その被害者として堂々と対応をすることも出来るわけだが、つまりこの件に関しては、洞窟衆側が常に後手に回る、ということでもある。


「構造的な問題だから、仕方がない部分もあるんだがな」

 ハザマは、そう独語する。

 洞窟衆が事業者としての立場をかなぐり捨て、わかりやすい侵略者として振る舞うことを選択すれば、そうした歯がゆさからは逃れることが出来た。

 その代わり、今度は広大な地域の支配者として、今までとは比較にならないくらいの大きな責任と雑多で大量の実務が、ハザマの上にのしかかってくるわけだが。

 この時点で洞窟衆が進出を果たしている地域は、広大な森東地域の十分の一にも満たない地域でしかない。

 その、相対的にごく狭い地域であっても、面積でいえばハザマ領の十倍以上に相当する。

 ハザマ領は森に包まれた地域だから、有効利用できる土地はかなり限定されているし、領民と呼べる人数もたかが知れたものであった。

 その森東地域を丸ごと支配すれば、抽象的な責任はともかく、必要とされる実務はこれまでの何十倍にも膨れあがり、今の洞窟衆の処理能力をあっさりと上回る。

 森東地域について、ハザマが直接的な支配をよしとしないのは、そうした事情もあった。

 単純に、必要とされる処理能力の面で、今の洞窟衆には手に負えない。

 だから、事実上、現在のような形で進出をするしかなかったわけだが。

 それ以外に選択肢はなく、その判断は決して間違っていないと今でも思うのだが、しかし現状では、現地で強権を発動することが出来ないという難点も表面化している。

「あちらを立てればこちらが立たず。

 なんでもなんでも自分たちに都合よく、というわけにはいかんか」

 ハザマとしては、そう思うしかない。

 こうした件について、ハザマと洞窟衆が出来る対策は、そうした洞窟衆への不平不満が、可能な限り穏便な形で表面化することを「願う」くらいだった。

 出来もしない対策に貴重な人手を割くより、目の前にいくらでも転がっている重要な実務に振り当てる方が、合理的な選択なのである。

 そう判断するくらい、今の洞窟衆は森東地域において、多種多様な事業を手がけていた。

 起こるか起こらないかわからない、将来の不安に対して人手を割く余裕など、実質的にはないに等しい。

 現地住民の不満は、いずれ、なんらかの形で暴発するだろう。

 これについて、ハザマも確信に近い予想をしている。

 しかし、現状で打てる手は、ほとんどなかった。


 海方面から森東地域に進出したグフナラマス公爵家と洞窟衆とは、一種の協力関係にあった。

 洞窟衆の独力だけではあの広大な森東地域の全域に必要な輸送網を構築することはかなり難しかったので、グフナラマス公爵家が独自の判断によって森東地域に進出をして来たことは、洞窟衆にとっても僥倖であると断言することが出来た。

 グフナラマス公爵家はグフナラマス公爵家で、王国における公爵家を優遇する政策が取りやめになることを見越した上で、それ以降の未来を見据えた上で森東地域へ拠点を求めているのだと、そう予測をしている。

 ただ、森東地域は広大に過ぎ、洞窟衆だけでは手に負えないのと同様、グフナラマス公爵家だけで独占することもまず不可能なはずであった。

 現状、洞窟衆とグフナラマス公爵家は、森東地域へ直接乗り込んだ勢力として、緩やかな連携を取る程度に留まっている。

 先ほど使者がバジルニアに来たように、必要な連絡事項があれば伝えて、方針のすり合わせを行う程度の、ごくごく緩い連携でしかなかった。

 それぞれに進出した地域は重ならないので、今のところ緊張関係にはなっていないし、同時に、同盟というほど緊密な関係でもない。

 利害が衝突しない以上、無駄にいがみ合うよりは必要な情報を共有し、場合によっては足並みを揃えることがある、程度の関係で十分なわけだった。

 そうした関係も、将来的にはどうなるのか、読み切れない部分が多いのだが。



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