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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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軍師の策謀

 ハザマたちが対策を練っている間にも、戦局は大きく動き続ける。


 ムヒライヒ率いるアルマヌニア公軍による投石機による攻撃、それに続くベレンティア公の手勢による総突撃。

 これが奏功し、バボタタス橋は王国軍により占拠されることになり、山岳民連合は大きく後退することを余儀なくされた。

 王国軍は引き続き橋の前後に防御陣地を整えはじめ、例の巨大な鳥のような破格の相手が出てこない限りは再び戦局が覆ることはないだろう……と、そう囁かれはじめていた。

 なにしろベレンティア公の旗をかかげる手勢は、今も続々とこの地に集まり続けている。今の時点で昨日と同じような損害を被っても、すぐに埋め合わせが可能となるほどの人数であった。


 一方、投石機による攻撃を敢行したアルマヌニア公軍は、損害らしい損害も出さずに多数の敵兵を捕らえ、敵軍の戦力を削減することに成功した。直接損害を与えた分や心理的な圧迫感を与えたことまで含めれば、かなりの戦功と呼ぶことができる。

 少し前に「新領地」を死守したことも合わせて、王国軍内でのアルマヌニア公軍の名声はにわかに高まった。辺境州公とも呼ばれるアルマヌニア公は王国大貴族の中でも新興の勢力であり、これらの戦功により面目を改めた形となる。

 ムヒライヒ卿は慎重を期し、周囲への警戒を強めながら全軍を前進させ、最終的にはバボタタス橋を占拠した本隊と合流することを当面の目標と定めた。

 しかし、鈍重な投石機群をともない、細い山道での行軍は移動効率が悪く、実際の進行速度はかなり遅かった。


 そして、大きく後退を余儀なくされた山岳民連合軍では……軍師のバツキヤが、頭を抱えていた。

「逃亡あるいは戦死した人数が集計できないというのは理解できます。

 しかし、現在戦える人数までもがはっきりしないというのは……。

 このままでは、再編成もままならないではないですか!」

「そのように申されましても」

 幕僚の一員である初老の文官が、若年者であるバツキヤに深々と頭をさげた。

「部族ごとに逃げ散ったあと、再集合の合図を無視する部族があまりにも多く……」

「……完全に逃げたのか、それとも、様子見を決め込んでいるのか判断がつかないというわけですか?」

 バツキヤは、軽く下唇を噛んだ。

 総指揮官の実力に疑問が呈され、威光がないからこそ起こった事態といえた。

「……わかりました。

 今、動ける部族だけで再編成を急ぎます。

 集合した部族の一覧をください」

 命令系統を一本化できない、部族ごとの自決主義は山岳民連合の宿痾といえる。勢いに乗っているときは強いが、一度劣勢に転じると、今回のように建て直しに難儀する。

 これまでこの短所があまり注目されてこなかったのは、ルシアナのバックアップを得て多くの強獣を従えてきたことと、それに、多くの部族が場数を踏んでいることで戦闘慣れして、他国の軍隊に後れをとること事態が滅多になかったからだ。

 ルシアナが不在となった現在、搬送に使用する家畜にも事欠き補給が滞っている。必要な物資が不足がちになっていることが、兵の流出に拍車をかけていた。

 ルシアナの影響力によって普通なら容易に人に慣れない獣がこれまでの部族連合内では日常的に使役されており、それは戦場だけではなくもっと広い範囲内で強い影響を与えている。傾斜や起伏に富んだ土地が多く、街道もろくに整備されていないから、人力や馬車ばかりでは大量輸送ができない。

 重い荷物を背中に積んだままでも登坂能力もある動物を多数使役することで、現在の部族連合社会は成立している。大量の食料を輸入ないしは略奪しないと今の人口を支えきれないし、その荷を各部族に行き渡らせるのには、そうした輸送手段の存在が不可欠であった。

 部族連合内ではルシアナの存在はもう何百年も前から「あって当然」の前提となっており、だからこそ普段はそうと意識されていなかったわけだが……このインフラがいきなりなくなった影響は、これから部族連合社会を震撼させていくことだろう。

 仮に投石機による攻撃とその後の攻勢がなかったとしても、いずれにせよこの地の山岳民連合はあまり長くは戦えなかったはずだった。こんな状況では、長く戦えるはずがないのだ。

 大魔女ルシアナが逝去した時点で部族連合は全体的に物資の流通が滞りはじめ、人にたとえれば一種の動脈硬化症的な症状をあらわしはじめている。今後、その症状を根底から改善していかないと、今後、部族連合は従来のような影響力を周辺諸国に対して与えることはできなくなるはずだった。

 しかし、そのことに気づいている者は、特に各部族の為政者の中にどれほどいることか。

 仮に、どこかの部族の首長がそのことに思い至ったとしても、「ルシアナ不在」を前提とし、そのことに適応した形に社会全体を改良させるほどの影響力を持つ者は皆無といってよかった。

 ここにも、「部族ごとの自決主義」の弊害がでてくる。結局、どの首長も「自分の部族」のことしか考えず、部族連合社会全体のことを考慮する視野を持つ者が不在なのだ。


 これはあくまでバツキヤ個人の見解であるが、このたびのいくさに限らず、部族連合はすでに「詰んでいる」状態にあった。


 ……山岳民連合の弱点が、この場に凝縮されているな……と、バツキヤは、そう思う。

 時代遅れになりつつある統治機構。

 大魔女ルシアナの影響力への依存。

 それに……尚武の気風、といえば聞こえはいいが、その他の分野を必要以上に下にみる風潮。そのおかげで、まともな文官が育ちにくい。

 どこの部族も、収入にせよ地位にせよ、文官よりも武官の方が厚遇されている有様だった。

 職人といえば武器や防具ばかりを作りたがり、農具や日常的に使用する道具類は後回しにされる。当然、改良も進まなくて、周辺諸国の同じような用途のものよりも一世代か二世代、あるいはそれ以上遅れている有様だった。軍事用途とそれ以外のものとで、熱の入れようがあまりにも異なる。

 農耕に携わる者をなぜか蔑視し、食料の自給率があがらず、結果、したくもない外征を毎年のように行わなければならなくなる。

 それらの「悪しき風潮」を改めようとした為政者が過去にいなかったわけではないのだが……例の「部族ごとの自決主義」のおかげで改革を押し通すこともできず、結果として現在まで旧態然とした体制をいまだに維持している。

 そして、今戦っている王国をはじめとする諸外国は、山岳民連合が足踏みをしている間に開拓して耕作面積を増やし、作物の栽培法方を工夫したり品種改良を重ね……結果、民の数そのものが格段に増えている。

 食料が安定して増産されるようになれば、人口が増えていくのは当然の理だった。

 今回のいくさはさて置き、いずれにせよ山岳民連合自体が行き詰まりにきており、そう遠くない未来に内部から瓦解していくのではないか……と、バツキヤはそのように予想している。

 

「だけど……それも、これも……」

 戦後、王国へ渡るにしても、このいくさにおいて自分の能力を十分に誇示してから行くのと、難民同然、この身ひとつで行くのとでは、バツキヤの未来図は大いに違ってくる。

 だから、このいくさではそれなりの功績を納めて自分の存在感を少しでも大きくしておきたかった。

 一番いいのは、王国軍に完勝してその功労者となった上で部族連合に見切りをつける、という形であるわけだが、それが無理なら、せめて互角のところにまで持っていきたいところだ。

 そのためには、戦力の再編成を急ぐ必要があるのだが……。


 バツキヤは、今の時点でも残っている部族の一覧表を眺める。

「……全部で、十五万に届くかとどかないか、か……」

 ざっと実働できる人数を暗算してみて、「ずいぶんと目減りしたものだ」、と、バツキヤは思った。

 この一覧表にのっているのは、あくまで現在確認されている部族だけなので、まだ安否や戦意の有無が確認できていない部族がさらに加わる可能性もあったが……最盛期にはその三倍以上の人数を誇っていたことを考えると、やはり「著しく弱体化している」、といわざるを得なかった。

 現在も残っている連中はそれだけ戦意旺盛であり、士気が高い……といういい方もできたが、バツキヤの記憶している過去の戦史によると精神的な気分だけで勝敗が覆った例はほとんどない。

 ただ一体だけ残った翼竜による偵察員の報告によれば、王国軍の方は今日になってからいきなり数万以上の増員が到着しはじめ、その数はまだまだ増え続けているという。

 十万以上の増員があったとすれば、昨日、マニュルが敵軍に与えた損害があっさりと補充されたことになるし、それ以上の人数が集まるとなれば、戦力差が今以上に広がることになる。

 バボタタス橋は完全に奪回され、本陣自体も大きく後退させることを余儀なくされた今、できることといったら……。

「……まずは、投石機の方をなんとかして、後顧の憂いを取り除きますか」

 常識的に考えれば、敵の本隊が来ているバボタタス橋よりも、そちらの方がまだしも抵抗が少ないはずだった。

 巨大な投石機はそれだけ取り回しに不自由し、弾切れになった現在、格好の標的でもある。

 戦場が狭い山道に限定されることに若干の不安が残るが……これは、「ここが正念場」と覚悟して切り抜けて貰うしかない。

 バツキヤは「投石機群の破壊」を目標とした作戦案を頭の中で練りはじめた。


「……ねー、バツキヤ」

 マニュルのひとことでバツキヤの思考が中断される。

「手助けってわけでもないけど……暇だから、王国軍相手に遊んできてもいいかな?」

「それは……どうでしょうか?」

 バツキヤは、首をひねる。

「報告によると、橋を渡って攻め込んできた人たちは、これまで相手にしていた人たちよりも士気が高いようですし……。

 下手につついて刺激しない方がいいように思えます」

 なにより、マニュルの手持ちの獣の中で、一番攻撃力があるロック鳥が、大勢に目撃されている。

 以前のときほどには驚いてはくれないだろうし、実際に効果があるのかどうかはわからないにせよ、それなりの対策も講じてくるだろう。

 新兵器が脅威であるのは新兵器が新兵器であるうちだけのことであり、二度目三度目と回数を重ねれば重ねるほど研究され、対応策をたてられるものなのだ。

 軍師としてのバツキヤは、敵側である王国軍を無能であると想定するほど無邪気ではなかった。

「警戒する気持ちはわかるけど、あたしがここに来たのももとはといえばルシアナを殺した連中に報復するためだしさ。

 あたしがここでなにもしなかったら、それこそあとで他のルシアナの子らに締められちゃうよ」

「……そう……ですね」

 バツキヤは、頭の中で様々な要素を勘案する。

「正直、いくらかでも敵軍に対して損害を与えられることができれば、こちらとしてはありがたいのですが……。

 ですが、くれぐれも無理はしないでください。

 マニュルさんは、こんなところで犠牲になっていい人ではありません。

 あくまで、自分の身の安全を第一に考えて行動してくださるのでしたら……」

「へーきへーき。

 心配性だなあ、バツキヤは……」

 マニュルは邪気のない笑みをみせた。

「……あたしだって、自分の身くらい守れるって。

 それで、どこを攻撃するのがバツキヤにとって一番都合がいい?

 投石機のやつら? こっちに攻め込んで橋を占拠してきたやつら? それとも、むこう岸の連中?」

「その中で選ぶのでしたら……最後の、ですね。

 マニュルさんの子飼いたちがいきなり敵陣中に現れたりしたら、王国側の人たちもさぞや肝を冷やすことでしょう」

「……なーる。

 心理的な効果、ってやつか。

 流石は軍師。

 こっちが投石機でやられたことを、別の形でやり返すんだね」

「マニュルさんは、飲み込みが早いですね」

「いっそのこと、本陣を直撃して大貴族どももろともに吹き飛ばしちゃおうか?」

「やめてください!

 マニュルさんなら、やってやれないことはないんでしょうけど……。

 でも、それで敵軍が逆上したりしたら、うちの兵が皆殺しにされてしまいます!」



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