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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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街道の問題

 ここ最近、ハザマは多忙だった。

 洞窟衆の首領とハザマ領領主を兼任するハザマが多忙なのは以前からのことなので、より正確には、

「ここ最近、ハザマは以前にも増して多忙になった」

 というべきなのかも知れない。

 従来の通常業務に加えて、王国からの独立を控えたハザマ領の新体制造りと対東森地域対策も平行して処理しなければならない時期であり、各部署間での意見調整や新規法案の元となる草稿のチェックなど、ハザマにしか出来ない仕事はそれこそ山のようにあった。

「これでも、周りに優秀なのが多いから助かっている方ではあるんだよな」

 などと、ハザマは思う。

 タマルやルア、メキャムリム姫、マヌダルク姫など、それぞれ専門の分野に限定すればそのまま判断を任せてしまってもいい人材が現在の洞窟衆には揃っている。

 そうしてハザマの負担が軽くなる以上に、ハザマの負担を重くする新しい要因が増えて、結果として以前よりも忙しくなっている形だったが。


 たとえば、森東地域で展開している事業に関していえば、その規模があまりにも大きいため現在の洞窟衆だけでは資金的に支えきれない部分が増えつつある。

 これについては現状、洞窟衆以外の場所から出資者を募ってどうにか回しているわけだが、その出資者を納得するだけの収益を早いところ継続的に回収できる体制を整えないと、これはもうかなりヤバいことになり得た。

 これまで、過去の実績からそうした出資者たちは今回の森東地域の件についても、

「洞窟衆ならば、特に心配することはないだろう」

 と判断して、黙ってかなり多額の出資をしていた。

 つまり、今の時点では、ということだが。

 だが、今後、森東地域でなんらかの躓きが発生し、そうした出資分を回収する時期が大幅に遅れる見込みが出てきたり、あるいは回収不能だと判断されたら、その時点で洞窟衆は事実上破産する。

 森東地域を安定させる、どころではなく、洞窟衆自体の足元に火が点く可能性は、常に存在するのだった。

 無論、ハザマたち洞窟衆側も、そうならないように務めてはいた。

 森東地域から、いくらかでもアガリが出てくるような事業形態をなるべく早い段階で構築し、稼働させたいと思っている。

 今後も必要とされる投資金額があまりにも膨大であるため、すぐに黒字化にすることはまず不可能であったが、それでも多少に関わらず収益が発生するような仕組みを構築してしまえば、出資者たちを安心させるための材料に出来た。

 とはいえ、今の森東地域にはそうした利潤を生み出すような事業はほとんどない。

 洞窟衆側も現地に働きかけ、各種の事業を振興させようと試みているところだったが、これらに関していえば実際に成果が出るまでは相応に時間がかかるはずだった。

 農業にせよ工業にせよ、あるいはその他の事業にせよ、準備をして稼働させて、それが利益を発生させるまでには数ヶ月から場合によっては年単位の時間がかかるのが、普通のことなのである。

 つまり、それまでの期間、洞窟衆は一方的に森東地域に投資を続ける必要があった。

 こうした事情は、そもそも洞窟衆が森東地域への干渉を開始した当初から予想されたことではあったが、現在の状況は、その当初の予想を遙かに上回って投資金額が膨れあがっている。

 原因はいくつかあるのだが、最大の要因をひとつだけ挙げるとすると、ヴァンクレスを筆頭とする現地組の動きがハザマたち洞窟衆上層部の予想を遙かに超えて迅速に、洞窟衆の影響圏を押し広げているからだった。

 このことについてハザマは、

「当初の予定では、もっとゆっくりと着実に取り組んでいくつもりだったんだがな」

 などと、日頃からぼやいている。

 当初予想していた動きを前倒しにして実行している形であり、それ自体はなんら悪いことではないのだが、洞窟衆が面倒を見る範囲が広がれば広がるほど、必要となる物資や資金の量は必然的に膨れあがるわけで。

 好調すぎるがゆえの悩み、と、いい換えることも出来た。

 そもそも、森東地域への干渉を開始して一ヶ月あまりしか経っていないというのに、広大な森東地域を山地から湾岸部に、南北に繋がる交通路を確保出来てしまっているわけで。

 これは、洞窟衆のみならず、この世界の標準的な基準からいっても、異例を通り越して異常なほど高速な進展といえた。

 常識的に考えれば、普通ならば数ヶ月、場合によっては数年はかかるような事業なのである。

「うちのやつらは、優秀だからなあ」

 と、ハザマは皮肉な思いに駆られる。

 その優秀な連中が好きに動ける環境を整えるため、その後方を支える洞窟衆側は迅速に各種の手配をしなければならない。

 必要な資金や物資をかき集めて森東地域へ送り込むこともそうだが、それ以外にも、森東地域が少しでも早く自立出来るよう、各種の方策を用意しておく必要があった。


 その一例を挙げると、現在森東地域内において、洞窟衆が主導して行っている街道整備事業を、周辺地域の有力者との共同事業という形にすること、などがある。

 こうした街道は目下、かなり力を入れて施工中であり、初期に着手した場所では距離的には短いものの一部分開通し、すでに実際に使用されていた。

 そうした街道を利用する者には例外なく距離に応じた通行料を支払って貰っているのだが、端的にいえばこれは立派な利権であった。

 街道整備にかかる費用を周辺地域の実力者に一部負担をして貰い、その代わりに通行料の何割かがいずれは戻ってくると、そういう契約を交わすように働きかけている。

 費用を負担、といっても、そうした事業に必要なほどの金額を今の時点で持っている有力者は少なかったので、大半は洞窟衆への借金という形でそうした、将来受け取るべき利権を確保し、実際に通行料が発生した時点でその何割かを洞窟衆に収めて開設当初の借財を返済していく形であった。

 利権と同時にリスクも分散して負担するという点で、共同事業というか、持ち株制度に近い。

 一見して迂遠なようであったが、そうして森東地域の人間にも街道整備などの事業について関わって貰うことによって、より真剣に現地での発展について向き合って貰うことこそが、一番の目的であった。

 幸いなことに、こうした街道整備事業自体は、当初の予定を遙かに上回る速度で進捗していた。

 どうも、実際に街道整備工事にあたっている人間たちが、時間が経つにつれて仕事に慣れ、作業効率があがって来ているらしい。

 必要な物資や人件費を、洞窟衆側が工面してどうにか現地に送りつつけていることも、工事が高速で進む大きな原因となっているようだが。

 そうして街道が通った場所には、ほぼ例外なく通信網に組み込まれ、内外の情報をリアルタイムに行き来するようになってもいた。

 つまりは、事実上通常の、洞窟衆影響圏に組み込まれたというわけだが、そうして文物や人、情報などの往来が自由に、以前よりも軽い負担で出来るようになると、自然とその地域の住人の意識も変容していく。

 一番大きな変化は、それまで地元のことしか見ていなかった人々が、外の状況にも目を向け、外部と自分の足元とを比較するようになるのだ。

 こうした変化の影響も、そう遠くない将来、確実に現れるはずだった。

 具体的にいえば、それまでたいした動きを見せてこなかった森東地域の人間が、なんらかの展望を持って独自に動き出すはずなのだ。

 一連の洞窟衆の仕事は、そうした動きが起こりやすい環境を整える、ということを目的としている。

 と、そういい代えることも出来た。


 そうした背景を前提にした上で、ハザマは、そうした街道の治安を守るための組織を作ることは出来ないかと、そう構想している。

 出来れば森東地域の人間たちの手で組織し、運用して貰いたい。

 というのは、森東地域は広大であり、各地の支配状況はひどく複雑で、よそ者にはかなりわかりにくい状況になっている。

 たとえ街道が整備されていったとしても、その街道を利用する際、頻繁に関税を徴収されるようでは、ここまで準備してきた環境がかなりの部分無駄になってしまう。

 出来れば一括して街道側が交通料を徴収して、それを各地の有力者に分配する、というシステムを定着させるのが、そうした不安要因を排除するためのほとんど唯一の方策に思えた。

 工事が進めば距離ばかりが長くなる、そんな街道の治安自体を守ることも必要だったが、それ以上に、森東地域という複雑な土地で、街道自体が独自の、強力な勢力になってしまえば、トラブルが発生する原因はかなり抑制することが出来る。

 その、はずだった。

 ただ、それを実現するためには、現地の諸勢力を納得させるための粘り強い交渉と、それに、関係者全員が不服を持たない、比較的公平な規則作りが必要となる。

 前者はともかく、後者に関しては、実際の作業的には、新しい法律を作るのとたいして変わらない作業といえた。

 それも、支配者でも被支配者でもなく、洞窟衆側が森東地域の有力者たちとタメの関係を保ちつつ、長く維持されることが期待される、そんな面倒な条件を持つ法である。

 上から強引に守らせる、では駄目で、自発的に守りたくなるようなルール作りが必要とされているわけで、これは完全にハザマの手には余った。

 それで具体的にどうしたかというと、これから新体制に移行するハザマ領のために招聘した帝国の法律学者たちに相談をして、こちらのルール作りも並行して担当して貰っている。



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