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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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森東地域の問題点

 森東地域の問題解決を困難にさせている要因は大まかに分けてふたつに集約される。

 広さと、複雑さに、である。

 森東地域という呼称自体、洞窟衆が独自に採用している便宜的な名称に過ぎない。

 実際にこの地域は、王国とスデスラス王国、その周辺諸国を含む「平地諸国」と一括される地域よりも広大な面積に雑多な勢力がひしめき合う、複雑な内情を持つ地域であった。

 政治的、文化的、あるいは経済的、どのような見地から見てもその内実は複雑怪奇であり、簡単にこうと単純化して解釈できるような余地はほぼなく、そうしたただでさえなにかと複雑な場所にまず山地から侵攻してきた勢力が、続いて洞窟衆やグフナラマス公爵家勢やベズデア連合などが干渉をはじめてさらに複雑さを増大させている。

 こんな現状であるため、山地からの侵攻による影響をモロに被っている北部と南の沿岸部とでは、現状に対する危機感のありようにもかなりの格差があった。

 戦乱に晒され、場合によっては生命を脅かされたり住む土地を追われたりする者がいる一方で、そうした脅威の影響をほとんど受けていない土地もある。

 これだけ広い地域であればそうした差が出来るのはむしろ当然であり、直接的な脅威に晒されていない地域の住人たちにしてみれば逼迫した危機感を抱きにくいのも、これまた当然といえた。

 もう少し時間が経過すれば、ところてん式に土地を追われた住人が近隣の土地を襲う連鎖が続いてこうした混乱ももっと広い地域に波及するのかも知れなかったが、洞窟衆と冒険者ギルドがそうした被害を受けた地域に赴いて積極的に求人活動を行ったおかげでこうした連鎖はかなりの部分、緩衝されている。

 住む場所も生計を立てる方法も奪われ困窮した時、

「仕事を与える代わりに衣食住を保障するよ」

 と声をかける者が存在すれば、そもそも大きなリスクを背負って他人の土地を奪おうと考える者は少ないのだった。

 そして、洞窟衆側は流通網の整備などで一人でも多くの人手を確保したいと考えており、なおかつ、優秀な能力を持つ者を管理者として採用して厚遇する用意もある。

 武力による問題解決には常に自分たちの生命も危険に晒されるという側面があり、他にもっと確実な方法が用意されているのならば、そんなリスキーな方法を自分から採用する者はほとんどいない。

 この時の洞窟衆はその広大な森東地域にまともな街道その他の流通経路を整備しようとしていたので、人手はいくらあっても足りないほどだった。

 この開発事業は数万、あるいは数十万単位の人間を同時に働かせても間に合わないくらいの規模であり、また、現在の洞窟衆はすぐに利益を生むわけでもないこうした事業に投資するだけのリソースも持ち合わせている。

 なにしろ森東地域は広大であったから、今すぐにそのすべてに影響を与えるということは物理的に不可能だった。

 が、洞窟衆は着実に、山地から進出してきた勢力と既存の勢力とが争う土地に浸透しており、放置すれば略奪者になるか流民化するしかない人々を取り込んで無害な存在にしていた。

 北部、山地にほど近い、かなり広い地域でこうした混乱が起こっている一方、それ以外の、山地からの影響を直接受けていない地域も存在する。

 というか、森東地域全体から見ると、そうした山地からの影響が軽微であるかほとんどない地域の方が、ずっと広い。

 前述したように、仮に洞窟衆の干渉がなかったとしたら、時間が経てば経つほど混乱に巻き込まれた地域は広がる一方であり、被害を受けた人数も飛躍的に増大するはずだった。

 しかし現状、そうした混乱が広まる速度は、かなりの部分、減衰している。

 そうした地域に、かなりの人数が駆け込んでも当座の食い扶持と仕事をあてがってくれる、冒険者ギルドというよそ者の存在が噂として急速に広まっており、焼け出されて行き場に困った人々は、まずその冒険者ギルドが出張っている土地を目指して移動するようになっていたからだ。

 森東地域における洞窟衆の事業が、戦乱が拡大することを緩和するために機能している形になる。

 それだけですべての被害者を救えるほど単純な問題ではないのだが、結果としてはこれ以上に事態が悪化する速度を大いに緩めていた。


 そんな事情も手伝って、森東地域全体で見ると、山地からの脅威を受けている、あるいは、この時点で直接的な影響はまだないものの、近い将来には警戒するべきだと感じている地域は実はあまり広くない。

 あくまで、森東地域全体からみた割合として考えると、という比較の問題に過ぎないともいえるわけだが、ともかくガダイドの港町周辺の地域では、この脅威を本気で憂慮している者はほとんどいなかった。

 噂としてそうしたことがあった、というのは伝わっていたが、自分たちに直接影響することはない、少なくともすぐになにがしかの影響をもたらすものではないと、そう考えている者が大半だった。

 そしてそうした思考は、相応に常識的な判断でもある。

 そうした、戦乱に巻き込まれている地域は、ガダイドをはじめとする沿岸部からはかなりの距離を置いていたからだ。

 しかし今、山地からとはまったく違った、別の勢力によってガダイドは侵略されようとしていた。

 到底勝ち目がない。

 そう判断をして戦火を交える選択をガダイド側が避けているので、今のところは直接的な被害はほとんどないのだが、それでもガダイドはグフナラマス公爵家の駐留軍を支えるために多大な出費を強いられている。

 さらにその侵略者たちは、ガダイド周辺を足がかりに他の地域への進出を視野に入れていることは、現在の動きからみても明白といえた。

 その、森東地域南部に相当する臨海部の、山地からの脅威に対してこの時点で差し迫った危機感を抱かなかった人たちも、グフナラマス公爵勢とベズデア連合らの侵略者たちに対しては、かなり強い危惧を抱いていた。

 この周辺の住人にとって、山地の脅威はあくまで伝聞であり、しかも意思が統一された大勢力による計画的な侵攻ではない、山地から弾き出された小勢力が散発的に、無計画にこちらにやって来たとしても、いずれは落ち着くべきところに落ち着くだろう。

 そう、楽観することが出来た。

 しかし、海の側から来た勢力は、あくまで計画的に動いている。

 ということは、迎撃する側も相手の意図をどうにかして挫かなければ、いつまでも浸食される一方であり、それが行き着くところまで行き着けば、自分たちは侵略者たちの属領になりさがる。

 山地からの脅威がどちらかというと人為的なものではなく、自然災害的な印象があるのに比べ、海からの侵略は人間同士の、政治的に決着をつけようとしない限りは一方的に割を食う。

 そういう性質の脅威である、という認識を強くしている者が多かった。

 そして、こうした海からの侵略者と互角以上に交渉し、あるいは戦うためには、ガダイドの地元民たちは自分たちの力が分散されすぎていることも、重々理解している。

 軍事力ひとつとっても、各個の商会なり船団なりが備えている武力は存在するのだが、その武力を糾合して動かすための命令系統が存在しない。

 海賊など、外部からの脅威に自衛するだけならば、そもそもそれだけで十分だったのである。

 臨海部に限らず、これまで森東地域の人々は、そもそも必要以上の規模の組織を作るだけの動機を持たなかった。

 氏族など、権力構造があまたの勢力に細部化されたこの地方では、一定以上の組織を作り、その内部で意思を統一すること自体の難易度が高かったし、そうまでして組織の規模を大きくする必要性もほとんどなかった、ということになる。

 無理に大きな組織を作ろうとしても、その規模を維持するため、つまり、組織内部の意見を調整するための手間も多くなって、よほどの旨味がなければ割に合わないのだった。

 しかし、ガダイドに来た侵略者たちが他の地域へ手を出すのもほぼ時間の問題であり、ここに至ってそんなこともいっていられない事態となった。

 氏族や商会、船団などの小勢力をどうにかして足並みを揃え、そうした外来の勢力に対抗可能な実力を備えた大勢力に組み直す。

 それが出来なければ、自分たちは、外から来た連中に一方的に蹂躙されるだけの存在になる。

 そうした危機感や認識が、ガダイドに来た侵略者の動向などとともに周辺地域に伝えられて、対応を求められた。

 ガダイドからの警告と情報を受け取った側は、どう思ったのか。

 大半の人間は、警告に関しては心の底から同意し、憂慮もしていた。

 が、同時に、

「地元の勢力を再編成をして、外部からの侵攻に対抗するのは無理だろう」

 と、諦め半分にそう思う者が大半だった。

 そもそも、そんなことが可能であったならば、とっくの昔に誰かが臨海部なり内陸部なりにそれなりに大きな統一国家を作り上げているのである。

 商人たちにとっても、そうした統一政権の保護下で交易をする方がなにかと安心が出来るのだが、これまでそうした広域の領地を持つ国家を作ろうと指向して成功した勢力は、森東地域ではことごとく挫折して成功していない。

 そうした試みにとって、一番の障害となったのは、森東地域が基本的に無数の氏族社会の集まりであるという事実だった。

 この氏族ごとに価値観や法に微妙な差異が存在し、ある氏族が他の氏族を併呑しようと試みても、長い目で見ると必ずといっていいほど失敗し、最終的には謀反なり反乱なりを起こされて分裂してしまう。

 森東地域全域の氏族にほぼ共通する傾向として、

「よほどのことがなければ、他の氏族の風下には立ちたくない」

 とする強烈なプライドが存在する。

 他者に従属することを極端に嫌う気風が強く根付いているため、これまで森東地域内で複数の氏族をまたぐような、大きな組織は長期的に安定して存続することは出来なかった、わけである。

 外部からの侵略者に対抗するため、それなりの規模と実力を持った組織を形成する必要性はほとんどの者が感じていた。

 だが、そんな組織を、誰がどんな風に作りあげるというのか。

 しかも、すでに侵略者たちが動き出している以上、こちらに残された時間は少ないといえる。

 この問題意識を持つ人々の間では、絶望的な空気が広がっていた。


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