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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ガダイドの冒険者ギルド

 北の山地側から森東地域への進出を開始した洞窟衆の関係者は、この時点ではまだガダイドをはじめとする森東地域の南部にまで到達していない。

 だからガダイド住人たちによる洞窟衆の認識も、必然的に伝聞を経由した漠然としたイメージの範疇に留まっている。

 そんなあやふやな情報だけで洞窟衆を頼りにしようとするほど、ガダイドの住人たちの判断力は弱っていなかった。

 グフナラマス公爵側の要求がガダイド側にとってかなり不利なものであったとしても、この時点ではまだ強硬な態度を取っているわけではなく、交渉により提出された条件を緩和させる余地は十分にあると、そう考えられてもいた。

 相手が出してきた条件をそのまま丸呑みにするのは、商人が多いガダイド側の精神性にそぐわない。

 最終的に相手のいうことを呑まざるを得ないとしても、その過程で散々渋って値切って、可能な限りこちらに有利な条件に近づけるのがせめてもの抵抗ではないか。

 そういう空気が、この時点ではまだ優勢だった。

 しかし翌日には、グフナラマス公爵側の使者が新たな要求をいくつか突きつけてきたことで、ガダイド側は大いに困惑をすることになる。


「数日中に補給物資を積んだ船が定期的にガダイドに寄港することになるから、その積荷を降ろすために埠頭を空け、同時にその積荷を保管する場所を提供してくれ」

「グフナラマス公爵領を侵そうとした勢力の捜索活動を開始するから、道案内役を何名か用意してくれ」

 要約すると、そういうことになる。

 先に出された条件に沿った内容ではあったが、ガダイド側はグフナラマス公爵側がここまで急いで行動に移ることを想定していない。

 しかしグフナラマス公爵側の態度は平静を通り越して冷淡に思えるほどであり、ガダイド側がどんな反応をしようが予定通りに行動をすることが容易に予想が出来た。

 つまり、ガダイド側が荷物を置く場所を用意しなければそのまま上陸をして強引に適当な場所を接収し、案内役を用意しなければ部隊を編成してそのまま近隣の町に攻め込みかねない。

 グフナラマス公爵側は、ガダイドの住人がどんな態度を返そうとも当初の行程を淡々と消化していく。

 そんな意向であるらしかった。

 グフナラマス公爵側が出した条件は、ガダイド側の許諾を得るためのものではなく、一方的にグフナラマス公爵側の予定を通告し、協力をするのならばそれでよし、しない場合はガダイド側の都合を一切無視して強引に予定した行動を完遂する。

 そういう、かなり強硬な意思の通達であったらしい。

 実際、今埠頭に停泊しているグフナラマス公爵家の船団は、早速積荷の鉄材を卸しはじめている。

 その鉄材は、組み立てると船舶から荷物を積みおろしする作業を効率化するための起重機なる代物になるらしい。

 後からこの港に来る船のために、早速そうした準備に取りかかっているらしかった。


 それと平行して、グフナラマス公爵家の船に乗っていた、冒険者ギルドと名乗る者たちが上陸してきて、ガダイドの中にある適当な空き家を借りて支店の営業を開始した。

 こちらはグフナラマス公爵家の行動とは違い、強引な手段に訴えることもなく、あくまで通常の商取引の範疇で行動している。

 この冒険者ギルドというのは、たびたび噂として伝わってくる洞窟衆とかいう連中の仲間であるはずだったが、やっていることといえばガダイド中の人足頭の元へ訪ねて挨拶をし、これからはじまるグフナラマス公爵家の荷下ろし作業に協力をして欲しいと呼びかけることであった。

 同時に、その支店でも直に人を募ることもはじめているわけだが、このガダイドの中では冒険者ギルドの名を知る者はまだ少なく、警戒をされてすぐに人が集まる様子もない。

 この冒険者ギルドとは、大仰な名前に反して、実際にやっていることはといえばどうも口入れ屋と大差ないらしい。

 この冒険者ギルドがガダイドの町で積極的にしているのは、荷下ろしのための人手を積極的に集めることであったが、その支店に行くと他にもいろいろと、かなり遠方で働く人間も募集をかけているらしかった。

 ゴドワ、ブビビラ、ハナテ、タットリ、ホイト。

 いずれも、このガダイドからは遙かに遠く、一番近い場所でも移動に数十日は要するような土地だ。

 少額の日銭を稼ぐためだけにそんな長旅をする者が居るとも思えないのだが、冒険者ギルドの者たちは、その募集に関してもどうやら本気で扱っているらしい。

「うちは、あちこちに支店を設けていますから」

 冷やかし半分に声をかけてみた者に対して、冒険者ギルドの人間はそう答えていた。

「一カ所からわずかに数名くらいしか斡旋できなかったとしても、それで困るということはないわけです」

 希望者が居さえすれば、目的地までの足と旅費は冒険者ギルドの方で面倒を見てくれるそうだ。

 途中の、水路で行けるところまでは荷物と同乗する形で送って貰い、それ以降は陸路となる。

 そうすれば、徒歩での旅よりは遙かに日程を短縮できるはずだったが、それでもかなり遠い。

 なんらかの事情があって、急遽このガダイドから離れたいような人間以外には、そんな募集には乗ることはないだろう。

 その、はずだった。

「それに北の方では、山地から降りてきた人たちと衝突して、それまで住んでいた土地を追われた人たちも大勢居ますので。

 そうした人たちが団体でこの手の応募に応じてくれますので、このガダイドで無理に人を集める必要もないわけです」

 応募してくる人間が居れば世話をするが、まったくいなくてもこの冒険者ギルドが困るということはない。

 どうやら、そういうことらしかった。


 グフナラマス公爵家の連中もだったが、この冒険者ギルドの連中もたいがいになにを考えているのかわからない部分が多い。

 いや、このガダイドの人間がどういう反応をしようが、自分たちの目的を完遂するつもりでいることは、理解できるのだが。

 ガダイドの人間たちが協力的であろうが非協力的であろうが、どちらにしても頓着することなく淡々と予定の仕事を消化しにかかっている、ということは、理解が出来た。

 グフナラマス公爵家の方は、若干おかしなところもあるものの、まだしも通常の侵略行為として理解することが可能だった。

 このガダイドをあくまで中継点としか考えていない節があるようだったが。

 しかし、冒険者ギルドの方は、どうも態度が漠然としすぎて、なにを構想しているのか理解しきれない部分がある。

 どうも行く先々で同じような支店を開いて、その支店間で連絡を取り合いながら共同で募集をかけたりしているようなのだが。

 それが行き着くところまで行けば、町や氏族の境を超えて人材が流動化する。

 しかもこの冒険者ギルドは、人足などの単純労働者だけではなく、職人や魔法使い、果ては傭兵のような戦闘要員の募集さえ受け付けているという。

 どんな人材や仕事、あるいは材料や素材の買取まで含めて、集める用件がありさえすれば、規定の手数料を取った上で募集をかけてくれる場所、だそうだ。

 利用する側からすれば、これほど便利な場所はない。

 しかし、それだけの機能を実現するとなれば、その冒険者ギルドというのはかなり広範な流通網を利用可能な上、かなり大量の資材ならびに人材がプールされていなければならないはずであった。

「このガダイドは、今の時点では通常の流通ルートから外れていますので、なにを取り寄せるにしても時間は必要になりますが」

 冒険者ギルドの人間は、質問してきた者に対してはそう返していた。

「なにかご所望のものがあれば、可能な限り対応したいと思います」

 特に気負った態度でもなく、平然とそういってのける。

 この冒険者ギルドの連中は、グフナラマス公爵家の連中とは別の意味で理解不能な存在といえた。

 つまり、ガダイドの住人、大半にとっては、ということだが。

「そんだけ広く深い伝手を持っているんなら、もっと強引なことをしているもんじゃないか」

 商人が多いガダイドの住人は、自然とそう思ってしまう。

 冒険者ギルドの活動を可能とし、支えている流通網についてかなり具体的な部分まで予想が出来てしまう。

 だからこそ抱く、疑問といえた。

 ましてや、その冒険者ギルドの裏には、最近、名前だけは聞こえてくる洞窟衆とかいう連中が控えている。

 その洞窟衆は、かなり先端的な戦闘集団も抱えている、ということだった。

 それだけの規模を持つ集団が、どうしてこれまで消極的な手段にしか訴えていないのか。

 このことも、ガダイドの住人にとっては理解出来なかった。

 実際にはこの時期、洞窟衆は森林を貫通する街道をはじめとする物理的な流通網の整備に注力しており、森東地域における既存勢力に対する直接的な干渉までしている余裕がないだけだったりするのだが。

 流石にそんな事情まで推察可能な人間は、ガダイドの内部には存在しなかった。


 冒険者ギルドの支部が開設してからさらに数日後。

 新たな船便で上陸した人間が、今度は洞窟衆の支店をガダイドに開設した。

 紙や文具、書籍、工具や農具など、洞窟衆の支店は営業を開始するなり多彩な商品を陳列して販売をしはじめる。

 洞窟衆で扱う品はどれもそこそこの値段が設定されていたのだが、その値段以上に質がいいことはすぐに知れ渡り、飛ぶように売れていく。

 ガダイドから離れた場所まで転売するために、まとめ買いをする者も少なくはなかった。

 この時点では、森東地域内ではまだ洞窟衆が進出していない場所が多く、それだけ商機も残されていたのだ。

 洞窟衆支店の商品はすぐに売り切れになり、そして毎日のように船便が着いて補充される。

 しばらくそうした繰り返しとなった。



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