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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ブビビラ村での交渉開始

 結果をいうと、ラダイマ集落のジナニア氏族はヴァンクレスの要求をそのまま呑んだ。

 この場で逆らっても益がない、という理由がまず先に来るわけだが、それ以外にも、その要求自体が実に些細で、ジナニア氏族が持つ現状の権益を少しも損なうものではないから、ということも、その要求をそのまま呑み込ませる大きな要因となっている。

 それどころか、洞窟衆としてはブビビラ村とジナニア氏族との関係にまでは干渉をしてくる意向は持たないと、そうも断言していた。

 つまり、そのまま静観したままであっても、ジナニア氏族にとってはなんの不都合も生じないわけであり、それどころか、将来的にはブビビラ村が今までよりも格段に豊かになり、そのブビビラ村から上納金を取っているジナニア氏族にも、相応に見返りが増えるはずだとさえ、いわれている。

 ジナニア氏族側から見れば、ここでさらに抵抗をして無駄に被害を増やすよりは、しばらく様子見を決め込んでおいた方が遙かに利口な態度なのだった。

 いきなりやってきたヴァンクレスら、洞窟衆と名乗る連中に信頼がおけるかどうかというのは、また別問題であったが。

 今この場で、これ以上に事を荒立てても、得るところが少なく被害が増すだけであり、それよりはしばらくは放置して様子を見ようという見解で、ジナニア氏族は意見を一致させた。

「明日か明後日あたりに、改めてうちの者がこちらに来ると思うが」

 ヴァンクレスという大男は、そういい残してすぐに去って行った。

「細々とした条件や、それ以外の取引をいくつか提案してくるはずなんで、そっちの方も検討してくれや」

 来た時と同じような素早さで、夜間であるのにも関わらず、騎兵の一隊はラダイマ集落を後にする。

 嵐のような連中だな。

 その連中に関して、ジナニア氏族はそう感じた。

 来て、こちらを乱すだけ乱して、そしてすぐに去って行く。

 突風や暴風が、そのまま人馬に姿を変えたような連中だった。


 ヴァンクレスらがブビビラ村に帰ると、いくらか人が増えていた。

 一度、ハザマ領のバジルニアに報告を入れに行った転移魔法使いたちが、何人かの専門家と若干の機材を伴って帰還したのだ。

 内訳は、冒険者ギルドの職員が何名か、土木や建築の専門家、それに、測量などに使用する簡単な機材などになる。

 ブビビラ村や周辺地域との交渉役と、それに周辺の開発計画を準備するための専門家たちだった。

 森林を貫通する街道がすぐに開通するわけではなかったが、その前段階の準備として、このブビビラ村周辺でも出来る準備を進めておく、ということらしい。

 それ以外に、野営地の設営もブビビラ村に残っていた人員が進めてくれていて、少なくともこの夜一晩を過ごすのに不自由しない環境は整えられていた。

 すでに夜もかなり更けていたし、それ以上の交渉や作業を進めるのは、夜が明けてからということになった。

 ヴァンクレスら騎兵部隊も、ようやく天幕の中に入って休息する。


 翌朝、バジルニアから来たばかりの連中は早速活発に動き出した。

 冒険者ギルドの職員は、ブビビラ村に行ってより詳細な交渉に入る。

 ヴァンクレスは顔合わせの場に同行し、そうした職員らを村人たちに引き合わせ、それ以降の細かいことは両者に任せてその場から去った。

 ヴァンクレスは、本人が自認する通り、この手の複雑な、頭を使う仕事を苦手としている。

 冒険者ギルドの職員たちは、

「本格的な交渉はこれからじっくりと詰めていくとして」

 と前置きをし、まずは村人たちに小さな革製の断片を配る。

「これを丸一日、肌のどこかに密着させてください。

 そうして丸一日以上経った物は、こちらで買い取ります」

 といって、実際の買い取り金額を提示する。

 他の場所でも同じようなやり取りが行われている、例の魔力札であった。

 この魔力を充填する札は、利用価値が高く、同時に洞窟衆が周囲に現金を配布するための格好の口実となる。

 まずは、ほとんどなにもせずに洞窟衆から利益を供給される、という体験をこのブビビラ村の人にもして貰い、心証をよくしようという算段だった。

 もちろん、魔力の充填自体も、洞窟衆はかなり強く欲していて、その証拠に肝心の魔力札の方が最近では生産が追いつかなくなっている。

 そんな、魔力札が不足しがちな中、このブビビラ村のように、洞窟衆がはじめて進出する土地には、優先的に魔力札を回している状況だった。

 普通ならばこの魔力札も、一度買い取った札に魔力を充填して貰った物を、冒険者ギルドの窓口で買い取ることになっているのだが、今回は初見の挨拶も兼ねて、かなりの量の札をブビビラ村に無償で提供している。

 この札は一度引き取ったらその魔力をどこかに移さない限り再使用は出来ないので、二度目以降は村人たちに購入して貰う形になるが、一度実際に現金化する経験をしたら、その程度の出費を惜しむことはないはずだった。

 それから、職員らはこの村でなにか困っていることはないかと、詳しい聞き込みを開始する。

 街道がここまで開通する前にやっておきたい準備はいくらでもあるのだが、まずはこの村の住人がなにを求めているのか、そしてなにか洞窟衆に解消可能な問題はないのか、検証をし、出来ればその問題を解消して信頼関係を築いておいた方が、今後のことを考えるとなにかとやりやすい。

「支配ではなく、対等の取引関係を」

 というハザマの基本方針は、洞窟衆なり冒険者ギルドなりの末端にまで徹底されていた。

 一方的に搾取するのではなく、相互に利益を得る関係をどのように築くべきなのか。

 この森東地域への進出についても、かなり考慮した上で具体的な方策を決定している。


「ここから少し離れますが、ゴドワという土地にうちの拠点を作っているところです」

 冒険者ギルドの職員は、ブビビラ村の人間にそう語った。

「そのゴドワとここを結ぶ定期便も、あと何日かすれば稼働して、各種物資をこちらに送り込んでくる手はずになっています。

 そのついでに、といってはなんですが、皆さんが必要とする物がなにかあれば、格安の運送料でこちらに取り寄せることが可能になります」

 農具や工具、紙や筆記具などの文具、書籍などの細々とした道具類から、井戸掘り職人の手配や給水塔の建築まで、洞窟衆が手配を出来る事物はかなり幅広かった。

 無論、それらを無償で提供するわけではないのだが、それでも注文さえあれば提供することが出来ると、そう断言する洞窟衆の関係者は、これまでほとんど自給自足同然の経済体制に甘んじていたブビビラ村の人々から見ればかなり隔絶した存在に見える。

「ああ、いや」

 初老の村長は、冒険者ギルド職員の提案を受けて、しどろもどろに答えた。

「そんなことをいわれても、わしらにゃあ支払いに使える金子にも事欠く有様でな。

 欲しい物はいくらでもあるが、どうにもこちらの手に届きそうにはないなあ」

 冒険者ギルド側が提示した条件はそれなりに魅力的に見えたが、だからこそ警戒心が働いていた。

 そうした利便性を得ることが出来れば、この村の状況もかなりよくなることは確かなのだが。

 まだそこまでこの洞窟衆と名乗る連中に信頼を置くことが出来なかったのだ。


「現在、うちの者たちが使わせていただいている休耕地についてですが」

 それでは、ということで、冒険者ギルド職員は、別のことを提案した。

「手が空いた者に手伝わせて、整地をさせても問題はないでしょうか?」

「馬を放してくれているだけでも、土地はそれなりに肥えるもんなんだが」

 村長はいった。

「その上、整地までしてくれるんですかいの?」

 これまた、ブビビラ村にとって、かなり都合のいい内容になる。

「大きな石を取り除いて、こちらの手の者が退去する際には土を柔らかくほぐして返す程度のことでしたら、そんなに手間にはなりません」

 冒険者ギルド職員は、即答をした。

「これからこちらでお世話になるわけですし、かなりお騒がせすることにもなるでしょうから。

 そのことを考えると、その程度のことをしても罰は当たらないでしょう」

 最終的には、今、この村に来ている十倍以上の人数がこの周辺に押しかけて来る。

 その、はずだった。

 これから、この村にかける迷惑を考えれば、その人数を利用して少しばかりの土地を耕すことなど、これからの計画の規模を考えると、些細な労力であるともいえる。

 その程度のことで村人たちの歓心を買えるのならば、安いくらいだ。

 と、冒険者ギルド職員の側は、そう考えるのだった。

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