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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ラダイマ集落の襲撃

 ヴァンクレスは騎兵部隊のほとんどを引き連れて、再度ラダイマ集落へと目指す。

 別に夜襲を狙っているわけでもないのだが、面倒なことは先に片付けておきたいという気持ちが強かった。

 それにこの騎馬部隊の連中は、これまでヴァンクレスに率いられ転戦を繰り返している精鋭でもある。

 今回の襲撃についても、普段から繰り返している演習の延長上としか受け止めていなかった。

 この騎馬部隊は、洞窟衆の中でも最も多くの実戦をくぐり抜けて来た部隊でもある。

 彼らはこれまでの経験から、戦場でのヴァンクレスの勘働きにかなりの信頼を置いていた。

 ヴァンクレスが今行くべきと判断したのならば、それに水を差すのはよくない。

 好機でもなければ、ヴァンクレスが自分から積極的に動くようなことはないのだ。

 彼らは長旅を経てここまで到達したばかりであったが、特に疲れた様子も見えなかった。

 ただ一人の例外もなく、長時間馬に乗り続けることに慣れていたし、今では旅装も解き、余分な荷物をブビビラに置いて身軽になっている。

 同じ騎行でも長旅を想定した物と強襲を想定した物とではおのずから異なるわけであり、この時の一団は明らかに実戦モードで動いていた。

「おおい!」

 その一団は休憩もせずにラダイマへと到着し、その集落の前でヴァンクレスは大きな声をあげる。

「さっき来た、洞窟衆のヴァンクレスだ!

 ブビビラ村の件で来た!

 誰か出て来てくれ!」

「くどいぞ、ヴァンクレスとやら!」

 囲いらしき物が村の周囲になかったブビビラとは違い、このダライマ集落には土壁の防壁が村を囲っている。

 その防壁の上に立った男が、大きな声で返事をした。

「何度来てもこちらの返答は同じだ!」

「ジナニア氏族の!」

 ヴァンクレスは、そう叫び返す。

「おれたちのことをこのまま見逃してくれれば、そちらにも相応の見返りがある!

 ブビビラ村の税収も増えるんだぞ!

 それでも駄目か!」

「あの森に道を通すだと?

 そんな戯言を、真に受けるわけがなかろう!」

 ジナニア氏族の男は、その場で弓を引いて構えながらそういった。

「ブビビラからも立ち退かぬならば、このまま成敗してくれるぞ!」

「おう!」

 自分を狙う弓に臆することもなく、ヴァンクレスは応じる。

「ちゃんと確認したからな!

 後で文句をいうなよ!

 よし、野郎ども!

 いつもの通りだ!

 まずおれが突っ込むから様子を見てついて来い!」

「今回はどこまでやるんで?」

「偉そうなやつから順番に叩いていけばいい!」

 ヴァンクレスはそう答えて愛馬に鞭を入れる。

「行くぞ、バンガス!」

 ヴァンクレスの馬は、弾かれたように走り出した。

「お、おい!」

 土壁の上で弓を構えていた男が、狼狽した声を出す。

「どうなっても知らねえからな!」

 そういい終わるのと同時に、手にしていた弦を放す。

 風切り音とともに、弓から放たれた矢がまっすぐにヴァンクレスへと向かい、兜の面頬に当たってそのまま弾かれた。

 そしてヴァンクレスの乗馬は、男が二の矢をつがえる前に土壁の門に到着する。

 ヴァンクレスは手にしていた大槌を振り切って、一撃で頑丈な門を破砕した。

 ヴァンクレスから少し遅れて追走していた騎馬部隊が、破壊された門を飛び越えてそのままラダイマ集落の内部へと侵入していく。

「お、おい!」

 土壁の上にいた男が、そうした様子を確認して、情けない声を出した。

「やめんか、お前ら!」

「そういわれて素直に止めるやつがいるかぁ?」

 ヴァンクレスは、そちらの方に顔を向けてそういった。

「おれたちはお前らを襲いに来たんだぞ」

 敵対勢力への扱いに対して、作法や礼法を気に掛ける方がどうかしている。

 この場合、ヴァンクレスの方が正論であった。

 ヴァンクレスとジナニア氏族の男が短いやり取りをしている間にも、どかどかと集落の中になだれ込んでいる。

 土壁の防壁の中から、すぐに怒号や悲鳴などが響いてきた。

「なに、うちの連中は慣れているからな。

 無駄な抵抗をしなければ命までは取らねえ」

 ヴァンクレスは、ジナニア氏族の男にそう告げる。

「ただ、武器を手にしているやつを見かけたら片っ端からぶっ飛ばすことになっている。

 痛い目を見るのがいやだったら、早めに手をあげるようにいっておいてくれ」

 そういい残して、ヴァンクレスも防壁沿いに馬を走らせて集落の中へと向かう。

 防壁の上にいた男は、想定外の手際のよさに半ば呆れ、しばらく思考が停止していた。

 このラダイマ集落でもヴァンクレスの来訪を受けて迎撃の準備をしているところだったが、ここまで素早く行動に移ることまでは予想していない。

 夜間に馬を走らせることはかなりの危険が伴っていたし、ブビビラからこのラダイマまでの距離を考えると、襲撃があるとしても明朝になってからだと、そう予測をしていた。

 というか、それがごく常識的な判断なのだが。


「こっちは、武装を解除した!」

「こっちもだ!」

 そんな声が、いくらかもしないうちにラダイマの集落に谺する。

「食料庫を押さえたぞ!」

「武器庫も押さえた!」

 集落の中に入った騎兵たちは、極めて迅速に集落内部の主だった施設を襲い、そこを守っていたジナニア氏族の者たちを無力化している様子だ。

 なんという手際のよさだ。

 慌てて防壁から降りたジナニア氏族の族長は、駆けながらもそう思う。

 効果的に、こちらが守りたい場所から順番に攻め落としている。

 時間が経過するほど、ジナニア氏族が抵抗する術が減っていく。

 やつら、戦い慣れているな。

 と、その男は考える。

 ジナニア氏族とて、ここ最近はそれなりの場数を踏んでいたが、連中はそれとは比較にならないほど、こうした状況に馴染んでいる。

 その男が集落内部を走り回っても、同じ氏族の戦士はほとんど投降している。

 そもそもこの集落では、防壁がこんなにすぐに破られることをまるで想定していなかった。

 ましてや、内部の人間たちになだれ込んできた騎兵を制するような用意や心構えなど、持っているはずもない。

 こんなに手際のいい襲撃を受けたら、それこそひとたまりもないだろう。


 ヴァンクレスたちがラダイマ集落を完全に制圧するのに、いくらかも時間を要しなかった。

 いくら、武装しているとはいっても、騎兵と歩兵とが正面からぶつかれば、どうしたって前者の方に優位なのだ。

 さらにいえば、この集落の中にいる半数以上の人間は、武器を手にした経験すらない非戦闘員なのである。

 ヴァンクレスの騎兵部隊にしてみれば、武装した人間と交戦しながら主要な施設を順番に占拠していけばいいわけで、戦闘としてみるとかなり容易い仕事でもあった。

 それに、内部の武装した人間にしてみても、明らかに戦い慣れていない者が半数以上を占めており、少し状況が不利になるとすぐに投降した者が続出した。

 多分彼らは、この場で最後まで抵抗を続けるという気概も持っていなかったのだろう。

 戦闘要員としての練度も足りなかったが、それ以上に、明らかにこうした状況に慣れていない。

 ヴァンクレスの目には、そう映った。

「この集落を乗っ取るつもりか?」

 防壁の上からヴァンクレスに弓を放った男が、そういった。

「アホか」

 ヴァンクレスは、素っ気ない態度で応じる。

「そんなことをして、誰のためになる。

 なんだっけか、ああそうだ。

 うちの大将がいうことには、準備をしないまま支配する場所を広げても、手が足りなくなるばかりでまるで旨味がないそうだ」

「だったらなんでこんな真似を!」

 ジナニア氏族の男は、ヴァンクレスに食ってかかる。

「何度も説明してるじゃねえか」

 ヴァンクレスは、つまらなそうな口調でそういった。

「おれたち洞窟衆がブビビラ村に居座ることを見過ごして、そのまま煩いことをいわなければそれでいいって」

「……本当に、それだけなのか?」

 ジナニア氏族の男は、なおも疑念を含んだ視線をヴァンクレスに向ける。

「おれたちの側に、嘘をつく理由がねえわな」

 ヴァンクレスは、欠伸を噛み殺しながらそういった。

「難しいやり取りはおれたちの仕事じゃねえんだ。

 あと何日かすれば、うちの交渉係がこっちまで来るはずだから、詳しいやり取りはその時に改めてしてくれ。

 今の時点では、洞窟衆とブビビラ村に余計な手出しはしねえって、そう誓ってくれさえすればいい」

「もし断ったら?」

「お前を殺して、次の責任者に同じことを求める」

 ヴァンクレスは即答する。

「おれたちは、ジナニア氏族の意向として、そういう返答が欲しいわけでな。

 こちらが欲しい返事をくれる人間なら、相手は誰でもいい」

 本当にやるだろうな、と、その男は直感する。

 このヴァンクレスという男の言葉には、そう信じさせるだけの重みがあった。



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